武闘会 <1回戦最終試合>
「いてて……バカじゃねえのかアイツら。物を投げすぎだろ。お母様に物は投げたらダメって教わらなかったのか? しかもナイフまで投げてきた奴もいたぞ…何を考えているんだまったく。死んだらどうするんだよまったく。あ、死なねえんだったなまったく」
俺はぶつぶつと文句を言いながら控え室に戻っていた。
「おい、来たぞ…」
「アイツどうやって倒したんだ? お前見えたか?」
「………」
控え室に入ると一気に俺に視線が集まった。
そんな目で睨まないでぇええ。怖いよぉおおお。そんな大したことやってないよぉおおお。おしっこもれちゃぅううう。
「お前、強いじゃねえか!心配して損したぞ」
鋭い視線を浴びておしっこ漏らしているとデュークが話しかけてきた。
「ところで、どこであんな避け方や剣技を習得したんだ?」
「古代遺跡っす」
説明するのが面倒臭かったので適当に答えた。それに手の内は明かしたくない。
「ははは!さすがに教えてはくれないか」
「ま、まあな……って、それより俺が何をしたか見えてたのか?」
デュークの話し方からして俺がどうやって倒したか見えていたのだと思った。つか、みんな見えなかった見えなかった言ってるけど、そんなに見ずらい動きかアレ。ただの基本の動きしかしてねえぞ。
「ああ、バッチリ見させてもらった。あんなギリギリで避けれるとはな、なかなかやるじゃねえか」
え?やっぱり?俺って凄い?やだなあ照れちゃう。
「あの技を1度直に味わってみたいものだな…」
「いやいや、何を言ってるんだ」
あんたはマゾなのか。それともただの戦闘狂なのか?
「今まで色々な剣の流派を見てきたが、お前の技はそのどれにも当て嵌らない。やっぱ直接身体で感じる方が手っ取り早いだろ?」
コイツはアレだ。マゾでも戦闘狂でもねえ、いわゆる天才という奴だ。今の言葉からそれがわかる。
「……………」
スペシャルイケメンの上に天才だと!?さらに軍隊長だと!?絶対に教えるもんか!!
「はは、そう睨まないでくれ。是非とも決勝まで上がってきてほしいな。俺は負けるつもりはないんで」
そう言ってデュークはまた笑ってきた。しかし目は笑っていない。これは絶対強者の眼差しだ。なんかおちんちんを鷲掴みされたみたいな気分。
「あはは…頑張ります」
試合はこいつに見られてはいけない。そう直感した俺は後に控えた試合をできるだけ早く終わらそうと誓った。
それから、またデュークと一緒に試合を観戦していた。分からないことがあればデュークに質問すると丁寧に解説してくれた。
デュークは一瞬見ただけで的確な分析ができる。多分だけど、デュークは相手の最初の動きを見ただけで力量や癖などが手に取るように分かるに違いない。そしてその瞬間にはもう相手に慣れているだろう。
こういう奴は試合で当たると1番厄介なタイプだ。戦いの中で、先に相手に慣れる事はこの上ないぐらい有利になると俺は考えている。剣道の試合も同じで、先に相手に慣れてしまうと自分のやりたいようにできる。それに負ける気もしなくなる。
「…………………」
「どうしたんだ? また難しい顔をして」
「いや、なんでもない」
そんなに表情に出していなかったはずなのに…。心を読み取ることもできるのかよ…。そんな特技があれば、さぞかし女にモテまくるだろうなッ!爆発してしまえッ!
『……それではお待ちかねいただきました。第1回戦目の最終戦、36試合目を行いたいと思います!両者とも会場へ出てきてください』
いつの間にかデュークの試合の番が回ってきていた。
「じゃあ、行ってくるよ。すぐに帰ってくるぜ」
そう言ってデュークは会場へ向かって行った。
「いってら」
確かにすぐに帰ってきそうだな。さて、その自信満々の実力がどのようなものなのか拝見しようじゃないか。
俺はモニターに向き直った。
『さぁてぇ、第1回戦最後の試合を始めたいと思いまぁす。赤コーナ、ザルク・フォードォオオ!漆黒のフードに身を包み歩み出てきましたぁああ!』
ワァアアアアア!
