悶々
武闘会の日から3日が経った。ドラゴンの襲来で学校はしばらく休学となり、レイラはずっとギルドの自分専用の部屋にいた。クエストにも行かず、暗い顔をしてずっと机に突っ伏している。
「ユウ…」
デュークから、王宮でユウを手当てしていると手紙が届いた。しかしまだまだ回復の兆しは見えていないとの事、綴られていた。
「くそう…」
ユウがあんなに苦しみながら必死に頑張っていたというのに、私は何も出来なかった。手助けする事もできず、おめおめと逃げてしまった。
「うう…」
あの時のユウの必死な表情を思い出し、余計に心が痛む。
ふと、部屋をノックする音が聞こえた。
「レイラちゃん、何か食べないと身体に毒だよ?」
部屋の外からマスターの声が聞こえる。
「いい…」
ここ3日はまともに食事を取れていない。自分の不甲斐なさに嫌悪すると同時にユウの事が心配で心配で仕方がなかった。食欲なんてこれっぽっちも湧かなかった。
「わかったわ。ここに置いておくから食べたくなったら食べてね?」
そう言ってマスターはドアの前に食べ物を置いて歩いていった。
「うっ…うっ…」
いつまで経ってもユウの事が頭から離れない。感情が溢れ、涙が零れ落ちた。
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「どうだった〜?」
ナミが休憩室へ降りてきたのを見て、カウンターに立っているリリィがレイラの様子を尋ねた。
「ううん、まだダメみたい」
「レイラさん…」
リリィの隣で、リリィと同じ格好をしたクリスが悲しそうな表情をする。
「クリスちゃんも、そんな顔をしていたらダメだよ?」
「あ、はい。すみません」
返事をしたクリスはグラスを拭き始める。職を探していたクリスは、武闘会が終わった次の日からこのギルドの受付員として働く事となったのだ。
「あの、ユウさんは大丈夫なんでしょうか?」
「ごめんなさい、ユウの容態はまだ良くないらしいの」
「そうですか…」
「アリン…」
「アリンお姉ちゃん…」
アリンとユミン、キョウの3人は毎日ギルドに来ていた。レイラの様子、そしてユウの事が気になっていたからだ。ユウの事はこのギルドに来れば知ることができると思っていた。ユウの様子はまだ良くないとわかり、皆暗い顔になる。
「おい…」
「ああ、そうだな…」
「女の子がいっぱいいるのにちっとも嬉しくねえ…」
「やっぱユウがいないとな…」
「いつからギルドはこんなに暗くなったんだ? まるで誰かが死んだみたいじゃねえか。ゲラゲラ」
「おいナビィ」
「まだ死んだと決まったわけじゃねえんだろ? 俺達が沈んだ顔をしてどうするんだよ? そんな顔でアイツを迎えれるのかぁ? ゲラゲラ」
「んだと!」
「おい、やめろ!確かにナビィの言う通りだ!俺達がこんな暗い顔してちゃダメだ!」
「ああそうだな!アイツは帰ってくる!」
「そうだそうだ!」
ギルドの皆もユウの事が心配で暗い表情をしていた。しかし、ナビィの一言で気合いを入れ直し、クエストに行ったりと活動し始めた。
「さ、私達も彼らを見習って、元気を出して仕事しましょう!!」
ナミがパンっと手を叩き、暗い顔の彼女らを励ます。
「そうだね!ユウが帰ってきた時にこんな顔をしいてたら何を言われるか分かんないもんね!」
リリィが困ったような顔をしながら笑う。
「そうです!皆さんこんな時こそ元気出して頑張りましょう!!」
クリスも再び気合いを入れ直した。
「アリン、私たちも俯いてるままじゃダメだよ!元気出そ!」
「そうだね、ありがとうキョウちゃん!」
「アリンお姉ちゃん元気元気!」
「ありがとうユミン。それじゃあ、また来ます!」
アリンの表情も少し明るくなった。皆それぞれ自分の役割を見つけ、一生懸命に務めるのだった。
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何時間経っただろうか。私は夜になるまで机に向かって突っ伏していた。
ぐぅ、とお腹の音が鳴る。
「う、そろそろ何か食べないとまずいな」
マスターが料理を持ってきてくれたことを思い出し、ドアの前に置いてある料理を取りに行こうとドアを開けた。
廊下の窓から風が吹き抜け、生暖かい風が通り過ぎる。木の軋む音が廊下の奥の方から音が聞こえた。目を向けると部屋の扉が空いていて風で揺れていた。
確か、あの部屋はユウの部屋だったはず。
ユウが帰ってきたのか。いや、そんなはずはない。今日届いた手紙にはまだ意識が戻っていないと書かれていた。
私はユウの部屋へ歩いて行った。
「やっぱり。きちんと閉めていないだけか」
部屋には誰もいなかった。部屋の中の窓が空いていたので、きちんと閉めていなかったドアが風で空いたようだ。
窓を閉めようと、部屋の中に入っていく。部屋にはほとんど言っていいほど何もなかった。ユウが持ってきた水の入ったバッグと、大きな袋。あと木刀が入っている袋の3つだけだ。
ふと机の方へ目を向けると、一冊のノートが置いてあった。窓から入る風でノートがぱらぱらとめくられる。
「え?……日記?」
そこで私の目に入ったのは、ユウが書き残した日記だった。見てはいけないと思いながらも1番最初のページをめくる。
*1日目
