第64話 反抗期の理由
霊魂管理局から、条件付きで晴翔の現世滞在許可が下りた。条件は「蓮が晴翔を見張ること」。晴翔は常に蓮と行動を共にすることになり、蓮の仕事中は念のため沙斗琉も見張ることになった。
「沙斗琉、トランプ強くなぁい? スピードと神経衰弱じゃ全然使う能力違うのに」
晴翔がローテーブルに顎をのせ、悔しそうに頬を膨らませる。沙斗琉はマジシャンのように、空中でパラパラとトランプを混ぜている。
「そこそこ器用だからねー。記憶力はいい方だし」
「ていうか、その切り方なに? マジシャンなの?」
「マジックもできるよ」
「なんで??」
「一芸がある方が便利だったんだよね~。初対面の人とも打ち解けやすいから」
話しながら、沙斗琉は先ほどとは別のやり方でトランプを切る。重力を無視するようなカードの動きを、晴翔は不思議そうに眺める。
「便利って言うのはホストでってことだよね。そもそもなんでホストになったの? 就職に困りそうにも見えないけど」
「う~ん。反抗期かな」
沙斗琉はトランプを切る手を止め、懐かしそうに目を細める。
「うちは晴翔くん家と似てるところがあってね、いい大学行って安定した職に就くのが正解とされてた。オレも特に疑問を持たずに、そこそこ偏差値が高い大学に行ったんだ。そのときは髪も短かったし、染めてもなかったよ」
沙斗琉が長い襟足をつまむ。蓮は以前に軽く聞いたことのある話だったが、晴翔は意外そうに「へぇ~」とうなずく。
「最初は教師になろうと思ってたんだよねー。父親が教師だから。で、教育実習で小学校に行って、授業を見学させてもらったときに、将来の夢を発表してたんだ。そのときに、“オレの将来の夢ってなんだっけ”って思っちゃって」
「あー……」
晴翔が納得したようにうなずく。沙斗琉はまたトランプを手に取り、一番上のカードをめくる。そこにはクラブの四が描かれていた。
「全っ然思い出せなかったんだよね。小学校だとサッカークラブに入ってたから、適当にサッカー選手とか言ってたのかな? 本気で考えたことなんかなくて、きっと親が期待する道を行くんだろうって思ってた。でもそれって、オレの道じゃなくない?」
「うん」
晴翔は強くうなずく。きっと晴翔も同じことを思ったことがあるのだろう。親に何も言われてこなかった蓮は共感を諦め、仕事の画面を眺めながらぼんやりと耳を傾ける。
沙斗琉はトランプを戻し、また切り始める。
「一回そう思ったら止められなくてさ、グレちゃった。就職とかどうでもよくなって、髪染めて、親とケンカして、家出して、友達とか彼女の家で寝起きした。でも今思うと、グレる予感はもともとあったかも。中学のときから、親の見てないところで女の子とっかえひっかえしてたし」
「急にクズみたいなこというじゃん!」
「ホストの素質はあったんだな」
晴翔と蓮の言葉に、沙斗琉は情けない笑みを浮かべる。
「素質っていうか、他に何もなかったんだよね。運動はそれなりにできたけど、それで食べていけるほどじゃないし。勉強ができても、真面目な職業についたら親の思うつぼでしょ? 親が嫌がりそうでオレにできそうな仕事って考えてたとき、思いついたのがホストだったんだ。実際、才能はあったんじゃないかな。教員になるより遥かに稼いだよ」
自慢話のようだが、沙斗琉の声色はどこか寂しげに聞こえる。晴翔は沙斗琉の顔色を窺うように、恐る恐る口を開く。
「ホストになったこと、後悔してる?」
「してないよ」
沙斗琉は即答して首を横に振る。
「むしろ、親の決めた道を行かなくてよかったと思ってる。結局客トラブルで死んだけど、それはオレの責任だしね~」
沙斗琉はトランプの束をとんとんと揃え、懐かしむように微笑む。
「あのまま親の言う通りにしてたら、何かあったときに親のせいにしてたと思うから」
晴翔がはっとしたように目を開く。目元に影を落とし、晴翔は膝を抱えてうつむく。
「……そうかも」
沙斗琉がトランプから晴翔に視線を向ける。蓮も椅子を回し、横目で晴翔を見る。その声は、今まで聞いてきた晴翔の言葉で一番弱々しかった。
「ぼく、うまくいかないことお母さんのせいにしてた」