デュークの対戦相手は漆黒のフード姿で出てきた。顔もフードで隠れているため表情が確認できない。武器らしい物は一切持ってきていないようだ。
『対する白コーナー……前回、そして前々回と優勝した男!デュークゥウウウウウウ!!』
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
どうやらデュークは大人気らしい。当たり前か。何せ奴はイケメンだしこの国の軍隊長だ。もう一度言うがイケメンだし!
『さてさてぇ、今年も我々を魅了してくれる戦いをしてくれるのでしょうか!? おっと、もうお客様方は待ちきれないようですね!それでは~……試合、開始!』
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
溢れんばかりの歓声と共に、デュークの試合が始まった。
ブーンッ
開始と同時にザルクと呼ばれた男の足下にアニメで見たような巨大な魔法陣が現れた。魔法陣は紫のような黒のような色で、禍々しさを感じられる。
『………………』
ブン…ブンッブンッブブブブブッ
さらにザルクの上空にも多数の魔法陣が浮かんだ。この魔法陣の大きさは直径1mぐらいだろうか。
『おおおお!ザルク選手、これほど魔法を展開するとは凄い!彼は魔法を極めた人物なのだろうか!?』
『ほほう、やるなぁ』
デュークは剣を抜いた。まだその場から動いていない。相手が攻撃してくるのを待っているのだろうか。
『……………』
ザルクは腕を上げた。その瞬間、空中の魔法陣から真っ黒の魔法の矢がデュークに向かって放たれた。
バシッ バシッ バシッ…………
デュークはポケットに片手を突っ込み、涼しい顔をしながら全ての魔法を剣で消し飛ばす。
…化け物かよ。
『……………』
ザルクは黙ったままだ。どういう表情をしているのだろうか。自分の最大の魔法をたやすく消し飛ばされて驚いているのだろうか?
『それだけか?』
『………………』
デュークが話しかけるがザルクは何も答えない。
『そうか………オラよッ!』
デュークは一瞬にしてザルクの懐に潜り込み、内蔵が飛び出す程のボディブローを叩き込んだ。そのあまりの速さにザルクは避けることはできず、文字通りくの字に身体を曲げたまま会場端の壁まで弾丸の如く吹っ飛んでいった。
バッコーン!!!
そのままザルクは壁に激突し、穴を空けてめり込んだ。
えっ?もう終わった?終わった?終わっちゃった?え?1撃?んなバナナ!!
『おおおお!もう決着がついたのかぁああ?ザルク選手はダラリとして動く気配がないぞぉおお!この勝負、デューク選手の勝っ………………え!?』
司会者がデュークの勝利宣言を途中で止めた。俺はモニターでザルクの姿を確認する。
…………!!
壁にめり込んで力なく倒れるザルクの身体がだんだんと透けていく。そして最終は消えてしまった。
『……………』
デュークが険しい顔つきになる。殴った手の感触を確かめているようだ。一体何が起きたのだというのだ。
『これは一体どういうことだぁああ!? ザルク選手、実は幽霊だったのかあ!? 』
確かに俺も、ザルクは幽霊でデュークが成仏させたのじゃないかと考えたが、デュークの顔を見てその考えは吹き飛んだ。
『…………』
デュークはその場から動かずに警戒を怠っていない。
ブーンッ
いきなりデュークの上空背後から黒い矢が現れた。デュークはすぐに反応して素手で魔法を消し飛ばす。
素手でっておま…。しかしまだザルクはやられていないらしい。姿が見えないのは魔法の効果なのか。俺はモニターに釘付けになっていた。
デュークはすぐさま剣を構え、そして会場の真ん中まで移動する。
ドッドッドドドドドドドドドドドドッ
デュークが真ん中に移動した瞬間、無数の黒い魔法の矢がデュークの全方位から襲いかかった。
バシュッ バシュッ バシュッ…
デュークは物凄い速さの剣技で全ての魔法を消し飛ばす。しかし…
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ
黒い矢の猛攻はより激しくなった。次々と襲いかかる魔法の矢に表情を歪ませる。
ナ、ナンナンダアレ…
ダイジョウブナノ…
観客からはどよめきの声があがる。
『こ…これはなんということだぁあああ!こんな魔法は見たことがない!デューク選手は大丈夫なのかぁああ!?しかしザルク選手は一体どこにいったんだ!?』
バシュッ バシュッ…
『くっ…ちょと…きついな……』
いやいや、あんな魔法を剣1本で防いでおいてちょとキツイって何なの?いいよ、もう負けちまえば。
『シャイニングアロー!』
俺が負けてしまえと思っていた時、デュークは空に向かって光輝く1本のバカでかい魔法の矢を放った。黒い矢は光の矢と共に上空に消し飛んでいく。
オオオオオオオオオオオオオオ!
