覚悟
お疲れ様です!!
読んで頂き、ありがとうございます!!
今回割と残酷かも知れないので、注意してください。
【前回のあらすじ】
モンスターが襲って来た。ベーグルが感電して倒れた。私、覚悟決めました。
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ピピピピピピピピピピピピピピピピ…………!
異世界には似合わない電子音が響く。私のスマホの、目覚ましアプリのアラーム音だ。
ズシンッ
壁の内側を背に、もたれ掛かる私に、怪鳥の足踏みの音が伝わって来た。どうかな? 動揺してくれたか? 次手が無いわけではないが、今のろくに時間もない状況で、考えた作戦の中では、これが一番マシなヤツだ。ベーグルを食べるのは、とりあえず延期にしてもらいたい。出来ることならば、警戒して逃げてくれるとありがたい。
ズシッ……。ズシッ、ズシンッ
吸い寄せられるように、ゆっくりとこちらに近づいてくる足音。興味を持っちゃったかー。だが、無反応よりは良い。よし、すごくすごく嫌で、勘弁してほしいが、まだ想定内だ。
鳥から見ると、家の裂け目の左側。抉られて見えなくなった側から、聞いたことがない音が聞こえていることだろう。さっき、戦わなかった人間が何か叫んでいた辺りに。しかも異音の出どころは人間の腰の高さ。
ピピピピピピピピピピピピピピピピ…………!
ズシン……。ズシン……。ズシン……。
警戒するようにペースが少し遅くなったが、怪物は確実に歩を進めている。恐竜が迫って来るような空気に、息を潜めながら、部屋の棚の中にあったナイフを両手で握りしめていた。木製の柄はザラついて、擦りむいた手の平が痛む。棚の中には他にも、数種類の他のナイフが入っていたが、持ち手の部分まで金属で出来ていたのでそれは使わないことにした。あの電撃ドームを相手にするには、焼石に水かもしれないけど。本当に一応ね。
ピピピピピピピピピピピピピピピピ…………!
ズシン……。ズシン…………。ズシン………………。
呼吸が早くなる、心臓は大きく、規則的に時間を刻んでいる。
『小麦ちゃん。深呼吸しよう』
息吸ってー……。吐いてぇー。吐く方を長めにするのがコツだ。よしよし、大丈夫だ餅子。まだ恐怖はある。実のところ、電撃鳥に焼き肉にされるより先に、重圧にひき肉にされそうだ。だがもう、迷いはない。ならば後はやるだけだ。
初めて持った、狩りに使うような分厚いナイフ。生き物を殺せる力を貸してくれる道具。向こうの世界で使っていた包丁よりもずっと重く、鋭く、……綺麗だった。刃は星の光を暖かく反射し、その奥には映り込んだ自分が見つめ返していた。まず、この世界に馴染もう。そして、必ずいつの日か、元の世界に帰ろう。
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ………………!!
ズシン………………。ズシン。ズシャッ。
地面を擦ることを最後に、足音は止んだ。あの怪鳥が首を伸ばせば、裂け目を覗けるぐらいの位置で。
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ……………………!!!!
アラームだけが狂ったように鳴っている。来い。来てみやがれ。しかし、壁一枚向こうにいる怪物はシュー、シュー、と呼吸を漏らすことを除けば、沈黙を続けている。
なにせ、左目が潰れているのに、隙間の左側から変な音が聞こえるのだ。そんな状態で穴に頭を突っ込みたいとは思わないのかもしれない。こいつちょっと知能あったりするのか? ……それはやめてくれよ。……頼むから。
ピピピピピピピピ……
突如鳥の首がしなり、クチバシが空を切る。そして、裂け目……ではなく左側の壁を粉砕し、頭ごと突っ込んだ。そして壁のすぐ先の、電子音を出しているあたりを、ティッシュでも破るように、容易に貫いた。
ピピピピピピピピピピピピピピピ……
…………スマホを置いていた【棚】。その真ん中を引き裂いて鳥の顔が晒されている。
かかったな! この鳥頭がぁ!!
裂け目の右側で構えていた私は、両手でナイフを突き出しながら床を蹴る。目指すは、まだ無事な右目。【棚】を凝視している青紫の瞳。大鳥の残った目に刃が突き刺さり、みずみずしいものを裂いだとき特有の感触がした。
ーーーーーーギイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!
