リオン・アルバースノー
リリィに魔法を教えて貰った日から1週間が経った。
俺はあれから1人でクエストに行き、自分の魔法を鍛えた。クエストから帰ってきても休憩室にいる誰かに頼んで剣術を指南して貰った。
おかげである程度の時間の魔法なら使いこなせるようになった。まだ何となくだが、時間の間隔も3倍ぐらいまでなら自在にコントロールできるようになった。
そして、今日はレイラと一緒にクエストに行こうとクエストボードの前でクエストを選んでいた所だった。
「レイラッ!」
何を行こうか2人で悩んでいると、ギルドの扉が勢い良く開き、赤髪短髪の男が近づいてくる。
「リオンじゃないか!珍しいな、ギルドにくるなんて」
「そんなことはどうでもいい。お前、最近この変な奴と一緒にクエスト行ってるらしいな!」
そう言ってリオンと呼ばれた男はずかずかと歩み寄り、俺に指差した。変な奴とは何だ変な奴とは!その指ちょん切るぞ!
だが俺は大人だ。ここは堪えよう。
「こんな得体の知らない男と一緒にクエスト行くなんてお前は何を考えているんだ!」
続けてリオンが怒鳴る。
はい、イライラその2。その5まで行ったら爆発しよう。俺はそう決めた。
「な!ユウは悪い奴ではないぞ!」
そうだそうだ!もっと言ってやれ!いいぞレイたん!
「ユウだと?名前まで変じゃないか!それに何処の家の者だよ!」
はい、イライラその3
「ユウは…その…言えない」
「何で言えないんだよ!ははーん、わかったぞ!言えないぐらい恥ずかしい家なんだな!平民と一緒にいるなんて、貴族の名が廃るぞ!」
はい、イライラその4
「何を!そんなことはないぞ!それより何だよリオン!私やユウが何か悪いことをしたのか!?」
「……ちっ……俺がこのギルドに誘ってやったんだろ!何で俺を連れていかない!バカじゃないのかお前!」
はい、イライラその5
僕ちんいっきまーす!
「おい坊っちゃん。ちょっといいか?」
「黙れ、お前には話をしていない!」
「おい、リオン!いくらお前でも許さないぞ!」
「まあまあ、レイたん、ちょっと待ってくれ」
「レ、レイたんって何だよ!気持ちわりいなお前!」
「リオンって言ったよな。レイたんの事が好きなのは分かったけどよ、お前恥ずかしくねーの?」
「レ、レイラの事が、す、す!?」
斜め上からの事を言われたのか、リオンは面食らった。ついでにレイラも唖然としている。
「いや、そこじゃなくて、お前恥ずかしくねーの?」
「は?」
リオンという奴は俺を睨む。
「お前恥ずかしくねーの?」
「何が?」
睨む目つきにさらに力が入る。
「いい歳して、好きな子に『親が凄い俺が凄いんだー、お前はバカだ!』って自慢気に言ってんだよ?わかる? 誰もそんな奴好きになんないよね? アホ丸出しだよね? 恥ずかしくね?」
「お、俺はそんなこと一言も…!!」
「ほら、周りの人の目見てみ? お前に対して冷たい視線しか送ってねーよ」
ギルドの休憩室で座っているみんなの顔をリオンは見渡す。みんなリオンを睨みつけていた。みるみるリオンの顔が赤くなっていく。
「それにな、レイラが何しようとレイラの勝手だ。好きな子が自分の思い通りならなくて怒るって、お前まじでナンセンスだな。嫌われるぞ? つってももう遅いか、もう嫌われてんよ。てか俺にバラされた時点で終わりかー。あーあ、お前の恋しゅーりょー。はいざんねーん。そんなことも分からないお子ちゃまはお家でおっぱいでもちゅっちゅしてまちょーねええー!!」
「お前ぇええ!」
鈍い音が頭に響く。
「いって…」
煽りに煽られたリオンが逆上し殴りかかってきた。俺は敢えてそれを受けたのだ。
「リオン!!何て事をするんだ!!……ユウ?」
怒ろうとするレイラを手で制止させる。今、まさに大義名分が保たれたのだ。こんなチャンスを逃すわけが無い。
「なんだ? 俺とやろうってのか? 俺はあの──」
リオンが喋る途中で魔法を発動させた。口をノロマに動かすリオンを見て、可哀想に思えてくる。
俺はリオンに近づき、顔面を思いっきり殴った。
これまたスローモーションでリオンが後ろに飛んでいこうとしている。そこにさらにアッパー気味に顎に追撃を食らわせた。
リオンの顔面がスローモーションでえげつない事になっていく。それを見ながら、俺はさらに右ボディブローを思いっきり腹に捩じ込ませた。
リオンの身体がくの字に曲がっていくのを見ながら、俺は魔法を解除する。
「ぐびょおああ!!」
リオンは変な叫びとともに机と椅子を散らかしながら吹っ飛んでいった。
「3倍返しだ」
そう言えば、この世界にきて初めて自分が吹っ飛ばずに誰かをぶっ飛ばしたぞ!
