表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお
最終章 - 未練の果て

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/112

第105話 世界を変えてでも

 光り輝く金庫扉を抜け、蓮は無機質な地下牢の前に降り立つ。剥き出しの岩肌に覆われたそこに明かりはなく、扉を消すと真っ暗な闇に包まれる。だが一瞬格子越しに見えた人物は、蓮に驚きの表情を向けているように見えた。

 蓮はスマートフォンを取り出し、ライトをつけて格子に向ける。その向こうの人物は、「ぎゃっ!」とアニメのように大げさに両目を覆う。


「目がっ……目が~~~~っ!」

「似てねぇ」

「だって本家聞いたことないもん」

「冥界でラ〇ュタは流れねーか……」


 大の大人が子供のように頬を膨らませる姿に、蓮は「なぜこれに会いたかったのか」と自問自答する。しかしそう思ったところで、来てしまったものは仕方がない。


 閻魔がいる牢の中は、ずいぶんと殺風景だった。広さはあるものの、岩を砕いたような椅子が一つあるだけで、他には何もない。鉄のような金属でできた格子は頑丈そうで、幅が狭く、腕を通すこともできそうにない。

 蓮はきょろきょろと辺りに目を向ける。そこに見張りはおらず、他の牢は一つもない。どうやらここは特別な人を閉じ込めるための、特別な牢のようだ。


「霊魂管理局にこんな地下牢があったんだな。知らなかった」

「知らずにどうやって座標合わせたの?」

「マップ見たときに不自然に空いてるスペースがあったから、そこだろうと思った」

「推測だけで来たの? すごいね~」

「こういうとこは、だいたい隠し部屋か追加マップがあるからな」

「ゲームの知識だったかぁ……」


 へらへらと笑う閻魔は、捕まったことを全く気にしていなさそうに見える。蓮は閻魔に向き直り、いつもより少し真面目な表情を向ける。


「単刀直入に聞く。お前の目的はなんだ?」

「目的?」


 閻魔はとぼけた顔をするが、蓮は逃がす気はない。蓮は眉間にしわを寄せて閻魔を睨む。


「夕樹に天道の門を与えたのはお前だろ。理由を言え」


 閻魔は照れるように笑い、ぽりぽりと後頭部を掻く。


「ばれちゃったか~」

「否定しないんだな」

「もう父上と十王にはバレてるからね。浄玻璃(じょうはり)の鏡に全部映っちゃうんだもん」

「あぁ……」


 浄玻璃の鏡は全ての罪を映す鏡だ。罪は閻魔を継ぐ者にしか見えないが、初代閻魔に全て見られてしまったのだろう。

 しかしそれ以上答えない閻魔に、蓮は少し苛立(いらだ)ちながら質問をぶつける。


「冥界を通さず、天道に幽霊を集めて何をするつもりだった。それとも天道である意味はないのか? 母さんの鎖も、俺の扉も、本当は意図的に与えた力なのか?」

「質問がいっぱいだね~」


 閻魔は緊張感のない笑みを浮かべ、岩の椅子に腰かける。微笑む口元とは裏腹に、黒い瞳はどこか憂いを帯びている。


「どこから話そうかな……。やっぱりきっかけかな」


 閻魔は膝の上で指を組み、懐かしそうに目を細める。


「始まりは、本当に大したことじゃなかった。毎日死者の罪状を読み上げる生活に疲れて、ただ休みが欲しかった。でも冥界では休みがないのが普通で、何千年も同じ仕事をすることに誰も文句を言わなかった。まあ、休んだところでやることないしね~」


 閻魔はおかしそうにへらへらと笑うが、蓮は表情筋を一ミリも動かさない。リアクションをしない蓮を、閻魔はあまり気にしていないようだ。


「状況が変わったのが、二十五年……か六年前。父上がWSAに引き抜かれて、浄玻璃の鏡を使える僕が、次の閻魔になることになっちゃった。でも、僕はそれが本っっっ当ーに嫌でね。今よりもっときつい仕事を、さらに責任まで背負わされなきゃならないなんて、地獄に落ちる方がまだマシだと思った。だから冥界から逃げたんだけど……っていうのは知ってるよね」

