武闘会 <第1回戦>
選手達が控え室へ入って行った頃、観客席の方ではナミ、レイラ、リリィとギルド内の他のギルドメンバーも1箇所に固まって座っていた。
『……赤コーナー、昨年準優勝のリオン・アルバースノー!!』
ワアアアアア!!!
リオンの紹介がされると、より一層歓声が大きくなった。
「ねえねえ!もうすぐリオンくんの試合が始まるよ!」
「お、やはりリオンは人気だな」
「本当ね~」
リリィ、レイラ、ナミの3人は並んで座っていた。
「ユウ、大丈夫かな?」
「少し体調が悪かったようだしね」
「あぁ…大丈夫だろうか…」
「レイラ、心配なの?」
「す、少しだけな!」
「またまた〜。本当は凄く心配なくせに〜。レイラはユウの事になるとすぐ女の子になるね!」
「もうリリィ、からかわないでくれ!」
「ふふ、そうね。最近のレイラちゃんは特に可愛いわね」
「ま、マスターも!」
「あはは」
『……それでは………試合開始ッ!!』
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
「あ!もう試合始まっちゃったよ!」
「リオンなら余裕だろうな」
「ふふ、そうね」
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……
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控え室も最初に集まったアリーナ並みに広かった。人数は半分以下になったので窮屈さは感じない。休憩室にもモニターがいくつかあり、試合の様子などがリアルタイムで見れる。
『大変お待たせ致しましたー!それでは第1試合目の選手の紹介でーす!赤コーナー、昨年準優勝のリオン・アルバースノー!!』
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
「うぇっ、リオンじゃないか!てか4回戦で当たるじゃん!」
「へぇ、リオンと知り合いなんだな」
いつの間にか隣にはデュークがいた。どうやらデュークも白色だったらしい。話ができる奴がいて良かった。
「知り合いというかいじり合いというかなんというか…」
「なんだそれ?」
「この大会に参加したのもリオンに誘われた感じでな~、何にせよ、リオンをボコボコにしないと俺の貞操が危ないんだ!」
俺はパンツ姿で街中を歩かされる姿を想像して憂鬱になった。
「ははは、あのリオンに向かってそんなこと言えるのか!大した奴じゃないか!」
そう言って笑う姿もイケメンだ。また俺はどうやってこの顔を爆発させてやろうか真剣に考えた。
『………両者の紹介が終わりましたところで~試合に移りたいと思います!準備はいいですかー?……それでは…試合開始ッ!!』
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
気付いたらリオンの相手の紹介も終わっていた。聞き逃した。すまない、名も無きリオンの養分よ。
『リオン・アルバースノー!』
『なんだ? というか誰だ?』
『昨年準決勝で当たっただろ!覚えてないのか!?』
『敗者には興味が無いのでな』
『おおっとぉ!これはこれは、なんと昨年の上位同士の対戦となりましたぁ!』
ワァアアアアアアアアアアア!!
