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『会社を辞めると伝えた51歳トラックドライバー、異世界少女の召喚精霊になる』  作者: うさぎとカニ


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40/45

第40話 オッサン精霊、妻に異世界を打ち明ける


 ◇◇◇◇


 目の前に止まった車の助手席へ近づき、扉を開けた。


「迎え、ありがとう」


「お疲れさま」


 嫁さんが俺を見た。


 その視線が、顔から服へ下がる。


 最後に、包帯を巻かれた両腕で止まった。


「……何があったの?」


「いろいろあってな」


「送別会に行ったのよね?」


「ああ」


「何か、別の行事に参加したの?」


「いや。普通は店から出たら、家に帰る行事だよ」


「そうよね」


 嫁さんの視線が、今度は俺の汚れた靴へ移る。


 服からは、まだ焚火の臭いがする。


 川へ落ちたあとで乾かしたせいか、ところどころ皺にもなっていた。


「転んだの?」


「転んだだけなら、説明が楽だったんだけどな」


「その腕は?」


「……帰ってから話すよ」


 嫁さんは何か言いかけたが、前へ向き直った。


「分かったわ。乗って」


「ああ」


 助手席へ座り、シートベルトを締めた。


 車が静かに動き出す。


 俺は窓の外を見た。


 何から話せばいい。


 アリスに呼ばれたこと。


 異世界へ行っていること。


 魔物と戦っていること。


 本契約を結び、正式な眷属になったこと。


 どれも、普通に聞けば酒に酔った男の作り話だ。


「結構、飲んだでしょう?」


 運転しながら、嫁さんが聞いた。


「飲んだよ」


「まだ酔ってる?」


「川へ落ちたおかげで、だいぶ醒めた」


「……川へ落ちたの?」


「そこも、帰ってから話すよ」


 嫁さんが、短く息を吐いた。


 信号が赤に変わり、車が止まる。


「病院へ行かなくて大丈夫なの?」


「向こうで治療はしてもらった。骨は折れてない」


「向こう?」


 しまった。


 俺は口を閉じた。


 嫁さんが横目でこちらを見る。


「帰ったら、最初から説明して」


「はい」


     ◇


 家へ着き、俺は靴を脱いだ。


 嫁さんは俺の服へ鼻を近づけ、眉を寄せる。


「お酒だけじゃないわね」


「ああ」


「土と、煙の臭いがする」


「よく分かるな」


「あなたが今まで、何度も似たような臭いで帰ってきたからよ」


 泥。


 獣の毛。


 服に染みついた臭い。


 そのたびに、何とかごまかしてきた。


 自分でも、苦しい言い訳が増えているとは分かっていた。


「着替える前に、腕を見せて」


「包帯は外さないほうがいいと思うぞ」


「じゃあ、袖を上げて」


 言われたとおりにする。


 包帯の端から、赤黒い痣が見えていた。


 嫁さんの顔が変わる。


「これを、転んだだけじゃないって言ったのね?」


「ああ」


「誰かに殴られた?」


「棍棒でな」


「誰に?」


「人じゃない」


 嫁さんが黙った。


 俺は居間へ入り、椅子へ腰を下ろした。


「今まで黙ってたことがあるんだ」


「やっぱり、何かあるのね」


「ああ。ただ、酔ってるから作り話を始めたわけじゃないぞ」


「それは、聞いてから決めるわ」


 嫁さんが向かいへ座る。


 俺は両手を膝の上へ置いた。


 包帯が目に入る。


 これを見せながら、もう何でもないとは言えなかった。


「俺、別の世界へ呼ばれてるんだ」


     ◇


 嫁さんは、すぐには何も言わなかった。


 俺の顔を見たまま、数秒ほど止まっている。


「……別の世界?」


「ああ。剣と魔法があって、ゴブリンや魔物がいる世界だよ」


