第10話:30枚の金貨
冷たい地下水脈を抜け、外の光が見えた瞬間、俺たちは大きく息を吐き出した。
夜明け前の冷たい空気が、火照った身体を満たしていく。
「やった……っ! 本当に生きて出られた……!」
泥だらけの顔で、セレナが歓喜の声を上げる。
足元ではコハクも嬉しそうに尻尾を振り、俺の足にすり寄ってきた。
「それにしてもレイ、あの壁を壊す時、なんであんなにピンポイントで弱点がわかったの!? まるで何度も斬って試したみたいだったわ!」
興奮冷めやらぬ様子で、セレナが目を輝かせながら詰め寄ってくる。
その言葉に俺は内心冷や汗をかきながらも、ただ曖昧な苦笑いを浮かべて視線を逸らした。
「あー……まあ、親父が残した資料に、岩壁の脆い部分の見分け方が書いてあったんだよ。運が良かった」
「ふーん? ま、そういうことにしておいてあげるわ! レイの指示のおかげで助かったのは本当だしね」
能力のことは絶対に言えない。
誤魔化しきれたかは怪しいが、セレナはそれ以上深くは追及してこなかった。
そのままの足でギルドへ向かい、夜光結晶をカウンターに叩きつけると、あの受付嬢は幽霊でも見たかのように目を剥いて驚愕していた。
面倒な質問攻めは適当に躱し、俺たちは目的の報酬である『金貨30枚』が詰まった重い革袋を手に入れた。
ギルドを出た後、俺は立ち止まり、革袋を強く握りしめてセレナに向き直った。
「レナ。これは俺たち二人で命を懸けて手に入れた報酬だ。本来なら折半するべきなんだが……これを全部、ばぁちゃんの治療費に当ててもいいか?」
俺が頭を下げると、セレナは呆れたように息を吐いた。
「何言ってんのよ。最初からそのために行ったんでしょ? 当たり前じゃない。おばあちゃんの足、早く治してあげなさいよ」
「レナ……本当に、ありがとう」
深く感謝を伝える俺に、セレナは少しだけ悪戯っぽく笑って、指を一本突きつけてきた。
「その代わり、今度王都への買い出しに行く時、一日中私の荷物持ちとして付き合ってよ? もちろん、レイのおごりでスイーツもね」
「ははっ、安い御用だ。わかったよ、いくらでも付き合う」
そんな他愛のない約束が、死線を潜り抜けた俺の心をひどく温かくしてくれた。
◇
その日の午後。
俺は早速、金貨30枚を支払って神殿から高位の神官を工房へ招き入れた。
神官が淡い光を放つ治癒魔法を唱えると、ばぁちゃんを苦しめていた足の腫れと傷が、嘘のように引いていく。
「おお……痛みが、消えた……。レイ、レナちゃん、本当にありがとうねぇ……」
涙ぐみながら俺たちの手を取るばぁちゃんの顔を見て、俺はようやく、心の底から安堵の息を吐くことができた。
馬車が突っ込んできたあの日から続いた、果てしない絶望と泥臭い検証のループ。
そのすべてが、ようやく報われた瞬間だった。




