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武闘会 <第4回戦>




『えーと、試合を始める前に、昼休憩中に届きました、今残っている選手に向けたお便りを紹介していきたいと思います』



と司会者からコメントが入った時は、俺はこの大会が悪意で出来ているんじゃないかと思った。何故そんなことをするんだろう。俺へのお便りなんかは良いことが書いていないのは読まなくてもわかる。



今現在、俺は試合会場の開始線に立っている。対戦相手のヤマトはこっちを凝視している。ヤマトの格好は黒色の武道着みたいなのを着ている。腰には赤い帯を巻いて、空手家か忍者みたいだ。



防具の類いは一切着けておらず、薙刀のような武器だけを装備しているだけだ。黒い長髪から覗かせる瞳は鋭く、まるで日本刀のようにギラついている。



『それでは、まずヤマト・ユキムラ選手に届いたお便りから読みたいと思います』



ユキムラ、多分というか絶対に幸村か雪村のどっちかだろう。やはり昔の時代から途絶えなかった一族に違いない。そしたら、ユキムラの他にもまだこういう奴が何人かいるのかもしれないな。



『リオンを倒したその謎な強さに惚れた―byダンディなおじさん。よくわからない衣装だけどクールなところがいい―by24歳のお姉さん。格好いい―by永遠の女子高生。えーそれから…』



ヤマトに対しては予想通りというか、当たり前の様に誉め言葉しかなかった。しかしヤマトは表情一つ変えず、ひたすら俺を見ている。俺ならそんな文章を読んでもらったらニヤニヤして仕方がないというのに。



同じ日本人系として俺の事が気になるのだろうか。ここ数週間で色々な人に会ったが、黒髪黒目は1人も見なかった。ヤマトが最初の1人目だ。みんな金や茶色、明るい色だった。それに目の色も緑や青や赤とまるで信号機のようだった。



「…………」



ヤマトの視線は俺の髪、腰に帯刀した日本刀といったり来たりしている。やはり気になってそうだ。ちょっとカマかけてみよう。



「俺さ、一度薙刀と対戦したかったんだよなぁ~」



「…………!!」



ヤマトの表情に初めて変化が現れた。やはりあれは薙刀で合っている。だが問題はそこじゃない。奴の薙刀が鉄でできていたら俺の日本刀はトイレットペーパー以下になる。もはやミジンコレベルだ。



「お前、鉄って知ってるか?」



「……?」



「鉄だよ鉄。FeだよFe」



「テツなんて知らない」



無愛想な口調でヤマトが答えてきた。話をしたくないという感じか。試合に集中させろ的な。



ヤマトの『テツ』という覚束無い言い方から、あの薙刀の刃の部分は鉄じゃないことはわかった。本当か嘘かわからないが。多分本当だ。本当に違いない。鉄だったらもう自殺するしかないな、うん。



いやだって鉄だったら俺は包丁か槍しか使えないよ?包丁はリーチの差で論外だし、槍に至っては使い慣れてないし。



『えー、続きましてユウ選手に届いているお便りに移りたいと思います』



「ねーねー、お姉さん。それ、俺のところだけ飛ばしちゃダメ? ねえダメ?」



『申し訳ありません。毎年ベスト4を決める前にお便り披露するのが恒例なんです。ではユウ選手へのお便りですが…』



俺の願いは見事に脚下された。さぁ、俺への悪口を聞かせてもらおうじゃないか。悪口は俺の原動力だ。興奮するぜ。…という風に思うことにした。



『わあ凄い!いっぱい届いていますよ!えーとなになに……鬼畜―大多数。鬼―大多数。意味不明―大多数。おっぱい―大多数。皆さん殆ど一緒の事書いてばっかですね。あ、こんなのもありました。おこりんぼ(はぁと)―byきゃむきゃむ。…ぷ』



「おい」



ほらな、やっぱこうなるんだ。わかってたんだよ!つかおこりんぼ(はぁと)ってなんだよ!それに司会者笑ってんじゃねぇ!全然可愛いじゃん!うん、マジで可愛い!誰だよ書いた奴!?結婚してくれよマジで!