スゲェエエエエエエエエエエ!!
ワァアアアアアアアアアアアア!
観客たちはデュークが無事とわかると溢れんばかりの歓声を上げた。
『セイントジャッジメント!』
さらにデュークは地面に手を置くと同時に魔法を唱えた。その瞬間デュークを中心にして光が放たれ、会場を包み込んだ。
…俺、この戦いが終わったらデュークのことを電球と呼ぼうと思うんだ!電球よりもLEDの方が格好良くていいかな?ねぇ?
『ぐぅっ』
呻く声がデュークのすぐ近くから聞こえたかと思うと、それを包み込むように光が収束し爆ぜた。
『そこか!はあッ!』
『がっ……』
爆風から出て来た影をデュークは逃さない。すかさず蹴りを入れて吹き飛ばす。
『オラぁッ!』
さらに、吹き飛んでいるザルクに向かって物凄い速さで剣を投げつけた。
……あの剣、可哀想だな。
ガイィンッッ
しかし剣はザルクに突き刺さらず、金属器が打ち合ったような音が鳴り響いた。よく見てみると、ザルクの周りには薄い黒色透明の膜があった。その膜に剣が突き刺さって止まっている。
やがてその勢いが無くなると剣は無造作に地面に落ちた。
『………………』
相変わらずザルクは無口を貫いている。不気味な野郎だ。
『おおおお!急に現れたザルク選手!デューク選手に蹴り飛ばされて剣を投げつけられたがぁあ、しかしぃ、ザルク選手は見えない壁のようなもので防いだぞぉおお!いったいどういった魔法なんだぁああ!?』
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアア!
見えない壁って…魔法障壁じゃねえの?後でデュークに聞いてみよう。
『……………』
次の瞬間、ザルクは両手に真っ黒な光でできた剣を出した。漆黒のそれはあらゆる物を切断してしまうような威圧感を画面越しに感じる。
『そんなこともできるのかよ…。セイントソード!』
そう言って、デュークも両手に光輝く魔法でできた剣を出した。
『はぁああ!』
『………………』
バンバンバババババン!!!
光と闇の剣が高速で混じり合う。魔法の剣のせいだろうか、金属音は鳴らず爆発音ばかり響いていた。2人の剣技は凄まじく、俺の目では何をやっているのか全くわからない。
しかし強すぎたろアイツ。前回と前々回の優勝者に張り合ってんぞ。まじおっかねぇ。まじぱねえ。
『そらあッ!』
デュークは凄まじい回し蹴りを放った。あんなのくらったら内臓が破裂しそうだ。
『……………』
蹴りがくるのがわかっていたのか、ザルクは身体を後ろに少し反らしただけでそれをかわした。
『シャイニングクロス!』
デュークは光の剣を十字にきって、体制が崩れたザルクに向かって魔法を放った。
『……………!』
ズガアアアアアアアァァン!!
今までとは比べ物にならないくらいの爆発が起こった。光り輝く十字がザルクを飲み込み、轟音を撒き散らす。その地響きで控え室にいる俺のところまで振動が伝わってきた。
『……少しやりすぎたか?』
爆心地はまだ煙が上がっていてよく見えないが、地面が陥没して地割れが起こっているのが見える。
あんなのをまともにくらったら気絶どころじゃすまねえだろ。
『でたあああ!昨年度の優勝を決めたデューク選手の大技!!これを喰らえばひとたまりもないぞ!!』
あれでリオンがやられたのか。確かにさっきのタイミングのコンボで使われたら、まともにくらうしかない。
『しかしデューク選手に初戦からこの技を使わせたザルク選手はいったい何者なのだろうか!そしてこれで決着がついたのでしょうか? あ、今煙が晴れてきましたぁあああ!』
『ちっ………しぶてえな』
爆心地のど真ん中には、ザルクが先程と変わらない姿で立っていた。
『ななななんと!ザルク選手はまだ負けていないぞお!しかもほとんど無傷のようだ!いったいどうなっているのだあ!?』
ワァアアアアアアアアアア!