「そんなこともあるんだな。つかリオン達の声まで拾えるんだな」
俺はモニターを見て試合の様子を伺っていた。
「ああ、補助魔法で音声をとらえているのだ」
「しっかし魔法って便利だよな~。それにあの浮いてるモニターはいいのか? 機械と魔法の融合は禁止じゃなかったのか?」
「あれは政府のものだからな…。ハイテクは政府が管理しているんだ」
「なんか…不便だな」
「それで戦争は起きていないし、別に不便って程でもないと俺は思うぞ」
そう言ってデュークはまた輝く顔で笑ってきた。もうそのイケメンスマイルはやめてくれ…。なんか悲しくなってくる。
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
「始まったぞ」
デュークの声でモニターを見ると、リオンとその相手(以下村人A)はお互い間合いをつめて斬りかかろうとしていた。
『はぁあああ!』
『くっ』
村人Aは目にも止まらぬ速さで剣技を繰り出す。剣と剣がぶつかる激しい音が鳴り響く。リオンは防戦一方になるが、なんとか全部防げているようだ。
『おおお!開始直後からオーバーヒートォオオ!リオン選手、防戦一方に持ち込まれています!!』
『はははは!昨年の俺と一緒にするなよ!』
『ふん、吠えるな雑魚が』
『何を!フリーズショット!!』
村人Aは少しリオンから少し距離を取り、氷の弾丸をリオンに向けて撃った。村人Aから放たれたいくつもの氷の弾丸がリオンを襲う。
『フレイムバースト!!』
対するリオンも魔法を唱えて迎え撃った。村人Aとリオンの間の地面から炎が吹き出し、氷の弾丸を全て蒸発させる。蒸発して出来た水蒸気が辺りを充満し、2人を包み込んだ。
『くっ、小細工を!』
村人Aが辺りを見回していると、一筋の氷の矢が突き抜けた。
『ぐッ!!』
村人Aは少し反応が遅れたようで、腕にその直撃を食らう。
『く、くそ!なッ!』
村人Aが怯んだ直後、煙の中からリオンが飛び出して村人Aのすぐ目の前に現れた。
『がはぁっ…!』
村人Aは防御をとる暇もなく蹴り飛ばされる。
『フレイムスピア!』
リオンは蹴り飛ばした瞬間に魔法を放った。槍を象った炎の塊がリオンの手から放たれ、吹き飛ぶ村人Aに猛スピードで向かっていく。
炎の槍は、村人Aが地面に転げ落ちたと同時に直撃した。
ゴォオオオ!!
『がぁあああああぁあ!』
村人Aに直撃した瞬間、村人Aを炎の渦が巻き込んだ。渦は上へ上へと上がり大きな火柱を作る
『おっとぉ!ここでリオン選手の反撃だぁ!炎に包まれたデルクは大丈夫なのかぁあ!?』
どうやら村人Aはデルクという名前らしい。
『ストーム!』
リオンはギルドで俺にぶつけた風系の魔法も使った。炎の渦の周りに風の渦が出来上がり、炎をさらに大きくさせた。終いに、炎の渦の直径は10mぐらいになり、コロッセウムの最上部ぐらいまで炎が上がった。もう少しで浮遊モニターに直撃するところだった。
――オォオオオ!!
――すげぇ!
――融合魔法じゃねぇか!!
リオンが放った魔法が珍しいのか、観客たちは興奮している。
ゴォオオオオオォオオオ!!
「うがぁあ゛ぁああぁああぁああああぁああああぁぁああ゛ああぁあ゛あ゛」
村人Aの悲痛な叫びが聞こえてくる。この映像を見た時、俺は本気でちびりかけた。
数秒して炎が収まると、そこには服や装備はボロボロだが、傷一つなく横たわる村人Aの姿が見れた。もう動く気配すらない。
火傷の痕さえ無いのを見る限り、どうやらこのペンダントの防御魔法効果は本物らしい。
『………勝者、リオン・アルバースノーォオオオ!!!』
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
「うげっ、一瞬で終わったじゃん。しかもくそ強えじゃん!」
村人Aの剣技でさえ物凄いと感じていたのに、その剣技を全て受け止めて瞬殺したリオンはどんだけ強えんだ!?パンツボーナス確定したんじゃねぇの!?
何よりも、村人Aを蹴り飛ばした後から一瞬でフィニッシュさせたのが頭に焼き付いていた。気を抜けば一瞬で終わる。まさにそんな戦いだった。
「昨年よりも腕を上げてるな」
デュークは少し険しい顔をしていた。
「まじですかい…。そんな奴に俺は勝てるのか?」
「なんでそんなに勝ちたいんだ?」
「負けたらパンツ姿で街中を歩かなきゃいけないんだよお~。上はそのままなのに下はパンツなんだぜ? そんなの耐えれるわけないだろ~。ましてや今人でうじゃうじゃしてんだしい~」
「そ…そうなのか…。ま、頑張れよ…」
デュークは哀れむような目で俺を見る。…お前も当たったらボコボコにしてやるからな。
「そういや、デュークは何試合目なんだ?」
「俺は一番最後だ。確か36試合目だったはず」
「36試合目ってシードのところじゃん!何でそんなところなんだ?」
「ああ、そうか、お前は知らないのだったな。俺は昨年の優勝者だ」
へ?
