モンスター襲来
見てくれてありがとうございます!!
面白いと思って貰えると光栄です!!!
家の中は、先程見たとおり、木造の素朴な空中だった。部屋の真ん中には、簡素な縦長の机とそれを囲う、6つのイスがある。壁の方には小さめの棚だの壺だのが置かれている
「*#%◎£□>+」
今の言葉を無理矢理カタカナで表記するなら『ターラスシュ』だろか? 早く言葉を覚えねば。色々聞きたいこともあるし、何より今の身振りだけでは、この世界でまともに生きていくのは難しいだろう。
ベーグルは戦斧を壁に立て掛け、イスの一つを私に勧めた。そして、待っているように手で示しすと、部屋のドアへ引っ込んでいった。
しばらく待っていると、頬に薄く煤をつけた、ベーグルが戻って来て、私の手を引いて家の奥に連れて行く。ついたところは小さな浴室だった。風呂あるんだ。ありがてえ。中世ヨーロッパのように、入浴習慣のない文化圏ならどうしようかと思った。
薄茶色の布で出来たシャツのような服とズボンも渡してくれた。マジでありがてえ、それしか言えない。目が潤んじまう。服も髪も、被った血と泥がカピカピに固まって、最悪だったんだ。
ベーグルはまたどこかの部屋に歩いて行く。私は身体を洗い、湯に浸かった。異世界に来て初めてぼーっとしていた。今後の生活のこととか、今までのことみたいなことを、頭の中で回しながらながらだったけど。
風呂から上がって着替えた後、すごく困った。【ドライヤー】がない……。髪が、髪が傷んじまう。私が今まで大切に整えてきた、お御髪のキューティクルが剥がれちまう。
クソッ、家に入れてもらい、風呂にまで入れてもらえたのに、こんな事を思うのは、間違っているかもしれない。間違っているかもしれないが、元の世界が恋しくなっている。
出来るだけ、出来るだけ、負担をかけず、確実に拭き取るしか無い……。ちくしょぉぉぉ!! 帰りてぇぇぇ!! ぐうぅぅぅぅ、馴染め、馴染むのだ。これぐらいで音をあげてる場合じゃない。でも髪が、私の髪がぁ。
なんとか乾かした(乾いてない)とき、ベーグルがまたやってきて、先程の机の部屋に連れられていく。制服は置いておくように言われた。スマートフォンだけは、いつもの癖で取り出したけど、ここでは使えないかなぁ。とりあえずズボンのポケットに入れとこう。布の服はガサガサと肌に擦れた。麻みたいな植物の繊維を編んで作られてるのかな? 日本で着ていた服のありがたみを、異世界に来て知ることになった。今更か。
窓から覗く外はすっかり夜になっていた。廊下には灯りはないが、窓から覗く空には、砂をばら撒いたように星が広がっている。この世界、電球とか無いのかな? 元の世界の街は夜も街灯が照らしていたから、満天の星空なんて拝んだ事がなかったが。だがまだ、決めてかかるのは早い。都市部とかならワンチャン電球か、それに類するものがあるかも。
先程のリビングに戻ると、机に一本の蝋燭が立てられていて、ほのかな光が2人分の料理を照らしていた。コッペパンのようなサイズの縦長のビスケットみたいな粉物。焼いた何かの肉、そして煮込んだ野菜入りのスープ。ありがてえ。
一緒に卓に着く。ベーグルは両手を机の上で結び、目を閉じて何か呟いていた。祈っているのだろうか?これがここでのいただきますになるのかな? 祈り終えたベーグルは、私に柔らかく笑いかけ、食べ始めた。私としては、異世界のテーブルマナーとか全く知らないので、食べ方はベーグルの真似をすることにした。皿の横に置かれたスプーンとフォークとナイフ。まずスープにスプーンを向けた時だった。
ズシンッ!