いや、マジでどうなっているんだ。あのタイミングはもろにくらったはずだろ。わけがわからなさすぎるので、俺はもう考えることを止めてありのままを受け入れることにした。
ブーーン
塵煙が落ち着いた頃、ザルクは手を上に上げて大きな黒い魔法の槍を作った。
『なんだなんだ? こんな魔法は見たことも聞いたこともないぞ!?』
嘘つけ。ダークランスとかシャドウスピアとかいう名前の魔法じゃねえのかよあれ。
『……………』
ザルクはデュークに向かって腕を降り下ろす。黒い槍はデュークに向かっていった。
『ッと』
デュークは応戦せず、大幅に距離を取って避けた。黒い槍は地面に突き刺さる。
『!?』
そして槍が地面に突き刺さると同時に黒い球体に膨れ上がり、その中身を風化させて跡形もなく消した。地面には半径5m程の半球体の穴が空いた。
『ちょっとヤバイな…』
再びザルクに目を移すと、ザルクは上空にいくつもの黒い槍を出現させていた。デュークの表情がかなり歪む。
『………………』
そんなデュークを余所に、ザルクは淡々と腕を降り下ろす。黒い槍は全てデュークに向かっていった。
ボッボッボボボボボッ!
『くそっ』
次々と黒い槍が襲いかかる。デュークは逃げる一方だ。会場は穴だらけになる。
『なんと!デューク選手が追い込まれているぞぉお!こんな展開を誰が予想していたぁあ!』
スゲェエエ!
ナンダアレ!!
デュークマケルナァアア!
『こうなったら…前に…いくしかねぇかあッ!』
デュークは黒い槍の間を掻い潜り、ザルクに近づいていった。会場の端の辺りに追いやられていたのに一瞬にして真ん中辺りまで移動した。
『…………』
ザルクは黒い槍を止めどなく放ち続けながら、手をあげて黒い球体を作り出した。
黒い稲妻のようなものが球体から出ている。触れた物全てを無に帰すブラックボールのようだ。
『……! なんだこの威圧感!くそおッ!』
デュークは叫ぶ。しかしもう2人の距離はかなり近い。
『………………』
黒い球体はデュークに向かって放たれた。
『はぁあああああ!』
デュークの身体からオーラのようなものが発せられた。あれは魔力なのだろうか。そのオーラが両方の光の剣に流れていき、光の剣の輝きが更に増した。
『おらあッ!』
デュークは気合いのこもった斬撃を黒い球体に放つ。黒い球体は切り裂かれ、霧となって消えた。そしてデュークは一瞬でザルクとの間合いを詰める。
『もう……いいか』
ん?今アイツなんか喋らなかったか?
『はあ!』
デュークの掛け声と共に、ザルクは縦と横から斬られた。
どさりと、力なくザルクが倒れる。
『おおおおおお!ザルク選手が倒れたぁあ!今度こそ決着かぁあああ!?起き上がる気配も消える気配もないぞぉおお!』
オオオオオオ!
ヤッタカ!?
ヤッタカキンシ!!
『はぁ…はぁ…』
デュークは息を切らしている。さっきの技はそんなに消耗するものなのか。
『ハイッ消えない!デューク選手の勝利だあ!決勝戦さながらの戦いだったぞお!しかしなぜザルク選手もこんなに強いのだ!あのおっぱいばっかりの奴よりも謎だああ!」
おい司会者、後で体育館裏に来い。
『白熱した戦いをありがとー!!!!』
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
大きな歓声を浴びながらデュークは控え室の方へ歩いて行った。
『さてさてぇ~、続いて第2回戦いっちゃいましょおお!まだまだお昼ご飯までは時間がありますよ~、皆さんもっと盛り上げていきましょおお!』
たしか次はリオンの試合だったはずだ。デュークに弱点か癖でも見つけてもらおう。そう思いながら、デュークの帰りを待った。
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ーーーーーーー
ーーー
ワァアアアアアア……
「医療班、回復魔法を頼む」
「オーケー」
ここはコロッセウム内部の医療室。試合で負けた相手はここに運ばれて治療を受ける。外傷は無いが、実際に痛みを伴うので当たり所が悪ければショックを起こして精神に異常をもたらす場合がある。
それを防ぐために大会側はこの医療施設を設置していた。
「コイツ凄かったな。あのデュークにあそこまで戦ったぞ」
「ああ、リオンよりも強いんじゃないのか?」
今ここには先のデュークの試合で敗れたザルクが運ばれてきている。
「…コイツの素顔ってどうなってるんだ? 気にならね? 見てみようぜ」
「おい、やめとけよ…」
「まぁまぁ、そう言うなって……うおッ!!」
「わわわっ」
フードを上げようとした瞬間、ザルクは急に起き上がった。
「わ、悪い!許してくれ!」
「………………」
しかしザルクは何もせずにベッドから降りようとする。
「ま、まだ動いたら危ないって!」
「そ、そうだ。デュークからあんなのくらっておいて、後遺症が残ったらどうするんだ?」
「………………」
ザルクは黙ったままベッドから降りて歩き出した。
「お、おい…」
「だ、大丈夫そうだし、もういいんじゃね?」
「だといいがな…」
医療班はザルクの後ろ姿を見送るしかなかった。
ワァアアアアアアアアアア!