「それに、この国の軍隊長を勤めさせていただいている」
「あ、あぁ、そ、そうなんだぁ~」
いきなり何を言い出すんだこの兄さんは!ボコボコにしてやるとか思ってすんませんッ!
「ははは、決勝まで上がってこいよ」
「お、おっす……」
絶対に無理だろう。それにあのリオンに勝っちまう奴だろ?優勝なんか無理無理ぃ、無理だ!おっぱいは…諦めよう。
……ん?
ちょっとまて!こんな凄い奴と一緒にいたら目つけられるんじゃねえか!?
俺は控え室を見渡すと、皆一同にこちらを見ていた。
「あははー。デュークさん人気者っすね~」
――おい、デュークの隣にいる奴は何者だ?
――いや、知らねえぞ。お前知ってるんじゃねえの?
――あんなひょろひょろで弱そうな奴が何でデュークと一緒にいるんだ?
――さあな。実は強いんじゃねえの?
ぼそぼそと俺の噂をする声が聞こえる。
「何か色々聞こえてくるんすけど~。確かに見た目はひょろひょろだけど? 長袖着てたら着痩せするんだよ…? 腕長いから細く見えるんだよ…? これでも握力60あるんだよ…? お前らのキンタマなんか一瞬で握り潰せるんだよ…?なんか文句あっかー……ぼそぼそ」
「ははは、もうちょっと大きな声で言ってみたらどうだ?」
「ぜーぜぜぜぜ絶対無理っす!」
「なら俺がお前を弁解してやろうか?」
そう言ってデュークは皆の方に何かを叫ぼうと構えた。
「ちょー!!ストップストップ!やめましょう!やめましょう!お願いします!ほんとすんまっせんっ!やめましょう!」
「ははは、冗談だ」
はーあ、キツイぜー。
「それに、やっぱ口だけ達者って格好悪いでしょ?」
「確かにそうだな!よし、今の言葉を奴らに聞かせてやろう!」
デュークは再び何かを叫ぼうと振り向く。
「お……」
「ハィッやめましょう!やめましょう!ハィッ!やめましょう!そんなことしたら試合が始まる前に殺される!」
「ははは、これも冗談だ」
嘘つけ!一言目が出かかってたじゃないか!俺が止めなかったら絶対叫んでたくせに!
――おい、デュークの奴、何か俺らに言うとしてなかったか?
――あのガキ、要注意だな!
――殺す
なんか余計に目をつけられちゃったね、てへぺろ!僕ちん有名人だね、てへぺろ!
はぁ…この1分で無茶苦茶疲れたな…無事に試合が終わればいいけどな…
はぁ………
おっぱい………
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ーーー
それから、俺は1人でいるのが怖かったのでデュークと一緒に試合を観戦していた。
試合を見ながら、あれはこんな魔法だとか、ああいう場合はこう対処したら良いとか、色々とレクチャーしてくれた。しかし、試合を見る毎に重に俺は物凄く憂鬱な気持ちになっていく。
なぜかって?
いやだって、みんなバンバン派手な魔法使ってるんだよ!?空なんか飛んだり雷撒き散らしたり地面陥没させて岩をぶっ飛ばしたりしてるんだよ!?その都度観客席から歓声が上がるんだよ!?俺の魔法って自分しかわからないしショボくね!?ヤジ飛ばされまくるんじゃね!?その前にボコボコにされるんじゃね!?的な感じですよ、はい。
「どうしたんだ? 次がお前の試合じゃないのか?」
「なんで……」
「あ?」
「なんで俺は生まれてきたのだろう……芋虫ってどうやったらなれるのかな?……やっぱ虫を食べたらいいのか?」
「なにわけのわからないことを言ってんだ…」
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
『……それでは、第6試合目を始めたいと思いますので、選手の方は出てきてください!』
どうやって虫を食べるか本気で考えていると、いつの間にか俺の試合の番が来ていた。
「ほら、行ってこいよ。見ててやるから!」
「ういっす……」
今更行かないわけにはいかないので、俺はデュークに見送られながらコロッセウムの試合場に向かっていった。
ワァアアア!!!
