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霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお
最終章 - 未練の果て

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第98話 後悔しない?

 晴翔は蓮につかみかかる勢いで近づく。いや、沙斗琉が晴翔の腕をつかまなければ、本当に掴みかかっていただろう。


「どういうこと!? 閻魔様は知らないって……」

「とぼけられた。……ってことだよね」


 感情的に怒鳴る晴翔と対照的に、沙斗琉は落ち着いた声で蓮に問いかける。蓮は眉間にしわを寄せ、小さくうなずく。


「ああ。いつもとぼけてるせいで、誰も虚言だと思わなかったわけだ」

「とんだ(たぬき)だねぇ」


 沙斗琉は笑顔のまま肩をすくめる。驚いている様子はなく、おそらく閻魔の仕業だと気づいていたのだろう。


「蓮はいつ気づいたの?」

「気づいたっつーか……素直に考えたら閻魔なんだよな。夕樹が失踪前、最後に会ったのはあいつなんだから。確証を得たのは先月。夕樹から聞いた」

「え、お兄ちゃん話したの!?」


 晴翔は大きな目が飛び出そうなほど驚く。それはそうだろう。夕樹は未だ、霊魂管理局には黙秘を貫いている。


「監察部からは「まだ吐く様子はない」って聞いてたんだけど……」

「まあ、素直に吐いたわけじゃないが……」


 蓮はぽりぽりと後頭部を掻く。


「夕樹をスカイツリーに呼び出したとき、俺がアホみたいなメッセージ仕込んだの覚えてるか?」

「縦読みすると『うそ』になるやつね」


 沙斗琉がそう言うと、ひなが呆れたように顔をしかめる。「何アホなことやってんの?」と声が聞こえてきそうだ。

 蓮はひなの表情を無視し、沙斗琉に顔を向けてうなずく。


「それと同じ方法で伝えられたんだ。『ん』で始まる言葉はないから、『えん』と『ま』で分かれてたけど」


『遠慮しなくていいから』

『また来てね』


 少し不自然なあの言葉は、夕樹に天道の力を与えた人物を示していた。なぜ突然答えたのかは、蓮にもわからない。もしかしたら、蓮が閻魔を疑っていることを察したのかもしれない。

 蓮は先ほどスルーしたひなに目を向ける。


「黒木は夕樹と同じように、閻魔から冥界以外の門の力を与えられたのか?」

「ううん。未遂」


 ひなはふるふると首を横に振る。


「その、夕樹さん? と、似たような力があると思うから調べてみないかって言われたんだけど、断ったの。麗奈のことは、その……誰かの手を借りずに自分の手で()ろうと思ってたから」

「物騒」


 晴翔がひなの発言に若干引き、ひなは少しムッとして晴翔を(にら)む。二人はほぼ初対面らしいが、すでに仲良くなったようだ。

 守は落ち着かない様子で、もじもじとしながらそっと手を上げる。


「あの……。黒木さんは本当にその……門? の力があるから、閻魔様に呼ばれたんでしょうか」

「違うだろうな。調べる(てい)で力を与えて、「力があった」ってことにするつもりだったんだと思う」


 蓮の意見に、沙斗琉が掴んでいた晴翔の手を離してうなずく。


「オレも薄々閻魔様かなーとは思ってたけど、これで確実になったね。食えない人だよ。人じゃないけど」


 皆が視線を下げ、部屋に沈黙が流れる。

 晴翔がぽつりと言葉をこぼす。


「ぼくたちにできることってないのかな」

「ないんじゃない? 閻魔様が冤罪(えんざい)じゃないならなおさら、何もする必要がない」


 少しきつく聞こえる沙斗琉の言葉に、晴翔は悲しげに眉を寄せる。

 沙斗琉は顔を上げ、いつもより真面目な様子で蓮を見る。


「蓮はどうするの?」

「え?」


 質問の意図がわからず、蓮は素っ頓狂な声を上げる。沙斗琉は蓮を見つめたまま、逸らす様子はない。


「WSAに捕まったら、閻魔様はもう戻ってこないかもしれないよ」

「それはそうだが、あいつの自業自得だし……」

「話しに行かなくていいの? 閻魔様が何を考えてるのか、何も知らないまま別れることになるよ」


 蓮はまっすぐな沙斗琉の視線から目を逸らす。

 蓮は夕樹から答えを聞いた日から、ずっと閻魔の真意を考えている。いくら考えても答えが出ることではなく、本人に聞いた方がいいことはわかっている。

 けれど蓮は、まだ真実を知る勇気がない。


「別に、俺は……」

「後悔しない?」


 ごまかそうとした蓮の言葉は、沙斗琉の優しい声に遮られる。沙斗琉は説教をするように、しかし優しげな表情で口を開く。


「オレはさ、未練を抱えたまま死んでるんだよ。あの子がオレを刺す前に、してあげられることはなかったのかとか。生きてるうちに親と話せばよかったとか。死んだ時の髪色で固定されるなら黒に染め直したかったとか」

「……別に似合ってるぞ、金髪」

「ありがと」


 話の腰を折られたというのに、沙斗琉は気にする様子もなく話を続ける。


「蓮はまだ生きてるからさ、後悔してほしくないんだよ。まあ、閻魔様は霊体になっても会えるけど……。それでも、閻魔様がWSAに連れていかれてからじゃ遅いし、やっぱり未練を抱えて死んでほしくない。これはオレの希望でしかなくて、お節介なんだけどね」


 沙斗琉は眉尻を下げて情けなく笑う。気を遣われたことは明らかで、蓮は沙斗琉を直視できず目を伏せる。

 沙斗琉が背中を押そうとしてくれていると、蓮も理解している。しかしすぐに結論を出すには、蓮の中で感情がまとまっていない。

 沙斗琉もそれをわかっているのだろう。蓮の答えを聞くことなく、手にしていたトランプを切り始める。


「まあ、今夜はゆっくり考えなよ。回収もないし、今日明日で閻魔様が移送されることはないと思うからさ。んじゃ、気を取り直して大貧民やろうか」

「えぇ……」


 晴翔がついていけないと言いたげに声をこぼすが、沙斗琉は無視してベッドに座り、トランプを配り始める。

 蓮はパソコンに向き直り、モニターの電源をつける。結局トランプを始めた幽霊たちの賑やかな声を聞きながら、蓮は仕事の画面をぼんやりと見つめた。

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