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エクストラクエスト カイゼルエンテイの討伐



レイラの手を取って立ち上がった瞬間、凄まじい咆哮が響き渡った。以前フルボッコにされたバギュラという魔物の叫びに似ており、森全体が震えているように思える。そしてその何かは、木をなぎ倒し、地響きを鳴らしながらこちらへ向かって来ていた。



「レイラ、ちょっと何かやばくね?」



「ユウ、私の後ろへ下がっておけ」



レイラが俺にそう伝えるが、足が竦んで動けなかった。木々が邪魔でよく見えないが、焦げ茶色の毛に覆われた何かが数メートル先にいる。怖い。



「ウガアアア!!」



それが叫ぶと同時に、目の前の木が左右に吹き飛んだ。



「ユウ!避けろ!しゃがめ!!」



レイラははすぐに反応して俺に伝えるが、



「グァアアアアアア!!」



「げぶぁ!」



その巨大な何かに一瞬で間合いを詰められ、殴り飛ばされた。



「ユウ!!」



「グァアアアア!!」



レイラは目を見開き、その魔物を捉える。その魔物は、エンテイを巨大化させたような体格で、腕が6本生えていた。図太い腕に人を丸呑みしそうな巨大な口、そこから見える凶悪な牙。



通称『カイゼルエンテイ』



エンテイの王であり、その強さはケルベロスに匹敵する。巨体の上、俊敏さが高く、何よりも6本の腕から繰り出される攻撃が幾千のハンター達を退けていた。



「何でこんな所に、こんな奴が……」



そんな凶悪な魔物が目の前に現れ、レイラは困惑する。



「ガアアアア!!」



カイゼルエンテイはレイラに向き直り、口を大きく開けて威嚇する。



「お前の相手は私だ!はあああ!!!」



レイラは槍を手に取り、カイゼルエンテイに向かっていった。





ーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー




「…いって……くっそ……アイツ思いっきり殴ってくれたな……」



俺は気付けば草枝の上で転がっていた。



──グォオオオオ!!


──はぁあああ!


──キンッ、がキンッ



元いた場所からだいぶ離れているのだろう、遠くの方でレイラが魔物と戦っている音が聞こえてくる。



「だいぶ飛ばされたな……やっぱ俺って吹き飛ぶ趣味があるのか?」



──ガアアアアアア!!



「っと、いけね!はやく行かないとレイラが危ない!」



俺は両手に包丁を取り、レイラの元へ走っていった。





ーーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーー






「はぁはぁはぁ…」



「ガァアアア!!」



雄叫びと共にカイゼルエンテイはレイラめがけて殴りかかる。レイラは身を屈めてそれを避けるが、ブォン!と空気を斬る音に冷や汗をかく。



「くっ、やっぱり6本相手だとちょっとキツイ…」



カイゼルエンテイから繰り出される拳撃はこちらから攻め込む隙を与えない。加えて剛腕。当たらないように避けることに必死になる。



「くっ…まずい」



気付けばレイラは避ける場もないような足場の悪い場所へと誘導されていたようだ。木々がそこかしこに転がっており、移動するスペースが殆どない。



「きゃっ………がはっ!」



カイゼルエンテイの拳はとうとうレイラを捉え、レイラを大木へ向かって殴り飛ばした。レイラは木に激突した衝撃で意識が一瞬飛ぶ。



「わ、私としたことが……」



「ガァアアア!!」



「な……なにぃ!!」



レイラが体勢を整えようと立ち上がった時、カイゼルエンテイは6つの手から炎を出していた。



「こ……こいつ、魔法が使えたのか!……今喰らったらヤバい!」



その場から逃げようとするが、先程のダメージが足にきているようで上手く立つことが出来ない。



「グァアアアアアア!!」



ゴォォオオオオ!!!



6本の腕から炎が迸り、レイラに向かって襲いかかった。



「……やばい……死……」



レイラは目を瞑る。






…………ん?






………何も……こない?