重い音が、唐突に外から聞こえ、棚や皿がカタカタと震えた。振動の中心はこの場所から、家二軒ほど離れた位置だと推測できる。何か大きな物が落ちて来たような……。違う、『着地』したような気配。その瞬間、ベーグルの表情は微笑みから一転。瞳のトーンを暗く落とし、立て掛けておいた戦斧を手にとり壁の先を睨みつけた。
ズシン、ズシン、と足音をたてて、何かがこちらに近づいて来る。
「+☆££」
ベーグルは私に向かって静かな声で、短く何か言い、それっきり黙り込んだ。沈黙した私達に対し、足音は家の前まで来て止まった。壁一つ向こうから、シュー、シュー、と大きな息遣いが聞こえる。
次の瞬間、鳥のような三本爪が天井から突き出し、下に向かって踏み潰すように振り下ろされた。ミシミシ悲鳴をあげながら、あっけなく壁まで裂かれて、縦長の裂け目ができあがった。
破れた壁の先に、満天の星空が見える。その星空を遮って、ゆらりと姿を現したのは、巨大な、青紫色の、美しい怪鳥だった。日本の二階建ての家屋に、達しそうな高い位置から、黄色の瞳が私達を見下ろしている。鋭く弧を描くクチバシが印象的だ。
私が身構えた頃には、もうベーグルは飛び出していた。床を蹴って高く飛び上がり、鳥の首に向かって横なぎに斧を振るう。だが、鳥の方も巨体に似合わない速さで頭を屈めて一撃を避け、まばたきをする暇もないほど速く、首を回し、反撃の構えをとる。
猛禽類のような目が、空中に舞い上がったことで、進行方向を変えることのできないベーグルを正確に捉えた。ナイフのように鋭いクチバシが、腹の中心を狙い、寸分の狂いもなく迫る。
ガキィン!!
と、金属音が響いた。ベーグルが咄嗟に斧の柄を盾に攻撃を防いだのだ。しかし、元々の圧倒的な体重差に加え、空中では踏ん張ることができないこともあり、華奢な身体は弾かれたピンポン玉のように吹き飛ばされ、斜め前の家に背中から激突した。
ギイィィィィィィィィィィ!!!
青紫の怪鳥は、黒板を引っ掻くような、鋭くも低い鳴き声を響かせた。私はその光景を、ただ眺めることしか出来ない。壁にぶつかった彼女を中心に蜘蛛状の亀裂が走った。そのヒビの真ん中にめり込んでいるベーグル。これ、ヤバイ?
「¥@○€☆+++ッ!!!」
ベーグルは怒りの声をあげて壁を蹴り、鳥に向かって駆け出す。タフすぎるだろ……。でもさっきのクチバシ攻撃を防いでいたあたり、完全な無敵というわけではないのかも。今、声を上げているのだって、きっと壁にぶつかったのが痛かったからだ。
走りながら、今度は身体を狙い斧を縦に振るベーグル。鳥ものけぞったが、頭と違って動かしにくい胴体。完全には避けられなかった。
ズシャッッ
みずみずしい、肉が切れる音がして、鳥の腹に浅くも長い傷が縦に開く。ベーグルはその勢いのまま、青紫の巨鳥に両足の飛び蹴りを放つ。ゴキッッ、と怪鳥の肩あたりの骨が悲鳴をあげ、今度は青紫色の巨体が、吹き飛んで行く。
丘の中腹まで転がる怪鳥、追撃するベーグル。戦況はベーグル優勢のようだ。怪鳥は凄まじい力を持っているが、それはベーグルも同じだ。圧倒的な重量差を、圧倒的なスピードと重武器でカバーしている。
一つ気づいた事がある。元の世界の常識として、基本、武器は使い手よりも、ずっと軽いのが普通だ。
何故なら重すぎる武器を振れば、降った本人もその勢いに引っ張られ、バランスを崩してしまうから。当たり前のことだ。
しかし、その認識は異世界では改めなくてはならないようだ。どういう原理かは知らないが、ベーグルは自分と同等か、それ以上の重さの戦斧を、ブンブン振り回している。そして、より重要なのは重すぎる武器を振ったことによる、『勢いで引っ張られる』 ことすら、武術的な動きの中に組み込んでいるということだ。自分と同等の重さの金属の塊を、まるでオーケストラの指揮者が指揮棒を振るうように、軽く扱える怪力あっての戦術だった。なんだあのトンチキで先の読めない、それでいて体幹に筋の通った、流れるような美しい戦い方は。バレエとか向いてそう。
また、鳥にとって地上で跳ね回るのは苦手なことらしく、明らかにぎこちない動きをしている。
最初、壁が破られ、青紫の巨体に身構えた時は、私は何をするべきかと考えていた。何もしなくても大丈夫そうだ。というか何も出来なさそうである。超人と怪獣の異世界バトルに、一般JKは入っていけない。
ベーグルは息一つ乱さないまま、再び巨鳥の頭の高さまで飛び上がった。そして斧を振り下ろし、哀れな怪鳥の左目を切り裂いた。
ギイィィィィィィィィィ!!?
