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霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお
2章 - 天に溺れる罪

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第76話 なるようになるだろ

 冷たい風が吹きつけ、本格的な冬の寒さが体を震わせる。(きら)びやかなイルミネーションに彩られた民家を眺めながら、蓮は夜空を白い息で染める。


「たまにあるよな、クリスマス前からめちゃくちゃ凝ったイルミネーション出す家」


 隣を歩く沙斗琉も、蓮と同じ方向を見てケラケラと笑う。


「これすっごいねー! サンタさんが屋根登ってるよ。気合入ってるねー」

「クリスマスってそんな重要な行事か?」

「ご家庭によりけりじゃない? あとは一緒に過ごす人がいるかとか」

「へー」

「興味なさそー……」


 他愛のない話をしていると、ふと橋を走る二つの影が目に入る。埼玉県から東京都に入った影は、蓮と沙斗琉に向かって大きく手を振っていた。


「蓮ー! 沙斗琉ー!」

「はっ、晴翔くん速いです……!」


 サラサラとした髪を揺らし、晴翔がおもちゃを見つけた子供のような勢いで走ってくる。その後ろを行く守は、晴翔についていくだけで精一杯のようだ。

 蓮と沙斗琉は立ち止まり、二人が橋を渡りきるのを待つ。先に到着した晴翔は、勢いを止めるように軽くステップを踏んで立ち止まる。


「おつかれ~! 回収はかどってる? うわっ、後ろの家すごいね。ギラッギラ」

「お疲れ様。すごいよねこれ。うちもツリーとリースくらいは飾ってたけど、ここまではしなかったかな」

「ぼくん家もここまではしなかったなー。けっこうビカビカな方だったとは思うけど」


 沙斗琉と晴翔が、先ほど蓮も見ていた家を眺める。蓮も守が来るのを待ちながら、交互に色が変わるイルミネーションをぼんやりと見つめる。


「ツリーって、普通の家にはあるもんなのか?」

「まあ、真白さんは買わないよねぇ……。でも、ご家庭によりけりじゃない? うちは世間体気にする方だし、ある程度のマウント取りで出してただけだと思う」

「何のマウントだ?」

「幸せな家庭ですマウント」

「ふーん」

「興味うっす!」


 蓮はそれ以上続けられる会話もなく、後ろを振り返る。ちょうど守が橋を渡り切ったところで、守は長距離を走った後のようにふらふらとしていた。幽霊には体力の概念がないはずだが、「走ったら疲れる」という先入観からくるものかもしれない。

 沙斗琉も振り返り、守にひらひらと手を振る。


「守くんお疲れ~」

「お、お疲れ様です……」

「大丈夫? 研修終わってから、今日が初仕事だっけ?」

「は、はい! 晴翔くんのおかげで、なんとか一件回収できました」

「ま、よゆーだよね~」


 晴翔が得意げに鼻を鳴らす。実際、三年前まで23区外の回収をしていた晴翔には慣れたものだろう。

 胸を張る晴翔に、沙斗琉は微笑ましい様子で笑いかける。


「晴翔くんは、埼玉の回収になったんだね」

「そ。埼玉の担当者が、二人とも退職して転生するからって。道わかんないのがちょっと大変かな~。守も東京の人だもんね」

「はい……。これから頑張って覚えます!」


 守は気合を入れるように両手を握る。初々(ういうい)しい様子に、沙斗琉の視線は保護者のように温かくなる。

 蓮はいつもの無表情で晴翔を見る。


「よかったな、事務に戻らなくて」

「ほんとにね~。やっぱ体動かす方が好き!」

「……夕樹はどうしてる?」


 少し真剣な色を帯びた蓮の声に、晴翔は動きをぴたりと止め、寂しげに目を伏せる。


「留置所? みたいなところにいる。天道の門の力のことで、なんか色々調べられてるんだって」

「……まあ、そうだろうな」


 天道の門の力は夕樹が元から持っていたものではなく、霊魂管理局が取り調べるのは当然のことだ。しかし夕樹は、霊魂管理局はおろか、身内である晴翔にも能力の出所を話してはいない。

 沙斗琉も眉間にしわを寄せ、風の音の中に沈黙が流れる。しかし晴翔はすぐに顔を上げ、得意げな瞳を蓮に向ける。


「でも、罪の見直しはされるみたいだよ! ぼくも沙斗琉も、めちゃっくちゃ閻魔様にうったえたからね!」

「いろいろ言ったけど、結局『蓮も時代遅れって言ってますよ』っていうのが一番効果あったね」

「俺を出しにするなよ……。まあいいけど」


 蓮は小さくため息をつく。沙斗琉は腕を組みながら、自嘲気味な笑みを浮かべる。


「まあ正直、十王たちも大変だと思うよ。常に時代に合わせろっていう方が無理だと思う。特に今は、変化が激しい時代だからね」

「全員ジジイだしな……」

「確かに。最新トレンド追い続けろって言っても無理な話だよねー」


 蓮のつぶやきに、晴翔がうんうんとうなずく。実際この変化の時代は、生者である蓮もついていけないときがある。

 とはいえ、いつまでも古い制度のままでいいはずがない。蓮は屋根を登るサンタクロースのモニュメントを眺めながら、小さく笑みを浮かべる。


「……ま、なるようになるだろ」


 晴翔は「そうだねー」と笑い、沙斗琉は苦笑する。守はあまりよくわからないまま、雰囲気に合わせて笑っているようだ。


「じゃ、ぼくら回収に戻るから。またねー!」

「あ、蓮さん! お暇なときに埼玉の道教えてください!」


 晴翔が手を振り、橋の向こうへ歩き出す。守も慌てて頭を下げ、手を振りながら晴翔の後を追いかける。

 沙斗琉と蓮は手を振り返し、小さくなっていく二人の背中を眺める。蓮は出会ったころより、二人の背中がたくましくなったように感じた。


「若いよねぇ」


 沙斗琉がしみじみとつぶやく。蓮は小さくうなずきながら、振っていた手を下ろす。


「まあ、お前とあいつらじゃ一回り違うからな」

「そうなんだけど、実年齢のことじゃなくてさ。雰囲気的な? なんか伸びしろがあるよねーって話」

「そうだな」


 二人の背中が見えなくなると、蓮も次の回収場所に向かおうと歩き出す。そのとき、沙斗琉は思い出したように「あ」と声を上げる。


「ねぇ蓮、今度付き合ってほしいところがあるんだけど」

「いつ?」

「クリスマス……は平日か。その次の土日どっちかでいいや。予定ある?」

「クリスマスでもいいぞ。休み取るから」

「ほんと? なんか悪いねー」

「どこ行くんだ?」


 沙斗琉は少し寂しげに、しかしどこか呆れているような表情で微笑む。


「オレの実家」

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