廊下を進むたびに歓声が大きくなる。それに応じて俺の鼓動も速くなっていた。こんなに緊張するのは高校の時に出場した全国大会以来だろうか。
懐かしいな…。
高校の時の大会の事を思い出しながら会場へ向かった。
「うわっ、まぶしっ」
『さぁてやっと出てきて参りましたぁ~、白コーナー……出身不明。年齢不明。人種不明。国籍不明。大会参加動機…おっぱい。参加動機以外は何もかもが謎に包まれたこの男、ユウの登場だあぁあああああ!』
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
「うるせっ!」
何万人という人の歓声はまるでドラゴンの咆哮のようだった。
そういや参加動機におっぱいって書いたのを忘れていた。
『それではぁ、お互い開始線についてください~』
ブゥウ……ン
試合場の真ん中辺りに光の線が現れた。15mほど向こうにも同じような線があり、対戦相手が立っている。
「ひゃははっ、参加動機がおっぱいって何だよっ!お前バカなのか!余裕だなこりゃ!うひゃひゃ」
「んだとこら!? 俺はおっぱいのためなら何だってやれるぞ!世界を敵に回すこともな!おっぱいは女性の魂なんだぞ!それを侮辱する資格はお前にはない!!!」
『おっとぉお!? 試合が始まる前からヒートアップしているぞぉ!? だがしかしユウ、この男のおっぱいに対する執着は如何なものか………』
俺が対戦相手におっぱいについて語っていると司会者が喋ってきた。
やべっ!そういや音声拾ってんだったな!だがしかし!俺はそんなことでは止まらない!新たにテンションが上がってきた俺は誰も止めることはできない!
『はいはい~、それじゃあ準備はいいですか~……試合開始ッ!!!』
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
司会者の号令と共に、俺の、おっぱいの、おっぱいの為の、おっぱいだけの楽園を目指した闘いが幕を開けた。
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「…………………」
「どうしたのレイラ? 顔が真っ赤っかだよ?」
「ふふふ、レイラちゃんはある約束してしまったもんね~」
「だぁかぁら!それを教えてよ!もぅ」
そう、私はユウが優勝したらお…お……その…ぉ……ぱ……………その………あれを揉ましてやる約束をしてしまったのだ。
あまりにもユウが落ち込んでいたために弾みで言ってしまったのだ。
頑張って欲しいのか欲しくないのか……いや、勿論勝って欲しいとは思うぞ!で、でも、優勝は……、いや、できれば優勝もしてほしいと思っているぞ!だけど………。
「はぁ……」
「あらら」
「レイラ~?」
『はいはい~、それじゃあ準備はいいですか~……試合開始ッ!!!』
「あ!始まったよ!始まったよ!みんな!ユウがでるよ!」
「お!本当じゃねえか!」
「がんばれーユウー!」
「ゲラゲラゲラゲラ」
「俺は期待してるぞ~!魅せてくれぇえええ!!」
ギルドのみんなはユウがどんな鬼畜っぷりを見せてくれるのか楽しみにしていた。
「レイラも!」
「ああ、そうだな…!頑張るんだぞ!ユウ」
ひとまず、この試合に勝たなければ優勝などできない。ましてや強豪相手にどこまでやれるのだろうか。
……頑張れ!負けるな!
