アルガード魔法学校
「はあ…、嫌だなあ」
学校に戻った時、私はすぐに担任に呼び出されてこっぴどく怒られた。それに、放課後に寮長にも呼び出されている。多分無断外泊についてだろう。
今は昼休憩中たが、余りの憂鬱さに机に突っ伏している。食欲なんてどっかにいった。
「レイラ、この3日間何があったのですか? 心配しましたよ?」
机に突っ伏していると、隣に座っていた女の子が話しかけてきた。一年生の時からの親友で、名前はシルビアという。友達想いのとても良い奴だ。腰まで伸ばした真っ白な髪がとても綺麗である。
「ちょっとギルドの依頼先でトラブルがあってな」
「…レイラがトラブルですか」
「私は問題を起こしていないぞ?なんというか…巻き込まれた感じだ」
「余り、無理をしないでくださいね?」
「ああ、ありがとう」
うん、やはりシルビアは良い奴だ。シルビアはこの町の5大貴族の一つ、ライラス家の三女だ。私の家系も上流貴族と言われているが、シルビアと比べたらちっぽけなものだ。
そろそろご飯を食べよう。何も食べなければ午後からの授業がもたない…。
「おーい、レイラ~、アイツが呼んでるぞ~」
お昼に持ってきていたパンを食べようとしていた時、クラスの男子がそう言ってきた。
「よ!」
廊下である男子生徒が手を挙げて待っていた。
「はあ…今日はほんと忙しい」
私は廊下へ向かう。
「で、どうしたんだ?」
そして廊下に立っている男子生徒に向けて問いかけた。
「どうしたじゃねえだろ!この3日間いったい何処に行ってたんだよ」
「……ギルドの依頼でちょっとトラブルがあってな」
いったい何回このやり取りをしなきゃいけないんだ。はぁ…。
この男はリオン・アルバースノー。この町の5大貴族の一つアルバースノー家の御曹司だ。何故に私の周りには凄い奴らが集まるのだ。
赤色の短髪をいっつもツンツンに上げている。リオンも一年生の時からの仲だ。今は違うクラスなのだが、こうしてほぼ毎日休憩中に会いに来る。
「何で俺を連れていかないんだよ?」
「私一人でも余裕だと思ってな。それに今回一緒にきていても……」
あの男の顔が自然と浮かぶ。…いや、アホ顔が浮かぶ。
「何だよ?」
「い、いや……何でもない」
ふと時間が気になったので時計を見てみると後5分しか休憩時間がなかった。
「ヤバい!まだご飯食べていないんだ!それだけならもう戻るからな!また放課後!」
「お、おぃレイラ!」
リオンは何か言いたそうだったが、今私には時間がない!はやく食べよう!
リオンは私と同じギルドに入っている。私よりも魔力や武力が強く、魔法の操作が上手い。それに何種類もの属性の魔法が使える。ギルドはリオンが誘ってくれたのが始まりだ。それに魔法について色々と教えてくれ、勉強になっている。おっと、早く食べなければ。
「放課後、部活はどうするのですか?」
席に着いて急いで食べているとシルビアが話しかけてきた。
「ふほ?……ごくん。あーすまない、寮長から呼び出されているので先に行っててくれないか?」
「わかりました。それでは先に行って待っておきますね」
「あぁ、助かる」
私達はこの学校の部活、魔法研究部というのに所属している。部長はリオンだ。一年生の頃にリオンが立ち上げて無理やり入れさせられたのだ。まあ、この部活のおかげでだいぶ強くなれたので今は感謝しているが。
はぁ、午後から憂鬱だ。まったく、アイツのせいだ。週末になったらビシバシ指導してやる。
……。
『レイたん生理?』
…………。
『お姉さんってパンツはいてます?』
…………………。
『そこのお姉さん、俺と合体しないか?多分前世で繋がってた気がするんだ!』
……………………………。
いや、まずあの性格から叩き直そう。大人しくしていると良いんだけどな。マスターが何とかしてくれていると信じよう。
それから私は授業を真面目に受けた。授業に集中していると時間は早く過ぎていく。そして4時頃には本日の授業カリキュラムが全てが終わった。
授業の終了チャイムが鳴ってすぐに机の上を綺麗に片付け、寮長に会いにいくために寮に向かった。
この学校には寮があり、全校生徒がそこに入っている。週末には実家に帰れるが、平日は寮に泊まらないといけない決まりがある。無断外泊なんてもっての他である。
「はぁ…。仕方ないじゃないか、アイツが目覚めるまで心配だったんだし…。はぁ…」
寮長の部屋まで行くのが憂鬱だ。さっさと怒られて部活に行こう。
寮長室と書かれたドアをノックする。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
「あら、来たのね。そこに座ってちょうだい」
私は寮長室に置かれているソファーに座った。
「何で呼ばれたかわかっているわね?」
「はい…」
寮長は50歳ぐらいの女性で、メガネをかけている。年期の入ったオーラが恐ろしい。
「ですが、もういいわ」
「えっ!?」
まったく予想していない言葉が返ってきたので驚いた。この人が怒らないなんて珍しいにも程がある。いったい何があったというのだ。
「さっきね、貴女の知り合いがここに来たの。貴女が休んだ理由を教えてくれてね、しかも自分の責任だからって何回も謝ってくれたの」
「そ、それは…?」
「始めは迷惑極まりない人だと思ったけどね、本当に真剣に謝るのだから最終折れてしまったわ…。心当たりある?」
絶対アイツだ!アイツしかいない!
