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魔法講座(座学)



起きたのは正午を回ってからだった。過度の緊張に晒されたのと、魔法という慣れない力を使った反動か、ずっと寝ていたみたいだ。ぼーっとする頭をポリポリと搔く。



顔を洗おうとベッドから立ち上がった時、部屋をノックする音が聞こえた。



「ユウ、大丈夫?」



扉の外からリリィの声が聞こえる。どうやらいつまで経っても起きてこない俺を心配して尋ねてきたみたいだ。



「大丈夫だよ。今開ける」



扉を開けるとリリィが心配そうな顔で立っていた。手にはお盆を持っていて、チャーハンのような炒め物と飲み物が乗っている。



「うわあ。凄い寝癖。ご飯作ったから、しっかり食べてね」



「ありがとうリリィ。わざわざ作って持ってきてくれて助かるよ」



リリィからお盆を受け取り、部屋の机の上に置いた。



「あとね、昨日のクエストの報酬が届いてるの。カイゼルエンテイまで倒しちゃって凄い報酬額だよ。あまり無駄遣いしちゃダメだからね」



そう言ってリリィは報酬が入っているであろう木の箱を俺に渡した。あまりこの世界のお金に興味が無いため、中身を確認せずに部屋の隅に置く。



「ありがとう。また確認しておくよ」



「………………」



リリィが黙り込んで俺の顔を見ていた。



「どうした?」



「ユウ、何かあったでしょ?」



「ん? 何も無いよ」



「嘘だよ。元気ないもん」



何故かリリィが悲しそうな表情になっている。



「ちょっと疲れが溜まっているだけだよ。俺にとって初めての事が多すぎて疲れが一気に来たみたいだ。今日はゆっくり休ませて貰うよ」



「もー!本当に無理しちゃダメだからね!今日は絶対に休む事ね!」



お決まりの頬を膨らませ、腰に手を置いて今度は怒りん坊リリィになった。



「くっそ可愛い」



「こら!またそうやってからかって!ちゃんと言う事聞いてよね!?」



「なんだこの可愛いやつ」



「もー!!!」



「はははは」



リリィの反応が可愛くて元気が出てきた。でも冗談抜きで、こんな可愛くて自分の事心配してくれる奴に「朝ごはんできたよ」とか言われて起こされたらこれマジで惚れてしまいそうだな。



「リリィは良いお嫁さんになるよ」



「もー!調子戻ってきたからってすぐそういう事言う!」



「ごめんごめん」



これ以上は諄くなるな。ここら辺で辞めておこう。



「てかさ、リリィって魔法使えるの?」



「当たり前だよ。そういやユウは魔法使えないんだったね?」



「それがな、昨日使えるようになったんだよ」



「え!凄いじゃん!どんな魔法使えるようになったの?」



「いや、それがまだよく分かってなくて。リリィ、今日は時間あったら魔法について色々と教えてくれないか?」



今俺の身体の中には、なんとも言い難い不思議な力が巡っている。多分、俗に言う魔力なんだろうけど、魔法の基本というか使い方や考え方の基礎を学びたかった。



「うーん。ギルドの仕事終わるのが夕方ぐらいなんだけど、それ以降でも大丈夫?」



「全然大丈夫!今日はこの部屋でずっとゆっくりするつもりだったしし、リリィのいけそうなタイミングで声掛けて貰って良いよ!」



「わかった。でもちゃんと教えれるか不安だよ〜」



「大丈夫大丈夫。別に魔法じゃなくてリリィの事を教えてくれるだけでも良いよ!」



「こら!私が教えてる時はおふざけ禁止だからね!」



リリィはまた頬をぷくーっと膨らませている。これがまた両手でほっぺたを抑えたくなるぐらい可愛い。



「わかったわかった。ごめんって」



「それじゃあ、また仕事終わったら声かけるね!食器は食べ終わったらカウンターの流しに置いててね!」



「わかった。本当にありがとうな!仕事頑張れよ!」



「ありがとう!頑張ってくるね!」



リリィはニコッと笑い、休憩所の方へと向かっていった。スキップで戻る彼女を見て、なんだか上機嫌になっていると感じる。



「よし、俺も飯食って顔洗うか!」



リリィと話をしている間に目は覚めていた。頭のもやもやも取れていて今はスッキリしている。今日は本当にゆっくり休んで、ストレッチでもしておこう。



そう思いながら、俺はリリィが運んでくれたご飯を食べようと机に向かった。




ーーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーー



それから、夕方の5時を少し回ったくらいにリリィが部屋に尋ねてきた。ギルドってホワイト企業なんだなと思いながら部屋の扉を開けると、リリィは手に紙やらペンやら持っていて、鼻息荒く凄く張り切った表情をしていた。



「そんな楽しみにしていたの?」



「うん!凄く楽しみで仕事早く切り上げて来ちゃった!」



そう言って無邪気に笑うリリィ。この笑顔は女性耐性を持たない人間を1発でノックアウトさせるだろう。



「お仕事お疲れ様。何でそんな張り切ってるの?」



「うーん、何て言ったら良いんだろ。私って昔からドジばっかり踏んでて誰かに頼られた事なんて無かったから、今日はユウから教えて欲しいって言われて凄く嬉しくなっちゃったんだ!にひ!」



「まじで可愛すぎるだろお前!」



「そんな事言ってるとちゃんと教えないぞ〜?」



いやマジで言ってんだけどこいつやべえわ。可愛さ全振りしてやがる。気を確かにしないと一気に気持ちを持っていかれるぞ!しっかりしろ俺!