「本気で言ってるの?」


「本気だ」


「お酒、どのくらい飲んだの?」


「だから、川へ落ちてだいぶ醒めたって」


「それで安心できると思う?」


「思わないねえ」


 自分でも、説明の順番を間違えた気がする。


 俺は息を吐き、最初から話すことにした。


「会社を辞めるって社長に伝えた日、仕事の帰りに突然呼ばれたんだ」


「誰に?」


「アリスっていう、召喚士の女の子だよ」


「女の子?」


「15歳。この世界じゃ成人らしいけど、俺から見れば子供だな」


 嫁さんの目が少し細くなった。


「その15歳の女の子と、あなたが?」


「待て待て。変な意味はないぞ」


「私はまだ、何も言ってないわよ」


「顔が聞いてたよ」


 嫁さんは腕を組んだ。


「続けて」


「ああ」


 俺は、アリスに召喚された最初の日から話した。


 ゴブリンと戦っている最中に、なぜか俺が呼び出されたこと。


 アリスが俺を高位の精霊だと思っていたこと。


 俺が人間だと分かってからも、召喚の契約だけは続いたこと。


 日本へ戻ったあと、こちらでは数分しか経っていなかったこと。


「じゃあ、今まで泥だらけで帰ってきたのも?」


「向こうで転んだり、魔物を運んだりしたせいだよ」


「獣臭がしたのは?」


「猪みたいな魔物を担いだ」


「じゃあ、寝室に置いてあった、あの革の胸当ては?」


「ああ。あれも向こうの世界で使ってる防具だよ」


 嫁さんが額へ手を当てた。


「今までの変なことが、全部つながっていくわね……」


「信じるのか?」


「まだ全部は信じてないわ。でも、今までより説明は合ってる」


「そうだよなあ」


 嘘のような本当の話が、苦しい言い訳より筋が通ってしまったらしい。


     ◇


「それで、今日は何があったの?」


「フォレストオーガっていう魔物が、村を襲ったんだ」


「オーガ?」


「人間の倍くらいある、森に住む巨人みたいなやつだよ。家畜を奪って、村人にも怪我をさせた」


「あなたが戦ったの?」


「俺が呼ばれたときには、アリスがそいつに崖まで追い詰められてた」


 巨大な棍棒。


 背後の崖。


 逃げ場を失ったアリス。


 俺は、あのときのことを順に説明した。


「その棍棒を、腕で受けたの?」


「ああ。避けたら、後ろのアリスに当たりそうだったからな」


「それで、どうやって逃げたの?」


「アリスを抱えて、崖から川へ飛び込んだ」


 嫁さんは、しばらく動かなかった。


「あなた、死にたいの?」


「生きるために飛び込んだんだよ」


「ほかに方法はなかったの?」


「あのときは、なかったと思う」


「思う、じゃないでしょう」


「いや、本当に時間がなくてな……」


 嫁さんが大きく息を吐いた。


 怒っている。


 だが、その奥に心配があるのも分かった。


「それで、洞窟で一晩過ごした。向こうではな」


「こちらでは、数分だったのに?」


「ああ。時間の流れが違うんだよ。いつも同じ差なのかは、まだ分からないけどな」


「その間、私は迎えに向かってたのね」


「そういうことになる」


「私は数分。あなたは一晩……」


「不思議だろ?」


「不思議で済ませていい話なのか、分からないわ」


「俺にも分からんよ」


     ◇


「本契約っていうのは?」


 嫁さんが尋ねた。


「最初は、アリスの魔力で俺を向こうへ留めてたんだ。魔力が減ると、俺は日本へ戻ってきた」


「今は違うの?」


「ああ。正式な契約を結んで、俺がアリスの眷属になった」


「眷属?」


「召喚主に仕える者、みたいな意味だな」


「つまり、その子が雇い主で、あなたが契約社員みたいなもの?」


「会社にたとえるなら、そんな感じかな。ただし、命令に絶対従わなきゃならない関係じゃないよ」


