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霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお
2章 - 天に溺れる罪

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第59話 お前がカバーしてくれ

 時はスカイツリーで回収を行った日まで(さかのぼ)る。

 沙斗琉が展望台から地縛霊を連れて戻った後、蓮たちは霊の要望で商業施設を回った。

 楽しい時間を過ごし、蓮たちはエントランスから外のデッキに出る。守がこぢんまりとした門を出したとき、沙斗琉は思い出したように「あっ」と声を上げた。


「守くん、先に戻っててくれる? ちょっと蓮と話があって」

「あ、はい。わかりました! で、では、ご案内しますね」


 守は幽霊と共に門をくぐり、白い(もや)に包まれる。守の姿が完全に見えなくなると同時に、門は霧散(むさん)した。

 蓮は眉間にしわを寄せて沙斗琉を見上げる。


「……展望台で何かあったか?」

「察しがいいね。ちょっと座ろうか」


 そう言った沙斗琉は笑みを浮かべてはいるものの、どこか表情が固い。

 蓮と沙斗琉は、すっかり人のいなくなったデッキのベンチに腰かける。日が落ちてしばらく経っているベンチは、木製とはいえひんやりと冷たい。

 蓮が横目で沙斗琉を見ると、沙斗琉は少し迷っているように見えた。


「……蓮は、天野 夕樹のことをどこまで知ってる?」


 そう尋ねられ、蓮は一瞬、葵と夕樹が会うことを知られているのかと思った。しかしそれにしては聞き方がおかしい気がして、蓮は質問に素直に答える。


「晴翔の兄貴で、お前の元相棒。成績優秀で人望もあったが、三年前に失踪して今は行方不明」

「概要は知ってる感じね」

「上っ面だけな」


 膝の上で組んだ沙斗琉の手に、ぎゅっと力がこもる。


「さっき見たんだ。展望台から」

「……天野 夕樹を?」


 沙斗琉は視線を下げたまま小さくうなずく。


「そう。普通に歩道を歩いてるのが見えた」

「目ぇいいな……」

「視力というより、気配? すぐ見失っちゃったんだけどね」


 真剣な沙斗琉と全く()み合わない蓮の返しに機嫌を悪くすることなく、沙斗琉は淡々と話を続ける。


「元相棒かどうかに関わらず、夕樹は霊魂管理局の捜索(そうさく)対象の一人だ。追わなきゃいけないし捕まえなきゃいけない。さっきは判断に迷ってるうちに見失ったけど、次はこうならないようにしたい。だから、夕樹を見つけたときに取る行動を決めておきたいんだ」


 そう話す沙斗琉の瞳に迷いはなく、元相棒としてではなく、霊魂管理局の一員として話しているように見える。感情を抑えている様子もなく、蓮は沙斗琉が夕樹に対して未練がないことを理解する。


(なら、隠す必要はないか)


 蓮はズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、メモアプリを立ち上げる。


「実は、()がもうすぐあるかもしれなくてな」

「えっ、どういうこと?」

「葵が天野 夕樹に会ったらしい」


 蓮は沙斗琉に、次の土曜日に夕樹と会う約束があることを説明する。沙斗琉は終始落ち着いていて、感情的になる様子はない。


「霊魂管理局が気づいてると夕樹に知られたくないから、俺と葵で会って情報収集しようと思ってたんだが……。捕まえられたらその方がいいよな」

「そうだね。捕まえるなら幽霊が一人は一緒に行かないと。蓮は幽霊に触れないから。でも警戒されたら来てくれないと思うから、大人数の配置はできない」

「葵を巻き込む危険もあるしな。お前が来るか? 慣れてるやつの気配の方が気づきにくいかもしれない」


 蓮が尋ねると、沙斗琉は驚いたようにパチパチと(まばた)きをする。やがてその表情は、意地の悪そうな笑顔に変わる。


「オレが夕樹と会ったら、何するかわかんないよ? いきなり斬りかかるかも」

「結果的に扉に入ればそれでいい」


 沙斗琉は再び目を丸くして瞬きをする。沙斗琉は蓮から目を()らし、小さくため息をつく。


「蓮は甘いよねぇ」

「そうか?」

「うん。いつか自分の首()めるよ」

「そん時はお前がカバーしてくれ」

「えー? しょうがないなぁ……」


 沙斗琉は(あき)れたように小さく笑う。言葉に反して、その表情は嬉しそうにも見える。

 沙斗琉は勢いよく立ち上がり、大きく伸びをする。一見何でもないその動作は、どこか吹っ切れたように見えた。

 脱力した沙斗琉はくるりと蓮の方を振り返る。


「配置は課長に相談して決めようか。オレたちだけの問題じゃないから」

「それもそうだな。葵には黙っとくわ。あいつ顔に出やすいから」

「うん。わかった」

「俺ももう少し天野 夕樹について知っておきたい。弱みになりそうなことがあれば教えてくれ」

「弱みかぁ……。人質とか取れたらいいんだけどね」

「罪になることは却下」


 蓮は立ち上がり、空間に扉を出現させる。二人は早速作戦会議をするため、冥界へと足を進めた。

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