表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/37

第14話 地面から咲く鎖

「フン!」


 床から生えた太い鎖は、岳が左右に引っ張ると簡単にちぎれた。こんもりと盛り上がった力こぶは、黒いスカジャンの上からでもその(たくま)しさが伝わってくる。

 男は自由になった足を恐る恐る持ち上げる。何度か足踏みをして、男は感極まったように叫んだ。


「うおおおおぉぉぉぉ!!! 軽い!! 軽いぞおおおおぉぉぉぉ!!!!」


 男が横断歩道の真ん中をぴょんぴょんと跳ね回る。車のヘッドライトが男を照らすが、車は男にぶつかることなくすり抜けた。

 男の様子にひなが笑うと、男はぴたりと立ち止まり頭を下げた。


「お二人とも、あざっす!! もう一生ここで暮らすんだと思ってました!」

「喜んでくれてよかった~。気持ちよく成仏できそう?」

「もちろんっす! ひなたんが目の前にいるだけで感動っすよ!!」

「ほんと? 嬉しい~!」


 ひなは満面の笑みで(あご)に両手を添える。小顔に見せるだけのこのポーズに、深い意味はない。

 ひなは華麗に後ろを向き、右手を空間に(かざ)す。何もなかったそこに、寺にあるような屋根の付いた門が現れた。人が一人通れる程度の小さな門は、神々(こうごう)しくも禍々(まがまが)しい独特の光を放っている。

 ひなは再び男に向き直り、門に手を添えた。


「ここから冥界に行けるよ! 一本道だから迷わないと思うけど……。最後まで案内できなくてごめんね?」


 ひなが眉を下げ、上目遣いに男を見る。男は(ほほ)を赤らめ、もげそうなほど勢いよく首を横に振った。


「いやいやいや! (なま)ひなたんに会えただけで、もう本っ当にそれだけで幸せなんで!! なんなら死んで良かったくらい!!」

「も~。そんなこと言わないで! 来世では生きて推しに会えるように、ひな応援してるよっ」

「はいっ!!!」


 男は門の前で一礼し、骨が浮くごつごつとした腕を上げた。


「じゃ、あざっした!」

「うんっ! 気を付けてね~」


 ひなが手を振り、岳が小さく頭を下げる。門をくぐった男の姿は、(もや)にかき消されすぐに見えなくなった。

 ひなが右手を握ると同時に門が霧散する。ひなは両手を上げ、思い切り伸びをした。


「三件終わり~! つっかれたー!」

「お疲れ様」


 岳は身動きせず口だけを動かす。無愛想なのではなく表情が(とぼ)しいだけだと知っているひなは、元気よく「お疲れ様~!」と返した。


「はぁ~。顔疲れちゃった」


 ひなは(いた)わるように自分の頬を両手で包む。アイドルのころの(くせ)で、ひなは初対面の相手に必要以上の笑顔を向けてしまう。それも、生前の自分を知っている相手ならば尚更(なおさら)だ。

 ひなは携帯電話を開き、予定管理アプリにチェックを入れる。二年前に初めて触った二つ折りの携帯電話にも、随分(ずいぶん)と慣れたものだ。

 蓮の家で地縛霊発生データを見てから数日。地縛霊を作っていると思われる人物には出会っていない。それどころか、ここ数日の神奈川県の地縛霊発生数は減少傾向にあった。


(神奈川からは撤退したのかな……。決め打ちするにはまだ早いけど)


 ひなは携帯電話を両手で閉じ、レザージャケットの内ポケットにしまう。アイドルのころはあまり着なかったレザーは、想像より似合っていて気に入っている。

 回収ノルマは達成したが、ひなと岳は見回りをしてから本部に戻ることにした。事件の手がかりを見つけるためだが、ひなの本当の目的は少し違う。


(絶対蓮より先に見つけて、見返してやるんだから!)


 いくつかの道を越え、ひなと岳は川崎駅の近くにたどり着く。遅くまで営業する飲食店が多いこの場所は、終電近くでも賑わいを見せていた。

 ひなはふと、店舗の間の細い道に目を向ける。一人の霊がふらふらと歩いているのが目に入った。

 そして次の瞬間、突如として地面から鎖が現れた。


「!?」


 ひなが反応するより早く、鎖は霊の足に絡みつく。霊は前のめりになりその場に倒れた。

 ひなは慌てて辺りを見渡す。岳も気付いたようで目をぎょろぎょろとさせているが、終電に急ぐ人の波が連なり、犯人を特定できそうにない。霊の数も少なくなく、全員を確認するには時間がかかりそうだ。

 ひなはサイドテールを揺らし、勢いよく岳を見上げた。


「犯人見た!?」


 岳は無言で首を横に振る。ひなは舌打ちしたくなる心を抑え、大きく息を吐いた。


「いきなり地面から鎖が生えたってことは……遠隔操作ができるってこと?」

「そうかもしれない」


 二人の間に沈黙が流れる。ひなは爪が食い込みそうなほど強く(こぶし)を握った。


「……とりあえず、あの霊解放しよ。その後本部に報告する」

「わかった」


 二人は先ほど縛られた霊の元へ向かう。その霊も、自分の身に何が起こったか理解していないようだ。

 電車の発車ベルの音が、妙に遠く聞こえた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