「会社を辞めて、異世界で再就職していたのね」


「そう言われると、ずいぶん計画的に聞こえるな」


 嫁さんが、もう一度額へ手を当てた。


「51歳で、15歳の女の子の契約社員になったの?」


「だから、その言い方だと、妙な感じになるんだよ」


「どういう契約なの?」


「相手の意思を奪ったり、命令を強制したりする契約じゃない。嫌なことは断れるし、自分の意思で日本へ帰れるようにもなった」


「今まで帰る時間も、自分で決められなかったの?」


「ああ。アリスの魔力が減るまで帰れなかった」


 嫁さんの顔が、さらに険しくなった。


「どうして、それを今まで黙ってたの?」


 来ると思っていた質問だった。


「信じてもらえないと思ったんだよ」


「それだけ?」


「心配をかけたくなかったのもある」


「黙ったまま怪我をして帰ってくるほうが、心配するわよ」


「……そのとおりだな」


「何度も泥だらけになって、獣の毛までつけて帰ってきて。それでも何でもないって言われるほうが、嫌よ」


「ああ。悪かった」


 言い訳をせず、頭を下げた。


「これからは、ちゃんと話すよ」


 嫁さんはすぐには答えなかった。


 俺の包帯を見て、それから顔へ視線を戻す。


「そのアリスって子は、あなたにとってどういう子なの?」


「一緒に仕事をする相棒だよ。それと……娘みたいなもんかな」


「あなたに娘はいないでしょう」


「向こうでも同じことを言ったよ」


「本人に言ったの?」


「ああ」


「何て?」


「私は大人の女だって返された」


 嫁さんの眉が上がった。


「そのあと、魅力がないのかって聞かれた」


「あなた、何て答えたの?」


「答えに困ってたら、冗談だって笑われたよ」


「……ずいぶん懐かれてるのね」


「そうかもしれないな」


 嫁さんは少し黙った。


「アリスは、幼いころに両親を亡くしてる。俺のことを、父親みたいに感じてるのかもしれない」


「それで、放っておけないのね」


「ああ」


 嫁さんが、小さく息を吐いた。


 さっきまでより、少しだけ表情が柔らかくなっていた。


     ◇


「これから、どうするつもり?」


「フォレストオーガを倒すのに協力する」


「その腕で?」


「今すぐじゃないよ。向こうの冒険者にも、準備してからだって言ってきた」


「行かないという選択は?」


「あるよ」


「でも、行くのね」


「ああ」


 俺は、正直にうなずいた。


「村には、また襲われるかもしれない人がいる。アリスも再討伐に参加すると思う。俺だけ知らないふりはできないよ」


 嫁さんは俺を見ていた。


 やがて、諦めたように肩の力を抜く。


「止めても行くんでしょうね」


「ごめんな」


「謝るくらいなら、無事に帰ってきて」


「ああ」


「それと、いくつか約束して」


「何だ?」


 嫁さんが指を折る。


「運転中は、絶対に行かない」


「分かってる。呼ばれても、待ってくれって返せるよ」


「お風呂や病院にいるときも」


「それも伝える」


「怪我を隠さない」


「ああ」


「帰れる状態か確認してから、危ない場所へ行く」


「そこは、向こうの事情もあるけど……できるだけ確認するよ」


「無茶をしない」


「それは、状況次第かな」


「あなた」


「分かった。無茶をしないように努力する」


「ずいぶん弱い約束ね」


「できない約束をするよりは、正直だと思うぞ」


 嫁さんが、呆れたように俺を見る。


「まあ、そこはあなたらしいけど」


     ◇


「なら、準備しましょう」


「今から?」


「準備してから行くって言ってきたんでしょう?」


「ああ」


「何が必要なの?」


 嫁さんは立ち上がり、棚からメモ帳を出した。


 俺は少し驚いた。


「協力してくれるのか?」


