第78話 鉛色の心
大粒の雨が無機質なコンクリートを濡らす。行き交う人々は色とりどりの傘の花を咲かせ、雨音に負けないほど賑やかな声を響かせている。
そんな街の様子とは裏腹に、ひなの心は空と同じ鉛色をしている。降りそそぐ水滴はひなの体を通り抜け、足元に大きな水たまりを作っている。
ビルの巨大なスクリーンでは、今日の芸能ニュースが数秒ごとに切り替わっている。その中の一つが、ひなの心に重りとなってのしかかっていた。
通りかかった男女が、スクリーンを見て驚きの声を上げる。
「えっ、れいにゃ卒業だって」
「アイスタの? マジ? まあ、熱愛とか言ってたもんね~」
「ドームで卒業ライブとか、規模でっか!」
「でも、れいにゃが抜けたアイスタってどうなんの? れいにゃで人気保ってたようなもんでしょ」
「たしかに。これで全盛期メンバー全員卒業だろ? なんか時代が終わった感じするよなー」
「それは大げさすぎ」
男女は笑いながら、ひなの体をすり抜ける。跳ねた泥はひなにかかることなく、足元の水たまりを茶色く濁す。
先ほどからひなの視線は、スクリーンに映る女性にのみ注がれている。女性は上目遣いの瞳を潤ませ、ステージの中心でぎゅっとマイクを握りしめている。下がった眉尻はいかにも寂しげだ。
音のないスクリーンでは、女性が何を言っているのかはわからない。けれど容易に想像がつき、ひなは馬鹿にするように鼻を鳴らす。
ひなは口の端を上げ、スクリーンを睨む。いつも明るいその瞳には、憎悪にも似た黒い色が滲んでいた。




