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霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお
3章 - 星を落とした悪魔

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第87話 うっかりこぼした真相

 暖房の効いた六畳の部屋の中。蓮と沙斗琉は床に座り、正面でどっしりと構える岳の答えを待つ。岳はあぐらをかき、静かに太い腕を組んでいる。


 東京ドームシティを遊びつくした後、回収のために沙斗琉と合流した蓮は、ひなの様子を沙斗琉に話した。沙斗琉もひなに悩みがあることは知っていて、「普段の様子は相棒が一番よく知ってるから」と岳に話を聞くことにした。

 岳は沙斗琉からの突然の誘いに快く応じた。蓮は自分がひなに抱いた違和感を岳に話し、沙斗琉もひなが抱いている悩みについて話した。


 少しして、岳はゆっくりと、力強く首を縦に振る。


「俺も、ひなの様子がおかしいとは思っていた。だが理由を聞いても「大丈夫」と言うばかりで、何も教えてはくれない」

「強がりだからねぇ」


 沙斗琉が相槌を打ち、岳は深くうなずく。蓮は答えを聞きながら、暗い目をしていたひなの様子を思い出す。


「俺が見たのと沙斗琉が聞いた話を合わせると、原因は田場 麗奈の卒業ライブだよな?」

「そうだろうね。ひなちゃんの“嫌いなやつ”がれいにゃだとは知らなかったけど」

「ずっと思ってたんだが、“にゃ”ってどこからきたんだ……?」

「なんとなく可愛いからじゃない?」


 沙斗琉の言葉に共感できず、蓮は眉間にしわを寄せる。沙斗琉はその蓮の顔に小さく吹き出す。


「顔に全部出てるよ……っ」

「いや、だって、可愛いか……?」

「猫みたいで可愛くない?」

「猫なら可愛い」

「人間は可愛くないと」

「人に“にゃ”をつけたところで猫にはならないから」


 蓮の意見に、沙斗琉は大きく笑い声を上げる。蓮は何が面白いのかわからず、異物でも見るように沙斗琉を(にら)む。岳は無表情のまま、ただその様子を見守っている。

 沙斗琉は少し落ち着くと、楽しげだった笑みを不敵なものに変える。


「でも、猫かぶりには似合ってると思わない? よく本人を表してると思うな~」


 蓮は眉間のしわをさらに深くする。どうやら麗奈が可愛く()()()()()ことは、ファン以外にも有名らしい。

 岳は落ち込むように視線を下げる。


「俺は相棒なのに、相談もされていない。かける言葉もわからない。二人は信頼されているんだな」

「いや、俺も相談されてませんから……」


 蓮が否定するように手を振る。沙斗琉は「うーん」と考える素振りを見せる。


「親しい人ほど言いにくいことってない? 心配させたくないとか、迷惑かけたくないとかってさ。オレは知り合い以上友達未満だから、逆に言いやすかったのかも」


 蓮は納得してうなずく。確かに蓮にも、母には言えないが他人には言えることがたくさんあった。

 岳は膝の上で拳をぎゅっと握る。


「お節介だと思うが、俺はひなのわだかまりを取ってやりたい。だが、方法がわからない」

「難しいよねー」


 沙斗琉は頭の後ろで手を組み、天井を見上げる。


「れいにゃに危害を加えてライブを中止にするのは、さすがに身勝手だしね。そもそも、オレたちは生者に干渉しちゃいけないし」

「仕返しでしかないしな……」


 蓮がぽろりとつぶやくと、沙斗琉と岳がきょとんとした顔で蓮を見る。蓮は自分がドームシティの話しかしておらず、ひなを殺した犯人が麗奈だと話していないことを、完全に忘れていた。


「ひなちゃんの死因の話?」

「あー……」


 蓮は片手で頭を抱える。ひなから話していいと許可を得ていないのに、口を滑らせるとは迂闊(うかつ)だったと反省する。

 沙斗琉は膝にひじを立て、頬杖をついて蓮を見る。


「まあ、察してはいたよ。ひなちゃんが人を「嫌い」って言い切るのは珍しいから、単なる嫉妬じゃないんだろうなーって。表向きは事故死だけど、まあ違うんだろうとは思ってたし」

「悪い……。聞かなかったことにしてくれ……」

「わかった。オレが勝手に気づいたことにするね」

「お前は普通に気づけそうだもんな」


 沙斗琉はふふっと微笑み、岳はどっしりとうなずく。蓮ははーっと大きくため息をつく。


「……回収課に選ばれるのは、『未練のある若い幽霊』らしい。黒木が田場 麗奈の卒業ライブを気にしてるのは、そこに黒木の未練があるからだと思う」

「そうなると、オレたちができることって何だろうね。ひなちゃんの未練を解消できるのはひなちゃんだけだし」


 三人の間に沈黙が流れる。しばらくして、岳がぽつりと言葉をこぼす。


「……見守るしかないのだろうか」

「そうかもねぇ……。見守りつつ、危ないことは止めてあげるのがいいんじゃないかな」


 沙斗琉の言葉に、岳がどっしりとうなずく。蓮もそれしかないように思い、眉間にしわを寄せてうなずく。


(俺は生きてんのに、やれることはないのか……)


 ままならない歯がゆさに、蓮は拳を強く握りしめた。

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