それからリリィは、先に闘技場で色々用意すると言って駆け足で向かっていった。



その跡を辿るように、俺はゆっくりと歩きながら闘技場へ向かうが、リリィに教わりながら果たしてあの可愛さに耐えれるか心配になった。



「じゃじゃーん!ユウの為に今日は仕事中に書いてきたんだよー!」



闘技場の隅の方で、リリィが木の黒板的な物を用意してリリィ専用ブースを作っていた。その黒板にリリィが書いた絵が貼っていて、簡単な人の絵の中に2つの円が書かれている。



「リリィ先生!それでは魔法について教えて下さい!」



ここまで色々とやってくれているんだ。俺も本気で教わろう。



「教える前に確認なんだけど、ユウって魔法の知識はほとんど無いんだよね?」



「そうだな。魔法の『ま』の字すら知らないレベルだ」



「おっけー!じゃあこれ書いてきて正解だったね。まずは魔力について教えるね。本当に基本の基本から説明していくよ」



リリィはペンを取り出し、黒板に貼っている紙の前まで移動する。



「ありがとうリリィ。俺が教わりたいところがドンピシャでそこからだから凄く助かるよ」



「えっへん!」



リリィはとても嬉しそうに笑う。少しドキドキしてきたのは気のせいだろうか。いや、これはあれだ。よくある家庭教師の放課後エクスプレスだ。それを無意識に期待しているのだと思っておこう。



「人の身体の中には2つのエネルギーがあるの。1つは生命力、そしてもう1つは魔力」



キュキュっと簡単な人の絵の中に書いてある2つの円の中に『生命力』と『魔力』とリリィが書く。



「生命力は身体を動かしたり考えたり病気に抗ったり、文字通り生きていくために必要なエネルギーの事なんだけど、魔力は魔法を使う為だけに必要なエネルギーなのね」



ふむ。簡単に言ってしまえばHPとMPってとこか。



「勿論だけど人それぞれで生命力や魔力の大きさは違うよ。あと、子供よりも大人の生命力が多いように魔法を使えば使うほど魔力が大きくなってくるし、素人よりも達人の方が運動で消費する体力が少ないように魔力の消費量も違ってくるの。そこは個人の努力ってところかな」



ふむ。中々分かりやすい。要は経験を重ねる毎に1のエネルギーで出来る事が増え、その総量も増えてくるってことだな。



「で、走った後とか休憩すると体力が回復する様に、魔力も魔法を使わなければ自然と回復していくのね。ここまで大丈夫?何か分からないところある?」



「全然大丈夫。説明上手で分かりやすいよ」



「ありがとう凄く嬉しいよ!そしたら続けるね!ユウは怪我した時とか痛いって感じたり、走り続けているとしんどくなったり、病気になると身体が怠くなったりするでしょ? それはこれ以上生命力を削らないようにリミッターが付いてるの」



まあ、言っていることはわかる。



「でも、魔力にはそれが無いの」



「魔力にはリミッターついてねーの? んじゃ気兼ねなく魔法使えるってことか?」



「そうでも無いのよね。魔力が空っぽになっても魔法を使おうとすると、生命力からエネルギーを奪うの」



黒板の『生命力』の円から『魔力』の円に向かって矢印が書かれる。



「そうなると、思考能力が低下したり、怪我していると傷の治りが遅くなったり、倦怠感や体力の低下といった感じで悪影響が出るのね。ある意味それがリミッターなのかもしれないけど、だんだんとしんどくなってきたな〜って感じが一切無いから魔法の多用は要注意ね!一気に身体に来るから!」



………!!



