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時の楔 ~死ねない底辺鍛冶師、セーブ&ロードで運命を覆す~  作者: あくす


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第6話:楔と制約

冷たい夜気が肌を刺す、夜明け前の裏路地。


俺は周囲に誰もいないことを確認し、持ってきた鉄の楔を石畳の隙間に打ち込んだ。


カンッ。


まずは「場所」の検証だ。


工房以外の場所でロードした場合、俺はどこに戻るのか。


適当に時間を潰し、近くの木箱を蹴り飛ばして位置をずらした後、路地に刺さった楔を引き抜いた。


視界が白く染まる。


次に目を開けた瞬間、俺は「路地に楔を打ち込んだ直後の位置」に立っており、蹴り飛ばした木箱も元の位置に戻っていた。


「なるほど。ロード地点は『楔を打ち込んだ場所』で固定されるのか」


さらに検証を続ける。

次は「打ち込み」の必要性だ。

楔を地面にコロンと置いた状態で数分待ち、それを拾い上げてみる。


しかし、光は溢れず、時間は戻らなかった。


どうやら、ハンマーで物理的に対象(世界)へ打ち込まなければ、セーブポイントとして機能しないらしい。


そして、最も重要な「複数セーブ」の検証。

路地に一本目の楔を打ち込み、少し離れた廃屋の壁に二本目の楔を打ち込む。


その瞬間、パキッという甲高い音が響いた。


振り返ると、路地に打っておいた一本目の楔が、完全に砕け散っていた。


「……最新のセーブポイントしか記憶できない。同時に存在できる楔は『一本だけ』ってことか」


空が白み始める中、俺はこれまでの検証結果を頭の中で整理した。


【判明した能力の仕様】

・鉄の楔は、ハンマーで対象に打ち込まないと効果を発揮しない。

・同時に存在できる楔は一本のみ。新しく打つと、前の楔は即座に砕ける。

・鉄の限界時間は約10時間。それを過ぎると砕けてロード不可になる。

・ロードすると、最後に楔を打った「時間」と「場所」に戻る。

・持ち帰れるのは「記憶」のみ。肉体の状態やアイテムは巻き戻る。


肉体の損傷すらも無かったことにできるのは、間違いなく凄まじいメリットだ。

死すらも回避できるのだから。

だが、その凄まじい恩恵の裏には、俺の命を容易く刈り取る二つの致命的なデメリットが隠されていた。


「っ……はぁ、はぁ……っ」


ふいに強烈な眩暈に襲われ、俺は石壁に背中を預けてへたり込んだ。


頭が割れるように痛い。

視界がぼやけ、思考にひどいノイズが混じる。


肉体は今朝起きたばかりの万全な状態まで巻き戻っているはずなのに、なぜこんなに疲労困憊しているのか。


すぐに理由は思い当たった。


肉体は戻っても、俺の「意識」はずっと連続して時間を過ごしているからだ。


10時間過ごし、ロードしてまた10時間過ごせば、俺の脳と精神は「20時間連続で活動している」ことになる。

昨日の検証ループも含めれば、もうどれだけ起きて活動しているか分からない。


「無限にやり直せるわけじゃない……。まともな判断ができなくなれば、ループの中で本当に死ぬぞ……」


冷や汗が頬を伝う。


何度もループを繰り返した結果、俺の精神は限界に近づき、相当な集中力の低下を引き起こしていた。


そして、もう一つの意外な、そして最も恐ろしいデメリット。


「……過去へ戻るには自分の手で直接楔を引き抜かなければいけない、ということだ」


この能力は、念じるだけで発動するような便利な代物じゃない。


たとえば、工房の土間に楔を打ち込んでセーブポイントを設置し、そこから遠く離れたダンジョンに潜ったとする。


もしそのダンジョンの奥深くで魔物に不意打ちされ、引き抜く間もなく殺されてしまえば――そこで俺の人生は完全に終わりだ。


じゃあ、ダンジョンの戦闘直前に楔を打てばいいのか?

それなら目の前にあるから確実に引き抜ける。

だが、それではロードしたところでその戦闘自体は避けられない可能性が高い。

もし勝てない敵相手に戦闘直前でセーブしてしまえば、何度やり直しても死に続けるだけの生き地獄が待っている。


安全を優先して拠点に打てば、出先での死がゲームオーバーになる。

出先で打てば、引き抜く隙を失ったり、詰みセーブになる危険がある。


「このバランス……めちゃくちゃ難しいな……」


俺は自分の手のひらを見つめ、改めてこの能力の歪な危うさを痛感していた。


たった10時間という縛り。

すり減っていく精神。

そして、引き抜かなければいけないという絶対の制約。


おまけに、俺自身の身体は毎日鍛冶で鍛えているとはいえ、実戦の戦闘能力は皆無で、魔法も使えない底辺の人間だ。


これだけの悪条件を抱えて、金貨30枚を稼ぐために危険な場所に飛び込むなんて、どう考えても俺一人じゃ不可能だ。


「……やっぱり、レナに頼み込むしか、ねぇか」


ばぁちゃんを救うため。そして何より、あいつをこれ以上泣かせないため。


俺は自分の無力さを噛み締めながら、セレナのもとへ向かう決意を固めた。

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