第10話 見えない犯人の輪郭
「やっぱり神奈川も増えてるみたいだね」
データの解析画面を見ながら沙斗琉がつぶやく。データの取得には時間がかかったが、解析はAIや蓮が開発したツールを使えばすぐに終わった。
そこそこ大きいモニターとはいえ、四人で見るには少し小さい。ひなと岳は蓮の両側から、沙斗琉は蓮の背後から画面をのぞき込んだ。
「増えてるのは横浜と川崎くらいね。それも観光地というか、都心から行きやすいとこばっかり」
ひなは先ほどまでの騒がしさが嘘のように、真剣な顔でモニターを指す。蓮はその指を追いながらうなずいた。
「西側は全然だな。横浜も件数は増えてるが、発生場所は日に日に東京付近に固まってきてる」
「やっぱり、増え始めたのは半年前からだね」
沙斗琉の言葉どおり、グラフは半年前から徐々に上昇している。東京23区の地縛霊発生件数と関連があるのは明らかだった。
蓮は背もたれに体をあずけ、高性能マウスでカラカラと画面をスクロールする。
「意図的に地縛霊を増やしてるやつがいると仮定するなら、犯人は東京を拠点にしてそうだな」
「わざわざ電車で移動するんだから、霊魂管理局の幽霊じゃないよね」
霊魂管理局に所属する幽霊は、本部の転移装置で現世の好きな場所に移動できる。現世から冥界にある霊魂管理局本部への移動も、現世の好きな場所から行える。この装置を駆使すれば、電車に乗らずとも遠くへの移動は可能だ。
「現世の霊とか人間ってこと? そんなことできると思えないけど……」
そこまで口にして、ひなははっとしたように目を開いて蓮を見る。
「実はあんたが……」
「俺にそんな力はない」
蓮は最後まで聞かずにひなの言葉を遮る。ひなは眉間にしわを寄せて蓮を指さした。
「だって、他に変な力持ってる人間いないじゃん! 自然にそんな力が芽生えると思えないし、あんたみたいに特殊な経歴の人間が他にもいるなら、さすがに本部が管理してると思うし!」
「俺ができるのは空間を繋ぐことだけだ。だいたい俺が犯人なら、電車使う必要ないだろ」
蓮の力は冥界の扉を開く能力ではない。その正体は、自在に空間を繋げる能力だ。
三つのダイヤルはそれぞれ、緯度・経度・世界を示している。一つ目のダイヤルで、現世や冥界などの世界を定める。残りの二つのダイヤルで経度と緯度を指定し、遥か遠くへの空間を開くことができるのだ。
蓮がその気になれば、日本からブラジルまでをたった一歩で行くことができる。わざわざ電車賃を払って神奈川に行くなど、手間とコストがかかるだけだ。
蓮の真っ当な返しに、ひなは机についた腕に顎を乗せて口をすぼめた。
「それはそうだけど……。じゃあ誰がやってるの?」
「それがわかったら苦労しねーよ」
蓮は手のひらを上にして、自身の頭の上に手を置く。沙斗琉はその手が自分に向けられていることを察し、蓮の手の上に自分の携帯電話を乗せる。
蓮はそれを握って手を下ろし、差し込み口に専用のコードを繋いだ。
「解析結果は俺から課長に送るから、何かわかったら情報くれ。神奈川の方が人少ないから、犯人探しやすいだろ」
「そんなに少なくないわよ! 神奈川なめてんの!? だいたい発生件数がそっちの方が高いんだから、あんたたちの方が見つけやすいんじゃない!?」
「幽霊以外も多いんだよ東京は。渋谷のスクランブル交差点で目撃したとして、犯人を特定できると思うか?」
「練馬区とかで探しなさいよ!」
「住宅街なめてんのか」
その後も、蓮とひなの言葉の応酬は続く。賑やかなその様子を、沙斗琉と岳は温かい目で見守っていた。
「若いねぇ」
「……いいことだ」