『えっ!? あなたのその完膚なきまでに叩きのめすその姿に心を打たれました。次も魅せてください―by佐渡子。私もいじめてください―by絵夢子。私にもその腰に差しているナニを刺してください―byパン粉。えっと、こ、これは一体!?』



なななんと俺の信者ができていた。可愛かったら何回でもぶっ刺してやろうじゃないか。



「まかせろぉおおボッコボコにしてやんよぉおお!!」



オオオオオオオオオオオオオオ!



観客からも大きな歓声が上がった。かなりテンションが上がってきた。が、ここで気を抜いたらおしまいだ。



『会場も盛り上がってきたところで、第4回戦1試合目を始めたいと思います!両者準備いいですか?』



「……………」



「……………」




俺たちはもう一言も話さない。奴も武道の意志を受け継いでいるなら、勝負は一瞬ということをわかっているはずだ。初撃をミスれば終わりだ。



『両者とも準備はできてそうですね…。それでは………試合、開始ッ!』



ワァアアアアアアアアアア



大歓声に包まれながら俺の第4戦目が始まった。



「……………」



「……………」



試合が開始されたがお互いに動く気配がない。ヤマトも多分俺と一緒でカウンタータイプだろう。



………………。



やりにくい。非常にやりにくい。薙刀の間合いは広すぎる。近間に入れたらこっちのものだが。そう易々と入らせてくれるか…?



それにアクセルは長く使えて1分程だ。この大会の参加者の動きは速すぎて生身で対処できるかどうかわからない。



特にデュークだ。奴の剣技は凡人の俺の目では追い付けない。多分アクセルをめいいっぱい引き伸ばしてやっと、普通に見えるのではないかと思う。



だからできれば魔法を使わせないでくれ!俺はデュークに勝っておっぱいをこの手で揉みしだかなければならないんだ!



「……………」



「……………」



『両者一歩も動きません。しかしなんでしょう、この緊張感。会場の皆さんも誰1人として喋っていません』



待ってても仕方ないな。薙刀は初めてだし、まだよくわかっていない。とりあえず、ヤマトの技を受けに行くか!



俺はいつでも刀を抜けるように右手は柄を掴んだ状態でヤマトに近づいた。



ヤマトは俺が近づいてくるのを見て、右足を下げて薙刀の刃の方を身体の後ろへ持っていく構えを取った。



――やはり、カウンター系だな。薙刀の間合いに入った瞬間におじゃんか。それなら…



俺は迷わず突っ込んで薙刀の間合いに入っていく。その瞬間、風が切る音が足元で響いた。



だが俺の足は斬られていない。俺は薙刀の間合いに入った瞬間にバックステップで間合いから出た。ヤマトは俺のフェイントにかかったのだ。



ヤマトは空を斬ったせいで体勢がかなり崩れている。やはりカウンター狙いにはフェイントが1番有効だ。いくら相手がガチガチの構えで隙が無かったとしても自分から動いて崩せばいい。



俺はこのチャンスを逃さず、ヤマトの腕に狙いをつける。少し下がりすぎたからヤマトの急所には届かない。だが腕なら届く間合いだ。



「はぁッ!」



俺は掛け声と共に鞘から刀を抜く。



半分ぐらい抜いたその時、とてつもない程の危機感が俺を襲った。



――ヤバイッ!



そう思った時にはもう遅かった。奴の腕が視界消え、そして次の瞬間に俺は薙刀の柄の部分で殴られて吹っ飛ばされた。



「ぐうッ」



俺は受け身を取ってすぐに起き上がる。かろうじて刀の柄の部分で受けることができたが、右肘に少し当たってしまった。結構痛い。だが痛いだけならまだましだ。



あんなスピードの一撃をもろにくらったら骨が折れていたかもしれない。ペンダントの効果で本当に骨が折れるかどうかはわからないが、折れた痛みは確実にあるだろう。そうなればもう利き腕が使い物にならずに即終了だ。



それに、あのスピードを持っているのだからフェイントも糞も無いわけだ。どんな体勢でも技を打てるに違いない。



「これは一筋縄ではいけなさそうだな…」



魔法の行使を視野に入れた瞬間、俺は刀を抜いて構えを取った。ヤマトもさっきと同じ構えを取る。すると薙刀の刃が紫色に輝き出し、ヤマトの周りに風が集まりだした。正確には刃の部分に風が集まっている。