「「「「……………」」」」
周りの人は唖然としていた。一瞬の出来事だったので何が起こったのか分かっていないのだろう。吹っ飛んでいった当の本人も一体何が起こったのか分かっていない筈だ。
そしてこれで終わる俺ではない。もう激おこだ。
「うぐっ!!!」
転がるリオンに近づき、鳩尾に蹴りを入れる。
「ちょ、ユウ!」
レイラの言葉を無視し、リオンの髪を掴んで顔を上げた。
「おいこら、ぐちゃぐちゃとまあイライラさせる事をしゃべる奴だなお前。俺の事をバカにするのはいいけどな、レイラの事や俺の家の事をバカにされて黙ってる奴じゃねえんだわ。レイラが何かしたのかよオィ!!俺のばぁちゃんがお前に何かしたのかよゴラァ!中田家ナメんなよゴラァ!その口を使えなくしてやろうか!アァ!?切り刻んでやらよ!!ほら口を開けろや!ああ!?」
「ひぃっ…!!」
「「「「………」」」」
本気でキレてしまったので周りのみんなは唖然ととしてしまっている。いつもヘラヘラしている俺の姿からは想像できなかったのだろう。
「とりあえず、お前の指からいっとくか。ほれ、指出せ」
「い、嫌だ!や、やめ、やめろ!」
奴の手を引っ張り、肩を足で押さえつけた。
「はっはっは~!悪いお子ちゃまにはお仕置きでちゅよ~!」
「うわぁあ!やめろ!やめてくれ!頼む!やめろぉおおおお!」
「うるせえボケぇ!」
「ぐぅっ……!」
再び鳩尾に蹴りを入れる。
「まずはこの爪からいきましょうね~」
「や、やめ…やめろッ!」
ニヤニヤした表情を見せつけながら、指の爪と肉の間に包丁をつけた。
「ギャアアァア……」
「なーんてな!冗談だよ!てへぺろ!……って気絶してるぞコイツ!情けねぇな!なははははは」
「「「……………」」」
皆はあまりの恐怖に支配されて何も喋れなかった。
「あれ、みんなどうしたんだ?レイたん?」
「い、いや、何でもない」
「とりあえず、起きて暴れでもしたら恐いから椅子に縛り付けておこうか!」
そう言って俺はロープでリオンという男を椅子にロープで縛り付けてぐるぐる巻きにした。
鼻歌を歌いながら縛り付けている俺の姿を見て、みんなはコイツは絶対に怒らせないでおこうと心に誓った。数日後、このギルド内で『ユウを怒らすべからず』という戒めができたのは笑える話だ。
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「う……」
それから10分ぐらいでリオンは目を覚ました。
「お、気付いたぞ」
「お、お前…!ぐっ…な、なんだ身体が!」
リオンの身体は、椅子にロープでぐるぐる巻きにして縛り付けてあるので身動きが取れない。
「よ!大変だな!」
俺はニヤニヤしながらリオンに近づく。
「お前!こ、こんなことをしてタダじゃすまないぞ!」
「えー?そんなこと言うんだ、仕方ないなぁ~、よし」
「な、何をする!や、やめろ!バカか!そ、それ以上は!やめっ……」
俺はリオンのズボンを脱がした。
「はっはっは~。だらしねぇ!よし、カメラだカメラ!」
俺は携帯を取り出してカメラで何枚も撮った。
「な、何をしているのだ?」
「あー、そっか、携帯って知らねえんだな。ほれっ」
俺は携帯で撮った恥ずかしい写真を見せた。
「何!これは!お前、どうやったのだ!」
「はっはっは~。この写真をばらまかれたくなかったら大人しくするがいい!なははは!」
「ユ、ユウ…。も、もうこれくらいにしてあげたらどうだ?」
あまりにも酷いと思ったのだろうか、それとも見ていられなかったのだろうか、レイラは俺にやめるように言ってきた。
鬼畜大魔王が何をほざいてやがる!