鼓膜が破れそうなほどの凄まじい悲鳴をあげて、鳥は壁をめちゃくちゃに破壊しながらのけぞり、暴れた。閉じた眼から、鮮血が涙のように溢れ、ぽたぽたと落ちている。勢いよく吹き出した訳ではない。床全体を染め上げるほどの、大出血ではない。しかし、私が自分自身の手で、初めて大型の生き物を切りつけたという、背景にしては充分過ぎるぐらいで。命がこぼれ落ちていくとはこういう事を指すのかと、そんな思いを巡らせながら、私は家屋の裂け目に向かって駆け出す。よしこれで、追っては来られないだろう。
正直、この作戦は怪鳥の鼻が良かったら、詰んでいた。元の世界では、鳥という生き物は基本的に、鼻が悪かったが、私はまだこっちの世界に来て一日たっていない。モンスターの生態なんて何も知らないから心配していた。でも、頭の方も残念だったようで助かったぜぇぇぇ!!
そんなことより、早くベーグルのところに行かないと! 私は、暴れる鳥の横を通り過ぎようと駆け出し……。
カ
カ
カ
カ
カ
カ
カ
カ
カ
カ
ッ
!
身の毛がよだつような、鳴声が場を満たした。
バチッ。バチバチッ!バリバリバリッ!ババババババババババババババババババババッ!!!
青紫の火花が鳥の羽毛を包み始める。
「………あっ」
さっきの電撃は、7〜8mほどの範囲の全てのものを焼き潰していた。今まさに、横を突っ切ろうと、勢い良く走り出した、私は逃げられない。
死
死
死
死
死
死?
バッチィィィッ!!
雷鳴が轟き、鳥は稲光を広げ……。
ザンッ!!
後ろから飛んで来た戦斧に頭を貫かれた。ぐらり、と巨鳥の身体が力を失い、こちらに倒れて来る。
「ッ!!」
とっさに身をかがめる。大きな物が倒れる音がした。砂埃が舞い上がる中、恐る恐る、目を開けた先にいたのは、ベーグルだった。片手で鳥の身体を支えている。
「◇€$▲£◎ッ!!」
今の言葉を、カタカナ変換すると「ツァーレルナッ」かな?
何にか分からないが瞳を輝かせているあたり、悪い意味で言っているわけではなさそうだ。
鳥を向こうに押し倒したベーグルは、ガバッと私に抱きついて来た。
「ツァーレルナッ! ツァーレルナッ! コムギィ!
♡¥▲▼@%○%✖️!? £$#○£△✖️$>%♡□+#!! (この辺何言ってるかわからない)」
「うぐぅ」
ぎゅうっと、すごい力でしがみつかれた私はちょっとうめいた。死ぬ死ぬ死ぬて。今さっき、死にそうな状況を乗り切ったばかりなのに、ハグで死んじまう。
「◇▲@%£▼」
ベーグルは、私の様子に気づいてハグを弱める。そしてまた「ツァーレルナッ」を繰り返している。
「良かった……。二人とも無事で」
フラッ、と私の足がバランスを崩す、疲れた……。
息の荒さも戻らないし、身体も熱い。……めまいもして。……やたらと寒い。
私の身体に力が入らない。ベーグルにもたれかかっていた。もしベーグルかハグをしていなかったら、そのまま地面に倒れ込んでいただろう。
「……!? コムギィ!?」
ベーグルも私の異変に気づいたようだ。頭がぼやける。おでこに触れて来たベーグルの手がすごく冷たく感じる。喉の奥が渇き、ゴホッ、ゴホッと咳が出た。
「……とり……あえず………休ま…………せ……」
意識は高熱に沈んでいき、朦朧とした頭の中、やけに遠くから聞こえるように、ベーグルが私を呼ぶ声と、スマホのアラーム音が反響している。
……待て。なんとか……アラームを止めないと…………。充電……なくな……る………………。
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次回、『異世界病と言の葉』
なんでこんな子が、こんな酷い目に遭わなきゃならないの……?
筆者のせいか……。




