魔法講座(実践)
トイレから戻った俺は、再び闘技場の隅の方で待っているリリィの方へ向かう。
「おかえりユウ。次は魔法の使い方について、実践で教えていくね」
「おし、どんとこい!」
「ではユウ、魔法を使うには何が大事だったでしょー
か?」
「はーい先生!詠唱と命令と魔力です!」
黒板に答えが書いているのでそのまま答えた。
「せいかーい!じゃあ、それを実践していくね!」
「お、おう」
いきなり実践って大丈夫か?暴発したりしないか不安だ。
「えーと、まずは誰でも簡単に使える初級の火の魔法からいくね。詠唱する呪文は『ファイア』だよ」
「ファイアね。おけ」
「自分の中の魔力だけど、感覚がわかるかな?」
「まあ、何となく」
「おっけー。準備は万端だね。じゃあその魔力に命令する様に『ファイア』と唱えると…」
リリィがそう唱えた瞬間、手のひらに小さい炎の塊がボッと出現した。
「それ!それ!俺が使いたいやつそれ!!」
「あはは。余程魔法が使いたかったんだね!じゃあ、ユウもやってみようか!」
「おっしゃーいくぜー」
俺の身体に流れるこのよく分からない力…魔力…これに命令する様に……
「ファイア!!」
俺は闘技場の真ん中のスペースに向けて手をかざしながらそう叫んだ。
しかし、
「………………」
「……何も出ないね」
リリィが苦笑いしている。その視線が中々痛い。
「何でやー!!ファイア!ファイア!!ファイアー!!!!」
確かに自分の身体の中に魔力と思われるものを感じることができるが、いくらファイアと詠唱しても俺の手から炎が出現する事は無く、俺の叫ぶ声だけが虚しく響き渡る。
「ユウ、本当に魔法を使えるようになったの〜?」
リリィが懐疑的な視線を送ってくる。
「なったなったってまじで。んじゃリリィ、俺が使えるようになった魔法を今からやるから見とけよー!」
俺は昨日ナミさんやレイラに使ったあの応用魔法を使う事にした。
「アクセル」
そう名付けた魔法を発動し、リリィと俺の時間を操作する。
「ぐえ。きっつ」
やはり俺以外の人間の時間感覚を操作することはかなり負担がかかるようだ。一瞬にして疲労感が襲う。
「どうだ!これが俺の魔法だ!!」
ふとリリィの方を見ると、頭の上にハテナマークを浮かべているような表情で立っていた。
あ、そうか。
確かに今魔法は発動しているのだが、この闘技場には時計の音も無いし、周りに誰もいない。自分達が周りの時間と違う軸で動いている事を確かめようがない事に気付いた。そしてすぐさま魔法を解く。
「え? なに? なにかしたの? 全然分かんなかったよー。本当に魔法使っていたの〜?」
さらにリリィは疑いの目を向ける。
「違うんだって、ここじゃ分かりにくい魔法なんだよ。信じてくれよ〜」
「にひひ。ちょっとからかっただけ!」
そんな事を言って可愛く微笑んでくるので、とりあえず許した。
「人によっては得手不得手の属性があるから、あんまり気にしなくていいと思うよ」
「…だといいんだけどな」
「うーん。それじゃあ一旦魔法はやめて、ユウの魔力を測ってみよっか」
リリィは木の箱から何やから小さい機械を取り出してきた。手に巻き付けるバントのような物にコードが付いていて、その先には何かを表示するような機械が付いていた。見たまんま、手にまきつけて測定する機械だと分かる。
「ユウ、腕伸ばしてくれる?」
「ほい」
リリィはバンドを俺の腕に巻き付ける。そして機械の電源を入れた。
「あれ? おかしいな。ちょっと待ってね」
リリィは俺の腕からバンドを外し、自分の腕に巻き付ける。そして機械の電源を入れた。
「うん、大丈夫だね。ユウごめん、もう1回腕を出して貰っていいかな?」
リリィは自分の腕からバンドを外し、再び俺の腕を前に出すように催促する。
「うーん…」
俺の腕にバンドを巻いて機械のスイッチを入れるが、リリィは困った表情をする。
