第103話 必要とされたくて
暗闇の中、蓮はゆっくりとまぶたを開く。電気を消して考え事をしていたら、どうやら眠っていたらしい。ベッドにあぐらをかいたまま寝るとは、我ながら器用だ。
蓮はベッドを降りて電気をつける。外はカーテンに閉ざされて見えないが、光が漏れていないということはまだ夜中だろう。スマートフォンを開くと、時刻は深夜一時を指している。
台所に行き、コップを取り出して水道の蛇口を捻る。コップにたまった冷たい水を、蓮は少しずつ嚥下する。ぼんやりとしていた頭が冷え、少しだけはっきりとしてきた。
『後悔しない?』
沙斗琉の言葉が、蓮の中で再びこだまする。
このまま閻魔に会わなければ、絶対に後悔しないと言えば嘘になるだろう。きっと後悔して、死ぬまで未練を引きずることになる。
しかし閻魔に会って後悔しないかと言えば、それも断言はできない。閻魔の真意を知ったとき、知らなければよかったと思う可能性は大いにあるのだ。
(どっちがマシか、だよなぁ……)
蓮は小さくため息をつく。
しかし本当は答えが出ていることを、蓮はわかっている。ただ、その行動に出る勇気がないだけだ。
『蓮くんは、どうして地縛霊を回収してるの?』
今度は夕樹の言葉を思い出す。なぜ夕樹がそんなことを聞いたのかと思っていたが、今になって蓮は察する。あれは、蓮が犯人の目星をつけているのか確認するためだ。
蓮が回収をしている理由をわかった上で。
(あいつ、けっこう腹黒いよな……)
蓮はため息をつきながらコップを洗い、ひっくり返して水きりかごに置く。部屋に戻り、スマートフォンをパーカーのポケットに入れ、回収課の名札を首にかける。
蓮は鍵を持たずに玄関に足を向ける。くたびれたスニーカーに足を入れ、乱雑に踵部分を引っ張る。
玄関の扉に手を翳し、蓮はふーっと息を吐く。慣れた動作のはずなのに、なぜか少し緊張している。扉を上書きするように現れた金色の金庫扉は、いつもより少し重々しく感じる。
蓮はダイヤルを回し、取っ手に手をかける。一瞬躊躇したが、覚悟を決めて扉を開く。
蓮は自分の答えに従い、閻魔に会いに行くことにした。それは閻魔の真意を知るためでも、閻魔に説教をするためでもない。本当にただ、会いに行くだけだ。
(俺は……親父に必要とされたくて、回収課に入ったんだから)




