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霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお
1章 - 鎖の花が咲く夜に

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第23話 元アイドルとファンの邂逅

 冥界を後にした蓮は、現世で閻魔の接触者の情報を集めていた。

 閻魔との接触が確認できた人物は、蓮の母親を含め三十八人。しかし蓮と沙斗琉は(じょう)玻璃(はり)の鏡を見る権限がないため、これは閻魔が申告した人数だ。本当かどうか若干怪しいと思いつつ、閻魔が描いた人相書きをもとに、その人間たちを洗ってみることにした。

 蓮は現世、沙斗琉は冥界から情報を集める。しかし当然ながら、個人情報など簡単には手に入らない。蓮はパソコンモニターを眺めながら、固まった肩をごきごきと鳴らした。


「ぜーんぜん見つからなぁい! お得意のプログラミングでぱーっと情報とれないのぉ?」


 部屋の中央のローテーブルでは、ひながマウスとキーボードで蓮のスマートフォンを操作している。静電気を感知するタッチパネルは、霊体であるひなには反応しないからだ。

 ひなと岳は現場の目撃者として、調査の協力を申し出た。岳は冥界で沙斗琉の、ひなは現世で蓮の手伝いをすることになった。

 蓮はモニターに目を向けたまま、後ろに言葉を投げかける。


「技術的にはできるが、サイトの規約に抵触する」

「そうなの? じゃあ、しょうがないか……。現世の政府と霊魂管理局が協力してくれたらいいのにねー」

「人探しなら政府じゃなくて警察じゃねーか?」

「そっか。ていうか、回収課の仕事は地縛霊の回収だけでしょ? なんであんたたちが事件の調査なんかしてるの?」

「他に現世に降りる部署がないからだろ」

「作ればいいじゃん。現世のトラブル専門部署」

「人手はどうすんだ。結局回収課から抜かれるだけだと思うぞ」

「むぅー」


 文句を言いつつ、ひなはSNSをつぶさにチェックする。最初は感度が良すぎて使いづらかったマウスも、既に使いこなしていた。


「あたしたちは昼間暇だからいいけど、あんたは現世の仕事があるでしょ? 大変じゃない?」

「お前よりは大変だけど」

「まぁたそういうトゲのある言い方する……。わざわざ心配してあげてるのに」

「そんな横柄(おうへい)な心配の仕方があるか」


 そのとき、蓮の家のインターホンが鳴った。蓮ははっとして、パソコンでカレンダーアプリを見る。今日は仕事終わりに、葵がゲームを返しに来る予定が入っていた。


「悪い黒木、隠れてくれ。人が来るの忘れてた」

「え? 別に見えないでしょ。あ、マウスとキーボード片付ける?」

「見えるんだよあいつは」


 話している間に、ガチャリと玄関のドアが開く。どうやらひなを招き入れた後、鍵をかけ忘れていたようだ。


「鍵開いてるぞ~。蓮にしては不用心……」


 入ってきた葵は廊下の先を見て、ドアを半開きにしたまま手を止める。蓮の家は玄関からベランダまで曲がり角がなく、部屋の奥まで筒抜けである。葵の視線は、明らかにひなを捉えていた。

 葵は視線を動かさず、後ろ手にドアを閉める。手元を見もせずに鍵をかけ、無造作に靴を脱ぎ、大股で部屋の奥に突き進んだ。


「ひなちゃん……?」


 葵は手を中途半端に持ち上げ、目をぱちくりさせている。


「え? ほんとにひなちゃん? なんで? 亡くなったんじゃ……。あ、蓮といるってことは幽霊? いやでも、え?」


 蓮は自分の迂闊(うかつ)さに頭を抱えた。ひなは生前、有名アイドルグループに所属する国民的アイドルだった。葵がそのグループのライブに行っていたことを蓮は知っている。

 蓮は間に入ってひなを逃がそうと思った。しかしそれよりも早く、ひなは満面の笑みを葵に向けた。


「ひなのこと知ってるの? えー、嬉しい! ありがとー! ごめんね、ひな死んじゃったから握手もできなくて」


 ひなは可愛らしく握った拳を(あご)に添える。上目遣いに葵を見ると、葵は両手を振りながらぶんぶんと首を横に振った。


「いやいや、全然! こっちこそ、いきなりすみません!」

「ううん。覚えててくれて嬉しい! ありがとね!」


 葵は頬を紅く染め、照れくさそうに後頭部を()く。ひなの愛らしい表情と仕草に、蓮も「これがアイドルか」と感心した。思えば蓮は、アイドルとしてのひなを一度も見たことがない。


「えっと、ひなさん……」

「“ちゃん”でもいいよ。敬語使わなくていいし」

「あ、じゃあ……。ひなちゃんは、やっぱ亡くなってるんだよな? 蓮とは仕事仲間?」

「うん。同僚みたいな感じかなー」

「そうなんだ! でも元気そうでよかっ……あ、元気ではないのか?」

「うーん、元気は元気だよ? 体がないから病気もないし」

「そっか! ひなちゃんが亡くなったニュース見たときのこと、今でもすげー覚えてるんだよな……。人気投票の直前だったじゃん? そんなタイミングで事故死ってなんか……」

「葵」


 しばらく静観していた蓮は、パソコンモニターの電源を切りながら会話を(さえぎ)る。


「そいつは今アイドルじゃない。黒木も、無理に相手しなくていいから」

「あ、そっか……。そうだよな」


 葵は両腕を体に沿わせ、深く頭を下げる。


「すみません。オレ、考えなしに喋っちゃって……」

「えっ、いいよいいよ! 気にしないで! 蓮も、なんか気遣わせちゃった? ごめんね」

「別に。つか、普通に喋ってくれ。きもい」


 蓮は固まったひなと葵を気にもせず、先ほどまでひなが操作していたスマートフォンを手に取る。開きっぱなしの調査内容は、部外者の葵に見られてはいけない。蓮はスマートフォンからマウスとキーボードの接続を切り、画面を閉じてズボンのポケットに入れた。

 ひなはこめかみに筋を立て、仁王(におう)立ちで蓮の方を向く。


「なに? 照れ隠し? あんたってそういうとこあるわよねー」

「んなわけねーだろ。つーか、ファンの前でそんな態度見せていいのか?」

「あんたが普通に話せっていうから、望みを叶えてあげてるんでしょ? あたし優しいから」

「つまり、お前の普通はそれだと」

「あんたに対してはこれが普通よ。当然、みんなにはこんな態度取らないから」

「アイドルが相手によって態度変えていいのか?」

「どうせもうアイドルじゃありませんからー」


「……ははっ」


 二人のやり取りを聞いていた葵が、小さく笑い出す。蓮とひなが同時に振り向くと、葵は眉尻を下げて情けなく笑った。


「やっぱ、蓮はすごいなぁ」


 言葉の意図が分からず、蓮はパチパチと(まばた)きする。ひなはほのかに頬を染めて蓮からそっぽを向いた。

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