どっからどうみたって遠距離攻撃を放つ格好だ。



「空撃斬ッ!」



ヤマトが唱えると共に薙刀を横一文字に大きく振る。そしてその太刀筋に沿って現れた大きな刃が俺めがけて襲ってきた。



「まじやべえ!」



刃の大きさは刃渡り10m程で、俺の身体を真っ二つにする感じで飛んでくる。かなり早いスピードで飛んでくるため、今から横に逃げる事は無理だろう。そこで俺は体操選手もビックリなくらいのブリッジをした。



俺のすぐ目の前を巨大な刃が通りすぎて行く。あんな技、本当にくらったら即死だろうな。くらわなくてよかったぜ。



安心した束の間、俺の視界が急に暗くなる。ブリッジのままで上を見てみると、俺の上空10mぐらいに薙刀を振りかぶっている人間の影が見えた。



ヤマトは斬撃を放った後にすぐ飛び上がって俺に追撃を放とうとしていた。そしてまた薙刀を縦に降って巨大な斬撃を飛ばしてくる。



「おわッ」



俺は横に転がって避けた。俺がブリッジしてた場所は深さ30cmぐらいの切り込みが10m程に渡って入っていた。冷や汗が死ぬほど出てくる。



そしてヤマトがその切り込みの上に降り立った。俺との距離は1m程だ。さらに俺は寝そべった状態だ。非常にまずい。



風が切る音が俺の目の前に響く。俺は無意識に刀を前に出した。



「ぼふうッ」



金属同士が打ち合う音が目の前で爆裂する。爆発したかのような衝撃が俺自身に襲いかかり、また10m程吹っ飛ばされた。



「ぶへっ」



今度は受け身は取れなかった。飛ばされた時は身体がかなりの勢いで回転していた。背中から地面に落ちてしまい肺の空気が出ていく。



「まじですかぺろぺろ」



すぐに起き上がりヤマトの方を見た時は心臓が止まるかと思った。胸と膝ぐらいの高さの2つの刃が俺に迫って来ていた。さらにヤマトも飛び上がって俺に狙いを定めている。



この2つの刃をかろうじて避けたとしても確実にそこを狙われるだろう。頭いいなコイツ。というか鬼だ。休憩させてくれない。



「使いたくなかったな〜」



胸の刃は防具で受けれるが、膝は何も防具を着けていないので膝の方は無理だ。俺は背中の槍を取って目の前に突き立てて少しだけ後ろへ下がった。そして、2つの刃は俺の槍に当たったと同時に霧散化して消える。



『なんでしょうか!これはビックリです!あの槍に魔法が当たった瞬間に消滅しました!これは…まさか…魔除け!?』



オオオオオ

スゲエ

ナンダアノブキ



観客からも俺の槍に注目が浴びる。



『魔除け』。武器屋のオッサン曰く、魔法や魔物など、魔を消滅させてしまう聖なる力だそうだ。1000年間魔物を殺しまくった武器に宿る力とかなんとか、おとぎ話みたいな事を言っていた。だが実際そういう防具や武器、そして魔法などがあるらしい。



なぜあのオッサンが俺の包丁を見ただけでそんな能力があるのかわかったのは未だに謎だがな。そんな武器をこんな皆が見ている前では使いたくなかったが背に腹は変えられない。出し惜しみは無しだ。



「……!」



ヤマトを見ると、驚いている顔をしているのが容易にわかる。ヤマト自身もまさかあんな防ぎ方をするとは思っていなかったはずだ。それに魔法の霧散化。



「はあッ!」



ヤマトは空中で俺に向かって魔法の刃を出してきた。だが俺はそれを右の籠手で消し飛ばす。そして左手に包丁を装備して二刀流の構えを取った。右手の刀は上段に構え、左手の包丁はヤマトに向ける。



「………!」



しかし俺の構えを見たヤマトは攻撃をしてこなかった。俺から充分離れて着地する。そのまま攻撃してこればヤマトの負けは確定してたが、なかなか危機感知能力が備わっているらしい。



振りの速さ、危機感知能力、連携攻撃。確かに強いことは強いと思うが、これであのリオンに勝てるとは思い難い。リオンの試合を見ていたが、奴の戦闘センスは並外れていた。今見たヤマトの動きでは倒せないと思う。多分コイツにはまだ何かあるはずだ。



