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オトナのラノベの作り方  作者: ぼを
15/21

だから私は、権力者のおしっこを飲みたい(第1話)

「君の顔の広さには感服するけれど」歩きながら僕が金山の背中に言った。「法人営業部とラノベの繋がりくらいは教えてくれても良いんじゃないか?」

「呼続の言葉が正しければ、ガキどもはオトナ顔負けの根回しやコネを活用して得票を稼いでいる」顔を少しだけこちらに向けて金山が言った。「いにしえの伝説の言葉にこんな物がある。『毒を以て毒を制す』。俺たちはガキどもが追い付きようのない、ぶっちぎりのコネで対抗する」

 僕には金山がしようとしている事が理解できた。

「つまり、法人営業部のコネクションからユグドラジルの運営に直接交渉をしようって事?」

「月間数千万PVを叩き出し、年収でうまい棒を買うとそのうまい棒を骨格にマンションを建築できるようなトップレベルのyoutuberも、Googleの胸三寸で生死が決まる。規制やルールの下で蠢いているだけでは、幾ら煌びやかに見えたとしてもその喉元には常に運営側の刃物が突き付けられている。ガキどもはユグドラジルという檻の中で騒いでいる家畜人ヤプーに過ぎない。俺たちは違う。檻の外に居り、看守に直接交渉をする手段を持っている。これは俺たちに与えられた武器だ。卑怯な手段でもなんでもない。1,000年に1人の美貌を持って生まれたアイドルが、その御尊顔を武器にするのが何ら卑怯ではない様にな」

 屁理屈だ、と僕は思った。だが、金山の言葉には一理あるのも事実だ。少なくとも、WEB投票においては僕らが純粋に期待するような競争は行われていない。作品の質や革新性は評価基準になりづらく、如何にうまくマーケティング、プロモーションを行い、SNSなどのコネクションを駆使できるかが要となっている。クリエイターはマーケティング力も営業力もなければ成り立たないというのは、もはや時代の流れだ。

 僕は堀田の表情を伺った。金山の提案をどう受け止めているのかを確認したかったからだ。然し、無表情だった。


 法人営業部の居室は、定時を過ぎても活気に溢れていた。急な顧客対応なんかもあるだろうから、24時間とは言わないまでも、誰かが詰めている。

 金山はフロア全体をキョロキョロ見渡したかと思うと、小さく手を上げて、上小田井、と叫ぶように呼んだ。金山の目線の先の、若い男性社員が顔を上げた。僕らは彼のデスクに向かった。

「これはこれは、金山先輩じゃないですか」上小田井が言った。「法人営業部のフロアにいらっしゃるなんて、珍しいですね」

 金山はにやりと笑った。

「神出鬼没はステータスだ。有能に見せられるし、実際に有能だ」

 臆面もなく言う。

 状況を掴めない上小田井は、伺う様に、僕と堀田に視線を送ってきた。それで、僕と堀田は軽く自己紹介をした。

「嬉しいですね」上小田井が言った。「こんな豪華メンバーが来て下さるなんて」

「お前には勿体ない部隊編成でわざわざ出向いてやったんだ」金山が言った。「相応の覚悟で聞いてもらいたい」

 上小田井は神妙な顔つきをして、僕らに椅子を勧めてきた。円陣で座った。

「俺の記憶が確かならば、お前はメディア担当だったよな?」

 金山の言葉に、上小田井が首肯した。

「そうです。担当者によってカテゴリは別れていますが、新聞社、出版社、WEBメディアなどですね」

「単刀直入に訊く」金山が言った。「ユグドラジルというラノベサイトを知ってるか?」

「金山さんからそんなマニアックなサイト名を聞くことになるなんて」上小田井は笑いながら言った。「勿論知ってますよ。寧ろ、オレの担当企業です」

 上小田井の言葉に、金山が、ビンゴ、と言った。

 上小田井に依ると、ユグドラジルは大手出版社と動画サイト運営会社が出資したグループ会社が運営しており、その運営会社の名前は、そのままユグドラジルだという。で、その会社は大手出版社のビルに間借りしている。

