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時の楔 ~死ねない底辺鍛冶師、セーブ&ロードで運命を覆す~  作者: あくす


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第12話:明確な決意

ばぁちゃんにすべてを打ち明けた翌朝。


俺はまだ薄暗い工房の中で、一人ハンマーを握りしめていた。


心の霧は完全に晴れていた。

ただ生き延びるため、ばぁちゃんを救うためだけに怯えながら使っていたこの力を、これからは明確な武器として使う。


底辺を使い捨て、理不尽を強いるこの歪な国のランク制度を、俺のこの泥臭い楔で絶対にぶち壊して変えてやる。


そのためには、まず自身の足元を固める必要があった。


俺は実物の楔を床に睨みつけ、自分の中で厳格なルールを策定した。


(毎日、朝と晩。動ける状態であるならば、必ずこの工房の土間に楔を打つ。これを俺の絶対のルーティンとする)


これまでは危機に直面した時や、検証の時だけなんとなく習慣化して打っていた。

だがこれからは、日常の全時間を網羅するための明確な防衛線としてセーブポイントを機能させる。


朝に打てば日中の10時間が保証され、夕方に打てば夜間の10時間が保証される。


もちろん、遠出をする際など、状況によってはあえて打たない選択をする時もあるだろうが、基本はこの朝晩の二回を命の起点にする。


「……まずは、今朝の分だ」


カンッ、カンッ、ドンッ!


鋭い金属音が工房に響き、鉄の楔が土間に深く沈み込む。


よし、これで今朝のセーブは完了した。俺はハンマーを置き、静かに工房を後にした。





「すごい……! やっぱり王都は、私たちの街とは全然規模が違うわね!」


カシャカシャと小気味よい音を立てる乗合馬車に揺られること数時間。


城門をくぐり、王都のメインストリートに足を踏み入れた瞬間、セレナはエメラルドグリーンの瞳をこれ以上ないほど輝かせて歓声を上げた。


なぜか俺の足元にずっとへばりついて離れなかったコハクも、珍しそうに周囲を見回している。


俺たちの住む辺境の街と、この王都の関係は一言で言えば搾取だ。


王都は富と権力、そして高ランク冒険者たちが集まるきらびやかな楽園。


対する地方の街は、王都の繁栄のために資源を供給し、周囲の危険なダンジョンを命懸けで間引きするための、文字通りの捨て石でしかない。



高くそびえ立つ白亜の城壁と、贅沢な身なりの人々を見るだけで、その埋めがたい格差が嫌でも伝わってきて胸がチクリと痛む。


だが、今日ばかりはその不愉快な思考を横に置いた。


「ほらレナ、よそ見してると人にぶつかるぞ。約束通り、今日はいくらでも荷物持ちをしてやるから、好きなところに行け」


「ふふん、言ったわね! 後悔しても知らないんだから!」


セレナは嬉しそうに俺の腕を引っ張り、市場へと駆け出した。


可愛らしい露店を巡り、彼女が選んだ手頃な髪飾りや冒険者用の小物を、俺は両手いっぱいに抱え込む。


途中で立ち寄ったカフェでは、約束通り俺のおごりで果実をふんだんに使ったスイーツを美味そうに頬張っていた。


「んー! 美味しい! 命懸けで頑張った後の甘いものは最高ね!」


「ワンッ!」


コハクもセレナからお裾分けのクッキーを貰い、嬉しそうに尻尾を振っている。


ばぁちゃんの足が治り、こうして幼なじみの笑顔を見られている。

その事実だけで、あの地獄のようなループを戦い抜いた価値があったと心から思えた。


だが、この国は、底辺の人間がそんなささやかな幸福を享受することさえ許してはくれない。


「おい! どけ! 邪魔だ、底辺どもが!」


賑わう大通りに、突如として不穏な怒号が響き渡った。


前方を見ると、豪華な装飾が施された貴族の馬車が、周囲の買い出し客を文字通り蹴散らしながら猛スピードで進んできていた。その馬車の前後を固めているのは、いかにも傲慢そうな笑みを浮かべた、銀色に輝くプレートを胸に下げた高ランクの冒険者たちだ。


逃げ遅れた老人が突き飛ばされ、周囲に緊張が走る。


俺は瞬時にセレナの肩を引き、コハクを抱き上げて路地の壁際へと身を寄せた。


通り過ぎるのを待つ。


ただ、それだけで終わるはずだった。


「おっと、待ちな」


不意に、馬車を護衛していた高ランク冒険者の一人が足を止め、ギラついた目で俺たちの前で立ち塞がった。


その視線は、俺の両手に抱えられた荷物ではなく、俺の後ろにいるセレナの端正な顔立ち、そして、俺が腕に抱いているルビーの瞳を持つ白い犬、コハクへと注がれていた。


「そこの低ランクのガキ。いい女と、随分と珍しい妙な獣を連れているじゃないか」


男は下卑た笑みを浮かべ、腰の長剣の柄を親指で弾いてみせた。


「我が主への献上品にちょうどいい。その女と獣を、そこに置いていけ。拒否するなら……王都の治安を乱した罪で、ここで切り捨ててもいいんだぞ?」


周囲の買い物客は一瞬で静まり返り、誰もが関わり合いを恐れて目を逸らした。


セレナが怒りに表情を歪め、腰の剣に手をかけようとする。


だが、相手は王都の権力に守られた高ランクだ。ここで手を出せば、俺たちは一瞬でお尋ね者になり、ばぁちゃんのいるあの工房ごと叩き潰される。


(チッ……今朝、工房に打った楔の制限時間は、残り3時間。ここから街まで馬車を飛ばしても、戻るまでに3時間以上はかかる……!)


工房の楔を引き抜きに戻る猶予は実質的に皆無。


かといって、この場を切り抜けるための予備の楔を今ここで打てば、今朝の工房のセーブポイントは上書きされて消失し、今朝の平和な時間には二度と戻れなくなる。


圧倒的な武力と権力を前に、レインの思考が、冷たい汗とともに激しく加速し始めた。


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