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霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお


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第9話 呼んでないし興味もない

 冥界のシステムというものは、令和の時代を迎えた今でもほとんどがアナログである。

 チャットで情報を共有するようになったのは、ほんの三年前からだ。蓮が霊魂管理局に所属する際に、現世との紙の受け渡しは面倒という理由で電子化を進めた。


 チャットの情報を自動取得し、地図アプリに連携して地縛霊の位置を表示、さらに地域ごとに発生件数を集計――というのは、蓮が独自に開発したアプリケーションで行っていることである。

 冥界では、紙に地縛霊の情報を書き、チャットに手打ちで送付。最後に、担当地域別に紙をファイリングする。地縛霊発生件数は、“どれだけ紙が増えたか”で把握している。当然、その地域内のどこで地縛霊が増加しているかなど誰も見ていない。

 紙を一枚一枚めくるよりは、チャット情報を蓮が取得する方が速い。課長の指示で、各地域の担当者から蓮にチャットを共有することになったのだが……。


「集計っていつまでかかるのぉ? うわっ、爪割れてるじゃん! 最悪っ!」

「爪やすり持ってるよ。削ろうか?」

「ありがと沙斗琉ー! 頼りになる~」

「……」


 六畳の部屋に三人の幽霊が押しかけ、ずいぶんと窮屈なことになっていた。

 沙斗琉が蓮のベッドに腰かけ、隣に座る若い女性の爪を整えている。床にはドレッドヘアの大男が、どっしりとあぐらをかいていた。

 女性は指を沙斗琉に差し出したまま、口をすぼめて蓮を見る。綺麗(きれい)に巻かれたサイドテールがふわりと揺れた。


「ねぇ蓮ー、まだぁ? もう一時間は経ってるんだけど」

「うっせーな……。文句があるなら帰っていいぞ。携帯は御手洗(みたらい)さんに返すから」


 蓮は処理を続けるシステム画面に目を向けたまま、女性の方を見ようともせず答える。

 ドレッドヘアの大男は、体は動かさず首だけを横に振った。


「受け取れない。それはひなに(たく)された、ひなの持ち物だ」

「そうそう! あたしってば本部に信頼されてるから~」

「いや、二人の持ち物として支給されてると思うんだけど……?」


 沙斗琉の言葉にも大男は首を振る。彼の中では、携帯電話はあくまでも女性の持ち物らしい。


 二人は蓮と沙斗琉の同僚であり、神奈川県の回収を担当している。若い女性の名は黒木(くろき) ひな。小柄で可愛らしい容姿は多くの男性を魅了するが、反対に女性からは評判が悪い。その相棒の御手洗(みたらい) (がく)は、賑やかなひなとは対照的に寡黙(かもく)な男だ。大きな体は威圧感があるが、話してみると謙虚で控えめな印象を受ける。


 二人は神奈川県のデータを蓮に渡すためにやってきた。本部の命令である以上|無(むげ)に追い出すわけにはいかないが、静かな作業環境を好む蓮としては、この騒がしさは少々不愉快だ。

 回り続けていたシステムが止まり、データの取得完了を告げる。蓮は携帯電話から古い規格のコードを抜き、差し込み口を守るカバーを被せた。


「携帯使う作業は終わったから、もう帰っていいぞ」

「そういう言い方なくない? ていうか、元アイドルがわざわざ部屋に来てあげてるんだから、喜ぶのが普通でしょ!」


 爪を整え終えたひなは、ミニスカートをふわりと揺らして立ち上がる。わずかにニーハイを食い込ませた足で、ひなは弾むように蓮の隣に移動した。


「呼んでねーし。興味ねぇ」


 蓮はモニターに目を向けたまま、携帯電話をつまみひなに向ける。ひなは(ほほ)を膨らませながら、両手で電話を受け取った。


「あんた、あたしが国民的アイドルだったことも知らなかったもんねー。これだから引きこもりのゲーマーは」

「ゲーマー関係ねーだろ」

「うっさいチビ!」

「お前の方がチビだ」

「あたしは女の子だからいいの!」

「それこそ関係ねぇ」


 テンポのいい二人のやり取りに、沙斗琉がくすくすと笑い出す。


「蓮とひなちゃんって仲いいよね」

「「よくない!」」


 ぴったりと揃った声は沙斗琉の言葉を肯定しているようで、蓮は机に(ひじ)をついて舌打ちする。ひなが話しやすい相手だとは自覚しているが、それを素直に認めることは、蓮にはできなかった。

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