表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお
3章 - 星を落とした悪魔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/112

第89話 鏡の中のブス

※今回は重めの内容を含みます。無理のない範囲でお読みください。

 あっという間に時が経ち、I'm a ☆のドームライブが始まった。満員御礼で初日を迎え、アイドルたちは全力のパフォーマンスで会場を盛り上げた。ファンも当然フルスロットルで、会場内は冬とは思えないほどの熱気に包まれた。

 二日目も危なげなく終わり、あっという間に千秋楽(せんしゅうらく)を迎える。早朝から過密なスケジュールで楽屋が戦場と化す中、麗奈は演出家と共にスタッフ用の多目的トイレにいる。いわゆる逢引(あいび)きだ。

 麗奈は演出家の首に絡みつき、寂しげに上目遣いをする。


「落合さぁん。そろそろ戻らないとぉ」

「もうそんな時間? 仕方がないなぁ……。じゃあ続きは、本番の後にね」


 強面(こわもて)の演出家は麗奈の髪を()きながら、耳元に顔を寄せ甘い声で(ささや)く。二人は名残惜しそうに離れ、演出家が先に多目的トイレを後にする。

 手を振って見送る麗奈は、演出家が見えなくなるとぴたりと手を止める。気だるげに手を下ろし、ふーっと深いため息をつく。


(あー、キモかった。あいつのご機嫌取りも、もう少しの辛抱か)


 麗奈は手洗い場に行き、バシャバシャと冷たい水で顔を洗う。水滴をハンカチで拭い顔を上げると、鏡にはひどく不細工な自分の顔が映っている。


(なんでこんなに気ぃ遣ってんのに、あたしってブスなんだろ)


 麗奈は自分の容姿にコンプレックスがある。原因は、見るに堪えない容姿の両親にあるだろう。ファンからもてはやされているときは忘れていられるのに、一人になると途端に不安になる。センターの座を獲得したら克服できると思っていたのに、不安は増すばかりだった。


 かつてセンターを決めていた人気投票は、多少なりとも麗奈の心を慰めてくれていた。どこまでが操作でどこまでが事実かわかっていたから、みんなが本当に自分を好きになってくれていると実感できた。

 しかしその人気投票は、皮肉にも麗奈の行動で終わりを告げた。麗奈が当時の二位を()()()ことで、廃止になったのだ。I'm a ☆運営は皆麗奈の仕業だとわかっていて、今後同じトラブルを生み出さないために、順位付けをやめたのだ。

 それ以降、センターは演出家の意向で決められている。センターになるために取った行動は、結果的にセンターの座の獲得を困難にした。麗奈は必死に演出家に取り入り、枕営業すれすれなこともして、なんとかセンターを維持し続けている。


 麗奈は大きくため息をつく。自分が世界一可愛く見える日もあるというのに、大事な日に限って、なぜかその魔法は解けてしまう。


(これが終わったら卒業……。卒業したら、センターを維持する必要はなくなる。キモい演出家に媚び売らなくてよくなるはずだから……)


 麗奈は鏡に向かい、曇った自分の顔に笑いかける。今日のように心が死んでいる日は、完璧な笑顔で自分に暗示をかけるのだ。

 麗奈は笑顔のままトイレを出る。誰にも心を悟られないように、麗奈はなるべく弾んで見えるように上下しながら歩く。


 そのとき、背後からガタリと物音が聞こえた。麗奈はトイレを出るときに、近くに誰もいないことを確認したはずだった。一本道であり、突然誰かが出てくることなどないはずなのに――。

 麗奈の心が早鐘を打つ。それでも麗奈は、なんでもない顔をして振り向いた。


 そこには誰もいなかった。麗奈は安心して、ほっと息をつく。

 しかしふと視線を上げたとき、その安心は早計だったと気づく。信じられないことに、箱馬が宙に浮いていたのだ。

 上から糸で吊られているわけでも、誰かが隠れているわけでもない。本当に、()()()()()()()()()()()()()のだ。


「ひっ……!?」


 麗奈は笑顔を忘れ、ただ驚きと恐怖に支配される。直後、箱馬は勢いよく麗奈に向かってきた。まるで誰かが箱馬を掲げながら、麗奈を追いかけているかのように。

 麗奈はまとまらない頭で、逃げなければと考える。それなのに、足は縫い付けられたようにその場から動かない。


「キャ――――――――――!!!!」


 麗奈は無意識に甲高い声を上げ、頭に手を置きしゃがみ込む。それが正しいかなど、判断している余裕はない。

 ゴッと、鈍い音が麗奈の耳に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