とりあえず何から書こうかな。俺は今異世界に来た。ドラゴンが飛んでいた。カモが大きかった。カモはファミチキの次ぐらいに美味しかった。1週間分ぐらいの食料はあるからなんとか生き延びれるはず。今日は色々冒険したけど人の気配は無かった。もっと奥までいけばいいのだろうけど、そんな勇気はない。まだガスと電気と水が使えて良かった。いつになったら帰れるのだろう。おわり。まる
カモ?カモってアレかな。多分、ズールの事だろう。アレを食べたのか…。
次のページをめくる。
*2日目
今日は草原を走りまくった。体力がここまで落ちているとは思わなかった。しかも走っている俺をカモたちは変な目で見てきやがった。こっちは真剣なんだよ。
まだこの時は体力が無かったのか。
*3日目
体力がある程度戻ったので木刀素振りも追加した。さらにだいぶ走った。
見かけによらず努力家なんだな。
*4日目
今日も走った。カモが俺を追いかけてきたのでボコボコにした。しかしこの包丁の切れ味ぱねえっす。
「ふっ、ユウらしいな」
*※※※※---※※※※※※
「あれ? …消されている」
次のページは何かを書いていた形跡があるが、ぐちゃぐちゃと塗り潰されていていた。かろうじて『帰りたい』という文字が書かれているのが読めた。
「ユウ…」
多分ここは心の内を書き殴った所だろう。塗り潰された日記を見ていて、悲痛な気持ちが伝わってきた。心がギュッと掴まれたように苦しくなる。だが私の手は止まらずに次の日記へといってしまう。
*11日目
今日は色々な事が起きました!まず、殺されかけました(笑)。あの時はもう死んだと思ったね。そんなピンチの時に凄く綺麗な女の子が助けてくれた。あまりにも綺麗すぎて幻なのかと思ったけど。
わ、私は綺麗なんかじゃ…
だからパンツを履いているか聞いたら吹き飛ばされた。結構痛かった。でも嬉しかった。現実の人の感触だった。とても嬉しかった。その女の子はレイラという名前だった。ガチンコファンタジーの名前でビックリした。レイラは基本恐いけどからかうと顔を真っ赤にして可愛くなる。今は山の中で野宿している。こんな可愛い子が襲われたら大変だから今夜は徹夜でレイラを守ろうと思う。というかレイラにもしものことがあったら何があっても守ってやる。
「ユウ…」
私は無意識にユウの名前を呼んでいた。
*15日目
この日、俺が2000年時を越えてタイムスリップしてきたことが判明した。えーこの3日間のブランクはですね、ぶっ通しで寝ていました(笑)。3日前にレイラと決闘してボコボコにされました(笑)。まー、かなりムカついていたのもあったけどね、やはり女の子を傷付けるのは無理だったなー。俺がやられて良かった。でもレイラは3日間学校を休んでまで俺に付き添ってくれていたらしい。これは悪いことをしたと思って、ナミさんに町を案内してくれたついでにレイラの学校へ謝りに行った。先生は簡単に折れたが、寮のババアはなかなか折れなくてまじでクソババアだった。でも制服可愛かったなぁ。特にレイラが。
「ば……か…」
*17日目
昨日は酒を飲んでしまい暴れてしまったので未記入。昨日、俺は人生初めてのクエストに行った。結果は惨敗。綺麗な目玉は取ってきたけど依頼主にハメられた。ちくしょう。ちくしょう。今思い返してもむかつく。レイラやナミさんに何か買ってあげようと思ったけど何もなかったので、レイラには目玉を加工したネックレスをプレゼント。結構喜んでいて嬉しかった。ナミさんには残念ながら目玉そのまま渡した。レイラと一緒にクエスト行くのはとても楽しみだ。足を引っ張らないようにしよう。
なんで私の事ばっかり書いているんだ。
「うっ……うっ……」
なぜか涙が出てきた。
*19日目
昨日は大変なことが起こった。俺に魔法が使えた。しかも時間の魔法だ。かなりテンションが上がった。だがそれと別に、ある考えが生まれる。俺は何者だ?
*20日目
この魔法の力は凄い。驚くばかり反面、怖くなる時がたまにある。でも帰る術は見つかった。この力を使いこなして俺は元の世界へタイムスリップしてやる。
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*※※※※---※※※※※※
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ここら数ページまた塗り潰されていていた。
*何日か忘れた。多分50日目ぐらい
明日は待ちに待った武闘会の日だ。お昼にレイラが来た。めちゃくちゃ可愛い格好してデートに誘ってきた。本当に嬉しかった。久しぶに素をさらけだして楽しめたと思う。ついつい楽しくて、レイラのよく頑張ったの不意打ちで泣いてしまった。初心なクセに。でも、泣いてスッキリした。俺は2000年前の人間だし、魔法なんて疎いしとか考えて、この世界の人たちにはどこか壁を作ってしまっていた。でも俺の事を凄く考えてくれていた人がちゃんといた。最近は帰りたいとは思わなくなった。これもレイラのおかげだろう。明日の試合が終わった後、レイラに悩んでいる事をきちんと話して感謝を伝えよう。
日記はここで終わっていた。
「うっ…ぐずっ…う…ばか……うっ…ううっ…ユウゥウウウウウウ!」
ついにその場に崩れて大きな声で泣いてしまった。ユウの優しさに触れると同時に内側に抱えている悩みにも触れてしまった。
「あの時…ぐずっ……もっと話を聞いてやれば良かった……」
ユウの事を考えれば考える程、胸が苦しくて苦しくて仕方なかった。ただただ涙が溢れてくるばかりだった。




