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藪AI ~YABU-AI~  作者: KOJHIRO
EPISODE 0
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12/15

宿

 晩ご飯の連絡を受け、小さなリュックを背負いヤブはアイを抱き上げると、階段の手前で腰を落とし、一段ずつおしりを付けながら降りていく。立ったままでは足下がよく見えなくて危険だと判断したからだ。

 階段は一直線でなく踊り場があって気持ち怖さは減ってくる。



「だっ、だっ、だっ」『まっアクティビティとしちゃベタだけど、骨盤に響くぅ』


「痛いですか」


「だぁー」『大丈夫だよ。痛みよか、衝撃だね。脳が揺さぶられて意識が飛びそうなだけ。ドンドン行ってみよー』


「えっ」

 ヤブのスピードが緩まった。



 大広間とかの座敷でなく、老夫婦と一緒に家庭用のテーブルで食卓を囲む形になった。

 荷物を部屋まで運んでくれた青年の姿はなく、代わりに陽気な中年のおばさんがてきぱきと小鉢など運んでくる。おばさんは老夫婦の娘で、青年の叔母になるそうだ。

 出された物は老夫婦と同じで、ごく一般的な家庭料理だ。

 アイには、味付けを薄くして柔らかくした物を用意してくれた。


 本当の目的は棚に上げ、この街では何日か過ごしたいと伝え、近辺で見て回れるところを聞いた。


 旅館の前は、旧街道で近くのシャッター商店街も新街道が出来るまでは栄え賑わっており隣の神社もなにかと祭りを行い出店が出て今とは想像できないぐらい賑やかだったのよと教えてもらった。



 やはりヤブとアイがなぜこんな旅をしているのか聞かれたが、当初取り決めていた設定のとおりに答えた。

「嫁はね、この子の次の子、第二子のお産で少し遠いですけど里帰りしていましてね。それでね私も纏まった休暇がとれたので、アイも保育園を休ませて自転車で旅をしながら嫁の里へ向かっている訳ですよ」


 食事が終わってもおばさんのお喋りにつきあっていたが、自分の家庭に帰るからと開放された。あとからおばさんにとっておしゃべりは客への接待だったのかもと感じた。


 食事の連絡を受けたときに、お風呂もどうぞと云われていたので入浴セットは持って降りていたのでそのままお風呂へ案内してもらった。


 お風呂は一階に、20~30人は入れそうなキャパの浴場が男女に分けて2つと数人ぐらいの混浴が2つあり、ヤブ達は後者を選んだ。というのも大浴場は、町内会と商店街からの要望もあり、簡易銭湯とサロンして青年会の手で運用されている。なお宿泊客の入浴料金は宿泊料金に含まれている。


 暗くなってから正面からでしか見ていなかったので、時代遅れであまり機能していない旅館だと思っていたのに意外と大きな規模の施設だったなと認識を改めたヤブとアイだった。



「あぅーうー」『ふぅー、極楽極楽・・・・』


「肩までしっかり暖まりましょーねー」


「あいーっ」


「ところでアイさん」


「あいっ」


「設定の1歳半だと、平均におしゃべりをする時期なのですがね・・・・」


「ああい」『問題ない。たしかに一般論では発達障害かもって思われるけどさ』


「けど?」


「あぃあい」『知り合いに"あ"とかしか云わんかったのが二歳辺りで化けてね。医大へ行ったヤツをわしは知っておる』


「じゃあ、いいんですね」


「あぃ」『それに、男親とはそんなに話ししたくないしの』


「・・・・(沈めちゃおうかな)」


「あ゛あぁ」『よからぬ事を考えておるな。電撃食らわせて、フリ朕の土左衛門にしてやろうか』


「ナニモカンガエテマセンヨー」


「あれあ」『それはさておき、十分暖まったからそろそろ上の窓を開けてくれんかの』


「はいはい」


「あぃあ、あいあい」『"はい"は一回じゃ』


「はい」



 腰にタオルを巻いたヤブは、上側の窓を子供が出て行けるだけ開け、両手を万歳にして待つアイを外を覗ける高さまで持ち上げるとスルスルと外へ抜け出していった。常識にとらわれるなら幼児が高窓から転落する図式だが、規格外なだけである。


 見届けたヤブはもう一度湯船に入りくつろぐことにした。普段一緒にいても外でアイがどんなことをしているか知る術がない。


 少ししてアイが帰って来たので、上がることにした。



 三階に上がると誰がやってくれたのか布団が敷かれていた。おばさんは帰ったはずだしあの老夫婦は考えにくい。ヤブは深く考えないことにした。先の青年以外にも子供や孫が近辺で生活していて短い時間でもよく手伝いに来ていると聞いていたし、おばさんが帰って誰かをよこしたのかもしれないが、それは重要な事じゃない。


 廊下側からは町の中心方向がみえ、看板など電飾が遠目にも目立ち、近くのシャッター商店街と揶揄されていてさえ十分な街灯が点されている、反対に客間の側から見える夜景は明かりが少なく寂しい。



 ミックスタマゴサンドをナイフで切り分けて、明日からの予定を語らい始めた。


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