第59話 お前がカバーしてくれ
時はスカイツリーで回収を行った日まで遡る。
沙斗琉が展望台から地縛霊を連れて戻った後、蓮たちは霊の要望で商業施設を回った。
楽しい時間を過ごし、蓮たちはエントランスから外のデッキに出る。守がこぢんまりとした門を出したとき、沙斗琉は思い出したように「あっ」と声を上げた。
「守くん、先に戻っててくれる? ちょっと蓮と話があって」
「あ、はい。わかりました! で、では、ご案内しますね」
守は幽霊と共に門をくぐり、白い靄に包まれる。守の姿が完全に見えなくなると同時に、門は霧散した。
蓮は眉間にしわを寄せて沙斗琉を見上げる。
「……展望台で何かあったか?」
「察しがいいね。ちょっと座ろうか」
そう言った沙斗琉は笑みを浮かべてはいるものの、どこか表情が固い。
蓮と沙斗琉は、すっかり人のいなくなったデッキのベンチに腰かける。日が落ちてしばらく経っているベンチは、木製とはいえひんやりと冷たい。
蓮が横目で沙斗琉を見ると、沙斗琉は少し迷っているように見えた。
「……蓮は、天野 夕樹のことをどこまで知ってる?」
そう尋ねられ、蓮は一瞬、葵と夕樹が会うことを知られているのかと思った。しかしそれにしては聞き方がおかしい気がして、蓮は質問に素直に答える。
「晴翔の兄貴で、お前の元相棒。成績優秀で人望もあったが、三年前に失踪して今は行方不明」
「概要は知ってる感じね」
「上っ面だけな」
膝の上で組んだ沙斗琉の手に、ぎゅっと力がこもる。
「さっき見たんだ。展望台から」
「……天野 夕樹を?」
沙斗琉は視線を下げたまま小さくうなずく。
「そう。普通に歩道を歩いてるのが見えた」
「目ぇいいな……」
「視力というより、気配? すぐ見失っちゃったんだけどね」
真剣な沙斗琉と全く噛み合わない蓮の返しに機嫌を悪くすることなく、沙斗琉は淡々と話を続ける。
「元相棒かどうかに関わらず、夕樹は霊魂管理局の捜索対象の一人だ。追わなきゃいけないし捕まえなきゃいけない。さっきは判断に迷ってるうちに見失ったけど、次はこうならないようにしたい。だから、夕樹を見つけたときに取る行動を決めておきたいんだ」
そう話す沙斗琉の瞳に迷いはなく、元相棒としてではなく、霊魂管理局の一員として話しているように見える。感情を抑えている様子もなく、蓮は沙斗琉が夕樹に対して未練がないことを理解する。
(なら、隠す必要はないか)
蓮はズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、メモアプリを立ち上げる。
「実は、次がもうすぐあるかもしれなくてな」
「えっ、どういうこと?」
「葵が天野 夕樹に会ったらしい」
蓮は沙斗琉に、次の土曜日に夕樹と会う約束があることを説明する。沙斗琉は終始落ち着いていて、感情的になる様子はない。
「霊魂管理局が気づいてると夕樹に知られたくないから、俺と葵で会って情報収集しようと思ってたんだが……。捕まえられたらその方がいいよな」
「そうだね。捕まえるなら幽霊が一人は一緒に行かないと。蓮は幽霊に触れないから。でも警戒されたら来てくれないと思うから、大人数の配置はできない」
「葵を巻き込む危険もあるしな。お前が来るか? 慣れてるやつの気配の方が気づきにくいかもしれない」
蓮が尋ねると、沙斗琉は驚いたようにパチパチと瞬きをする。やがてその表情は、意地の悪そうな笑顔に変わる。
「オレが夕樹と会ったら、何するかわかんないよ? いきなり斬りかかるかも」
「結果的に扉に入ればそれでいい」
沙斗琉は再び目を丸くして瞬きをする。沙斗琉は蓮から目を逸らし、小さくため息をつく。
「蓮は甘いよねぇ」
「そうか?」
「うん。いつか自分の首絞めるよ」
「そん時はお前がカバーしてくれ」
「えー? しょうがないなぁ……」
沙斗琉は呆れたように小さく笑う。言葉に反して、その表情は嬉しそうにも見える。
沙斗琉は勢いよく立ち上がり、大きく伸びをする。一見何でもないその動作は、どこか吹っ切れたように見えた。
脱力した沙斗琉はくるりと蓮の方を振り返る。
「配置は課長に相談して決めようか。オレたちだけの問題じゃないから」
「それもそうだな。葵には黙っとくわ。あいつ顔に出やすいから」
「うん。わかった」
「俺ももう少し天野 夕樹について知っておきたい。弱みになりそうなことがあれば教えてくれ」
「弱みかぁ……。人質とか取れたらいいんだけどね」
「罪になることは却下」
蓮は立ち上がり、空間に扉を出現させる。二人は早速作戦会議をするため、冥界へと足を進めた。




