依頼主
「うーん、どうしようかな」
レイラの学校へ行った次の日、俺は依頼を受けようと今はクエストボードの前にいる。人生初だから思い出に残るようなものがいいよな!
「お前ギルドに入ったのか。ゲラゲラ」
「ようナビィ!てか、なんで朝から酒を飲んでいるんだよ!」
ナビィは瓶の酒をらっぱ飲みしていた。ナビィって酒しか飲まないのじゃないか?
「ゲラゲラ、俺の勝手だ」
「まあそうだな…。あ!ナビィ、俺さ、初めてクエストに行くんだけど、どれがいいと思う?できれば思い出に残るようなやつで!」
「思い出か…。なら、それはどうだ?」
「ん?これか?」
―番犬ケルベロスの子供の討伐―
と書いてある1枚の依頼書を取ってみる。
2000年経っても字はあまり変わっていなかった。漢字が少し簡略化されたぐらいだ。別に読めないことはない。言葉も日本語で通じているんだしそれはそうか。
「ゲラゲラ、ああ、それだ、ゲラゲラ」
ケルベロスってあれだろ?首が3つあるワンコだろ?しかもそれの子供だろ?子犬じゃん。ケル子じゃん。ペロペロ乳のみしてる時期じゃん。いけんじゃね?CanCan!
「いいなこれ!よし、これに決めたぁ!ナビィ、さんきゅう!」
「頑張れよ、ゲラゲラゲラ」
俺はその依頼書をリリィのところへ持っていった。
「リリィ、これよろしく!」
「はーい。クエスト内容もE級、ギルド初めてのユウには丁度いいかもね!そしたら受理するからここに書いている依頼主の所へ行ってもらってもいいかな?」
「了解。ありがとうリリィ、すぐに行ってくる!」
俺は早くクエストに行きたくて、早くケルベロスが見たくて、早くお金が欲しくてたまらなくて全速力で走ってギルドを出ていった。
「そんなに急いでも魔物は逃げないよー!…て、もういないし!」
「あら、どうしたの?」
マスターがギルド休憩所の扉を開けて入ってきた。
「あ、マスター!ユウがクエスト受けて今出ていったよ!」
そう言ってリリィが渡す依頼書に目を落とす。
「……ケルベロスの子供…ね」
「何か気になる事があるの?」
「それ、ついこの前に他のギルドから回ってきた依頼なんだけどね。そのギルドではこのクエストに行った人が誰一人として帰ってこなかったらしいの。どうもきな臭くて結構奥の方へ隠していたんだけどね」
「ゲラゲラゲラ、まあ何とかなるだろう、ゲラゲラ」
マスターの話を聞いたリリィが心配な表情を浮かべていると、すぐ後ろからナビィの笑い声が聞こえてきた。
「ちょっとナビィ!ユウにこれ渡したでしょう!」
リリィはすぐに気付く。
「ゲラゲラ、記憶にねえな、ゲラゲラ」
「もぅ!マスタ~」
「ふふ、でもユウなら何とかなるんじゃないかな?」
リリィはナミに助け舟を出したつもりが、まさかのナビィと同意見だった。
「マスターまで!」
「そんな気がするの」
ナミが心配そうな表情見せず、そう返す。
「はぁ…。大丈夫かな?」
リリィはより一層不安になるだけだった。
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リリィから依頼主の家が書かれている地図を貰ったが、まずはマダオで有名な武器屋へと俺は向かっていた。1人で改めて歩く街並みはこの前と違って見える。
