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霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお


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第6話 天国と地獄の温度差

 会社の営業時間を過ぎた午後七時。蓮の家の玄関前から、ぱさぱさと布を払うような音が聞こえてきた。

 来客を察した蓮はすぐに玄関に向かう。客人がインターホンを鳴らすのとほぼ同時に、蓮はドアの鍵を開けた。

 待ち構えていた茶髪の青年は、満面の笑みで手に持っているビニール袋を掲げる。


「おーっす! ちゃんと牛丼買ってきたぜ!」


 この元気のいい青年が、蓮に個人的な連絡を寄こした生田(いくた) (あおい)だ。蓮の中学校の同級生であり、現在は蓮の会社で窓口と営業を担当している。先ほど聞こえたぱさぱさという音は、花粉を落としていたのだろう。


「蓮の分、大盛りにしといたから!」

「さんきゅー」


 蓮は大手牛丼チェーンのロゴが入ったビニール袋を受け取り、あいさつもそこそこに(きびす)を返す。葵は「おじゃましまーす!」と元気よく玄関をくぐり、自分の家のように慣れた様子で鍵を閉めた。

 蓮は部屋の隅から、折り畳み式のローテーブルを引っ張り出す。テーブルを部屋の中央に置き、その上に牛丼を並べたところで、手を洗い終えた葵が入ってきた。


「沙斗琉さんは?」

「今はいない」

「そっかー。せっかく一緒に買ったワックスつけてきたのにな」


 葵は上目遣(うわめづか)いに、目頭(めがしら)の上で分けた自分の前髪を見る。わざと跳ねさせた髪型はチャラくも見えるが、きちんと清潔感を残している。

 牛丼の蓋を開ける前に、葵は蓮が貸していたゲームソフトを返してきた。今はゲームをダウンロードできる時代だが、一昔前のゲームであるそれにダウンロード版は存在しない。


「めちゃくちゃ楽しかった! シンプルだから、逆にいくらでもやり込めるな!」

「だろ。続編もやるか?」

「やる!」


 蓮は本棚からゲームソフトを取り出し、葵に手渡す。その棚に並ぶのは、本よりゲームソフトの方がずっと多かった。


「蓮っていつゲームしてんの? 夜は幽霊の仕事してるんだよな?」

「土日の昼」

「だけ?」

「だけ」

「にしてはクリア早くね?」


 話しながら、葵は受け取ったゲームソフトを丁寧にリュックサックにしまう。蓮はそれを待ち、葵の準備が整ったところで手を合わせ、「いただきます」と声をそろえた。


「なあ。最近、幽霊見かけること増えたか?」


 蓮が割り箸を上下に引っ張りながら尋ねる。パキンと音を立てて離れた箸は、中途半端なところで折れた。

 葵は思い出すように視線を上に向け、「うーん」と(うな)る。


「あんまり変わんないかなぁ……。つか、遠目じゃ区別つかねーから、本当は幽霊でも「人多いなー」って思ってるかも」

「あー……。お前の場合はそうか」


 葵は蓮が霊魂管理局に勤めていることを知っている唯一の人間だ。そもそも冥界の存在自体、普通は本気で信じはしないだろう。

 しかし葵には、幽霊が人間と同じように見え、声も鮮明に聞こえている。影の有無で判別はできるが、遠目や暗がりではそれも難しい。蓮は雰囲気で判断しているが、葵にはその“雰囲気”はわからないらしい。

 葵は咀嚼(そしゃく)しながら首をかしげた。


「幽霊増えてんの?」

「幽霊というか……地縛霊が増えてる。半年くらい前から」

「半年前ってなんかあったっけ?」

「調べた限りじゃ何も」


 葵は牛丼の器を持ったまま「うーん」と目を伏せる。


「そもそも、地縛霊って増えちゃダメなの?」


 葵の問いに、蓮は牛丼を飲み込みながら首を縦に振る。


「魂の転生先って六つあるんだけど、それぞれ収容できる魂の数に限界があるんだ。人口が増加すると魂も増えるから、留まる魂を減らしてバランスを取らないといけない」

「へぇー。数が増えて、限界突破したらどうなんの?」

「前例がないから何とも言えないが……。多分、世界の境界が崩れて融合する」


 蓮の答えに葵はピンときていないようで、想像力を働かせるように斜め上に視線を向ける。


「えーっと……。簡単に言うとどういうこと?」

「ここが異世界と(つな)がる」

「異世界!?」


 その単語を聞いた途端、葵は興奮したように目を輝かせた。


「すげー! 漫画みてー!」

「すごくねーよ。地獄道(じごくどう)と繋がったら文字通り地獄だぞ」

「えー? 面白そうじゃん! 生きたまま地獄を見られるって、めちゃくちゃレアじゃね!?」

「そのまま死んでも知らねーぞ……」


 蓮は眉間(みけん)にしわを寄せて、牛丼についていたサラダを口に入れる。葵と蓮の温度差は、天国と地獄のようだった。

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