ヤマトの薙刀を包丁で受け止めて切り落としたと同時に刀の袈裟斬りで止めを刺す。これが俺の考えている事だ。



奴の薙刀は俺の刀で受けれた以上、この包丁より弱いことが確定している。あとは奴の攻撃をこの包丁で防ぐだけだ。



二刀流は攻防一致というが、俺からすれば防攻一致だ。防御が先でその後に続く攻撃の一致。戦いの中で、1番隙ができるのは攻撃し終わった瞬間だ。その隙を最短かつ一瞬でつけることができるのが二刀流だ。二刀流は最強のカウンターができる構えだと俺は思っている。



今ヤマトは俺から距離を取っており、片手に薙刀を持って俺を見据えている。まだ動く気配はない。もちろん俺も動く気はない。



『えー、一瞬にして多彩な攻防が見られましたが、再び2人とも睨み合っています。まさに静と動。しかしユウ選手のその構えは一体…』



司会者からコメントが入るが、再びこのなんとも言えない緊張感に支配されて黙ってしまう。観客も固唾を飲んで試合を見ている



ヤマトが半歩前に出た。そしてユラリユラリとゆっくり近づいてくる。さらにヤマトな周りにオーラのようなものが見え出した。



どうやら最近の若い者の間ではオーラを出すことが流行りらしい。



だがヤマトが近づくにつれ、そんな冗談は思えなくなった。



そのオーラは神々しく見るものを圧倒させてしまう、そんな感じがした。俺は冷や汗がダラダラと出てくる。



ヤバイ。ヤバイ。非常にヤバイ。何か分からないが追い詰められたネズミみたいだ。しかも歯なんか無いバージョン。窮鼠猫を噛めないってやつ。



そして俺との距離が5m程に近づいた時、ヤマトは目を瞑って止まった。まだ薙刀の間合いには入っていないので斬られる心配は無いが、あのオーラを見ていると全然安心出来ない。



「……………」



俺はいつ何が起きてもいいように気を張りつめる。最悪の場合は魔法を発動する準備もできている。



ゴォッ!



ここでヤマトのオーラが一段と禍々しくなり、大きく揺らめきだした。3回戦のあの魔術師の比じゃない程の圧力を感じる。



心臓の鼓動が早くなっていると、ヤマトが目を開く。




奴の目は紅く光輝いていた。




その目を見た俺はとてつもない程の恐怖に支配された。身体が震えているのがわかる。言葉でさえ何も出てこない。立っているのが精一杯だ。



――これかよッ!確かにこんな奴を目の前にしたら戦う気なんか失せちまうッ!



俺はリオンが負けた訳がわかった。今のヤマトはまるで本物の鬼神だ。生きてるのが嫌になってくる。ああ、なぜ俺はこんなにもちっぽけなんだろう。



ヤマトはゆっくりと薙刀に手を添えいく。そして両手で握った瞬間、一瞬にして間合いを詰まれた。



――やべえッ!



俺は時間をめいいっぱ引き伸ばした。だが、奴の実際の動きが速すぎて今の引き伸ばした時間間隔で見ても普段の動きの速さにしか見えない。薙刀は俺の左手下から向かってくる。



だか、これは返せない速さではない。俺は包丁を薙刀の軌道に持っていき、刀を降り下ろす。



――よし、勝った!



そう思って頬が緩んだ瞬間、左手に大きな衝撃が加わり、思いっきり吹っ飛んだ。



「ぎゃぁああ、いたいいたいいたいぃいいい」



地面と身体が擦れて俺の右半分が大根おろしみたいになる。かなり痛かった。魔法は吹っ飛ばされている時に解除してある。節約が大事なんだぜ!それよりも…



「なめんなよゴラァ!」



俺は頭にキてしまった。何で奴の薙刀を包丁で受けたのに切り落とせなかったのか不思議で仕方がなかった。そしてなによりも吹っ飛ばされた事に腹が立った。



「俺はボールじゃねえんだぞゴラァ!何回も吹き飛ばされる気持ちがお前にわかるかぁあああゴラァ!吹っ飛べぇえええ!そしてしねぇえええ!」



俺は発狂しながらヤマトに突っ込んでいく。ヤマトも俺に向かって走ってきた。



ヤマトが走ってきたといっても奴のスピードは桁違いのスピードだ。あっという間に俺たちの間合いが詰まる。



――くたばれッ!残りの魔力なんざ知るか!