いつまで経っても痛みが襲ってこないので、目を開けてみた。



「………えっ?」



そこにはさっき吹っ飛ばされたはずのユウの姿があった。



「ユウ!!」



「大丈夫かレイたん?」



「なっ…。一体、な、何をしたのだ?」



「俺もよく分かってねーから事情は後で説明する!今はコイツを倒すぞ!立てるか!?」



「言われなくても!」



「行くぞ!」



体勢を立て直した俺たちは再びカイゼルモンキーに向かっていった。





ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーー






再び2人で戦闘をするほんの数秒前、俺はレイラのところへ向かって走っていた。



──キンッ、キンッ



──ガァアアア!!



「もうすぐだな!お、見えてきた!て何だあれ、くっそデケエ!」



木々をかき分け戦闘していた開けた場所へ戻ると、キングコングもびっくりするぐらいの凶悪ゴリラがレイラに襲いかかっていた。



──きゃっ!


──ガァアアア!!



「まずい!!!待て!!」



目と鼻の先でレイラが倒れており、今まさに炎の魔法がレイラを襲おうとしていた。




──ゴオオオオオ!




炎がレイラを襲う。





「くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!止まれぇええええええええええええええええええええええええええええ!!!」




















ブァアア!!


















その瞬間、俺の身体の底からとてつもない力が沸いた。



「な、なんだ?!? 周りが!?」



急に、俺以外の全ての物が、時間が遅くなったようにスローモーションで動いていた。



炎はまだレイラに到達していない。俺は走りながら背中の槍を取り出し、炎に向かって投げ飛ばす。槍が炎に当たった瞬間、レイラに襲いかかろうとしていた炎は霧散して消えた。



少し気を抜いた瞬間、周りの物の動きが元に戻った。



『殴られ過ぎて慣れてきてしまったのかもしれない。今ではレイたんのパンチが遅く見える』



『これ、周りから見れば高速なんだろうなぁ、けど何故か俺にはスローに見える。避けるのなんか容易い』



『レイラちゃんと戦っていた時ね、ユウから魔力が少し感じられたの』



『やばいと思った瞬間、キラーエンテイが飛びかかって来る様子がだんだんとスローモーションに見えてくる』



今まで思う節はあった。



時折戦闘中に起こる走馬灯のようなスローモーション。集中力が高すぎてその様な現象になっているのだと思ってたが、もしかしたら俺は、時間を操作できるのかもしれない!



今俺の中で新たに身体中に駆けるっている不思議な力に意識を高めてみる。



少し倦怠感を覚えるが、俺の目に周りのものがスローモーションで映っていた。



「………事情は後で説明する!今はコイツを倒すぞ!立てるか!?」



「言われなくても!」



「行くぞ!」



これが、先程俺に起こった一部始終だった。





ーーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーー





「はあ!」



「レイラ危ない!伏せろ!」



レイラの死角からカイゼルエンテイの腕が飛び出す。



「えっ!きゃっ!」



「次は右らかくるぞ!その次は左から炎だ!合わせろ!」



「ちょ、わっ、な、何でそんなことわかるんだ!?」



「説明は後だって!今はコイツを倒すぞ!」



「わ、わかってる!」



「ガァアアアァアアア!」



このキングゴリラかなり強え。6本の腕を巧みに操り、死角から魔法を放ってきたりして攻め込めず、防戦一方に持ち込まれる。これはレイラがやられる訳だ。



「がっ!」



「レイラッ!」



カイゼルモンキーの拳はレイラを捉え宙に上げた。追撃で炎を撃ち込もうとしている。



「させるかあああ!」



俺は新たに手に入れたこのよく分かっていない力を呼び起こす。再び周りの時間が遅くなった。



「はぁあああああ!!」



俺は包丁で炎を撃とうとしている腕を斬り落とした。奴はノロマな悲鳴をあげ俺を掴もうとするが、俺の目にはかなりのスローモーションで映っているので、その腕をさらに斬り落とす。



「グ…オ…オオ…オ…オ…」



肝心の悲鳴すら聞き取るまもなく、俺は全ての腕を切り落とし、奴の顔面に向かって槍を投げた。槍は何故か俺と同じ感覚の時間の速さで向かっていく。奴からしたら豪速球に見えただろう。



