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霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお
2章 - 天に溺れる罪

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第44話 稼働停止

「稼働停止?」


 蓮と共に話を聞いていた沙斗琉が、言い渡された言葉をオウム返しする。執行部部長である変成王(へんじょうおう)は、落ち着いた様子で「ああ」とうなずいた。


 冥界にある霊魂管理局の本部。その一角にある会議室は、一見ごく一般的なオフィスの一室にしか見えない。おそらく、ここの写真を見て冥界だと思う者はいないだろう。部屋の中心には長机が置かれ、その周囲に並べられた椅子に出入口側から守、蓮、沙斗琉の順に腰かけている。

 蓮たちの目の前には、スポーティーなショートヘアの男性が座っている。彼は冥界の裁判官の一員であり、執行部の部長でもある変成王だ。きちっとしたワイシャツはたくましい胸板に押し上げられ、(まく)った(そで)から覗く腕は野球選手のように隆々としている。


「また人道(にんどう)で事件が発生してな。事件の特徴から、郷間の能力が疑われている」


 変成王は落ち着きのある低い声で言い、紙の資料を持ち上げる。


「人道で死した魂の一部が、冥界ではなく天道(てんどう)に入っていることが分かった。発生を確認したのは昨晩だが、実際にはもっと前から起こっていたようだ。死者が自ら天道に行く手立てはないことから、何者かが手引きしていると考えられている」

「それで、俺が怪しまれているんですね」


 蓮の言葉に、変成王は真面目そうな表情を崩さずにうなずく。


「人道と天道をつなぐ能力者自体は、国外にも探せばいるかもしれない。だが発生が確認できたのは日本だけだ。日本でその能力を持つのは郷間と紫蘭……閻魔王しか、我々は把握していない。特に関東で多く発生していることから、郷間が怪しまれている」

「閻魔ではないんですね?」

「あいつは昨晩、残業をしている姿を複数の獄卒が目撃している」

「アリバイありか……」


 蓮は小さく息を吐きながら腕を組む。同じタイミングで、守が恐る恐るといった様子で片手を上げた。


「あの……。質問いいでしょうか」

「構わない」

「初歩的なことで申し訳ないんですが、人道とか天道とかって、なんですか……?」

「ああ、話していなかったか。すまない」


 変成王は持っていた資料を、机の上に丁寧に置いて立ち上がる。部屋の隅にあったホワイトボードをカラカラと引き寄せ、守の正面で固定する。変成王はホワイトボードの真ん中に、大きな円を描いた。


「人道も天道も、魂の転生先の一つだ。転生先は六つあり、天道、人道、修羅道(しゅらどう)畜生道(ちくしょうどう)餓鬼道(がきどう)地獄道(じごくどう)という」

「あ、リ〇ーンに出てきたやつ……!」


 守がそう言うと、円に線を引いていた変成王の手が止まる。きょとんとした瞳を向けられ、守の顔が真っ赤に染まる。その横では沙斗琉と蓮が「霧の守護者のやつね」「俺通ってない」と話していた。


「……続けていいか?」

「はい。すみません……」


 変成王はホワイトボードに描いた円を六つに区切り、それぞれに転生先の名前を書き込む。


「今は全部を覚えなくてもいい。そんなところがあるとだけ認識してくれ。とりあえず話題に上っている世界だけ説明すると、人道はお前たち人間の住む世界。天道は快楽主義の世界であり、六つの転生先の中で最も幸せな世界とも言われる」

「天国ということですか?」

「いいや。天国は異なる宗教の概念だ。我々の管轄外だな」

「あっ、そうなんですね!?」

「元人間の中には、混同している者も多い。霊魂管理局でも認識があいまいなまま働いている者がいるくらいだ」


 変成王はペンの(ふた)を閉じ、ホワイトボードの溝に小さく音を立てて置く。椅子に座りながら、変成王は沙斗琉と守に目を向ける。


「郷間の稼働停止中は、鬼頭と野呂で回収にあたってくれ」

「はーい」

「えぇ!? が、頑張ります!!」


 緩く手を挙げた沙斗琉と対照的に、守は胸の前で握った拳を震わせる。守の様子に、変成王の乏しい表情筋がわずかに緩む。


「無理はするな。できる範囲でいい。おそらく、郷間の稼働停止はそんなに長引かないだろう」

「そ、そうですか? よかったぁ……」

「我々は疑っていないからな。諸外国への体裁(ていさい)だ。容疑者を野放しにしておくと、色々口出しされて面倒だからな」


 変成王は腕を組み、小さくため息をつく。冥界はもともと各国が独自に管理する、閉鎖的な世界だった。しかし世界霊魂管理機関、通称WSAが発足して以降、世界で一丸となろうという動きが活発になっている。それが必ずしも良い方向に働かないことは、変成王の表情から十分に(うかが)えた。


「ああ、そうだ。郷間、悪いが稼働停止の間、監視をつけさせてもらう。アリバイが確認できるまで、トイレと風呂以外はそいつと行動してくれ」

「わかりました。男性なら銭湯までついてきてもらっていいですよ」

「そこは任せる。今連れてくるから、少し待っていてくれ」


 そう言って変成王は席を立ち、足早に部屋を出る。冗談のつもりで銭湯の話をした蓮は、変成王の背中を見送ったまま固まっている。沙斗琉の口からは(こら)えきれない笑いが漏れ出ていた。

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