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霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお
最終章 - 未練の果て

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第95話 異常事態

 未だ寒さの厳しい二月下旬。蓮は流れていく仕事のメッセージ画面を、ただぼんやりと眺めていた。その目は画面を見てはいるが、内容は全く頭に入っていない。


 蓮は夕樹と話したあの日以降、ある一人の人物のことを考えていた。あのとき夕樹は、天道の力を与えた人物の答えを言葉の中に隠していた。蓮はそれに気づき、「やっぱり」と思う半面、信じたくない気持ちも抱えていた。

 なぜ()は夕樹に力を与えたのか。いくら動機を考えても、それらしいものは思いつかない。


(本人に聞くのが早い、が……。とぼけられるだろうな)


 蓮は小さくため息をつく。霊魂管理局も、彼が一番怪しいことには気づいているだろう。けれど犯人が特定されていないということは、彼がよほどうまく(かわ)しているか、「あいつにそんなことはできない」と思われているかのどちらかだろう。蓮の予想では後者だ。

 正直なところ、蓮もまだ信じきれないところがある。蓮の知っている彼に、そんな大きなことをする度胸はない。もし本当に彼の仕業なら、蓮が見てきた彼は全てまやかしだったのではないかと疑ってしまう。

 そして彼について考えると同時に、蓮の中で夕樹の言葉がこだまする。


『蓮くんは、どうして地縛霊を回収してるの?』


 なぜかひなにも同じことを聞かれた。しかし蓮も、逆の立場なら不思議に思うことだろう。蓮は霊魂管理局に協力する義務も義理もなく、給金すら発生していない。


(なんでだろうな……)


 その答えは、蓮も正確に説明できない。協力の条件くらいは霊魂管理局に出しているが、今の蓮には何のメリットももたらさない。

 蓮は深くため息をつく。どれほど考えても、なんの結論も得られそうにない。

 そのとき、ベランダに降り立つ幽霊の姿が視界の端に映る。どうして自分の周りの幽霊はベランダから入ってくるのかと思いながら、蓮は見慣れた金髪が窓をすり抜けてくるのを待つ。


「蓮! 大変! ちょっと聞いて!」


 沙斗琉が慌てた様子で、上半身を部屋の中に入れる。少し前までは「すり抜けるイメージができない」と言っていたのに、成長したなと蓮はぼんやりと考える。

 しかし沙斗琉の様子を見るに、そんな悠長なことを考えている場合ではなさそうだ。沙斗琉は体全体を部屋の中に入れ、携帯電話の画面を蓮に向ける。


「霊魂管理局に、初代閻魔様が来てる!!」

「大王が……!?」


 蓮は思わず立ち上がり、携帯電話の画面を覗き込む。沙斗琉は眉間にしわを寄せてうなずく。


「しかも大王様の里帰りとかじゃなくて、WSAの用事みたいなんだよね。ただ事じゃないよ」

「マジか」


 世界霊魂管理機関、通称WSA。冥界のグローバル化に伴い設立された、その名の通り世界中の霊魂を管理する機関。霊魂管理局はWSAの傘下にあるが、WSAが直接介入してくることはこれまで一度もなかった。


「急だな……。最近なんかあったか?」

「あったはあったけどねぇ……。しかもオレたちの周りで」


 沙斗琉が呆れたように笑う。そう言われると確かに、夕樹やひなのことがあったなと蓮も思う。


(黒木のことは公にしないらしいから、夕樹のことか? 特定の事件が原因じゃないことも考えられるが……)


 考え込みそうになる蓮の耳に、ぱたんと携帯電話の画面を畳む音が響く。


「状況確認しに行こうと思うけど、蓮も行く? あ、まだ仕事中?」

「行く。仕事は俺がいなくても回るから」

「それでいいの? 社長」

「いいんだよ。その分、俺の報酬以上の給料払ってるし」

「えっ、あ、そうなんだ」


 蓮は慌ただしくブルゾンを羽織る。社内メンバーのグループチャットで席を外すことを伝え、急いで玄関を飛び出した。

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