なるほど。俺が昨日魔法使った後に足がガクガクしたり、体育の授業が終わった後のような怠さになったのはそのせいか。だとしたら、あの魔法の消費量が激しいのか、魔力の上限が足らないのか、まあ今は両方だろうな。どっちみち俺はまだまだ魔力に関しては赤子って事だな。



「学者の間では『魔力欠乏症』って言われてるけど、最近の若い子達の間では『魔欠』とか言ってるね」



「へー、じゃあリリィ的に言うと、あたし今日は魔欠ってくそダリーから仕事バックレるねって感じ?」



「あたしそんな事言わないよ!もーう!!」



「ははは!でもなんか、色々と謎が解けいっているようで凄く助かるよ」



「えへへ!やったね!」



リリィは凄く楽しそうだ。説明も凄く分かりやすいし、家庭教師とか教員系を目指した方がいいんじゃないかと思う。



「続いて魔法の説明だよ。簡単な例だけど、『身体を動かす』という脳からの命令で身体が動くように、『火の魔法を使う』という脳からの命令で魔力を使って火を起こすことが『魔法』なの」



人の絵の頭のところに、『魔法を使う』という文字が書かれ、『魔力』の円に向かって矢印が書かれる。そしてその『魔力』の円から外側に向けて矢印が書かれ、その先に『魔法』という文字が書かれた。



「ここで注意して欲しいんだけど、人の身体って反射的に動いたり、あと無意識のうちに動かす事があるでしょ? それを魔法でやってしまえばさあ大変だ。凄い事になっちゃうよね」



凄いことというかもう生活出来ないぞ。「寝ぼけて隣で寝ている嫁を凍らせちゃったよーわはは」ではまじで笑えん。



「魔法を無意識や反射的に使わないようにする為に、これも学者が付けた言葉なんだけど『抑止機構』と呼ばれるものがあるの。これが働いて魔法の発動を制御しているんだよ」



ふむ。リミッターはないがストッパーはあるということか。



「ではどうやったら魔法が使えるかと言うと、『魔法を使うという脳からの命令』と『魔力』。この2つともう1つ、『魔法を使うという意思』これが重要になってくるの」



人間の絵の真ん中辺りに『意思』と書かれ、『魔法を使う』という言葉へ矢印が繋がれる。



「この『意思』というのを言葉で言えば、どんな魔法をどれだけ使う、という事なんだけど、これを表したものが『詠唱』なの。レイラが魔法を使ってる時に見た事ないかな?」



「あるある!」



あのいつもブツブツ言ってるやつな。空間から武器取り出す時もいつも言ってたからなんかめんどくせーなとは思ったが。



「火の魔法で簡単に大中小て書くけど、それぞれで魔法名を付けて詠唱するわけ。そしたらそれぞれで魔力消費量も違うし、自分の持つ魔力量の残量を調整できるようになるんだ。昔の人は魔法を何発も打って自分の魔力がどれくらいあるか確かめていたけど、今は簡単に測る機械があるの。持ってきているからあとで試そうね!」



「まじで? それは気になってたから助かるよ!」



「ここまでが魔力と魔法を簡単に説明したんだけど、分からなかったところとか質問とかある?」



リリィの説明を聞いて、気になる事があった。



「抑止機構?だっけ。魔法の発動を制御するやつ。魔法名の詠唱で魔法が使えるって言ってたけど、それは絶対なのか? 例えば詠唱せずに魔法を使えたりって出来ないのか?」



そう。俺は魔法名なんぞ唱えずに、自分の意思だけで魔法が使えた。これはリリィが説明した事と辻褄が合わない。



「うーん…それは無詠唱って事だよね。ちょっとマニアックな話になるんだけど、詠唱は魔法を使うという意思の表れと言ったの覚えてる? 少し視点を変えて、魔法を使うという意志を他の方法で表せれば無詠唱は出来るんだけど、これはあくまで理論上の話であって、魔法を研究し尽くした人しか体現できないって言われている代物だよ」



今のリリィの説明はわかる。が、俺は俺の意思だけで詠唱せずに魔法が使えたし使える自信もある。



「なるほどね。抑止機構そもそもを働かせないようにする為には?」



そう質問した瞬間、リリィの表情が少し曇った。



「一昔前に、ユウが言っているように抑止機構そもそもを外そうとした学者がいたんだけど、異端者扱いされて殺されたとか聞いたことあるから、あんまりそういう事他所で言っちゃダメだよ?」



リリィが心配そうな顔で答えてくれた。



「わかったわかった。わかったからその可愛い顔は辞めてくれ」



「もー!ユウは可愛い禁止!」



「それはやめてくれ!」



「えへへ」



魔法の基本の話を一通り聞いたが、この世界の魔法の常識は『詠唱する事』だ。俺自身の魔法と少しズレている感覚があるが、これは2000年の時を経ているのが関係しているのだろうか。まだよく分からないが、とりあえず怪しまれないように適当に名前付けて詠唱する形にしておこう。



「次は実践形式で魔法を教えていこうと思うんだけど、ちょっと休憩挟もっか!」



リリィがそう言って飲み物を渡してきた。それを受け取り、口に含む。



実践するということで、早速俺の魔法をお披露目する時がきたのだけど、さっさと魔法名を考えなくちゃならない。



「わり、ちょっとトイレ行ってくる」



「はーい、慌てなくていいからね!」



「ありがとう!」



トイレから帰ってくるまでの間で、とりあえず何かカッチョイイ魔法名を思い浮かべばいいけどなと淡い期待を抱きながらトイレへ向かった。



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