表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお
3章 - 星を落とした悪魔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/112

第88話 勝ち組のつもり

『しばらく会うのはやめよう』


 チャットに送られてきたメッセージに、麗奈は小さく舌打ちする。共に週刊誌に撮られた若手俳優は、どうやら熱愛報道で仕事が減ることを恐れているらしい。


(熱愛報道なんかすぐ冷めるのに。なにビビってんだか)


 麗奈は仏頂面(ぶっちょうづら)でため息をつく。コツコツと爪の音を鳴らしながら、『お仕事に響いたら大変だもんね(>_<) れいにゃ我慢する』と返信する。


(あいつ顔も金払いもいいんだけど、ビビりなんだよなぁ……。そろそろ乗り換えるか)


 麗奈はスマートフォンの画面を閉じ、かばんの中に放り投げる。スマートフォンにつけたキャラクターのストラップは、流行っているからつけただけで、本当はよく知らない。メンバーカラーに合わせた紫色のケースも、卒業したらピンクに変えようかとぼんやりと考える。


 麗奈の卒業が決まったのは、ほんの数日前。世間に公表される前日のことだ。熱愛報道が流れ、マネージャーから呼び出しを受けた。

 事実関係を問われ、麗奈は流出した写真が自分であることを認めた。だが熱愛は認めず、「仲のいい友達として一緒に出かけた」と説明した。当然嘘だ。

 マネージャーは麗奈の言葉を信じなかった。もう長い付き合いだ。麗奈の嘘くらい見抜けるだろう。麗奈も、本気で信じてもらえるとは思っていない。その上で、いつものようにもみ消してくれると麗奈は思っていたのだ。

 しかし、返ってきたのは予想外の言葉だった。


「もう(かば)いきれないよ」


 そうして、麗奈は半ば強制的に卒業することになった。それらしい言葉で包んだだけで、事実上の契約解除だ。

 けれど麗奈は、特に悲観的にはならなかった。むしろ清々しい気持ちでいる。十六歳から十年も続けてきたアイドルだったが、自分でも驚くほど未練はない。

 最近の麗奈は、アイドルの窮屈さに辟易(へきえき)していた。恋愛禁止、SNSの制限、質の低いファン、使えないマネージャー、夢だけは大きいメンバー。色々なものが麗奈を苛立たせた。

 そしてタイミングよく、大手芸能事務所に声をかけられた。麗奈は二つ返事で承諾し、卒業後からはその事務所に所属することになっている。麗奈は自分が()()()に入ったのだと確信していた。


 麗奈は伸びをしてストレッチをはじめる。散々周りを蹴落として一位になった麗奈だが、練習を怠ったことはない。

 センターは圧倒的でなければいけない。自分だけが褒められる空間こそが、麗奈にとって何よりも至福だった。


(菜奈のダンスが上がってきたから追い出そうと思ったけど、卒業するなら関係ないし。自分のことに時間使えるっていいわ~)


 麗奈は今まで、出る杭を打つのに必死だった。時には練習時間や睡眠時間を削ってまで、目障りなメンバーを追い出すことに精を出した。

 死なせてしまったときはさすがに焦ったが、周りの協力で事故として処理された。とはいえ麗奈は指示をしただけで、手を下してはいないのだが。

 その窮屈な生活が終わることに、麗奈は清々しさを感じている。今麗奈は、卒業後のことしか考えていない。


 そのとき、ガチャリと稽古場(けいこば)の扉が開く。入ってきたのは演出家で、麗奈は可愛らしい上目遣いであいさつをする。


「おはようございま~す♡」

「うん。おはよう」


 強面(こわもて)のスキンヘッドの演出家は、麗奈を見るとふわりと表情を緩める。


「アイシャドウ変えた? オレンジも可愛いね」

「気づいてくれたんですかぁ? うれしい~! ありがとうございます♡」


(どんだけ細かいとこ見てんだよ。キモッ)


 麗奈は内心悪態をつきながらも、笑顔で塗り固めている。今回のライブを担当するこの演出家は、最初こそ厳しかったが、少しすり寄っただけですぐに甘くなった。

 男はみんなちょろい。芸能界を生きるのなんて簡単。スキャンダルも知名度を上げる手段。麗奈はこれから、もっと輝かしい世界が自分を待っているのだと信じている。


 その後ろ姿をじっと見つめる幽霊がいるなど、考えてもみなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