コロッセウムの外に出て会場の方へ向くと、熱はまだまだ収まらないようで熱気が伝わってくる。
「きやっ」
前を見て歩いていなかった幼い女の子がザルクにぶつかった。女の子は尻もちをついて手に持っていたアイスを落としてしまった。
「ああ!すみません!」
学生服姿の女の子が謝りながらやってきた。
「わたしのアイスがぁ~。うわ~ん」
ついに女の子は泣いてしまった。
「ユミン、泣かないの。いい子だから」
「だって~。うわ~ん。アリンお姉ちゃぁあ~ん」
この学生服の子はレイラと同じ学校に在校しているアリンだった。以前ナミとユウが学校を訪問した時にユウが話しかけた女の子だ。
綺麗な桃色のショートカットの髪とパッチリした大きな目が印象的で、可愛い系代表の顔立ちをしている。顔も身長も小さいが、それが余計に可愛くさせている。歳はレイラの2つ下で、現在3回生だ。
ユミンと呼ばれたこの少女はアリンの妹で、現在3歳だ。こちらも桃色の髪で、両サイドでくくっている。
「また新しいのを買ってあげるからね? はい、泣かな~い」
そう言ってアリンはニッコリ微笑む。この笑顔には全人類いや、種別を越えて全ての生き物が癒されるだろう。そんな破壊力だ。
「ふぇっ」
「えっ?」
ザルクはしゃがんでユミンの頭を撫でた。
「…少し…待ってろ」
そう言ってザルクは落ちたアイスを拾い上げた。そしてアイスを持った手が光輝く。
「え…」
「わぁ!」
そこには買った時と同じアイスの姿があった。ザルクはユミンにアイスを渡す。
「ありがとうッ!お兄ちゃん!」
ユミンは一瞬で泣き止み、大喜びでアイスがを受け取って食べ始めた。
「あ、ありがとうございました!魔法まで使って頂いて!でも…何をお礼したらよいか…」
そう言ってアリンは俯く。俯きながら頭を悩ませる姿も可愛い。
「……礼は………いい」
「え? そんな!? いけませんよ!」
「…いい……………いいんだ」
「でも………」
アリンはまた俯いてしまった。ユミンは姉のそんな姿を余所にアイスをぺろぺろしている。
「あの…先程戦っていらした方ですよね? 凄かったです!あんな魔法どこで覚えたのですか?」
「……………」
やっとこさ出てきた言葉をザルクは黙りで返す。
「あ、ごめんなさい…」
「……それじゃあ……もう行く」
ザルクは立ち上がって歩み出した。
「ほ、本当に、ありがとうございました!」
アリンは頭を深く下げて感謝した。
「おにいひゃんまはね~!」
ユミンはアイスをぺろぺろしながら呟く。
「でも、今の声……どこかで聞いたような……」
アリンは必死に記憶を引っ張り出す。
「お姉ちゃん、どうしはの?」
「ううん、なんでも!て、こらユミン、食べながら喋っちゃダメでしょ!」
「だって~」
「だってじゃない。ほら行くよ?もうお姉ちゃんから離れちゃダメだよ?」
「うん!」
2人は手を繋ぎながらコロッセウムに向かっていった。
少し歩いたところでザルクは振り返り、手を繋ぎながら歩いているアリンとユミンの姿を見る。
「………アリン……」
ギリッと奥歯を噛む。
「………くそっ……」
ザルクの呟きは誰にも聞こえることなく空へと消えていった。