「はい、あります」
「その人に免じて今回は許してあげるわ。ちゃんとお礼を言っておくのよ?今時あんな好青年は珍しいわ」
「わかりました。失礼しました」
まさかアイツがここに来ていたとはな。寮長の最後の言葉はどうかと思うが、今回は感謝しておこう。というか、アイツはどうやってここまで来たのだ。この町は初めてのはず。
ふと時計を見るともう既に5時を回っていた。
「おっといけない。早く部室に行かなければリオンがうるさい」
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「ねぇねぇ、あそこに座っている人、凄い綺麗じゃない?」
「えー、どこどこ?あ、ほんとだ!凄い美人!」
「あの人ギルドフェニックスのマスターじゃん!」
「まじで!? なんでそんなすげー人がこの学校に来ているんだ?」
「てか隣にいる人も何か格好良くない?」
「うんうん、ニコニコしててどっちかって言うと可愛い系だね!」
「2人ともなんの用事で来たんだろうね」
部室に向かっていると、学内喫茶店の前で人だかりが出来ていた。有名な誰かが外のベンチでご飯を食べているのだろうか。少し気になったので近づいていった。
「はい、あ~ん」
「ちょ、ナミさん、恥ずかしいですって、JKが見てますよ?」
「ふふふ、可愛いのね。それに、JKってなに?」
「JKっていうのは、言わば聖域なんですよ。男なら誰でも一度は挑戦したくなりまくるところです!それに一度踏み入れてしまっては抜け出すのが困難になります!」
「そしたら、ユウも踏み入れちゃったのね?」
「そうですね~、あの制服を脱がす楽しみと、カッターシャツになった時のエロさのギャップがたまらなくて……って何を言わせてるんですか!」
「ふふ、ほんと女の子が好きなのね」
そこには私が良く知った顔があった。こんな騒ぎにして何をしているんだ全く。
「ねぇ、あの2人恋人なのかなぁ?」
…なっ!
「お似合いだよね!2人とも笑顔が可愛いし!」
ななっ!
「え~、どれどれ~?」
周りには生徒が増えていく。
「いいですか? 俺たち男からすればJKの制服は凶器なんですよ。見るだけで心を毟り取られ、欲望まみれにされてしまいます。そんな凶器は排除しなければならないんですよ。俺の行為は正当防衛です!」
「ふふ、ほんとユウって面白いわね」
「そ、そうですか。ありがとうございます。あ、ナミさん、ここ、汚れがついてますよ」
そう言って、ユウはナミの口の周りについている汚れをを紙で拭き取った。
「はは、ナミさんも可愛いところあるんですね!」
「あら、ありがとう。ふふ」
周りから見れば微笑ましい光景だろう。しかし何故か胸が痛んだ。
「きゃーー!見てみて!」
「あ~、ラブラブいいなぁ~」
「私もあんな彼氏ほしい~」
「誰だアイツ!あんな美人と仲良くしやがって!」
「そうだそうだ!俺にもやってくれ!」
「お前そっちかよ!」
いつの間にか沢山の人だかりができていた。
「……………ですよ…」
「…ふふふ、………」
2人の様子を見てみると、ほんと楽しそうにしている。
な、なんだこの気持ちは。腹立たしくて悲しいような。よ、よくわからないがこんなのは初めてだ!