ヨーロッパ風の街並み。レンガ積みのような家が主流で、屋根の色は赤が多い。道端には出店が並んでおり、人で賑わっている。ギルドを出て10分ぐらい歩いていると、お目当ての武器屋が見えてきた。
「よう、オッサン!出来上がったか?」
「1日で出来上がるわけねえだろ!」
店には誰もいなかった。カウンターにずっしりと構えるオッサンがすぐに返事する。
「とか言って、実は夜通し眠らずにやってくれていたと信じている。なんといったって今まで扱った事の無い素材だからな」
「…………。なかなか食えん奴だな。ほれ、頼まれていたやつだ。ボウズの身体のサイズに加工してやったぞ」
そう言ってオッサンは俺に防具と武器を渡してきた。
「さっすがオッサン!アンタはやる男だと思ってたぞ!」
「これが貰えたのだからな。ボウズの言う通り夜通しこの物質と向き合ってたさ。火で溶かして加工する技術は中々骨が折れたぞ」
オッサンの手には俺があげた金槌がある。俺はオッサンに鉄を少し渡す代わりに、今ある防具と武器を加工してもらったのだ。さっそく装備してみる。
「おお!ぴったりじゃんすげぇ!しかも格好良すぎぱねえ!動きやすさ神!」
「がっはっはっは!俺が作るものは天下一品だ!」
防具は胴と籠手を鉄製品で加工してもらった。籠手と胴共に防具の厚さは薄いが、鉄で表面を加工している。ところどころ切れ目が入っているので不自由なく動くことができる。胴は胸だけを守るプレートみたいな感じだ。
腰には刀と包丁2本を帯刀するベルトも付いており、持ち運びに困ることは無い。さらにモリの先端部分を槍のように加工してもらい、伸縮できる柄に変えてもらった。柄の部分も鉄製で仕上げている。
正直ここまで格好良くなると思っていなかったし、しかも使いやすさ抜群に仕上げて貰い、感動する。
あとは弓の先端に取り付ける矢尻をいくつかこしらえて貰った。長距離攻撃の手段として持っておこうと思ったのだ。多分この世界の魔物なら普通に手で投げても倒せると思う。
「これだけの装備があればどんな魔物でも大丈夫だろう。それに、その籠手で魔法なんかも弾きとばせるぞ」
「まじかよ!あんた神だな!」
「俺としたらこんなものをくれるボウズの方が神だ。お前今からクエスト行くんだろ? 頑張っていってこいよ!死ぬなよ!」
「おう、ありがとうな!また何かあったら頼むわオッサン!」
俺は全ての装備を整えてから依頼主の家へ向った。
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「……ここが…………………家?」
そこで見たものは、まず滅茶苦茶大きな門に広すぎる庭。それとバカでかい家。国会議事堂かって突っ込みたくなるくらい門から建物までの距離が長かった。
「すいませーん!」
呼び鈴やインターホンみたいなのは見つからなかったので、とりあえず門の前で叫んでみる事にした。
「すっいませーーん!!宅配でーす!」
何回叫んでも何も反応しない。なので必殺羞恥炸裂節を発動する事とした。
「放課後ドキドキ!女教師の特別授業!アット私のお口で受け止めてあげる!のDVD特典をお持ちいたしましたぁあああぁあ!」
『………ジ……ジジジ…』
お?何か聞こえてきたぞ!お色気効果抜群だぜ!