俺は一瞬で勝負を決めようと思い、時間を今できる最大限まで引き伸ばした。ヤマトの動きはかなり遅くなった。だがまだスローモーション程度だ。



ここまで引き伸ばしてるのにこの速さを出せるとはどんだけ強いんだよコイツ。



薙刀が俺に向かって降り下ろされてくる。今度は俺は受けずに身体を捻って左に避けた。そしてがら空きの首に向かって刀を持っていく。



――しねぇッ!って、あれ!?



刀で斬った感触が無かった。横目でみると、ヤマトは身体を反らして避けていた。



――いや、魔法発動してまだ1秒もたってないよ?せいぜい0.7秒ぐらいだよ?どんだけ速いのコイツ。まあいいや、もう1回しねえッ!



刀が空を斬った勢いをそのまま活かして半時計周りに回転する。そして左手の包丁で斬り裂きに行く。



しかし、金属の固い感触が手を伝った。



俺の包丁は薙刀の柄で止められていた。よく見ると、薙刀全体に赤薄い膜のようなものが見えた。その瞬間、俺の膝がぷるぷると震えてきた。魔力が残り少なくなってきた証拠だ。



――んなもん知るかぁ!しねえッ!



俺は刀で斬りかかる。だがそれも避けられた。さらに薙刀が右下から向かってくる。俺は身体を捻ってそれを右側に避けた。そしてまた首を狙う。



――よっしゃきたぁ!って、なんでぇえええ!



またヤマトは身体を反って俺の刀を避けていた。ヤマトのそのあまりの身体能力に驚いていると、俺に向かって薙刀が降り下ろされているのが見れた。



ガクンッとついに俺の膝が下がった。もう魔力は残りわずかだ。もうあと1発ミスったら俺の負けは確定する。俺は前に出て、足に力を溜める。覚悟を決めて薙刀の一撃を受け止めることにした。



「うぉおおおお!」



俺は精一杯の力を込めて包丁で受け止め、受け止めたと同時にヤマトを斜めに斬った。



――よし、勝った!



俺は完全に勝ったと思った。だが薙刀の勢いは止まらなかった。そしてその瞬間、俺は魔力が尽きてしまう。



「がはッ!」



薙刀の一撃を受けきれなかった俺は地面に叩きつけられ、そしてバウンドした。



「はぁあッ!」



ヤマトの掛け声が聞こえてきたと思ったら俺の腹にヤマトの正拳がめり込んだ。



「……ッ!」



そのまま俺は30m程吹き飛ばされていく。痛みで声すら上げられず、さらに息もできない。骨が折れたと思った。



俺は震える手で殴られた場所を触ってみるが、骨は折れていないし腫れてもいなかった。だがもう負けを覚悟した。このダメージに魔力無しはさすがにもうまともに闘えない。



「くそ…」



俺は上体だけを起こしてヤマトの姿を見る。まだ奴は立っていて、その光る2つの紅い目を俺に向けている。そして、ヤマトに動きが見れた。多分俺に向かって突進でもしてくるのだろう。



ドサッ



だが俺の予想は外れた。ヤマトは前のめりに倒れたのだ。そしてあの禍々しいオーラも消えている。



「え? 勝っちゃった? ゲフッ。え? 勝っちゃった?…つ、いてぇ。死ぬ」



『こ、これは!? 決着が着いたのでしょうか!? ヤマト選手は起き上がる気配がない!』



「ぐふっ、いてぇ……でかい置き土産だなこりゃ……ぐぅ…いてぇ…いてぇ」



あまりの痛さに涙がでてくる。俺は泣きながら立ち上がった。



『ユウ選手が立ち上がりましたあ!そして、ヤマト選手は起き上がってきません!よってユウ選手の勝利ですッ!!』



ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!