「行くなと言っても行くなら、手ぶらで行かせるよりましでしょう」


「ありがたいよ」


「まだ信じたわけじゃないわよ」


「そうだったな」


「でも、この怪我が嘘じゃないことは分かるもの」


 嫁さんがペンを持つ。


「向こうには、何があるの?」


「武器と防具は、町のギルドに置いてある。回復魔法や回復薬もあるよ」


「日本から持っていったほうがいいものは?」


「そうだな……」


 俺は、洞窟で過ごした夜を思い出した。


 水。


 タオル。


 明かり。


 食べ物。


 どれも、あれば助かったものだ。


「水筒。タオル。丈夫な軍手。懐中電灯。ロープ。救急用品。すぐ食べられるもの」


「着替えは?」


「あったほうがいいな。川へ落ちる予定はないけど」


「前も、落ちる予定はなかったでしょう?」


「そのとおりです」


 嫁さんは、メモへ着替えと書き加えた。


「大きすぎないバッグへまとめましょう。呼ばれたときに持てなかったら意味がないもの」


「慣れてるな」


「夫が異世界へ出張する家庭なんて、参考にできる人がいないから、自分で考えるしかないでしょう」


「異世界出張か」


「仕事を増やして帰ってくるんだから、似たようなものでしょう?」


「会社は辞めるのになあ」


「異世界の仕事は増えてるわね」


 否定できなかった。


     ◇


 俺は包帯を濡らさないように体を洗い、汚れた服を着替えた。


 その間に、嫁さんが小さなバッグへ必要な物をまとめてくれる。


 水筒。


 タオル。


 軍手。


 懐中電灯と予備の電池。


 丈夫なロープ。


 消毒液や絆創膏を入れた救急用品。


 替えの靴下と下着。


 携帯用の食べ物。


「重くない?」


 嫁さんが聞いた。


 バッグを持ち上げる。


 日本へ戻った今は、異世界にいたときほど体が軽くない。


 それでも、持ち歩けない重さではなかった。


「大丈夫だよ」


「腕に痛みは?」


「少しある」


「無理に持たないで」


「ああ。向こうへ行けば、体の力も上がるからな」


「こちらでは普通なの?」


「腰も膝も、いつもの感じに戻ってるよ。眷属の強化は、召喚されてる間だけみたいだな」


「都合がいいんだか、悪いんだか分からないわね」


「日本でうっかりドアを壊さずに済むと思えば、都合はいいよ」


 嫁さんが冷蔵庫を開けた。


「そのアリスちゃんは、何が好きなの?」


「肉料理。それと、前に卵焼きを喜んで食べてたな」


「お弁当を作るの?」


「ああ。俺の弁当を見つけるたび、期待した顔をするんだよ」


「15歳なら、よく食べるでしょうね」


「金の管理は、あの子がしてるんだけどな。食事になると、そこだけ少し甘くなる」


 嫁さんは食材を確かめた。


「おにぎりと卵焼きなら、すぐ用意できるわ」


「2人分、頼めるか?」


「最初から、そのつもりよ」


 俺は嫁さんの顔を見た。


「まだ全部は信じてないんだろ?」


「本当なら、その子もまともに食べてないでしょう?」


「ああ。たぶん、腹を減らしてる」


「だったら用意しておいて損はないわ。あなたが2人分食べてもいいんだし」


「それは、51歳の腹には多いねえ」


     ◇


 準備が終わるころには、眠気が限界に近づいていた。


 異世界では一晩起きたままだ。


 嫁さんに事情を話して緊張が抜けたせいか、急に体が重くなった。


「少し寝たら?」


「ああ。アリスには、準備ができてから呼んでくれって言ってある」


「呼ばれたら、分かるの?」


「胸の奥に感覚が来るんだよ」


「電話みたいなもの?」


「呼び出しだけなら、そんな感じかな。着信音は鳴らないけどね」


 俺はソファへ横になった。


 包帯を巻いた腕を腹の上へ置く。


「寝室へ行かないの?」