レイラは純粋な気持ちでそう想い、試合の行く末を案じた。
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「ひゃははは!何だよその構え!見たこと無いぞ!お前素人だな!?」
試合開始直後、俺は右足を前に出し、腰を少し落として居合いの構えを取った。左手は刀の鞘に添えて、相手から刀身が見えなくなるように隠す。右手はだらりと力を抜く。
居合いの構えを見るのが初めてなのか、対戦相手(以外村人B)は俺を素人扱いした。
「まずはその中途半端な髪の毛から切ってやろうか? ひゃはは」
そう言いながら村人Bは剣先が曲がった剣を抜いた。あれはサーベルというものだろうか。確かに俺の髪の毛は中途半端な長さだが別に切って欲しくはない。
「……………」
俺はまだその場から動いていない。居合いは避けられると厄介なので、一撃で決めようとしていた。幸い、相手はまだ俺の事をナメているので隙ができると思っていた。その一瞬を狙うつもりだ。
「なんだよ黙りかよ。ほんじゃま、一瞬で終わらせるか。はぁッ!」
村人Bは俺との間合いを一瞬で詰め寄り、サーベルを振りかぶった。ヘラヘラしているがやはり実力はあるようだ。レイラよりも確実に速い。
「あばよ!」
大きく振りかぶった村人Bのサーベルが俺に向かって降りてくる。
「バカか……」
大きく振りかぶってしまうと剣の軌道は読み取りやすい。多分、小手調べ的な感じで俺に攻撃してきたのだろう。
だが、俺はその一撃を待っていた。
こんなの、魔法を使うまでもねえや、ラッキー。
前より強くなったとは言っても、俺の魔力はまだまだ少ない。できることならリオン戦までは魔力を温存したかった。
そのためには不意討ちが一番有効だと思っていた。この大会の参加者は皆屈強な身体付きをしている。そんな奴らに比べ、俺の見た目はかなり弱そうだ。この対戦相手のように、俺の容姿を見て油断したその隙を狙おうと考えていたのだ。
「……………」
今のこの状況は不意討ちにはもってこいの機会だ!この初撃で決める!
サーベルは俺に向かって来るが、当たりそうなギリギリまで惚けた顔で堪える。相手が勝利を確信して気が緩むその時まで我慢する。
「取った!」
全く視線を追わず、避けようとしない俺を見て村人Bは勝ったと思ったのだろう。少し表情が緩んだ。
ブンッと空を斬る音が耳元スレスレで鳴る。
俺は右足を軸にした体捌きでサーベルの袈裟斬りの一撃を避けたのだ。避けたと同時に鞘に右手を添え、そして…
「ぐぇッ……」
村人Bの首を跳ねた。
といっても、切り飛ばした感触はあったが、実際に首は繋がったままだ。
ここで俺は胸を撫で下ろす。ペンダントの効果は本当なのかと、結構心配だった。それに人を斬るのは初めてなので怖かった。
村人Bが倒れると同時に俺は鞘に刀を収めた。
倒れている村人Bの姿を見ると、出血はおろか刀傷でさえ見当たらない。斬った感触は確かにあるのに変な感じだ。無傷な姿を見ていると、このまま起き上がってくるのではないかと考えてしまう。
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
『おおおぉおおお!!これは……なんっ……ということだぁああああ!開始20秒足らずで決着が着いたぞぉおおお!ユウ選手の勝利だぁああああああ!』
オォオオオオォオオオオォオオオオォオオオ!!
スゲェ!ナンダイマノ!!
ナニガオコッタンダアアア!!
観客から歓声が沸き上がる。みんなは何が起こったかわかっていないようだ。
『しかし…今私にはユウ選手が斬られたように見えましたが……。これは…………いったい何が起こったんだぁ!?』
どうやら司会者も何が起こったかわからなかったようだ。
「ふっふっふ……。今の技を知りたいのか……諸君?」
あまりにも綺麗に決まり過ぎたのでかなり嬉しくなり、俺は少し調子に乗ることにした。
『なんだなんだ!ユウ選手自ら解説してくれるというのか!?』
オォオオオオォオオオ!!
最高の場を用意してくれたじゃねえか司会者。誉めてやるぞ。
「そんなに聞きたいのか?」
ワァアアアアアアアアアア!
『私個人としても、是非教えていただきたい!』
「お前らぁああああ、聞きたいかぁあああああぁあああ!」
オォオオオオォオオオオォオオオオォオオオオォオオオ!!