「あーあ、いいなぁ~」
「わ、私も早く彼氏が欲しくなってきました!」
「アレを見せつけられたらなぁ~」
みんなして何だ、何が羨ましい!恋人なんていても邪魔なだけだろ!はぁ…、ムカムカする。早く部室に行こう…。
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「うわぁ~、ナミさん。いつの間にかギャラリーできてますよ。ナミさんが綺麗すぎて」
「ふふ、上手いこと言うのね。でもあそこにいる女子生徒は、ユウの事ばかり見ている気がするけど?」
「マジっすか!ちょっと話しかけてこようかな!?」
ユウはギャラリーの方へ向いて、タイプの子がいないか目配りした。
「………あれ?」
「どうかしたの?」
「あそこにいるの、レイラじゃね?」
ユウは指を指す。
「あら、よく見つけたわね」
「……ふひひ。良いこと考えました」
「あんまり無茶したらまたボコボコにされるわよ?」
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「ねぇねぇ、あの人指差してない?」
「誰か、知り合いがいるのかな?」
「あ、立ち上がってこっち見てるよ」
「は、話しかけられたらどうしよう!」
「ないない、アンタじゃあり得ないから」
「わ、わかってるよ…」
…………っ!!
アイツがこっちに指差している!バレた!しかも何か企んでいるような気持ち悪い顔だ!さっさと逃げなければ!
「レーイーラァアアア!!」
ほらあぁあぁああああぁあ!やっぱりやりやがった!!
すぐさまこの場から立ち去ろうとしたその瞬間、ユウがこっちに向かって思いっきり叫んできた。
「レイラ?」
「レイラって誰だ?」
「レイラって誰なのよ?」
周囲がより一層ざわつく。
あーー!!!!!恥ずかしい!恥ずかしい!バカかアイツは!やっぱりバカだ!なぜ叫んだ!ほんとバカ!
「レーイたあぁああぁあぁん!」
ユウはまた叫んでいた。
「だからレイラって誰なのよ!?」
「あなたがレイラでしょ?」
「ち、ちがうわ!あなたこそどうなのよ!」
「お前がレイラか!?」
「いや、俺がレイラだ!!」
「待て!俺の方がレイラだ!」
「黙れ!俺の方がレイラにふさわしい!」
もうざわつくという言葉で収めれない程に、周囲の空間が混沌と化す。
カ、カオスだ…。そうだ!収集がついていない今のうちに逃げよう!
「あ、レイラちゃんが逃げたわよ?」
「ふはは。思った以上に効果的だったな。だがこれで終わりと思うなよ?くくく」
「ふふ、ほどほどにね」
ナミの微笑みに適当に返事し、ユウは喫茶店からギャラリーの真ん中へ降りていった。
「あ、あの人が近づいて来たよ?」
「ほんとだ!」
「そこ、空けてもらってもいいかな、お嬢様?」
「わ、私ですか?」
「君以外に誰がいる?」
ユウは女子生徒をにっこりと笑って見つめた。
「はっはいい!」
「ありがとう!またいつかお礼するよ!じゃ!」
そう言って走り出した。
「わ、私、話しかけられちゃった…」
「良かったじゃんアリン!」
「わ、私…」
「あちゃ~、この子惚れちゃったよ~。あの美人相手に勝てるのかな?」
「そ、そんなことは!……そんなことは………ゴニョゴニョ」
しまいに、アリンという女子生徒は赤くなってしまった。
「な、なんということだ!」
「我等が癒し系女子代表アリンちゃんが魔の手に…!」
「あの美人に続いてアリンちゃんまで…!」
「いや、レイラって奴も入れて3人だ!」
「……野郎ども!追えー!」
「あの三股野郎め!逃がさんぞ!」
「奴は男の敵だ!逃がすな!」
「てかレイラって誰なんだ!」
「俺にも優しくしてくれよ!」
「ここにも魔の手にかかった奴がいたか!」
「許さん!許さんぞぉ!」
男子生徒たちはユウを追いかけた。当の本人は、いつの間にか男子生徒たちの恨みを買っていた事など知る由もない。
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私は校舎の裏にある庭まで逃げていた。この庭は初めて来る人には相当分かりづらいので、見つかるはずがないと思ったからだ。
「はぁ、はぁ。ふぅ…。ここまで来れば大丈夫だろう」
「何が大丈夫なんだ、レイたん?」
「あぁ、お前から逃げ……………て!何故ここにいるんだ!」
「いやいや、レイラこそ何で逃げたんだよ?」
「そ、それは……」
「ん~、どうした~?」
お前とマスターが仲良くしている光景に胸が痛んだからだ!……なんて言えない。
「………………」
黙っていると、何かザワつく声とともに足音が多数が聞こえてきた。
「探せぇ!」
「アリンちゃんを汚した罰を与えるんだ!」
「捕まえて縛って魔法100連発だ!」
「ついでにレイラって奴も探せ!」
その騒音はだんだんと大きくなっていく。
「ちょっと、これこっちに向かって来てないか?」
「やべっ、もしかして男子生徒たちの反感を買ったのかもしれん…」
「いったい何をしたんだ、バカか!」
「ある女の子に話しかけただけだ。何もやっていない」
「やってるだろ!それだ!」
――こっちから声が聞こえたぞ!探せえ!