悲鳴をあげてたじろぐ怪鳥。もう勝負はついているように見えた。
カ
カ
カ
カ
カ
カ
カ
カ
カ
カ
ッ
!
鶏が喉を鳴らすような、けれどもそれより遥かに重い音。不気味な鳴き声が辺りに充満した。怪鳥の青紫の羽毛、その上を同じく青紫の火花がバチッ、バチチッと走り始めた。
バチッ……! バチバチッ! バババババババッ!!
「ッ!」
異変に気づいたベーグルは後退り、構えた。待て待て違う、たぶんそれはまずい。
「違う、ベーグル!! 離れて!! 離れろぉぉ!!!」
私は叫んだがもう間に合わなかった。
バッチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!
鳥から青紫色の電撃が、全方位に放出された。それは輝くドームを展開するように、瞬く間に周囲に広がり、ベーグルを呑み込んだ。電流はベーグルの身体をめちゃくちゃに駆け回り、全身の筋肉を瞬時に収縮させ、痙攣させた。
「………………ッ!!?」
痙攣し、逃げることも、声を出すことすら出来なくなったベーグルは、戦斧を構えた姿勢のまま身体中を焼かれている。
電撃は数秒程度で終わった。ベーグルは、構えた斧の重さに引っ張られるようにグラリ傾くと、その場でうつ伏せに倒れる。時折りピクッ、ピクッ、と痙攣するばかりで、それ以外には動かなくなった。そこに鳥が迫って来る。鋭いクチバシがギラリと光った。骨を溶かされてしまったように、ぐったりとなったベーグルを足で掴み上げると、頑丈な身体の弱いところを探すように残った目で観察している。ベーグルの閉ざされた瞼や首辺りに興味を持っているようだ。
私は、相変わらず壁の裂け目から、その光景を見ていた。見ているだけだった。頭からつま先まで凍りついたように固まっているのに、呼吸器だけが空気を読まずに酸素を求めている。心臓がバクバクと熱く跳ね回っているのに、胸からは血の気が引いてしまい冷たく感じる。本能が隠れていろという。そして逃げろと。
おかしい。私は高校生として生きていたはずなのに。
おかしい、おかしい。異世界転生したらなんか楽に幸せになれるって聞いていたのに。
おかしい、おかしい、おかしい。あんな化け物に敵うはずがない。どうしようもないのに。
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。
おかしい。どうして私はさっきから何も出来ない前提で嘆いている?
どうして勝つ方法すら考えていないのに、あの鳥に勝てないことにしている?
どうして、助けてくれた少女を助けられない……、助けない前提で逃げようとしている。
どうして私は、恩人一人傷つけられて、まだ壁の影に隠れてんだ!
だんだん、怒りが湧いて来た。目の前の理不尽なモンスターにも、理不尽に甘んじようとした自分にもだ。
『出来る事はまだいくらでもあるよ。小麦ちゃん』
頭の中に餅子の声が響いた。これは中学のテスト勉強の時の記憶か。餅子なんかめっちゃ勉強できたからな〜。そのことに対して、私は嫉妬心を持ってたんだっけ。でも、親友を妬むなんてダメだと思っていたから、誤魔化して、勉強自体を馬鹿にしようとしていたんだ。
そしたら餅子は『嫉妬は自分が何を求めているのかわかるから、無理に隠さないでいいよ』とかなんとか言いやがった。マジでなんなんアイツ。
まあ今は私の方が上だし? すごいやろ。ざま〜みい。
『出来る事はまだいくらでもあるよ。小麦ちゃん』
…………うるさいなあ。そうだね。
やってやろう。あの化け物倒すなり、撒くなりして、ベーグルを助けよう。
そう決意した私は脚で、ポケットのスマホの感触を確かめた。
襲って来た鳥は雷鳥という生き物。農作物に害を与える生物を食べてくれることから、一部地域では守り神として祀られていることもあるが、本来この地域には生息していない。
目を傷つけられるまで、電気を出さなかったことから解るように、本来は穏やかで、戦い慣れしてない種。
鋭いクチバシも、頑丈な殻を持った、動きの遅い生物(亀やカタツムリなようなもの)の甲羅の隙間を狙って中身をほじるために進化したもの。
ベーグルが電気を飛ばす能力を持つ相手に、よりによって斧をもって近づいてしまったのは、ベーグルにとって初めて見る敵だったから。
本来なら、ここは、村が存在しているぐらいには『安全な場所』だった。