『…ジジ……誰だか知らんが家の前で変なことを叫ばないでほしいぞよ。何をしに来たのだ?』
門のところにあるライオンのような顔の模様?から声が聞こえてきた。
「すいません、すいません。どこに呼び鈴があるかわからなくて…。あ、ギルドから依頼を受けにきました」
『ほほ、ギルドからか。よし、中に入るがよい。あまり汚すでないぞ………ジジジ』
ライオンが喋らなくなると気持ち悪い金属音を鳴らして門が開いた。そのまま真っ直ぐ進み建物へと向かう。
「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ」
玄関らしきところには執事が立っていた。白髪で結構年をとっているように見えるが、高身長+風格からは老いというのは感じられない。高齢の高段者のような雰囲気だ。多分この人には勝てないだろう。
「それでは、私めについてきてください」
どうやら案内してくれるらしい。執事の後を着いていき、屋敷の中へ入っていく。しばらく歩いたところで豪華な扉の前にやってきた。
「こちらの部屋で旦那様がお待ちです。くれぐれも失礼の無いようにお願いします」
深々とお辞儀をする執事。その目からはおふざけは一切許されない空気が漂う。ここでふざけた返事をしようものなら切り捨てられそうな、そんな緊張が走る。
「は、はい。失礼の無いようにします…」
「旦那様、ギルドの方をお連れしました」
「入れ」
「失礼致します。さあ、お入りください」
俺は執事の案内で部屋に入った。部屋はかなり広く、家の全部屋の広さを足しても全然余るぐらい広かった。
部屋には旦那様と呼ばれていた奴がバカでかいソファーにどかっと座っていた。脂ぎっとりと太った姿で、偉そうなオーラを放っている。
「さてと、どこのギルドの者なのだ?」
え?ギルドに名前あったの?って、それはそうだよな!全然知らねえよこれで格好悪い名前だったらまじショック。
「え、えーと、この町一番大きなギルドらしいです。すいません、まだ入ったばっかだから名前は知りません」
「ほほ、あのフェニックスか。まぁよい、先に依頼について説明するぞ。よいか?」
「あー、はい、どうぞ」
へー、フェニックスか…。ちょっといい名前じゃないか。
「依頼というのはな、この地図に示してある洞窟にいってほしいのだ。そこにケルベロスの子供がいるので討伐してきてほしい。その土地は私のものでな、そのケルベロスが住み着いたせいで事業ができないのだ」
「なるほどね。だけど、討伐した後はどうやって証明したらいいんだ? 尻尾とか持ってきたらいいのか?」
「ああ、そうだな。目玉をもってきてもらおう」
「え、目玉ですか?」
「何か問題でもあるのか? 報酬はこれくらい出すのだぞ?」
そういって割と大きなケースを出してきた。中には今の時代のお札と思われるものがびっしり入っている。
…って言われてもなぁ。このお金の価値知らないしなぁ。てか報酬額見てなかった。てへ。まぁコイツの機嫌をとっておこう。
「わかりました。目玉持ってきます!」
「では早速向かってくれ。これ使用人、こやつに地図を渡して送ってやれ」
「かしこまりました。では、また私めについてきてください」
俺は執事さんに家の外まで案内された。家の外に出ると地図を渡されて、馬を1頭渡される。
「では、行ってらっしゃいませ」
行ってらっしゃいませってお前…。俺は馬なんて乗ったことねえよ。てか馬は絶滅してなかったんだな。どんだけ繁殖力強いんだよ。
「俺は馬アレルギーなんで、歩いて行きます!」
「いいのですか?」
「もちろん!地図を見た感じではそう遠くなさそうだし」
「わかりました。では、お気をつけて」
「はいはーい、ありがとう!」
依頼主とのコンタクトって結構簡単なんだな!もっとこう、何か書類とか書かされると思ってたわ。この調子でさっさとワンコぶっ倒しますか!
俺は目的地に向かって出発した。
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「……………………」
「旦那様、ギルドの者が出発致しました。」
「ご苦労。これでまたエサ代が浮くの」
「……………」
「これ、お前はもう良い、下がれ」
「はっ、かしこまりました」
「まったく、小さいケルベロスだから珍しいと思って買ってやったのに、あんなに大きくなりやがって。今じゃ手がつけられんぐらいだ。しかしまあ、この町の無能な人間どもを処理するのには丁度良い。なんたって人間が大好物なんだからな!ははははは」
そう、この男、子供のケルベロスを買ったのはいいが、大きくなりすぎで手がつけられず、あの洞窟に放置したのだった。洞窟から逃げ出されても困るので、依頼に多額の報酬を出して、その金額を嗅ぎ付けたギルドの奴らを送り出してエサにしていた。万一討伐してくれればそれはそれで助かるので一石二鳥であると考えていた。




