第104話 意地っ張りな相棒
「蓮、大丈夫かなぁ……」
晴翔は石のベンチに座り、足をぶらぶらと揺らしながらつぶやく。終電も終わり人が減った池袋の公園で、幽霊たちは人間のようにベンチに座り、「うーん」と唸る。
夕方に蓮の家を出た幽霊たちは、「宿舎に帰ってもすることがないから」とあてもなく歩いた。そのうち池袋にたどり着き、なんとなく雑談を繰り広げ、気づいたら深夜である。
沙斗琉は長い脚を組み替えて考える。蓮を焚きつけたものの、これ以上手を出すべきか考えあぐねていた。
「どうだろうねぇ……。内心気が気じゃないとは思うんだけど。晴翔くんはお父さんが捕まったとき、どう思った?」
「ぼく?」
「他に父親が捕まった人いないから」
「そっか。まあ、普通ないよね」
晴翔は腕を組み、思い出すように空を見上げる。雲一つない空には星があるはずだが、ビルが明るすぎて一つも見えない。
「ぼくは、ちゃんと捕まったんだーとしか思わなかったかな。でもぼくらは蓮と状況が違うから、参考にならないと思う。お父さんとの関わり方も違うし」
「確かに。蓮にとっての閻魔様って、オレたちにとっての父親より特別だろうね」
沙斗琉の言葉に、ひなと岳もうなずく。守は少し寂しそうに目を伏せる。
「僕たちが、蓮さんの背中を押してあげることはできないんでしょうか?」
「蓮は素直じゃないからねぇ。そう簡単に押させてはくれないと思うよ」
沙斗琉の言葉に、全員が「ああ……」と納得の声をこぼす。蓮が頑固でひねくれ者であることは、口にしなくても共通の認識となっているようだ。
「みんな、こんなとこで何してんだ?」
不意に聞こえた声に、沙斗琉たちは一斉に振り向く。そこにはI'm a ☆のトートバッグを持った葵が、不思議そうに首をかしげて立っている。
沙斗琉はいつも通りの笑みを浮かべ、ひらひらと葵に手を振る。
「ちょっと雑談してただけ~。葵くんはライブの帰り?」
「うん。仕事早上がりしてライブ行って、友達と飲んでたら盛り上がりすぎて、終電逃した」
「えっ、大丈夫? 帰れる?」
「こっからなら歩けるから大丈夫」
「それならいいけど……。あと、たぶん何もないところに向かって喋ってる変な人になってるけど、それは大丈夫?」
「うーん、人少ないし平気だろ!」
葵は真昼の太陽のようにニカッと笑う。黄色いグッズのせいで余計に眩しく見えるのかもしれない。
葵は初対面の守と軽くあいさつをする。沙斗琉たちが蓮の話をしていたことだけは聞こえていたらしく、何の話か聞かれた沙斗琉は「蓮が意地っ張りなんだ」とだけ答える。葵は首がもげそうなほど大きくうなずく。
「そうだよなぁ。意地っ張りなんだよ蓮は。今日も蓮が変に仕事抱えてたから『なんかあった?』って聞いたんだけど、『大したことじゃない』としか返ってこなかった」
「あいつ、それよく言うわよね」
ひなの言葉に、葵はまた何度も首を縦に振る。
「まあオレがどんだけ心配しても、蓮が自分で解決するしかないんだけどさ? ちょっとくらい相談してくれてもいいよな~」
「葵くんでもそれなら、オレたちが相談されることは一生ないだろうね」
沙斗琉の意見に、ひなと岳もうなずく。一生は終わっているということは、特に誰も突っ込まない。晴翔は呆れたように顔を歪める。
「人のことには手出そうとするくせにねー」
「それが蓮さんの素敵なところですけどねっ」
守がふわふわと笑う。その純粋さに癒やされ、全員が笑顔になる。普段は無表情な岳も微かに笑っている。
葵は腕時計を見て、トートバッグを肩に掛け直す。
「じゃ、オレそろそろ帰るな! 明日は蓮に牛丼でも持っていくかー」
「葵くんも、人のことにちょっかい出す派?」
沙斗琉がいたずらっぽく尋ねると、葵は「うーん」と首をかしげる。
「相手によるかなぁ。蓮は寂しがりだから、ちょっかい出したほうが喜ぶだろ!」
葵が再び眩しい笑みを見せる。幽霊たちは一瞬驚いた顔をしたが、全員心当たりがあるようで、同意するように破顔する。
「じゃあ、またな~!」
葵は大きく手を振り、北に向かって歩いていく。飲んでいたと言っていたが、足取りはしっかりしていて酔っている様子はない。
沙斗琉は振り返していた手を下ろし、ふっと微笑む。
「ちょっかい出したほうが喜ぶか……。確かにねぇ」
「素直に喜びはしないでしょうけどね」
ひなの言葉に晴翔がうなずき、守は空笑いを浮かべる。
沙斗琉は真っ黒な空を見上げる。地上の明かりに埋もれた星は、上空まで近寄れば輝きを見せてくれるのかもしれない。
(それなら、最後までお節介焼こうかな。強がりな相棒のためにね)