槍が顔面を貫通し地面に突き刺さる。



まだレイラは宙を舞った状態だ。レイラが宙に打ち上げられている間の出来事だった。俺はレイラが落ちてくる地点に向かい、時間の感覚を戻した。



「きゃっ」



俺はレイラをお姫様抱っこで受け止める。



「レイたんって割りと可愛い悲鳴あげるんだな。ぬひひ」



「う、うるさい、下ろせバカ!」



「はいはいっと。……大丈夫か?」



俺はレイラを下ろして身体の調子を聞いた。あんだけ派手に飛ばされたのだ。どこか怪我してなければいいが…。



「あぁ、少し痛むが大丈夫だ。それよりもユウ、魔法が使えたのか?」



「やっぱりアレは魔法なのか?」



「あれが魔法じゃないのなら何なのだ?」



「やっぱりか。やっぱりだよな? これ魔法だよな? な? な!?」



改めて、俺の身体に不思議な力が流れているのが感じられる。



「な、何を慌てているんだ、どうしたのだ?」



「いよっしゃあああああ!魔法だあああああああ!俺は魔法使いだああああ!ふぉおおおおおおおおおおおおお!!」



「うるさい、落ち着け!」



「……そ、そうだな。興奮しすぎた」



「で、どんな魔法を使ったんだ? 私にはユウが急に早くなったように見えたぞ? 身体強化魔法か?」



「ん~、なんか時間を操作したみたいな感じなんだよな~。あんまりよくわかっていないけど」



「時間操作だと!?」



「ああ、自分の感覚が速くなっているのか、周りが遅くなっているのか、その両方か、はたまたそのどちらでもないのか、ん~今はまだよく分かんね」



「何を言っているんだ? 時間を操作する魔法なんて聞いたことないぞ!」



「でもなあ、俺の魔法が時間に関する魔法なら、俺がタイムスリップしてきたのと辻褄が合うかもしれないんだよな…」



「どういう事だ?」



「時間の魔法って究極はタイムリープかタイムスリップかと思うんだよ。それで、俺の眠れる力が暴走して2000年の時を越えてタイムスリップ!って感じに!」



「そんなことあり得るのか!?」



ちょ、レイたんさっきから興奮しすぎ!俺にも興奮させろ!



「まあ、こじつけだけどな!時間の魔法って何か格好いいじゃん!俺は時間の魔法使いがいい!!」



「自分の都合で決めるな…全く。とは言え、ユウの魔法にばかり驚いてしまってはいたが、この魔物の出現は異常な出来事なんだよな…」



そう言ってレイラは死んでいるデカブツの魔物に目を落とす。



「もしかして俺またやっちまった系?」



「そうだな。この魔物はエンテイの最上位モンスターで、カイゼルエンテイと言う。ユウが倒したケルベロスと同等のランクと見ていい」



まじか。これまた騒がれるやつだ。



「とりあえずギルドに戻ってマスターに報告だ。村に戻るぞ!」



「りょ!」



俺は魔法を自分の意思で使えることに興奮が収まらず、村に帰っても終始テンションが上がりっぱなしだった。帰り際に村長に薬を渡されたり、俺を侮辱したあの女の子に「お兄さんの主食って虫なんでしょ? だから頭おかしいのでしょ?」とか聞かれて変人扱いされた。




ーーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーー






「マスター、ただいま戻りました」



「あら、お帰りなさい。クエストご苦労様」



俺たちはギルドに戻って来て、任務の報告でマスタールームに行った。ギルドに着く頃は辺りはもう暗くなっていた。



あの村に1日泊まっても良かったのだが、次の日はレイラの学校の授業があるので戻ってきた。べべべ別に、俺のあまりのキモさに皆がドン引きしてしまったので、仕方なく帰ってきた訳では無いからな!



「ナミさんナミさん!聞いてくださいよ!俺魔法使えるようになったんですよ!」



「えっ? 本当に!?…確かに…ユウから魔力が感じられるわね…」



やはり俺には魔力が流れているらしい。これで魔法使い確定だ。やふい。



「しかも、時間に関する魔法らしいです」



「時間!?」



時間の魔法と聞いてナミさんは驚いていた。やはり時間の魔法というのは珍しいのか。



「ああ、マスター。説明が難しいのだが、どうやら自分以外にもその効果を与える事が出来るみたいなのだ。私も試してもらったが、アレは身体強化魔法とは全く異なる魔法だ」



続いてレイラも少し興奮気味に話す。



「自分以外にも効果を与える? それ凄いわね!私もしてもらいたいわ」



「いいですよ!これは俺が槍を投げた時に気付いたんで、それを応用したらできました。それじゃあいきますよ~」



俺の魔力の流れをナミさんにぶつけるようにして…それ以外の時間を遅く……!!



