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時の楔 ~死ねない底辺鍛冶師、セーブ&ロードで運命を覆す~  作者: あくす


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第28話:見えない突破口

視界が反転し、俺は再び仄暗い工房の作業台の前に立っていた。


手の中には、先ほど取り出したばかりの青く輝く魔力結晶が握られている。


(金貨六十枚では足りない。だが、これ以上の価値を引き出すことは今の俺には不可能だ)


俺は結晶を革袋に放り込み、工房を飛び出した。


鑑定買取商の店へ向けて、街の石畳を無我夢中で駆け抜ける。

心臓が早鐘を打ち、喉の奥から嫌な鉄の味が込み上げてくるが、足を止めるわけにはいかない。


走りながら、必死に頭を回転させる。


どうすればいい。


この結晶一つで、即金で金貨六十枚以上を捻出する方法はないのか。


「……親父さん! 頼む、あと十枚、いや五枚でもいい。現金をかき集めてくれないか!」


査定が終わるとすぐに俺はカウンターに結晶を叩きつけて叫んだ。


異常な剣幕に驚きながらも、初老の買取商は結晶の純度を見ると真剣な顔つきになった。


「事情はわからんが、相当切羽詰まっているようだな。……よし、少し待っていろ」


買取商は店を飛び出し、隣通りの懇意にしている商人たちの元へ走ってくれた。


そして待つこと数十分。


息を切らして戻ってきた彼の右手には、ずっしりと重い袋が握られていた。


「同業者に頭を下げて、金貨十枚を立て替えてもらった。これで即金で金貨七十枚だ。持って行け!」


「恩に着る!」


金貨の入った袋を受け取り、俺は再び歓楽街の地下競売会場へと全力で走った。


視界がブレるほどに足を回し、傭兵の立つ入り口を強引にすり抜けて、すり鉢状の会場へ飛び込む。



だが。



「き、金貨三十枚! 他におりませんか!? ……落札です!」



壇上で、無情な木槌の音が鳴り響いた。


間に合わなかった。


資金をかき集めるための「移動と交渉の時間」が、少女の競売開始時刻をわずかに過ぎてしまっていたのだ。


舞台の上では、あの悪趣味な男が歓喜の声を上げ、少女が絶望の表情でうずくまっている。


「……くそっ」


俺は唇を噛み切り、誰にも見られないよう会場を離れた。


工房に戻り、土間に刺さる鉄の楔の前に座り込む。すぐには引き抜かなかった。


抜けばまた時間が戻り、急がなければならなくなるからだ。


落ち着け。


考えろ。



金貨七十枚を用意しようとすれば、タイムリミットに間に合わない。


時間に間に合わせようとすれば、金貨六十枚しか用意できず、あの男の資金力に競り負ける。


まさに手詰まりだ。


時間を巻き戻す能力があっても、俺自身の手札の少なさが盤面を完全に膠着させていた。


「……行くしかない」


名案など浮かばない。


だが、ここで立ち止まればあの少女の未来は確定してしまう。


俺は楔を引き抜き、三度目の昼下がりへと巻き戻った。


今度は交渉の時間を削り、前回と同じ「金貨六十枚」を握りしめて時間通りに競売会場へと乗り込んだ。


タイミングを変えれば、あるいは。そんな微かな希望を抱いて競りに挑んだが、結果は同じだった。


あの男は狂ったように値を吊り上げ、俺が六十枚で限界を迎えると、あっさりと六十五枚を提示して少女を奪い去っていった。


圧倒的な資金力の差。


俺は敗北感に打ちのめされながら、夕暮れの街を一人歩いていた。


半分途方に暮れ、足取りはひどく重い。


ふと顔を上げると、先ほど結晶を買い取ってくれた鑑定商人の店の前に出ていた。


無意識のうちに足が向いていたのだろうか。

俺は引き寄せられるように、その店の重い木の扉を開けた。


「おや、にいちゃんじゃないか」


店番をしていた買取商が、俺の顔を見るなり不思議そうに目を瞬かせた。


「どうした? あれだけの大金を手にしたってのに、随分と浮かない顔をしてるな」


「あぁ……。ちょっと、手詰まりでね」


俺が力なくカウンターに寄りかかると、商人は腕を組み、真剣な眼差しを向けてきた。


「手詰まり? 何があったか知らないが、うちもにいちゃんのおかげで良い取引をさせてもらったからな。何かあるなら、相談くらいは乗ってやるぞ?」


その言葉に、俺は少しだけ顔を上げた。


競売に参加しているのは、何も貴族や悪人だけではない。

目の前にいるこの男もまた、何十年と商売の世界で生き抜いてきたプロフェッショナルだ。


「……そうだな。店主は、競売に参加したことはあるか?」


「まぁ、こんな仕事をやっているからな。それなりには顔を出して、時には売買もしてるぞ」


俺はカウンター越しに、藁にもすがる思いで問いかけた。


「例えば、購入したい商品がある。だが、他の人にも注目されていてライバルがいる場合だ。しかも、そのライバルがどう見ても自分より圧倒的な資金力を持っている場合……競売で勝つことは難しいか?」


商人は顎の髭を撫でながら、ゆっくりと首を振った。


「んー……。今の話だけ聞くと、そもそも資金力に差があるなら勝てない、と言いたくなるが……」


彼は片眼鏡の奥の目を鋭く光らせ、俺を真っ直ぐに見据えた。


「にいちゃんが求めている答えは、それじゃないんだろう?」

「ああ……それは承知の上なんだがな」


俺の言葉に、商人は小さく息を吐き、カウンターの奥から何の変哲もない一本の古い短剣を取り出してテーブルに置いた。


「となると……もう俺ができるアドバイスは、テクニック的な微々たる助言しかできない。そもそも競売ってのは基本的に一期一会、その一瞬で上手くいかなければ負けだ」


「そうだな。まぁでも、今後のためにそのテクニックの一部……聞かせてくれないか?」


商人は頷き、俺の目の前にある古い短剣を指差した。


「わかった。状況がマッチするかわからないが、俺が若い頃から少し使っているテクニックを一つ紹介しよう」

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