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霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお
3章 - 星を落とした悪魔

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第86話 焼きついた微笑み

※本話は、登場人物の死の具体的な描写が含まれます。つらいと感じる方は無理せずお戻りください。

 ひながI'm a ☆に入ったのは、十七歳の春のことだった。地元福岡にI'm a ☆の姉妹グループが作られることになり、立ち上げメンバーのオーディションを受けたことがきっかけだった。


 ひなは昔から、アイドルの真似をして歌って踊っていた。将来の夢にも「アイドル」と書いていた。その努力が実り、ひなはオーディションを通過した。親も妹も応援してくれて、ひなはこれから始まるアイドル生活に胸を躍らせた。

 高校を卒業するまで、ひなはそのグループでセンターを務めた。とはいえ、I'm a ☆ほど競争を意識したグループではない。ひなはあくまでまとめ役で、みんなで一つのステージを作り、グループとして成功することを意識していた。


 プロデューサーの意向で、ひなは高校卒業と共に上京し、I'm a ☆に移籍した。圧倒されると思っていた東京の街は、意外と「こんなもんか」としか思わなかった。

 だがグループ内の様相は福岡と異なり、ぎすぎすとした競争が繰り広げられていた。その裏にあったのは人気投票制度だ。皆、他人を押しのけて自分が一位になることばかり考え、グループ内の人間関係は酷いありさまだった。

 そんな中で、ひなは自分の在り方を変えなかった。自分の技術を磨きつつ、グループ全体の底上げもする。メンバーは敵ではなく仲間であり、良きライバルであるというスタンスを貫いた。

 次第に、ひなの考えに共感するメンバーは増えていった。単純に競争に疲弊していたのか、人気投票二位のひなに取り入りたかったのかもしれない。だが皆で同じ方向を向くようになり、グループ全体のパフォーマンスは確実に良くなっていった。


 ひなはバラエティーやドラマ、モデルなど、個人の仕事ももらうようになった。着実に芸能界でのキャリアを積み、芸能事務所からのスカウトもあった。アイドルを辞めて、タレントとして活動しないかという誘いだ。

 だが、ひなは断った。ひなの最も好きな場所が、アイドルのステージだったからだ。ひなはアイドルとスタッフ、そしてファンが一体となって、一つの空間が完成する瞬間が好きだった。

 ひなの理想は、アイドルが代わる代わるセンターに立ち、全員に魅せ場があるステージだった。全員が他の人にはない魅力を持っている。その魅力を最大限輝かせるステージを作りたかった。仲間も自分も、ステージの中心を飾る。そんな日をひなは夢見ていた。


 とはいえ、それはひな一人の理想にすぎない。アイドルの中には、自分一人が輝くことを望む者もいる。

 その筆頭が麗奈だった。麗奈は人一倍自己顕示欲が強く、自分が褒められることを何よりも重視していた。権力者やファンの前ではいい子を演じ、裏では悪口ばかり言う。ルッキズムも強く、可愛い自分にとにかく執着していた。

 麗奈は芽が出そうな人をいじめ、脱退に追い込んだ。麗奈にとって、いじめに屈せずビジュアルの評価も高いひなは、当然目の上のたんこぶだっただろう。


 そして、あの日がやってくる。それは人気投票一位だったメンバーの卒業後、初の人気投票の直前のことだった。

 その日はライブに向け、ひなは稽古場(けいこば)で練習をしていた。自分の練習だけでなく、メンバーのサポートもしていたひなは、稽古場を出るのがずいぶんと遅くなってしまった。残っているのは麗奈の取り巻きの二人だけで、麗奈は既に他の取り巻きと稽古場をあとにしていた。

 I'm a ☆の稽古場は地下深くにある。そこに行くには階段しかなく、しかもかなり急である。ひなは次のライブのことを考えながら、地上に向かう長い階段を上っていた。


 ふと顔を上げると、踊り場に麗奈と数人の取り巻きがいるのが目に入る。忘れ物でもしたか、もしくは雑談に花を咲かせているのだろうと、ひなは特に気にすることなく踊り場に足をかけた。

 直後、ひなは肩を強く押された。背中が反り、前に踏み込んだはずの足が宙に浮く。慌てて力を入れようとした後ろの足は、ずるりと段差を踏み外した。どこかに掴まろうにも、ここの階段は急なわりに手すりがない。

 体が投げ出され、ひなは重力に従って落ちていく。なんとかしようと体をひねると、落下地点にはそこにあるはずのない箱馬(はこうま)が置かれていた。


(あ、これヤバい――)


 そう思った直後、ひなの頭に強い衝撃が走る。ゴロゴロと転がった体は、肩や背中にも痛みがある気がするが、自分の状況を正しく認識できない。

 焼けるように熱い頭と動かせない体に、ひなは緊急事態であることを把握する。箱馬の角に頭をぶつけたのかもしれない。人が乗れるほど丈夫に作られた木の箱は、決して柔らかいものではない。

 だがそんな中で、誰もひなに駆け寄ろうとはしない。ぼんやりとした視界で踊り場に立つ人々を見ると、そこにあるのは驚きや困惑ではなく、不安そうな顔だった。

 その中でただ一人、麗奈だけが笑みを浮かべていた。


 ――()められた。


 そう理解したときには遅かった。ひなの視界は白く塗りつぶされ、熱を帯びていた体は指先から冷え始めている。

 途切れていく意識の中で、麗奈の憎らしいくらい綺麗な微笑みが、ひなの脳裏に焼きついていた。

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