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霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお
3章 - 星を落とした悪魔

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第83話 遊園地向いてない説

「蓮、ハピバ~!!」


 待ち合わせ場所の水道橋駅で、葵は両手を上げて盛大に蓮を迎える。一瞬、驚くような周囲の視線が刺さるが、すぐに何事もなかったかのように日常へと戻っていく。

 蓮はぱちぱちと瞬きをして、スマートフォンの画面をつける。


「……あ、本当だ」

「忘れてたのか!?」

「ああ」

「えー!!」


 蓮はスマートフォンをポケットにしまい、葵と共に改札口へと歩き出す。


「自分の誕生日って覚えてるもんか?」

「オレは覚えてる! 合法的に好きなもん食っていい日!」

「いつでも好きなもの食えよ」

「気分の問題だよ~。つか、オレの誕生日覚えてるのに、なんで自分のは忘れてんの?」

「祝わないから」

「祝えよ! ったく。今日は好きなもん食えよ~。オレの(おご)りだから」

「牛丼」

「いつも通り!」


 取り留めのない話をしながら、蓮と葵は目的地である東京ドームシティにやってくる。まだ早い時間だからか、もしくは曇り空だからか、休日だというのに人の姿はまばらだ。

 蓮はところどころに立つ、女性の形をしたパネルに目を向ける。似たような顔で似たような髪型で同じ衣装をまとう女性たちは、葵が推しているアイドルグループ「I'm a ☆」のアイドルたちだ。どうやらコラボ中のようで、葵の目的はこのコラボを楽しみつくすことらしい。

 蓮は周囲のパネルに、葵の推しである「ななりん」がいないことだけを確認する。顔をはっきり覚えているわけではないが、ななりんはショートヘアであり、髪の長いアイドルよりは判別しやすい。


「まず何するんだ? パネル探すのか?」

「先にアトラクションかなー。限定アナウンスがあってさ。ななりんが喋るやつに乗る」

「どれだ?」

「コーヒーカップ的なやつ。チケットはもうネットで買ったから」

「用意がいいな」


 蓮と葵は目的のアトラクションに向かい、ほとんど並ぶことなくカップに乗り込む。周りを見ると、葵と同じようにI'm a ☆のコラボ目的と思われる男性がちらほら目に入る。男二人で遊園地はどうなのかと思っていたが、どうやら全く浮いていないようだ。


 スタッフの案内の後、アイドルと思われる可愛らしい声でアナウンスが聞こえてくる。複数人が喋っているらしいが、蓮には声の違いがわからない。ななりんだけは葵の反応でわかり、そういえば少し声が低いんだったと、蓮はおぼろげなライブの記憶を思い出す。

 コーヒーカップが回り始める。徐々に速度が上がり、周りから悲鳴が聞こえてくるが、蓮にはいまいち楽しさがわからない。


「なあ、これは何を楽しむ乗り物なんだ?」

「回さないなら景色を楽しんで、回すならぐるぐるするのを楽しむ」

「へぇ……」

「回す?」

「任せる」

「う~ん……。酔いそうだし、やめとく」

「遊園地向いてない説」

「前にテーマパーク行ったときは、普通に楽しんでた気がするのにな? 絶叫ばっか乗ってたけど」

「アトラクションによるのか、沙斗琉が盛り上げてたからか」

「沙斗琉さんは盛り上げのプロだもんなぁ」


 雑談をしているうちに、アトラクションがゆっくりと停止する。蓮と同じように無表情で降りる人も少なくなく、その多くはI'm a ☆のファンのようだ。葵と同じで、ただ推しの声を聞きに来ただけなのかもしれない。


「あんまりいい楽しみ方じゃなかったよなぁ……」


 アトラクションを降りながら、葵がぽつりとつぶやく。確かに遊園地の楽しみ方としては、誠実ではないかもしれないと蓮は思う。


「沙斗琉に遊園地の極意でも聞いてみるか」

「そうだなー。んじゃ、今日は全力で楽しめるやつ乗るか! あ、でも蓮の誕生日だし、蓮が乗りたいやつでいいよ」

「ジェットコースター」

「おけ!」


 蓮と葵は気持ちテンションを上げてジェットコースターに向かう。そのときふと、小さい子供と両親と思われる三人組の姿が蓮の目に留まる。

 小学校低学年くらいと思われる子供は、両親と片方ずつ手をつないで楽しそうに笑っている。両親もまた笑顔で、「楽しむとはこういうこと」という見本のように蓮には見えた。


(……遊園地の楽しみ方って、ああやって知っていくのか)


 母親とすれ違いの生活を送っていた蓮は、親と遊園地に来たことなどない。ましてや両親と三人など、閻魔を父に持つ蓮にはおとぎ話よりあり得ないことだった。

 もし、閻魔と真白と三人で遊園地に来たらと蓮は空想する。閻魔が蓮と真白を甘やかすのだろうか。真白はアトラクションに乗らず、食べ歩きばかりしているかもしれない。閻魔は絶叫系が苦手そうに思うが、蓮はお構いなしに閻魔をジェットコースターに乗せるのだろう。


(……考えても仕方がないんだけどな)


 蓮の心に、ほんの少しだけ寂しさが宿る。どれほど妄想を膨らませたところで、そんな未来が訪れることはない。

 蓮が自分の誕生日を忘れてしまう理由の一つは、親に祝われないことだった。理由は「祝い方がわからない」ことだったと、蓮は後になって真白から聞いている。きっと真白も、親に祝われた経験がないのだろう。

 楽しげな親子の背中を眺め、蓮は小さく微笑む。蓮の遊園地経験値も、誕生日経験値も、もしかしたらあの子供より低いかもしれない。


(これから知っていけばいいか)


 蓮は近くなってきたジェットコースターを見上げる。普通より遅れていたとしても、新しい経験を得られることに、蓮は胸を躍らせた。

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