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ダーティワークの蘇生屋稼業  作者: 塩谷 文庫歌


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3/4

【 蘇生屋 迷宮に潜る 】

 俺の名はギショウ、【 蘇 生 術 】ができる。

 地下迷宮の周囲に広がるソコナシという街で、拾った死体を修理した探索者・スカーと共に、『蘇生屋』を生業にしている。

 昨夜、胡散臭い男から『貴族令嬢が死んだ証拠を拾ってこい』という、怪しげな依頼を請けた。

「救済者様~♪」

「それ、やめろ」

「買ってきましたカーバイド! 褒めてくださる?」

「晩飯と一緒に買っていたなら、褒められたかもな」


 スカーの蘇生は、失敗した。

 のべつ幕なし、喋っている。

 脳味噌が腐っていたらしい。


 ふと。


 粗末な机の上に置いた、羊皮紙に目を留めた。


「それは、なんですの~?」

「依頼の人相書き、前金も受け取った」

「このスカーが探してみせますわ~!」

「ああ、是非そうしてくれ」


 ベラベラと広げていって。

 ピタリ、動きが止まった。


「どうした、探すんだろ?」

「……はい?」

「俺(・)の(・)仕(・)事(・)が(・)早(・)す(・)ぎ(・)た(・)か(・)?」

「ぁ……はい」



 偽名を使っても顔かたちは隠せない。大きくて愛嬌のある瞳、細く整った眉、小さく尖った鼻、どこか不満気な薄い唇。

 そして、丁寧に編み込まれた長い髪だけが、真(・)紅(・)の(・)イ(・)ン(・)ク(・)で(・)彩(・)色(・)されている。この特徴は髪型を変えても、かなり目立つ筈だ。


 今、手を伸ばせば届く位置にある。

 トマト色をした散切り頭のように。



「これは、スカーなのか?」

「名は、マドレラ・サンギネア……まぁ。その後に長々と舌を噛みそうな家名が続きますが、それは依頼者が御存知だと思いますわ」


 平民は持ち得ない、御貴族様の高貴な雰囲気。

 だが、探索者になる以前のスカー、同一人物。


「依頼者?」

「親兄弟が何者かに殺され、ワタクシも命を狙われだして。子供の頃、騎士教育の一環で探索者から剣術指導を受けていましたの。その師範を頼り、ソコナシで身を隠したのですが――」