「ああ」


 蓮はその話を、幼いころに何度か聞いている。さらにこの話に続く真白との馴れ初めは、耳にタコができるほど聞かされた。

 蓮はまた馴れ初めを聞かされるのかと思ったが、口を挟まず閻魔を見つめる。閻魔はうっとりとした様子で頬を染める。


「何度も話したかもしれないけど……逃走先に選んだ人道は、僕にとって本当に魅力的な場所だった。優しい人がたくさんいて、悪い人もたくさんいて、新しいことが次々に起こる、綺麗で汚い場所。こんな愉快な世界で、僕は過ごしたいと思った」


 聞き慣れた馴れ初めは、少しだけ切り口が違っていた。真白のことだけではない、人道全体の話を聞くのは初めてかもしれないと蓮は思う。

 閻魔は再び、憂いを帯びた表情を浮かべる。


「でも僕は一人で、頼れるものなんて何もない。そう思ってたとき、まーちゃんに会ったんだ。出会ったのは本当に偶然で、僕自身、こんなに惹かれると思ってなかった。僕はどうしても、まーちゃんと生きたかった。でも僕は冥界の住人だからって連れ戻されちゃった。このときからかな、本気で行動しはじめたのは」


 閻魔は「ふふっ」と柔らかい笑みを浮かべる。


「まーちゃんの力は、特に未来を見据えて与えたものじゃなかった。どちらかというと、まーちゃんに僕を縛ってほしいっていう願望の具現化かな。無意識に近いかも。結果的に地縛霊を()()()()()()、このまま世界が変わるかなーって期待したけど、そんなに甘くなかったね」


 蓮は眉毛をぴくりと動かす。しかし一旦話を最後まで聞こうと、横やりを入れたい気持ちをぐっとこらえる。


「夕樹くんの門はね、別に天道じゃなくてもよかったんだ。魂のバランスを崩せるなら、何でもよかった。ただ、夕樹くんに適性があるのが天道だっただけ。僕は適性のない力は与えられないからね。夕樹くん以外にも門を与えた子はいるけど、そんなに使ってくれないんだよねぇ。バレない程度に使ってる子もいるけど。びびって使わない子の方が多いかな?」


 蓮はパーカーのポケットに入れた左手をぐっと握りしめる。犯した罪の話をしているのに、閻魔の口調はいつもの「とぼけた閻魔」とほとんど変わらない。


(本当に、とんだ(たぬき)だな)


 沙斗琉の言葉に、蓮は今更ながら同意する。ここまで聞いていても、どこまでが演技なのか蓮には全くわからない。

 蓮はいまいち先の見えない話をまとめようと口を開く。


「魂のバランスを崩すことが、お前の目的なのか?」

「うーん……手段の一つかな。ただ僕に与えられる力でできそうなことがそれだっただけ」


 閻魔は椅子の上に足を乗せ、()ねるように膝を抱える。今までの「とぼけた閻魔」の色が薄まり、閻魔の目元に影が落ちる。


「父上の親知らずからできた僕には、死という概念が存在しない。地球が終わるまで、もしかしたら地球が終わっても、僕は冥界に存在し続ける。この先何千年も何万年も、毎日毎日、死者の罪を裁き続ける。大切な人と過ごすことも、後を追って死ぬこともできない。そんなの耐えられないし、耐えたいとも思わない」


 閻魔は立ち上がり、つかつかと蓮に近寄る。閻魔は蓮と自分を隔てる格子にそっと触れる。 


「だから、()()()()()()()()()()()()()()と思った。世界が変われば、僕にも死が訪れるかもしれない。あるいは、今まで死の概念を持っていた生物から、死が失われるかもしれない。人間から死がなくなれば、蓮くんも僕と同じように永遠を生きることになる。僕は蓮くんと一緒に過ごせるようになる」


 閻魔は苦しげに顔を歪める。それはいつものとぼけた仮面ではなく、きっとこれが、本当の“紫蘭”の表情なのだと蓮は思う。


「僕はね、蓮くんたちと同じ時間を生きたいんだ。世界の(ことわり)を曲げてでもね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