サンドイッチ店
幾つかの設定が異なる環境へ訪問を重ねて、二人は新しい街にやってきた。
駅前を離れるとすぐに商業施設よりも民家が多くなり、静寂さに傾いていく。
ときおり見かける中学生が帰宅へと蠕いている時刻だ。
児載せのカゴを前に持つ自転車を押す男は年齢不詳の風貌で、"アイ"と自称し"1.5歳"の設定で行くと宣わく幼児がカゴに載せられている。
「だぁー」『ねぇ、宿探ししなくちゃいけないけどその前に、お腹すかない?』
「そうだね、お昼食べずにコッチ(の世界)へ来てるから少しでもいいから何か欲しいね」
「だっだぁー、あえ」『でしょ。あそこにサンドイッチ専門店があるから入ってみようよ。ティ久アウトしたら近くに公園があれば水もトイレも安心だし』
「御意」
店の中は三十代ぐらいの男女二人で営まれているようだ。
店の人の目つきにビビりながら店内を見れば以外と広くサイド奥にセルフでイートインのコーナーがあり、コーヒー、紅茶、ジュースなどのドリンクも注文できるので持ち出さないで頂くことにした。
基本注文を受けてから作るスタイルだけど、待てないお客用にはショーケースには作り置きもある。
対応した女性が注文を男性に伝えると、女性はアイをあやしはじめたが、入ってきた初老の男のために中断することになった。
「ご主人、悪いがこのカバンはこちらのお子さんのかと思うのだが」
作業をしていた男性が対応にあたり、カウンターの上に置かれた子供の鞄と説明を聞き、急いで店を飛び出していった。
殆ど男性の作業は終わっていて、加圧された状態だったので所定時間が経ち女性がカットの作業に移った。
八つ切りパンが4枚、2枚一組で2組を斜め切り、横切りと切られた4つが皿に並べられ、飲み物2つがトレーで渡された。
直後、男性がぐったりした意識がもうろうとしている女の子を抱き上げて帰ってきたのを見て、奧へと引っ込んでいき,女の子を休ませるのだろう。
ずっとトレーを持ったまま傍観することもなく移動した。邪魔だしね。
壁に向かうカウンターの他、4人掛けのテーブルは4つあり、奥の2つには寄せられて予約の札が立てられている。
飲み物は二人分だがアイが1/4程度も食べきらないのでサンドイッチは一つ。席は入口が見える手前にとり、テーブルの上にトレーを置いた。
タマゴ好きのヤブとアイは、ここ数日採りすぎてたかとアレルギーを気にしてBLTを選んだが、パンに使われている小麦のことを失念していた。
二人が、あっと気づいたのは各々ハニーチャイとトマトジュースでのどを湿らせ一つ目のサンドにかぶりついたときだった。
「だぁ」『今更だけど、ケースに入ってたタマゴサンドに心残りがあるんですけど』
「確かに。あのミックスタマゴサンドには惹かれましたね。出汁巻きでしょうか厚焼き、そぼろ、スクランブルエッグ、そしてマヨネーズ以外にタルタルソースも使っているようでしたね」
「だー」『うん。わしはもう入んないから、持ち帰りしよっか』
「そうですね。宿を決めて、そこで頂くことにしますか」
二つ目に手を伸ばしながらヤブが応じた。
返却棚へトレーを置き、カウンターの男性・・・店主さんに、テイクアウトでミックスタマゴサンドを受け取り店を出た。
近辺検索では駅方向に戻ればビジネスホテルがあるみたいだが、あえて街のハズレにある旅館に行ってみることにした。
ナビアプリで迷うことなくたどり着いたソコは、木造三階建てで老夫婦が営み、近所に住む何人かの孫が交代で手伝っている。
客間は、一階、二階、三階まであり 老夫婦達は、幼児のいることからしきりに危険の少ない一階を勧めたが、アイのたっての希望で街の中心から外れ高い建造物が少なく見晴らしがいい三階を選ばせてもらった。
孫という青年が仕事帰りに訪れていて、数少ない荷物を狭くて急な木の階段を持って上がってくれる。
彼の言うことには、夜は周囲の風景が見えなくてピンとこないけど明日朝、いい景色が見れますよ。他に宿泊客はいないから、鍵は掛けていないので常識の範囲で入って風景を見回してもいいですよと言ってくれたことに期待をした。
階段を上りきり案内されたのは四つ並ぶ部屋のうち一番奥の部屋で手前から六畳、六畳、四畳分の板間で思っていたよか広い作りだった。トイレは共同で洋式が一つ、二つの客間と客間の間にある。
二人は夕食を知らせる黒電話のベルに起こされるまで畳の上で寝転がっていた。
サンドイッチ専門店は、"チベたんサンドの店"と看板に書かれていて、持ち帰りの他、店内で食べることも出来て、自家製の食パン、コッペパンの販売もしている。関係者の目つきはアレだけど、いたって生真面目で誠実な方々ですよ。
宿は、古い旅館の建物ですが、運営方法は民宿です。
つづいては、夕食時に街の情報収集です。