「や、やばい。見つかった!」
「レイたん、少し我慢してくれ」
「な、何を……むぎゅう」
ユウは私を引き寄せて、草花の影に隠れた。人一人分しか隠れる場所が無いので、私を抱きしめている。おかげでギリギリで隠れられている。
ちょ、ちょっと待て。いきなりこういうのは!それにコイツはこんな事して平気なのか!?恋人がいると言っていたくせにこの女たらし!
「この辺りから声が聞こえた」
「本当か?」
「探せ!」
抱きしめる力が強まる。
ううぅ…こんなの反則だ…。
「もう少し我慢してくれ」
ユウが小さな声で囁いた。私はユウの胸の辺りに顔を埋めているので喋れない。だから、ユウの背中側の服を握ることで返事をした。
「…いないじゃないか」
「お前本当に聞いたのかよ」
「本当だって!」
「でもコイツ頭悪いからなぁ」
「何を!」
「まぁまぁ2人とも、他を探しましょう」
「ちっ、しゃあねえな」
男子生徒達はこの場所を探すのは諦めたようで向こうへ行き始めた。男子生徒の姿が見えなくなった時、ユウは力を緩め、私を解放した。
「ふぅ~、危なかったな。何で俺が追いかけられなきゃいけないんだよまったく。あ、我慢してくれてありがとうな!」
そう言って笑顔を向けてきた。
「………………」
「あれ? どうした?」
「……………」
「おーい」
「…なぜ、こんな事をした」
「いやぁ、咄嗟だったからなぁ。わり、気を悪くしたか?」
「そういうわけでは!ちょっと混乱はしているが、別に嫌では…」
「へ?」
「あああ、もういい!それより、いったいここに何をしに来たのだ?」
「あぁ、レイラが学校を休んだのは俺のせいだからな。それでレイラが怒られるのは少し気分が悪いから俺が謝りに来た。ついでに制服姿を見に来た!どちらかというと制服がメイン!」
何を言い出したかと思えば…、私の事は制服の次かよ!少しでも感謝しようと思った私がバカだった!
「しかし、思った以上に可愛いな」
「えっ」
「それ、どうなってんだ?」
そう言ってユウが制服に手を伸ばしてきた。
「さ、さわるな!」
「おっと、めんごめんごてへぺろ。あ、そうだ、週末はギルドに戻ってくるんだろ?」
「ああ、お前をビシバシ鍛えるためにな!」
「それまでにある程度強くなっているから、一緒にクエスト行かないか?」
「な、何故私なんだ!マスターと行けばいいだろ!」
「何を言ってんだ、何でマスターと行かなきゃいけないんだよ」
その通りだ、いったい何を言っているのだ私は…。
「お前と一緒に行きたいんだけどなぁ、ダメか?」
「……わ、わかった」
「まじで!よっしゃ!」
そこまで言われたら断れないではないか…。
「だがお前がある程度強くなってからだぞ!それが条件だ!」
「わかってる、わかってる。よし、それじゃもう帰るわ!」
「そ、そうだな…。結構騒ぎになっていたしな。早く帰ることだな」
「まじでそれだ!またな!制服姿可愛かったよ~」
「うるさい、さっさと帰れ!」
「はいはい~」
そしてユウはコソコソと去っていった。
……………。
なんだこの虚しさ。私は、アイツにもっといてほしかったのか…?
ついさっきの出来事を思い出す。
アイツの腕の中、暖かかったなぁ…。それに安心した。弱いくせに…。
というか、何故私はアイツの事ばかり考えているのだ。それに、何故こんなに虚しいんだ。
何故だ……。
今夜、シルビアに相談してみよう…。
「あ、いけない!部活を忘れていた!」
これはリオンに怒られるなあ、と憂鬱な気持ちになりながら部室へと向かって行った。