「つまんねぇ話だな?」

「えっ、えぇえ~?!」

「長すぎ、もう飽きた」



 その先は、想像がつく。


 新進気鋭の女性探索者。

 悪目立ちする鮮やかな容姿。

 立て続けに、華々しい成果。

 すっかり有名人になって早々に身バレした。


 迷宮へ数名の刺客が送り込まれて、相討ち。

 左腕の肘から先、右足首を根元から失った。

 止血はしたものの……死亡。

 その惨状、人生の幕を閉じてから見ている。

 つまり、死後『蘇生屋』の俺に発見された。


 そして、今この状況だ。

 生還後の活動拠点を『依頼者』に掴まれた。


 貴族社会でどうなのか、それは詳しくない。

 探索者の流儀は、単純。

 この依頼は、最後通牒。


 先にあるのは。



 一 方 的 な 、 宣 戦 布 告 ――――



「仮眠しろ、一刻で出る」


 迷宮なら始末しやすいと考えたのか。


 『蘇生屋』の仕事は時間との勝負。遺体が食い散らかされた後では、手の打ちようがない。

 常に数日潜れる準備を整えて、手持ちが減れば補充し備蓄。依頼があれば日に複数回出向くこともある。

 圧倒的に有利な迷宮で、先手を打てる。


「カーバイドはどこだ?」

「うぅん?」

「どこだ?」

「く~ぅ く~っ むにゃ にゃ く~ぅ」

「しまった……出遅れた」


 ただ『寝ろ』と言われて眠れる者は少ない。

 スカーは、探索者として天賦の才があった。


「コイツが貴族の御令嬢とは、ね」



 相手がなにを仕掛けてくるのかは、想像できない。

 一足先に出発し、奥底へ進めばいいだろう。

 1つしかない、出入口。


 魔物は、様々な感覚器官で獲物を探し回る。

 気付けば囲まれて、すり潰されるのがオチ。

 待ち伏せは考えなくていい。

 既に我々が入っているかは、確認する筈だ。

 焦って進めば、勝手に自滅。


 迷宮という特殊な環境は、常に探索者に味方する。



「うぅ~ん、もぉ、食べられないりょお」

「夢見心地がすぎるだろ」

「ハッ! ……グッスリ熟睡しましたわ」

「予定より大分早いが、出発できるか?」

「ええ、よろしくってよ」



      ・



 地面を掘った隠し通路を通り、別の小屋の裏口から出る。

 この稼業、逆恨みされることが多い。

 開業には、逃走ルートが必要になる。

 この地下通路は、そのうちの1本だ。

 繊月に照らされる濡れた石畳、冷えた土壁の並ぶ裏路地は生物が希薄で、捉えられるのは耳鳴りのような音だけ。静まり返っている。


「追手の気配は無い」

「同感ですわね」


 足早に移動し、迷宮入口の検問へ到着。

 居眠りをしていた守衛に、声をかけた。


「ここ一刻で入った奴ですかい? いませんね」

「どうだか。寝てただろ」

「御冗談を。緊張せずに素通りできる奴なんざぁいやしませんし、知ってのとおり出入口は一緒、この一箇所なんですぜ?」

「疑って、悪かった」

「よしてくださいよ」


 守衛も元探索者、目溢れは無いだろう。

 通行証を提示して、支払いを済ませる。


「手続きは終わった」

「借金が増えますわ」

「カーバイドは入れてある。水と火種を貰ってこい」

「水と火種は無料ですわ~♪」


 簡単な革鎧のベルトを調整して、荷物を入れた腰の革鞄の中身を再確認。カーバイドランプを左胸に固定して、外套を羽織り、準備は整った。


 円匙(エンピ)を担いで振り返ると、「またそのスコップですの?」と苦笑しながらショートソードを木鞘へ収めた。

 スカーのカッツバルゲルは刀身が巾広で肉厚だが、3本の血溝で幾分か軽く仕上がっているらしい。短い刃渡りは、探索者に師事した影響か。


「行くぞ、スカー」

「お任せください」


 2度、深呼吸。

 迷宮へ入った。



      ・



 動きが遅く、危険度の低い魔物を間引きながら進む。

 前衛の負担を軽減するため、無力化して切り上げる。

 目的地への到達を最優先する、『蘇生屋』の攻略法。



「ギショウ様」

「かしこまって、どうした?」

「何故、厄介者(わたくし)を助けてくださるのかしら?」


「本音を言えば、腕の立つ探索者は短期で雇うのが難しい。突発的に発生する蘇生依頼で、前衛を帯同できる今の状態は理想的だ。スカーこそ、どうなんだ?」


「追手から逃れるため、とはいえ。迷宮に長逗留していては、命がいくつあっても足りませんの。表向きは借金返済と偽装できますし、助かっていますわ」


 こちらは、必要な戦力を常時温存。

 スカーは、隠れ蓑にしていたのか。


 問題は、『修理屋』か。

 借りを作りたくはない相手だ。

 支払いは、完済しておきたい。


「もしも無事に戻れたら、だが」

「はい?」

「借金は、身体で支払ってくれ」

「え?!」

「蘇生屋稼業は、汚れ仕事(ダーティワーク)。無理強いはしないが」

「あ、あぁそゆこと? えぇ、よろしくってよ!」


 それにしても、貴族令嬢マドレラ・サンギネア。

 実家には膨大な財産があると想像できる。

 それを欲しがる人間がいる、というのも。


 手持ちが無いと言い出した時は仰天したが、金の使い方を知らずに育った。そう考えれば、数々のおかしな行動や言動も納得できる。



「死体が欲しいと言うから、どんな変態だよと思ったが。スカーを殺すことで転がり込む地位や名誉、財産。そういったものを狙っているので、死んだ証拠が必要というわけだ。随分、口下手な男だな」



「はぁ――――ぁああ あ」



 スカーは盛大な溜息を吐き出した。


「そのままギショウ様へお返しいたしますわ」

「どうせ返済するなら、修理費にしてくれよ」

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