第24話 らしくなかったかな
「蓮って、人の死因とか気になる?」
「全然」
「でしょうね」
ゲームを返しに来た葵は、新しいゲームを借りてすぐに帰った。「ファンとアイドルの接触は、やっぱり良くない」らしい。そもそも蓮が忘れていたせいであり、平謝りするしかなかったのだが、葵はいつも通り笑っていた。
その後も、蓮とひなは情報収集を続けた。朝九時から午後七時まで続けて、素性がわかった人数は一人。ひなが「握手会にいたかも」とファンクラブ会員を漁り、見つかった。正直一人も見つからないと思っていた蓮には朗報だ。
疲れから口数もやる気も減ってくる。それでも話していた方が続けられるからと、ひなは度々話題を振ってきた。
「沙斗琉の死因も知らないの?」
「それは知ってる。バディ組む前に資料で読んだ」
「本人からは聞いてないのね」
「わざわざ聞くことでもないだろ。愉快な話じゃねーし」
「たしかにね。……本人から言う分には聞いてくれる?」
元気のないひなの声に、蓮は椅子ごと振り向く。ひなはマウスをスクロールする手を止め、机に突っ伏していた。
「疲れたなら休め」
「疲れないよ。体ないもん」
「精神的な話だ」
「あんたも休むなら休んであげる」
蓮は小さくため息をつき、パソコンをシャットダウンする。蓮も疲れている上に、今日も地縛霊の回収に行かなければいけない。どちらにしろ、そろそろ止め時だ。
ひなは机に顔をつけたまま話す。
「葵くんが、あたしの死因を事故死って言ったの聞いてた?」
「ああ」
「そう報道されたのはあたしも知ってる。階段から足踏み外して転落したって。でも本当は違うの」
「他殺か?」
「うん」
ひなは顔を上げ、両ひざを抱えるようにして座り直す。いつも強気な瞳は、弱々しく伏せられていた。
「メンバーに突き落とされたの。人気投票三位だった子。その子の取り巻きもいた。一位だった子が卒業して、次の人気投票はあたしが一位だろうって噂されてた。あたしもそう思ってた。一位になったらセンターになれる。あたしもようやくステージの真ん中に立てるんだと思ってた」
「……怨恨か」
「うん。死んだあと霊体で稽古場に行って聞いたの。二位のあたしが死ねば、自分が一位になるからって、あの子は取り巻きと話してた。本当に一位になったのかは知らないけど」
ひなは抱え込んだ膝の中に顔を埋める。
「怖いよね。自分の成功のために、人を殺せちゃうんだもん。しかも、それが裁かれてない」
「死んだら裁かれる」
「そうだね。でも生きてるうちはのうのうとしてるなんて、やっぱり納得できないよ。あたしまだ、やりたいこといっぱいあったのに」
ひなは埋めた膝から小さく顔を上げ、テーブルの上のスマートフォンを眺める。
「この事件の犯人も、自分のためなら他人の魂がどうなってもいいのかな」
「……さあな」
蓮は椅子から立ち上がり、ひなが見ているスマートフォンを持ち上げる。映された画面を確認し、画面を落とした。
「そろそろ回収だろ。行くぞ」
「立てない。手、引っ張って」
「無茶言うな」
伸ばされたひなの手を無視し、蓮はズボンのポケットにスマートフォンを入れる。棚に掛けた鍵を手に取り、のしのしと玄関に向かう。ひなは少し気怠そうに立ち上がり、蓮の後に続いた。
「蓮」
「ん?」
「聞いてくれてありがと。あたし多分、ずっと誰かに話したかったんだと思う」
「そうか」
蓮が靴を履き、玄関の鍵を開ける。ひなは息を深く吐くと、両手を上げて伸びをした。
「らしくなかったな~。蓮にこんな話しちゃうなんて。忘れてね」
「別に。弱音吐きたいときくらいあるだろ」
蓮がドアノブに手をかけ、そのままゆっくりとドアを開く。蓮は振り返り、呆然と立つひなを訝しげに見た。
「なにしてんだ。置いてくぞ」
「あっ……。ごめん、待って待って!」
ひなは慌てて蓮を追いかける。ひなは熱を冷ますように、頬を両手で覆った。