「どうかしたのか?」
「機械が反応しないんだよね…。あたしの時はちゃんと測れるから機械自体は壊れてないんだけど、何でだろうね、わかんないや」
俺の魔力が『分かんないや』に変わっちまった。
「実際ユウは魔法を使えるようになったんだよね? どんな魔法なの?」
機械を取り外し、木の箱に片付けながら尋ねてきた。
「なんか、人の体感時間? うーん、違うなあ。自分または相手の時間軸を周りの進む時間軸から切り離して自由自在にコントロールする魔法? だめだ、自分で言ってて何言ってんだかわかんなくなった」
「時間軸を…切り離す?」
リリィがぽかんとした表情をしている。俺の説明が理解出来ていないのが丸わかりだが、俺も自分でも上手く説明ができない。
「とりあえず人よりも早く動けるようになるって事だ!」
埒が明かないのでそう纒めることにした。
「…なるほど、人体強化系魔法ね!凄いじゃん!また後で説明しようとしてたんだけど今話しておくね!魔法の使い方で、生命力を補う事が出来るんだけど、それが人体強化魔法って言われているの」
リリィがペンを持ち、『魔力』から『生命力』に向かって矢印を書く。
「自分の魔力を生命力に転換する事で、身体を強くしたり、傷の治りを早める事が出来るんだ。これが人体強化魔法と回復魔法って言われているのね。ただ、回復魔法は自然治癒力を高めているだけだから使い過ぎに注意よ!」
「なるほどなるほど」
それとはまた感覚が違うんだけどな〜。ここは適当に流しておこう。
「でも初めて覚えた魔法が人体強化魔法なら安心だね。ギルド初心者の人が命を落としやすいのが、魔欠になって動けなくなったところを魔物に殺される事なんだ。慣れてない人は焦って何発も魔法を打っちゃうから魔欠になりやすいの。人体強化魔法は地味だけど、主に使うのが魔法じゃなくて身体だから、あまり魔欠にならないんだ」
「ふーん、なるほど。今の話は凄い参考になる。自分の魔力に合わせて戦い方を変えれるって事だな」
「そゆこと!ユウ凄いね!物分りが良い!」
「いやいや、リリィの説明が上手だから理解し易いんだよ」
「そんな事言われると照れちゃうよ」
「本当に上手だって。今日は本当にありがとう。俺の魔法使いの道へはまだまだ遠そうだけど、基礎的な考え方の知識は身についたよ!ありがとう!また何かあったら教えて貰ってもいいか?」
ほんの数分間教えて貰っただけで色々と分かったこともあるし、身についたこともある。今日はリリィに教えて貰って本当に良かった。火の魔法は使えなかったが、使える魔法もある。あとは自分で色々と試すだけだ。
「嬉しい!今日は張り切った甲斐があったね!にひひ」
「お前、ほんと可愛いな」
「えへへ。実はこれ作ってるんだよー!」
「ま・じ・で!?」
「ウッソー!引っかかったー!」
リリィが本当に楽しそうに無邪気に笑う。これを自然とやっているのであれば、まじで犯罪級だ。いつか取り締まってあれこれ調べてやろう。
「ほら、今日は色々と準備してくれてから俺も片付け手伝うよ」
「ありがとう!ユウって優しいね」
「可愛い女の子にだけな」
「またまた〜」
そうして、俺達は雑談を踏まえながらリリィ専用ブースを片付けた。紙やらペンやら本やら色々あり、この為だけに本当に熱心に準備してくれていたみたいだ。
「本当にありがとうな、リリィ」
「なになに改まってー!」
「いやまじでありがとう」
真面目な表情でリリィに伝える。リリィはきょとんとした顔をするがすぐに笑顔に変わった。
「えへへ、どういたしまして。クエスト行く時は本当に気を付けて行ってね。心配して待ってる人もいるんだから」
「わかったよ。肝に銘じておく」
その後もリリィと世間話をしながら闘技場を抜け、ギルドの廊下を歩く。
ギルドの自室に戻るまでそう時間はかからなかった。




