第84話 黒ずんだ瞳
ジェットコースターや急流すべりと、蓮と葵は一通りの絶叫系を満喫した。心持ちの違いはあるかもしれないが、やはりアトラクションとの相性はあると蓮は思う。そしてやはり、以前テーマパークで絶叫系以外のアトラクションも楽しめたのは、沙斗琉の話術によるものだったと理解した。
飲食店の開店時間になり、蓮と葵はななりんのコラボフードがある店舗に向かう。途中でななりんの等身大パネルを見つけ、葵は意気揚々と写真を撮っていた。蓮はななりんの身長が自分と変わらないことに気づき、少し寂しい気持ちになった。
他にも葵の好きなアイドルの写真を撮りながら、蓮と葵は目的地であるクレープ屋に到着する。葵はななりんのコラボクレープを、蓮は全く関係のないおかず系クレープを注文した。
「クレープとか何年ぶりだろ。久々に食べるとうまいなー!」
「それめちゃくちゃ黄色いな。何が入ってるんだ?」
「パイナップル!」
「季節外れ……」
「ななりんは黄色だから。この後なに食う? クレープだけじゃ足りないよな」
「牛丼」
「マジで牛丼でいいの? せっかくならもっと豪華なものにしねぇ?」
「牛丼が一番うまい」
「まあ、蓮がいいならいいけど。ちょっといい牛丼とかないかなー」
牛丼屋を探しつつ食べ歩きをしていると、蓮の視界に見慣れた人物の姿が過ぎる。
蓮は反射的に、その人物を視線で追う。綺麗に巻かれた黒髪は風が吹いても揺れず、彼女が人間ではないことを物語っている。
いつも勝気な瞳は、親の仇でも見るように険しく黒ずんで見える。その視線の先には、I'm a ☆のセンターである田場 麗奈と思われるパネルがあった。
葵が蓮の様子に気づき、蓮の視線の先を見る。葵は表情をぱっと明るくし、手を振ろうと右手を上げる。
「ひな――」
「おい」
葵の言葉がほとんど聞き取れないくらいに、蓮は強い口調で葵の声を遮る。葵が振ろうとした右手も、ぐっと掴んで無理やり下ろす。
葵ははっとした様子で口を噤む。
「……ごめん」
「いや、俺も悪かった。無視しなきゃならなかった」
蓮たちが小声で謝り合っていると、その声に気づいたのか、ひながくるりと蓮たちの方を向く。先ほど黒ずんで見えた瞳は、いつも通りの澄んだ茶色に戻っている。
ひなは駆け足で蓮たちに近づいてくる。いつも通りの笑顔に見えるが、蓮は少しだけ偽物のような違和感を覚える。
「やっほー! 蓮と葵くんも来てたんだね」
「うん。蓮の誕生日祝いで、ついでにコラボ楽しんでる」
「あ、そっちがついでなのか」
「そりゃそうだろ。なんだと思ってたんだよ」
「コラボが主目的だと……」
「ちげーよぉ」
蓮と葵は周囲に聞こえないくらいの小声で話す。ひなはそのやり取りに、くすくすと笑いをこぼす。
蓮は少し訝しみながらひなを見る。
「黒木は何してんだ?」
「コラボやってるって広告で見たから、様子見に来ただけ」
ひなは周囲を見渡し、にこにこと楽しげに微笑む。
「アイスタも大きくなったよねー。葵くんは菜奈推しなんだっけ?」
「うん。これもななりんのコラボフード」
「それで黄色いんだ。へぇ~。かわいいし美味しそう」
ひなは葵が持っている、食べかけのクレープをまじまじと見る。蓮はななりんの名前が「菜奈」であることを初めて認識した。
「ひなちゃんが生きてたら、どんなコラボフードだったのかなぁ……」
葵がクレープを見ながら、ぽつりと言葉をこぼす。蓮はひなの表情をうかがうが、ひなは思いのほか明るい表情で顎に手を当てている。
「あたしはピンク担当だったから、ピンクっぽいものになると思うんだよね。いちごミルクとか」
「ありそー」
葵は大きく笑いたいのを堪えるように笑う。ひなもつられたように、口元を押さえてくすくすと笑っている。なんでもないはずのその光景に、蓮はやはり得も言われぬ違和感を覚える。
「もうちょっと喋るなら観覧車とか乗るけど、ひなちゃん予定どう?」
「ううん、そろそろ帰る。二人で楽しんで」
ひなはふわりと蓮たちから離れ、ひらひらと手を振る。
「じゃ、またね~」
ひなは踵を返し、ミニスカートを揺らして去っていく。その後姿は至っていつも通りで、蓮は黒ずんだ瞳や貼り付けた笑顔が気のせいだったのではと思いそうになる。
葵は違和感を抱いていないのか、照れるように鼻の下を伸ばしている。
「やっぱかわいいな~。魅せ方わかってる感じがする」
「……なあ、あいつ変じゃなかったか?」
「え? どうだろ。蓮ほど話したことないからなぁ……。でも、蓮が変だと思うなら変なのかも」
蓮は眉間にしわを寄せる。もしもひなが麗奈に殺されたのなら、ひなが麗奈のパネルを見ていたことに意味がないはずがない。
(一応、注意して見た方がいいか……)
蓮は米粒程度の大きさになったひなの後姿を眺め、まだ温かいクレープにかじりついた。