「でも、それを知ってどうしようって言うんです? 商品企画の金山さんにプロモの方がいるって事は、新製品の出稿とかですか?」

「お前としてはバーターで新たな取引を持ち掛けたいところだろうが、残念ながら違う」金山が言った。「お前のその垂れ目には何枚のフィルタが掛けられているのか俺には解らんが、少なくとも物事を偏見とバイアスで判断するような無能ではない事を俺は知っている」上小田井は笑いながら、何ですか一体、と返した。「この鳴海がユグドラジルにラノベをアップしているんだが、芳しくない。どうやら実力だけでは大賞で勝てなさそうだ。だから、直接運営会社にヒアリングを実施したい」

「ヒアリングですか…」上小田井が言った。「ユグドラジルは取引先のグループ会社なのでコネクションは強くないんですが、親会社から担当者の紹介を受ける事はできると思いますよ。でも、特定の個人が有利になるような事を口外するかなあ…」

「飽く迄ヒアリングだ」金山が言った。「別名、取材とも言う。その為にプロモの人間がいるんだからな」

「ちょっと」堀田が言った。「勝手に話を進めないでくれる? それに、プロモは広報とは違うわ。プロモ担当のあたしは取材経験なんてない」

「案ずるな。俺がラノベに関する製品開発案をでっちあげる。仕事として接触してバーターで情報提供を持ち掛けるんだ」

 あからさまな公私混同だ。

「あの…」上小田井が言った。「今の、聞いてなかった事にさせて貰っていいです? 流石に取引先に不利益を被らせる訳にはいかないんで」

「不利益か利益かは俺たちが判断する事ではない」金山が言った「安心しろ。お前を道連れにはしない。お前次第では、だが」


「勢いでお願いしちゃったけれど…」堀田が言った。「鳴海くんは、それでいいの?」

 訊かれて、僕はすぐに回答できなかった。不意に、16歳の頃に文学賞で最終手前の選考まで残った事を思い出した。芥川賞の登竜門。受賞すれば、史上最年少の名を恣にできた可能性があった。でも、受賞できなかった。うしろめたさがあった。投稿した作品の一部のプロットが、当時影響を受けていた他の作品を模したものだったのだ。少年時代の僕は、それはいけないと思った。それで、出版社に手紙を書いた。当該作品において、一部模倣がある、従って、これ以上審査される資格はない、と。手紙を送らなくっても、受賞はできなかったかもしれない。然し、未だに、あの時手紙を送らなかったら、と想像する事がある。純粋な心でチャンスと向き合うのは困難だ。あらゆる状況において、本当に自分の力だけで到達できたか、なんて自信を持つことは難しい。それは運であったり、他人の力であったり、若しくは良心に悖る要素であったり。

「リスクを冒す価値はあると思っている」僕が言った。「少なくとも、僕のラノベがなんらか有利になる収穫がなかったとしても、現在のWEB大賞の仕組みについてどのような料簡であるのかを確認できるのは大きい」

「よく言った」金山が言った。「コンプをかけまくっても、得票の要素という海苔波形にはクソほどのノイズが混じっている。実力や確率で勝負できないのであれば、あらゆる手段を使うしかない。運営が現状を放任するのはゾッとしないが、宝くじよりは100億光年もマシだ。俺の目には、あのクジラのキャラクタがスリラーを踊るMJよりも滑稽かつ恐怖の存在に映る。射幸心のオーガズムに精子を貪るサキュバスをキャラクタに据えた方がまだ良心的というものだ。パチンコや競馬でさえ、寺銭という名の上納金は25%に過ぎないのに、宝くじは50%だ。新車は、台車から降りて地面にタイヤが接地したタイミングで10%の価値が下がると言うが、宝くじの場合は買った時点で既に半額が失われている。買えば買うほど損をするにも拘わらず、愚かな人間どもはクジラが騙るイメージ戦略と讒言に騙され、『買わなきゃ当たらない』という神託の許、1等を目指して販売所に行列する。例え、販売所に向かう途中に事故死する確率の方が400倍も高いとしても、だ。まだ、自分が人間として生まれてきた天文学的確率に思いを馳せた方が人生は豊かになる。だが、今回の話は宝くじとは違う。俺たちの手にはバイブレーションのリモコンが握られていて、投擲機から発射される矢の角度に口出しができる立場にあるんだからな。このあたりの話は、ニコニコで『だからわたしは、女の子のおしっこを飲みたい』を検索すれば、より理解が深まる。言わせるな。必要なのはコメントだ」


 翌日、上小田井からユグドラジルへのアポが取れた旨の連絡を受けた。

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