「呼ばれたとき、すぐ起きられるようにしとくよ」


「分かったわ。毛布を持ってくる」


「ありがとう」


 嫁さんが毛布を掛けてくれた。


 目を閉じる。


「ねえ」


「ん?」


「そのアリスちゃん、本当に15歳なの?」


「ああ。可愛い子だよ」


「そう」


「だから、娘みたいなもんだって」


「まだ何も言ってないでしょう?」


「顔が聞いてるんだよ」


 嫁さんが、俺の額を軽く指で弾いた。


「早く寝なさい」


「ああ。おやすみ」


     ◇


 目を覚ましたとき、時計の針は2時間ほど進んでいた。


 短い時間だったが、頭は少しすっきりしている。


 両腕の痛みも、さっきより落ち着いていた。


 体を起こすと、テーブルの上にバッグと包みが置かれている。


「起きた?」


 台所から、嫁さんが顔を出した。


「ああ。よく寝たよ」


「向こうからは?」


「まだだな」


 立ち上がり、水を飲む。


 嫁さんが、包みを指した。


「おにぎりと卵焼き。少しだけ肉も入れてあるわ」


「助かるよ」


「本当に持っていけるの?」


「今まで弁当も服も一緒だったから、大丈夫だと思う」


「持ち物だけ、途中で落ちたりしないでしょうね」


「それはないと思うけどなあ」


「思う、ばかりね」


「俺も仕組みを全部知ってるわけじゃないからね」


 そう答えたとき、胸の奥に感覚が生まれた。


 俺は口を閉じる。


 前とは違う。


 強く引かれるのではなく、扉の向こうから呼びかけられているような感覚だった。


 焦りや恐怖は伝わってこない。


 準備が整った。


 来てほしい。


 そんな穏やかな意思を感じる。


「……来たみたいだ」


 嫁さんの表情が変わった。


「アリスちゃんから?」


「ああ」


「今、分かるの?」


「胸の奥で、呼ばれてる感じがするんだよ」


 俺は用意してもらったバッグを肩へ掛けた。


 弁当の包みも中へ入っている。


「少し待ってくれ」


 アリスへ意識を向ける。


 すぐに行く。


 そう返すと、呼びかけが少し弱くなった。


「返事もできるの?」


「ああ。長い話は無理だけどね」


 俺は玄関に行き、靴を履いた。


 周囲にぶつかるものがないことを確かめる。


 嫁さんは、少し離れたところから俺を見ていた。


「ここで消えるの?」


「ああ」


「壁の中へ行ったりしないでしょうね」


「そんな話は聞いてないよ」


「急に心配になってきたわ」


「大丈夫だよ」


     ◇


 胸の奥へ意識を向ける。


 もう大丈夫だぞ。


 呼びかけが強くなった。


 足元に、白い光が広がる。


 嫁さんが息をのんだ。


「……本当に光ってる」


「だから言ったろ」


「こんなときだけ、得意そうな顔をしないの」


「ようやく信じてもらえそうだからな」


 光が、足元から膝へ上がってくる。


 嫁さんは俺を見つめていた。


 異世界の話を聞いたときよりも、その顔は真剣だった。


「なるべく早く帰ってきて」


「ああ。今度は、自分で帰れるからな」


「それと、そのアリスちゃんに伝えて」


「何を?」


「夫を呼ぶなら、怪我をさせずに返してくださいって」


「そこは俺にも責任があると思うけどねえ」


「だったら、あなたにも言っておくわ。怪我を増やさずに帰ってきて」


「ああ。約束するよ」


 できるだけ、とはつけなかった。


 今は、それを言えば余計に心配させるだけだ。


「行ってくる」


「無事に帰ってきて」


 光が強くなる。


 異世界へ行くことを、初めて嫁さんに見送られた。


 その声を聞きながら、俺の体は白い光に包まれた。




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