「甘い甘い!コイツにはもっとお仕置きしなきゃいけないんだ!そう、もっと恥ずかしい目にあってもらうぞ!はっはっは!」
俺は何故か虐める事にテンションが上がってしまった。俺が相当ドSなんだと気付くと共に、虐めがこの世からなくならない理由が何となくわかった。
「ゆ、許さん。許さんぞぉおおお!」
「なんだ?我に口答えするつもりか?口を慎みたまえ!君は大魔王の前にいるのだぞ!!………ん?」
急にリオンの周りに風が纏い始めた。
「ストーム!!」
「うぉお!」
「きゃっ!」
リオンを中心に暴風が渦巻き、俺やレイラを吹っ飛ばした。さらにリオンは、縛ってあったロープを風の魔法で切って立ち上がった。パンツ姿で立っている姿はとてもシュールである。俺はすかさずカメラで撮る。
「許さん!許さんぞぉおお!!ノヴァウェイブ!!」
リオンは俺に向けて大きな風の刃を飛ばしてきた。パンツ姿で魔法を放つ姿が面白すぎるので、俺は魔法を発動して何枚も写真を撮る。
「はぃはい、ストップストップ~」
「なっ!」
どこからかナミさんが現れてリオンが放った魔法を霧散化させた。一体どういう魔法なんだろう。
「えっ……な、なんで……」
リオンは魔法を解除されたことに驚いている。その表情からはもう戦意は喪失している事が読み取れる。
「リオンくん、私が許可した決闘なら別だけど…、ギルド内での争いは御法度なの知ってるでしょ? ましてや今の魔法はユウを殺すつもりで撃ったでしょ?」
「そ、それは……」
「もしそれでユウが死んでしまったら、貴方はどうなるかぐらいはわかっているでしょ!?」
「う……す、すみません」
「ははは!パンツ姿で怒られてや~んの!ぱねぇ!はははは」
「ユウ!貴方も!」
「はぃぃ!すんません!」
レイラならまだしも、ナミさんに本気で怒られるとは思っていなかった。
「すみませんでした…マスター」
リオンは冷静さを取り戻したのか、素直に謝った。
「ふふ、でも私に謝ってもねぇ」
「あ……レイラ、すまなかった」
「あ…ああ、私は別にいいぞ」
リオンはレイラにも素直に謝り、そして俺の方へ向いた。
「………………」
しかし何故かリオンはずっと黙ったままだった。
「え? 俺には?」
「お前は許さない!」
「ええええええー!」
「おい、ユウと言ったな。お前、2週間後にこの街で開催される武闘会に参加しろ!俺と当たるまで負けたらお前もパンツ姿になれ!それに俺と戦って負けてもパンツ姿で街を歩いて貰うぞ!」
「おいリオン!」
レイラはリオンに謝れと言わんばかりだ。
「え? なんでそうなんの?」
「逃げるのか? 年上の癖に…」
カチン。
「んだとコラ!年上ナメんなよ!いいぞ、受けてやんよ!ボコボコにしてやんよ!」
「ちょ、ちょっとユウも!」
「マスター、これならいいだろ? 別に決闘でもないし、ただの大会だ」
「ええ、もちろん」
「マスターまで…。ユウ、いいのか? リオンは前回の準優勝者だぞ?」
「え? マジで? お前そんな強いのか?」
「今更降りるとかは無しだぜ?」
「や、やってやんよぉおぉ~。じゅ、準優勝者がなんぼのもんじゃああ!」
俺は、今まで生きてきた中でこれまでにない程の危機を感じていた。いやだって、パンツだよ?上は普通だけど下はパンツだよ?パンツだけの方がまだましじゃね?的な。どうせなら全裸がよかったな…。……よし、今夜中に逃げる準備をしよう。
「ふ、せいぜい足掻けよ雑魚!ふははははははは!」
そう言ってリオンはドヤ顔をキメて帰っていった。
パンツ姿で。
――キャアア!
――ん?なんだ?
――変態よ!変態がいるわ!
――うわっズボン忘れた!
ギルドの外で騒がしい声が聞こえる。
「レイたん、あんなのが友達なのか?」
「友達というかなんというか。根は悪くはない奴だとは思うんだけどな」
「確かに、素直に謝った姿を見る限りは悪くなさそうだな」
再びギルドの扉が勢い良く開いた。
「おい、ズボン返せ!」
「ほらよっ」
俺は落ちているズボンを取ってリオンに放り投げる。
「くっ!絶対だからな!絶対参加しろよ!参加しなくってもパンツだからな!」
リオンは急いでズボンをはき、逃げるように帰っていった。
「うん、いじり甲斐があることはわかった」
「はぁ」
ため息をつくレイラ。
「それよりレイたん、武闘会って何だ?」
「あぁ、毎年この時期になると開催される大会でな、腕に覚えのある者は皆参加する。それに、この国だけじゃなく他の国々からの参加者もいるんだぞ」
「へぇ~それは凄いな!って、その大会は申し込みとかあるんじゃねえのか? もう期限過ぎてたりとかは……!?」
「大丈夫だ。当日に参加する形だ」
どうやらその大会は当日に参加者を募るらしい。
「ふー、なら安心だな。……でも当日参加って……参加する人が無茶苦茶多くならねえのか?」
「それも大丈夫だ。本当に腕に自信あがる者しか参加しないのでな、ある程度の実力者でも初戦でコテンパンにされるんだ。だから参加人数は毎年50人程度だ」
まじかよ!!