「もっと声だせぇええぇえええええぇえええええぇえええ!」
オォオオオオォオオオオォオオオオォオオオオォオオオオォオオオオォオオオオォオオオ!!
「そんなのでいいのかぁああ? 聞きたくないのかぁああああああああ!!」
オォオオオオォオオオオォオオオオォオオオオォオオオオォオオオオォオオオオォオオオオォオオオオォオオオオォオオオ!!!
「だが断るッ!」
『えっ』
オオオォ………
十分に盛り上がってきてまさに絶好の機会だと思った俺は、この言葉を言い放った。
…………………………
観客たちは手をあげたまま口をあんぐりさせている。
「家に帰っておっぱいでもちゅっちゅしてろばーか」
…………
フッザケンナボケー!!
コノゲドウガァアアアア!!
ノタレジネェエエエ!
ボコボコニサレロォオオ!
コロスゾクソガキャァアア!
ナメルノモタイガイニセェエエ!
ユルサネェユルサネェゾォ!
シニサラセェエエエ!
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
観客たちは俺に向かって止めどないヤジを飛ばしてきた。俺は両手を上げて菩薩のような眼差しで空を見上げた。さながら神様のような気分を味わっていて気持ちが良かった。びくんびくん
『な、なんということでしょう一瞬にして観客全員を敵に回しました…。私も一瞬は殺してやりたいと思いましたが、…と、いやいや失礼。あ!……み、見てくださいこの顔!このムカつく顔!もういいよ、ドブにハマれ!どこかに足の小指ぶつけろ!そして次にコイツと当たる選手はボコボコにしてやれぇえ!』
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
司会者も俺に対して暴言を吐いてきた。いったい俺が何をしたっていうんだまったく。
十分に楽しんだ俺は、たくさんのヤジを浴びながら堂々と控え室に戻って行った。
色んな物を投げつけられた。
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「ゲラゲラゲラゲラ。やっぱ面白いなアイツ、ゲラゲラ」
「さっすがだぜ!」
「ああ、期待通りだ。見に来て良かったな!」
ギルドのみんなはユウの暴れっぷりを見れてとても喜んでいた。
「ユウ勝っちゃったね!良かったね、レイラ!」
リリィも凄く興奮していた。
「ああ、本当に良かった!」
あの対戦相手、油断していたとはいえ十分に強かったはずだ。ユウに近づいたスピードは只者ではなかった。それに、本当に斬られてしまったと思った。
「本当に良かったわね!一瞬は負けちゃったかと思ったわ」
マスターは感心したように言う。
「あたしも~。ねえねえレイラ、ユウがどうやって倒したか見えた?」
どうやらこの2人も、最初は負けてしまったのではないかと思っていたらしい。
「い、いや。気付いたらいつの間にか刀を抜いて倒していたのでな…。それに私も斬られてしまったかと…」
そうだ。ユウはいつの間にか相手を倒していた。考えられるのは相手の攻撃を見切った上での一瞬の隙をついたカウンター…。
だが、それをこんな大舞台であんな強敵に軽々とやってしまうとは。それに魔法を発動した素振りはなかったぞ?あれを生身でやってのけたのか?
「………………」
「ユウ、結構強くなったんじゃないの?」
色々と考え込んでいると、マスターが尋ねてきた。
「ああ、初めの頃よりは確実に強くなっている」
「ふふ、今やったら負けてしまうんじゃないの?」
…確かに、下手したら負けてしまうかもしれない。それにあの体捌きや剣技、見たことがない。私たちの知るそれとは別次元だ。2000年前の技なのだろうか?
「………………」
「あらあら、また考え込んじゃって」
「あ。すみません」
「ふふ。試合が終わったら教えてもらいに行きましょ」
「そうだね!今は応援しよ? もちろんリオンもだけどね」
「そうだな、今は考えても仕方がない。応援しよう!」
でも本当に無事で良かった。勝って良かった。…って、勝ってしまえば私の貞操が…。くそ、ユウめ!こんな呪縛を残しやがって!!!
レイラは悶々としながら試合の行方を見守るのだった。




