第41話 解ける未練の鎖
真夏日のような暑さを感じながら、真白は目の前の鏡をぼんやりと見つめる。生前の罪を映すというその鏡には、若かりし頃の非行に走った自分や、つい最近の霊を縛っている自分が映っている。
(冥界の裁判ってこんな感じなんだ)
紫蘭からかいつまんで聞いたことを思い出しながら、真白はただ時間が過ぎるのを待つ。御簾の向こうには“閻魔王”がいるらしいが、今のところ一言も発していない。
罪が全て暴かれ、真白は御簾へと目を向ける。真白の周囲を忙しなく動いていた鬼たちも、閻魔王の言葉を待つように立ち止まった。
「……下がれ、獄卒たち」
御簾の向こうから聞こえた懐かしい声に、真白は無意識に表情が緩む。似合わない口調と無理に出したような低音は、いったいどんな表情で発しているのだろう。
鬼たちは命令通り、早足にその場を去る。直後、勢いよく御簾が開かれた。
両腕を広げて走ってきた男は、満面の笑みを浮かべている。記憶の中と何も変わらない姿に、真白はいまさら、彼が本当に人間ではなかったのだと認識した。
「まーちゃん!!」
紫蘭は走ってきた勢いのまま、真白の体を強く抱きしめた。
忘れかけていたあだ名を呼ばれ、真白は目頭が熱くなるのを感じる。紫蘭の背中にそっと手を回すと、記憶の中よりも体積が大きく感じた。
「……太った?」
「なんで最初に言うのがそれなの!? 太ってはいないよ! たぶん……」
紫蘭はすり寄るように、真白の肩に顔を埋める。
「迎えに行けなくてごめんね。僕、本当にまーちゃんと……」
「それは手紙読んだから知ってる」
「読んでくれたんだ!」
「あの胸焼けするほど重い手紙ね」
「すごいでしょ! 頑張って書いたんだよ!」
「褒めてないから」
紫蘭はゆっくりと真白を離し、にこやかに微笑む。
「ずっと、会いたかったよ。まーちゃん」
「……私も。会えてよかった」
真白の口元から自然と笑みがこぼれる。真白は目を細めながら、未練の鎖がからからと解けていくのを感じた。