魔力の流れに力を注ぐと、俺とナミさん以外の時間が遅くなっていった。時計の針の音の間隔がだんだんと遅くなっていく。



「く、やっぱキツイ……」



帰りの道中で、色々とこの力の使い方を試していたらたらこんなことまで出来るようになった。しかしこの応用魔法には膨大な魔力を使うようで、少しの時間でギブアップしてしまう。



「こ、これは驚いたわ…」



「ナミさん、もう無理っす」



「無理しなくてもいいのよ。もういいのよ、ありがとう。ふふ」



「ふぅ…」



周りの時間が元に戻った。俺はドッときた疲れでソファーに寝転んだ。



「なんか……自分以外も同じ能力にかけるのは…なんか……莫大な魔力を……はぁはぁ……使うらしいです…」



「ふふ、ありがとう」



ここで俺はある仮説をナミさんに聞いてみることにした。



「一つ…聞いてほしいんすけど……もしかして……俺のこの魔法が暴走して………この世界に来たんじゃ……はぁはぁ……ないすかね?……タイムスリップ………」



「おい、しっかりしろ」



「レイたん無理」



「うーん、そうねぇ、確かにそれだと辻褄が合うわね~。けどまだわからないわよ。あ、依頼は無事に終わったのね?」



「ああ、その事だが……」



レイラは今回の討伐の出来事を全てナミさんに報告した。今回は異例すぎた。大量のエンテイにその上位体の出現。



「魔物の大量発生に、キラーエンテイ、そしてカイゼルエンテイまでもね…」



「カイゼルエンテイはユウが倒してくれたんだ」



「ちょり~………す」



俺は得意気にナミさんにピースしてやった。へろへろだけど。



「凄いわねユウ!本当に驚かされっぱなしよ!レイラちゃんもご苦労様。本当に危ない中よく帰ってきてくれたわ。また報酬が届き次第あなたたちに渡すわね!」



「ありがとうございます。それでは…。おい、ユウいつまで寝てる、いくぞ!」



「レイたんおんぶ…」



あまりにもしんどいのでレイラに甘えてみることにした。



「はぁ…仕方ない…。よいしょっ」



「ふぇっ」



俺はレイラにおんぶされた。本当にされるとは思っていなかったので変な声が出てしまった。



「それでは、失礼しました」



「ナミさんまたね~……」



「ふふ、しっかり休むのよ」



俺はレイラにおんぶされながらマスタールームを出た。



「まったく、今日だけだぞ!」



俺の部屋へ向かう途中の廊下を歩いているときにレイラが言ってきた。



「ありがとう………レイたん。でも……何で?」



「そ、その……きょ、今日は助けてもらったしな!」



レイラの耳が赤くなっている。俺の顔はレイラの肩に預けているのでよく見えた。



「別に……仲間を助けるのは……当たり前だろ……」



「それはそうだけど……ほ、本当に助かった。今日はしっかり休めよ。ユウに身体を壊されても困るからな!」



なんか今日はレイたんが可愛い。ちょっといたずらするかっ。



「ユウ…」



「なんだ?」



「聞きたいことがあっ」



ふにふに



「ひゃあああぁあああ!」



「ごほっ」



レイたんの豊富な果実を揉んだ結果、俺は振り回されて廊下の壁に吹っ飛ばされた。



「死ね!バカ!死ね!死ねぇ!」



ビュッビュッ!



ヤバい!ナイフ投げてきたぞアイツ!ちょ、これ当たる!当たるから!死ぬ!死ぬぅ!くそっ!残りの体力なんていらねぇ!魔法発動!!



俺は時間を遅くして飛んでくるナイフを避けて、残りの力を振り絞って自室まで走って逃げた。



震える手で鍵をしめて、ふらふらしながらベッドにたどり着いた。もう俺には起きる気力も無く、そのまま寝てしまった。



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