【 蘇生 請け賜ります 】
俺の名は、ギショウ。
神童と呼ばれた、魔術師のタマゴだった。
覚えたのは1つだけ、馬鹿の1つ覚えだ。
【 蘇 生 術 】ができる。
規模の大きさから『底が無い』とまで言われているダンジョン。魔物が跳梁跋扈するトラップだらけの危険区域だが、手付かずの秘宝を求めて迷宮へ入る探索者も後を絶たない。
その入口を囲うように発展したソコナシという街で、ヘマをした探索者の死者蘇生を請け負う、『蘇生屋』という商売をしている。
「救済者様~♪」
「それ、やめろ」
コイツはスカー。真っ赤な頭で、痩せぎすの女。
拾った死体を修理して、仕事にコキ使っている。
「小鬼は片付けました」
「ああ、御苦労だった」
依頼は、ここで死んでいる女の蘇生だが――――
「この女性、蘇生できるのかしら?」
「こんな苗床、持ち帰ってどうする」
「あまりにも、酷ですわねぇ」
「次は依頼人を蘇生しろとでも言うのか? 勘弁してくれ」
依頼人に自殺されたら寝覚めが悪い。
スカーは丁寧に指輪と首飾りを外してから、髪の毛を一束、懐紙に包んだ。「や~!」っと女の顔を叩き潰し、屍体に火を放った。
「戻ったら、報告は俺がする」
「わたくしは?」
「軽い食事とランプ用のカーバイドが欲しい、道すがら調達して先に帰れ」
往路に比べて、復路は早い。
探索者と違い派手な戦闘は避けるので、簡単な革鎧に外套を羽織っているが、今回は魔物の体液でベタベタだった。このソコナシという街では珍しくないが、ニオイが酷いので共同浴場に立ち寄って落とす。
「ふーぅ」
湯は心地良いが、頭が重い。
今回の依頼は第二層と浅かった。行動不能になった時点で置き去りにしたと罰が悪そうに説明していたので、運が良ければ助け出せる、蘇生すら必要無い案件だと思った。やや強引に進んだ先で、あの状況だった。
再び迷宮に戻り、依頼料を稼いでから来た。
そんな馬鹿な話、聞きたくはなかった……。
「なんてザマだ、なにが蘇生術だ」
収穫は、蘇生の前金のみ。
それと、魔物素材が少々。
・
探索者ギルドで諸々の手続きを済ませ、小屋に戻る。
スカーは投擲用のナイフを研いでいた。
「食って寝ろ、と言ったつもりだったが」
「そういうわけにはまいりません。ダンジョンでズタボロになって死んでいたワタクシを生き還らせてくださった、ギショウ様のお役に立てるよう、今日も最後まで頑張りますわ~!」
と……こんな調子だが、剣の腕は立つ。
晩飯だろう、パンと、鳥肉串が2人分。
「あれは練習だった、気にするな」
「練習台にしてくださいました!」
「成功率は半々」
「さっすが! 最っ高ですわ~♪」
スカーの蘇生、実は失敗した。
この話、日に何度もしている。
記憶があやふや、すぐ忘れる。
「相変わらずのトマト頭か」
「能天気なだけでしてよ?」
「脳味噌、腐ってんのか?」
「ひっどぉいですわ~ぁ!」
そう。
成功率は、高くないのだ。
スカーを拾った日の依頼対象も、そうだ。
損壊が激しすぎて、蘇生はできなかった。
手ぶらの復路で発見したのが、スカー。
左腕の肘から先、右足首を根元から斬り落とされて、止血した状態で息絶えていた。部品は揃っていたので試してみた。うまく蘇生できたので、ソリに載せて地上へ運んだ。
手足は、馴染みの『修理屋』で整えた。
今は無事に動いている。
「それにしても、なんて無防備な格好だ」
「一緒に召し上がっても良くってよ~♪」
「トマト嫌いなんだ」
「なんですってぇ!」
「修理費を払い終えてサッサと出ていけ」
「ひっどぉ~ぉい!」
「それまでは、トマト頭は俺の所有物だ」
蘇生に死体の持ち込みは少ない。
大抵は、手付金を受け取り、迷宮へ潜る依頼だ。
俺にできるのは、死者蘇生だけ。
以前は人を雇っていたが、今はスカーが前衛職。
蘇生に成功しても、失敗しても、証拠が必要だ。
死体は持ち帰らなくてはならない。
人手がいる……と。
ここで、感働きの良い奴ならピンとくるだろう。
誰も『蘇生屋』に、過度な期待をしちゃいない。
苦楽を共にした仲間。
せめて葬式ぐらい、静かな故郷に埋葬できたら。でも、もしかしたら? そんな葬儀屋に毛の生えた程度の微かな希望を、少ない依頼料で請けている。
生活は厳しい。
生前のスカーは短期間で数々の依頼を成功させた腕の立つ探索者で、ちょっとした有名人だと『修理屋』に聞いた。
こんなバラック小屋に居座り、危険な仕事に付き合って、コイツはなにを考えてるんだ。
……考えていないのか。
脳味噌、腐ってるから。
「ところで、スカー」
「どうかしまして?」
「頼んでいたカーバイドはどこだ?」
「 あ?! 」
「暗闇に潜る気か? 調達してこい」
「はぃい!」
そそくさと軽く身支度を整え、革鞄を腰に下げて、「行ってまいりま~す!」と夜道へ出て行った。ならず者に襲われても、数人なら返り討ちにできるだろう。多少抜けているが、腕は立つ。
……と。
すぐに扉が開いた。
「どうした、忘れ物でも……っと、アンタは?」
雨でもないのに上等な外套。
やけに目深に被ったフード。
人目を忍んで来たのだろう。
「客だ」
尖った言い方だ。
名乗る気はない。
そんな、軽い威圧を感じた。
無言で渡された、人相書き。
綺麗に編み込まれた髪、神経質そうな表情、華美な服装と装身具。かなり身分の高い家柄の娘だと、雑な木炭画でもわかる。
説明が無いので首を傾げると、舌打ちした。
「察してくれとでも言うのか?」
面倒くさそうに口を開いた。
「この女を迷宮で探し出して、蘇生してこい」
「女の名は? いつ潜った、場所の見当は?」
「貴様が知る必要は、無い」
この女を、ソコナシの迷宮で探す?
女の探索者は珍しくないが、金絡みや犯罪歴などの落伍者が多い。この人物像は奇妙だ、場違いにも程がある。
「情報が少なすぎる。請けてもいいが、蘇生の確率は五分、それすら日を跨げば絶望的。こんな夜遅く、わざわざ足を運んで来た客に言いたくはないが……死体を持ち帰れたら御の字だ」
男の顔はフードに隠れている。
唇だけでニヤリほくそ笑んだ。
「それで、構わない」
「死体愛好癖なのか」
欲しいものは、女の死体。
とんだ変態もいたものだ。
「屍体、その一部、身に付けていた装飾品、女の物とわかるなら、何でも良い。何か証拠を持ち帰れ。期日は3日間。これが前金、残り半分は3日後だ。では、失礼する」
一方的で居丈高な口調、言いたい放題で退出した。
あばら家は、嫌な空気がネットリと漂ったままだ。
殺してでも手に入れたい。
女の死体、もしくは確証。
はてさて。
スカーが戻れば、打ち合わせ。
これは、『蘇生屋』の案件か?
死体漁りを引き受けた、とは言いにくい。
持ち歩くには少々大きすぎる、人相書き。
手慰みに折っていく。
どう切り出したものか――――
「また、俺は。厄介事を背負い込んだのか……ったく」