これまでに聞いたことがないぐらいの歓声が聞こえてきた。



「な…なんだ!」



スゲエエエエエエエエエエ

アイツスゴカッタンダナァア

ヤルナァオマエエエエ

ミナオシタゾオオオオ



俺を誉める数々の言葉が飛んでくる。嬉しくて余計に泣いてしまった。



『しかし、凄い闘いでした!あんな物凄い速い攻防!失礼ながら、ユウ選手にこれほどの力があるとは思ってもいませんでした!あのリオン選手に勝ったヤマト選手に勝ってしまった!実力で!これは凄いです!』



ははは。やめて。泣いちゃうよお。いたいよお。うえーん。



『…それでは、先程の試合を見てみましょう』



司会者曰く、ベスト4を決める試合からは試合の再現をモニターで投影するらしい。俺の先程の闘いがモニターで流れている。



俺はそれに目もくれず、ボロボロの身体を引きずって倒れているヤマトのところへ歩いていった。



「ぐう……くそっ……」



どうやらヤマトは気が付いたらしい。だが、斬られた痛みで起き上がる事ができなさそうだ。



「おい、ヤマト…」



「なんだ……敗者に…声を…かけるな……」



「うるせえ。勝ったんだから質問に答えろ…。お前、俺の魔除けの包丁をどうやって止めたんだ?」



「やはり……その武器…その防具……」



「ああそうだ。早く答えろっ、いてぇ」



「俺は…魔除けの…魔法を…使える……それを武器に纏わせた」



なるほど、同じ属性同士だから切り落とせなかったのか。謎が解けた。



「さんきゅう。じゃあな…」



「ちょっと……待て…」



俺が立ち去ろうとしたらヤマトが俺をひきとめてきた。俺は振り返ってその続く言葉を待つ。



「お前……名前は?」



「中田だ」



「…!…やはり…」



中田という日本古来の名前を聞いてヤマトは目を大きくさせた。



「ああ、お前の思っている通り…俺はニポンジンだ」



「……そうか……ぐうっ…………負けるなよ……」



「だったらパンチすんなっつーの」



痛みはだいぶ収まってきて、普通に喋れるぐらいまで回復した。



「じゃあな」



俺はヤマトに背を向けて歩き出し、会場のど真ん中に突き刺さった槍を回収して控え室へ向かった。





ーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーー






「もう無理しんどいしぬ」



俺は控え室の椅子へ寝転ぶ。少しでも回復しようと思い目を瞑った。



「なあなあ、そこのお兄さん」



夢の世界へダイブしかけていると、女の人の声が俺の耳元で聞こえてきた。低い声だったので頭に響いて目覚めてしまった。



「なんだよ……寝かせろよ…ったく」



俺は薄目で声が聞こえた方を見た。なんとそこには、とてもとても大きな果実が2つ目の前にあった。



「おっぱいッ!」



「わひゃあ!何すんねん変態!」



「あべしッ」



その豊富な果実を揉みしだこうとした所で腹を殴られた。ただでさえダメージや疲労が蓄積されているのにこれ以上くらったらヤバイ。



「いって…何すんだよバカ」



「バカはあんたやろ!」



「うるさいぞ。そんなたくましいおっぱいが目の前にあって揉まない方がおかしい。おっぱいに失礼だ!」



「はぁ、ほんまに好きなんやな。おっぱい」



俺は顔を上げてその女性を見た。綺麗に整った顔に短い赤髪。さらに褐色の肌にムチムチのエロスな身体。フェロモンがムンムンしている。その姿を見て俺のマスターソードがトランスフォームした。



「お姉さん、俺の子孫残さないか?」



「アホか!」



「ぶへぉ」



またお腹を殴られた。ヤマトに殴られたところに結構近かったためかなり痛い。また痛みがぶり返してきた。



「あ、ごめん」



「うっ………で?……何の用?」



これ以上痛め付けられたら本気でヤバイからもうチョケないでおこうと思った。



「いや、ただどんな魔法使って勝ったんか知りたかっただけやねんけど」



「あ、そうなんだ…」



俺の強さにホレてハッスルしたくなったんじゃなかったとわかって、俺のマスターソードは木の棒以下に成り下がった。僕ちんショック。もうどうでもいいや。



俺は反対向いて再び寝た。



「あ、おい」



『それでは、第2試合目に入りたいと思いますので選手の方は入場してください』



「はあ。まあ次勝ったら当たるし、そんときでええか」



「……………」



「て、もう寝てるやん」



俺は夢の国へ出発していた。あらたな果実を求めに。



「はあ」



俺に話しかけた女は呆れ顔で会場へ向かって行った。




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