8 Revisited
ヨウジは、めずらしい客を迎えていた。
カリフォルニアからやってきたドイツ系アメリカ人、シュナイダーだ。
ユカリの主治医というか担当カウンセラーをしている。
学会への出席と休暇を兼ねて来日し、連絡をくれたので店の場所を教えた。
『ドラゴン・ヌードル』のほうだ。
小さな店の奥にふたつだけあるテーブルの片方で、二年ぶりに向かい合った。
「このビジネスで成功されているんですね、おめでとうございます」
「成功ってこともないんですが、なんとかね……その節はどうも」
「わたしは、患者さんやそのご家族と個人的に親しくしない主義なのですが」
そう言いながらシュナイダーは、仕事の時よりはかなりにこやかだ。
「ヨウジさんのことはなぜか気にかかっていました」
「そりゃ、なんて言っていいか……なにか飲まれますか、ビールがいいかな」
「ドイツ人はビールが好き、そして日本のビールは旨い……けれど」
シュナイダーは背も高いが腹もつき出ている。
その腹を自分でうらめしそうに見やった。
「最近は、焼酎にしているのです」
(なんだ、日本のオヤジとかわんねえな)
ヨウジは苦笑しながらウェイトレスの優奈を呼んで、用意をしてもらった。
「日本には長くいられたんですよね」
「六年とすこしいました、そして五年ぶりです、ヤングボーイも三十一になってしまいましたよ」
「おれと同じだったんですね」
先生扱いをしていたので、同い年と聞いたのは意外だった。
「どうですか、日本はなつかしいですか」
「そうですね、五年の間にはずいぶん街並みも変わりましたけど……アサクサに行ってみたいです」
「浅草? あの辺りはそんなに変わりませんね」
「そうです、そこがいいのです」
(ますます、そこらへんのオヤジだな)
「ゆっくりしていかれるんでしょう? だったら浅草で遊んだり、駒形でどじょうでも食べて」
「ドジョウ」
シュナイダーの顔色が曇った。
「あれはいけません、生きたまま鍋に投げ込むのでしょ?」
「いや、駒形のは、さばいてなかったっけ……」
「調理法はいくつかあるのだと思いますけど」
シュナイダーはほんとうは思い出したくないのだという表情で、続けた。
「最初にどじょう鍋を出された時にそう聞いて、あれだけは御免だと思いました」
眉根にしわを寄せて悲しげな顔をしている。
優秀な心理カウンセラーでも、どじょう鍋のトラウマには勝てないらしい。
帰国する前にもう一度会う約束をして、シュナイダーは店を出ていった。
(マーサに呼んで、沖縄の古酒でも用意しとくか)
ヨウジが明子と結婚したことは、ユカリから伝わっているはずだ。
(ユカリのことには触れなかったな、あれで気を使ってるんだろうな……)
「社長って、外国の人とも知り合いなんですね」
横にケンタが立っていた。
「ん? あの人はアメリカ人だよ、おじいさんくらいがドイツ人なのかな」
「やっぱ、かっこいいなあ」
「なんだ、外国人と知り合いだとかっこいいのか」
「ぜったい、そうですよ」
「そんなんじゃないよ、前にちょっと世話になっただけさ」
(かっこいい、か)
(ケンタの眼からみれば、店を経営して、もうひとつカクテルの店も出して、ガイジンと話をするおれはかっこいいのか)
(アメリカでよれよれになって、帰ってきても何にもできなくて、明子に拾われたようなおれを知らないからな)
(知られても困るけどさ)
ショットバーのほうで働きたいと言ったのも、単純にヨウジに憧れているのかもしれない。
(こんなおっさんじゃなくて、もっと上を目指せよな)そう考えた。
やっぱり自分は、『GG』のマスターと同じことを言う。