「け、結構少ねえんだな…」
「参加するよりも、皆見るのが楽しみだからな」
「レイたんは参加しないのか?」
「私の実力なんぞ到底及ばないからな。それに見るのは勉強になる!」
ははは…、レイラの実力が到底及ばないだって?そんなバナナ。ガチで逃げようかな。おしっこちびりそう。
「んじゃリオンって奴、かなり強えんじゃねえの?」
「そうだな、リオンは私の学校の1、2の実力者だ」
「まじか…」
ちょっと、ヤバくね?あんだけ俺にビビってたから余裕で倒せんじゃね?って思ってたのに実は無茶苦茶強いってどゆこと?しょゆこと?
「ユウ、骨だけは拾ってやるぞ」
「ふふふ、楽しみね」
「だめだ…やる気がでない……何とかしてくれレイたん…」
「何で私なんだ!しっかりしろ!男なら一度受けたことから逃げるな!」
「はぁ……」
「あらあら、困ったわね~。レイラちゃんどうする?」
「ゆ、優勝したら何か買ってやるから!」
なんか子供扱いされてないか俺?
「……何でもいいのか?」
「ああ、優勝したらだけどな」
「じゃあ、優勝したらおっぱい揉ましてくんね?」
「あら」
「ばっ………」
俺は自暴自棄になっていたのでもうどうでもよかった。とりあえず殴られて吹っ飛ぼうと思った。
「………………」
だが、いつまでたってもレイラは殴って来なかった。それどころか、俯いて顔を赤くしている。
「どうした?」
「……………たらな」
「ん? なんて?」
「ゆ…優勝したらだぞ……」
レイラは顔を赤くしながら涙目&上目遣いで答えてきた。
可愛すぎてハゲた。
「まじっすかぁああ!!!!」
「ゆ、優勝したらだ!それ以外は認めないからな!」
「やっふぃいいい!おっぱああああああああいいい!!」
「うるさい!さわぐな!」
「きたきたきたぁあああ!レイたんおっぱあああああいいいいい!!」
「だ、だまれぇえええ!だまれだまれだまれだまれだまれぇえええええ!!」
「なんだなんだ?」
「どうしたんだ?」
「待て、またユウが暴走してるんじゃないか?」
「ならヤバい、みんな!避難しろ!」
「うわぁああああ」
「いやだああ爪は剥がされたくないぃぃい」
ギルドのみんなもあることないことを言いまくり、勝手に騒ぎだした。
「よしレイたん、ぱっと行ってぱっと優勝してくるぜ!見てな!」
「1回戦で負けてみろ!絶対許さないからな!」
「任せろ!ボコボコにしてやる!そうと決まれば修行だ修行!ナミさん、行ってくるぜぇえええ!!」
「ユウ!」
「リリィ、これよろしく!」
「クエスト行くの? 気をつけてね~」
「いーーぱーーいーーおーーーぱーーーい、ぼくっげーんーきーーー!!!」
俺はテンションが上がりすぎてはしゃぎながらギルドを飛び出してクエストに行った。
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ーーーーーーー
ーーー
「さすがレイラちゃん。一瞬で元気付けちゃったじゃない。ふふ」
「はぁ……何故私はあんなことを…」
元気付けようとはいえ、勢いであんなことを言った事をレイラは心底後悔していた。
「これで本当に優勝しちゃったら面白いわね」
「はぁ……」
「あらあら、今度はレイラちゃんが落ち込んじゃって。優勝してほしいんじゃないの?」
「それはそうなのだが…。優勝してほしいようなしてほしくないような…はは」
「ふふふ、優勝したらレイラちゃんの初めてをあげなくちゃいけないものね!」
「なななな…、マスター!からかわないでくれ…」
「冗談よ、ごめんなさい」
「もう…」
このマスターの冗談はたまに洒落にならない時がある。
「何々~マスター、レイラがユウに何をあげるの~?」
面白そうな会話をしていたのを聞きつけて、リリィも話に入ってきた。
「えっとね……」
「ちょっとマスター!」
「何々~、何なの~? 教えてよ~」
「それはね…」
「やめろー!ああああ」
「あ、レイラ赤くなってる~可愛い~」
「リリィもうるさいー!」
「あはは」
「ふふふ」
「だから~、何をあげるのよ~」
「レイラちゃん、もう教えちゃいなよ」
「だから……」
「……でも……」
「うそ~………」
美人女子たちのGTはまだまだ続くのであった。




