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霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお
2章 - 天に溺れる罪

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第60話 二杯目のコーヒー

 蓮がマグカップを揺らし、コーヒーの香りが立ちのぼる。深い苦みのある香りの中、蓮と沙斗琉は終始落ち着いた様子で話していた。


「扉から本部の幽霊たちを呼び出す案もあったんだけどな。人手不足を理由に却下された」

「課長が「こっちも忙しいから、君たち二人で捕まえてくれ」ってねー。でもさっきの部長の口ぶり的に、失策と取られてるかもしれない。今頃課長は怒られてるかもね」

「そうだな。で、沙斗琉には当日、俺の後を追ってもらった」

「ずっと後ろにいたんだけどねー。気づかなかったでしょ」


 ケラケラと笑う沙斗琉からは、夕樹と対峙(たいじ)したときの不穏な様子は見られない。しかし空元気である可能性は否めず、葵は少し迷いながら口を開く。


「聞いていいのかわかんないけど……夕樹さんと沙斗琉さんってどんな関係なの? なんか、沙斗琉さんめちゃくちゃ攻撃的じゃなかった?」

「元相棒ってだけだよ。てか、夕樹のこと全然葵くんに話してなかったね」


 沙斗琉は平然とした様子で、長い足をあぐらに組み替える。


「夕樹はオレの元相棒で、三年前に失踪した行方不明者だった。夕樹はもともと真面目な性格だし、最初は心配されてたんだよね。でもだんだんと悪口が目立つようになって、なぜかオレが怒鳴られたりしてさ。だから……」


 沙斗琉の視線がすっと鋭くなる。


「次会ったら絶対殴ってやろうと思ってたんだよね」

「わぁ……」


 沙斗琉のこめかみにうっすらと筋が浮く。口元は笑みを(たた)えているが、目元が一切笑っていない。

 葵は遠い目で沙斗琉を見る。温厚な沙斗琉が怒りを(あら)わにするのは珍しい。実際、殴るどころか刃物を投げつけていたことを思い出し、葵は沙斗琉を怒らせるのはやめようと心に誓った。

 蓮はコーヒーを飲み干し、空になったマグカップを見つめる。


「鎌ぶん投げたときはさすがにびびった」

「いや、そうそうそう!! あれ怖かったよなぁぁ!」

「蓮たちには当てない自信があったからねー」

「え? 武器投げるような部活でもやってた? やり投げ部とか」

「やり投げなら陸上部じゃない? まあ、やってないけど。部活はテニスとバスケだけ」

「モテる人が入る部活だ」

「テ〇プリが流行ってただけだけど」


 沙斗琉との歳の差を感じながら、葵は「へぇー」とうなずく。葵はふと、なぜ沙斗琉が殴らず鎌を投げたのかが気になった。


「沙斗琉さんは飛べねーの?」


 何気ない葵の問いに、沙斗琉は少し気まずそうに眉を下げる。


「実は飛べないんだよねぇ……。あれって誰でもできるわけじゃなくてさ。ちょっと才能がいるっていうか……」

「あー……。そうなんだ。誰でも飛べると思ってた。なんかごめんな」


 様々な幽霊を見てきた葵にとって、幽霊が浮いている姿は決して珍しいことではない。軽率なことを言ったと葵は反省するが、沙斗琉は「気にしないで」と笑った。

 気まずくなった空気を斬るように、蓮がマグカップを机に置く音が響く。蓮は椅子を回して葵たちに体を向けた。


「これからどうする? もう簡単には接触できないと思うが」


 沙斗琉と葵は真剣な表情でうなずく。


「向こうから来ることはもうないだろうし、こっちから探しに行くしかないよね。手がかりないけど」

「偶然会っても逃げちゃうよなー。オレはワンチャンある?」

「ないとは言えないが、葵が会ってもな……」


 沙斗琉は考えるように目を伏せる。


「回収ついでに、地縛霊から目撃情報を集めるしかないかな」

「スカイツリーとか東京タワーとか、高いところから探すって手はあるぞ」

「でもわかりやすく動くと部長に怒られるよ。「あとはこちらで処理する」って、つまり関わるなってことでしょ」

「そうだな……」


 蓮たちはしばらく考えるが、いい案は出そうにない。


「……しばらくは大人しく回収に徹するか?」


 蓮がそう言うと、沙斗琉は諦めたようにため息をつく。


「そうだね。回収のときに、地縛霊たちにそれとなーく聞くくらいにしようか。偶然集まった情報で怒られることはないでしょ」


 蓮と葵が同時にうなずく。その様子に、沙斗琉は(あき)れた笑いを浮かべ葵に目を向ける。


「葵くんは付き合わなくていいんだよ?」

「そうかもしれないけど、そもそもオレが持ち込んだ話だしさー」


 蓮は腕を組み、険しい表情を葵に向ける。


「葵は積極的に探さなくていいが、向こうから接触してくる可能性がある。霊魂管理局の関係者ではないし、一回誘いに乗ってるから“押したら協力してくれそう”と思われてる可能性がある」

「やっぱそう思う……?」


 葵は遠い目で蓮を見る。蓮は見間違えようもないほどしっかりとうなずいた。


「もし遠くから天野 夕樹を見かけたり、接触されたりしたら連絡してくれ。一人で解決しようとするなよ」

「わかった!」

「絶っっっっ対深追いするなよ。お前が車に()かれたこと、まだ覚えてるからな」

「うぅ……。わかってるよぉ……」


 蓮は般若(はんにゃ)まではいかないが、恐ろしい形相(ぎょうそう)で葵を睨む。数か月前の地縛霊増加事件で、葵は犯人を追いかけようとして車にぶつかり骨折したのだ。

 今はすっかり治っているが、完治までは思いのほか時間がかかった。葵もさすがにもう一度骨折したいとは思わない。

 「よしっ!」と沙斗琉が勢いよく立ち上がる。


「じゃ、夕樹をぶん殴って冥界に連行するために頑張ろう!」

「おー!!」


 葵が気合の入った声を上げ、拳を突き上げる。蓮は低いテンションで「おー」と返し、二杯目のコーヒーを()れに台所へと向かった。

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