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『会社を辞めると伝えた51歳トラックドライバー、異世界少女の召喚精霊になる』  作者: うさぎとカニ


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第37話 オッサン精霊、正式な眷属になる


 ◇◇◇◇


「じゃあ、頼む。やり方を教えてくれ」


 俺が言うと、アリスは真剣な顔でうなずいた。


「本契約には、2人の同意が必要なの」


「俺が勝手に眷属になることも、君が勝手に俺を眷属にすることもできないわけだな」


「ええ。お互いに名前を告げて、契約の内容を受け入れるの。それから、私の魔力をコージが受け入れれば、契約が結ばれるはずよ」


「はず?」


「私も、本契約をするのは初めてだもの」


「……そうだったな」


 アリスは召喚士だが、これまで本契約を結んだことはない。


 俺と出会ったときも、呼び出すつもりだったのはゴブリンと戦うための精霊だった。


 そこで、なぜか日本から51歳のトラックドライバーが出てきた。


 それを考えれば、ここまで仮契約が続いていたことのほうが不思議なのかもしれない。


「杖はなくても大丈夫なのか?」


「杖は、魔力を集めたり、向きを整えたりするためのものなの。なくても契約はできるって教わったわ」


 アリスは少し申し訳なさそうな顔をした。


「でも、あったほうがやりやすいと思う」


「置いてきたものは仕方ないよ。取りに戻ったら、オーガまで待ってそうだからな」


「ほかに必要なものは?」


「契約陣を描くものがあれば」


 俺たちは、焚火へ目を向けた。


 燃え残った枝が、端のほうに転がっている。


「これでいいか?」


「ええ。使えると思うわ」


 俺は先端が黒くなった枝を拾い、アリスへ渡した。


 アリスは洞窟の地面を手でならし、燃え残った枝で円を描き始めた。


 大きな円の内側に、2つの小さな円。


 それを結ぶ線と、俺には読めない文字のような印。


 杖がないせいか、アリスは何度か手を止めながら、慎重に描いていった。


「何て書いてあるんだ?」


「召喚主と眷属をつなぐための契約文字よ」


「読めなくても大丈夫か?」


「コージは、契約の内容を理解していれば大丈夫」


「知らないうちに、朝晩の食事を差し出すって書いてないだろうな」


 アリスが顔を上げた。


「書いてないわよ!」


「なら、安心だ」


「コージは、私を何だと思ってるの?」


「人の弁当を見つけると、期待した顔をする召喚士」


「最近は、ちゃんと聞いてから食べてるでしょう?」


「聞けば食べていいって話でもないんだがね」


 アリスが頬を膨らませた。


 冗談を言えるくらいには、体調も戻ってきたらしい。


 それでも、魔力が少ないことに変わりはない。


「無理そうなら、すぐ言ってくれよ」


「分かってるわ」


 アリスは最後の線を引き、燃え残った枝を置いた。


「できたわ」


 地面には、2人が向かい合って座れるくらいの契約陣が完成していた。


「コージは、そっちの円へ座って」


「ああ」


 言われた場所へ腰を下ろす。


 アリスは向かい側の円へ座った。


 俺たちの間に、2つの円を結ぶ線がある。


「手を出して」


「こうか?」


 契約陣の中央へ右手を差し出す。


 アリスが、その上へ自分の手を重ねた。


 小さくて、少し冷たい手だった。


「これから、私が契約の言葉を言うわ。そのあと、コージも自分の意思で契約を受けるって答えて」


「決まった言葉があるのか?」


「私はあるけど、コージは自分の言葉で大丈夫よ」


「そうか。言い間違えて、別の契約になったりはしないんだな?」


「ならないわよ。大事なのは、言葉より意思だから」


「それを聞いて安心したよ。こういう儀式は、言い間違えたら最初からやり直しかと思った」


 アリスは俺の手を握った。


「始めるわね」


「ああ。頼むよ」


 アリスが目を閉じた。


 洞窟の中へ、静かな声が響く。


「召喚士アリスは、コージを我が眷属として迎えます」


 重なった手が、淡く光り始めた。


「その意思を奪わず、力で縛らず、互いに支え合うことを誓います」


 地面へ描かれた契約陣にも、光が走る。


 黒い線が、1本ずつ白く輝いていった。


 アリスが目を開け、俺を見る。


「コージ。あなたは、自分の意思でこの契約を受け入れますか?」


 俺は、重なった手へ目を落とした。


 眷属。


 名前だけ聞けば、主に従う者だ。


 だが、相手の意思を奪う契約ではない。


 嫌なことは、嫌だと言える。


 日本での暮らしも大事にする。


 それを、アリスも分かってくれている。


 今は、この子を知らない場所へ残して帰らないために、俺自身が選ぶ。


「高野幸治は、自分の意思で、この契約を受け入れる」


 アリスの手を、軽く握り返した。


「君を支えるし、危ないときは助ける。ただし、無理なときは無理だと言う。それでもいいなら、よろしく頼むよ」


「ええ。私も、無理はさせないわ」


「なら、決まりだな」


 俺がうなずいた瞬間、アリスの手から温かなものが流れ込んできた。


 風が吹いた。


 外からではない。


 光を放つ契約陣から生まれ、俺たちの周りを回っている。


 髪と、乾いた服が揺れた。


 重ねた手から入ってきた温かさが、腕を通り、胸の奥へ届く。


 心臓が、強く1度鳴った。


「コージ……!」


「大丈夫だ。続けてくれ」


 光が強くなる。


 洞窟の壁へ、俺とアリスの影が映った。


 胸の中に、細い道ができるような感覚があった。


 その道の向こうに、アリスがいる。


 目の前にもいるのに、今までとは違う場所で彼女の存在を感じられた。


 光の板が、俺たちの間に現れる。


《完全同調を確認》


《双方の同意を確認》


《召喚仮契約から召喚本契約へ移行します》


 アリスが、俺の手を強く握った。


 俺も離さない。


《本契約が成立しました》


 表示と同時に、周囲を回っていた風が俺たちの体へ集まった。


 光が、胸の中へ吸い込まれる。


 契約陣の輝きが消えた。


 洞窟へ、川の音と焚火の音が戻ってくる。


「……終わったのか?」


「たぶん」


「また、たぶんか」


「初めてなんだから仕方ないでしょう?」


 アリスはそう言いながらも、嬉しそうに笑っていた。


「でも、分かるわ。コージとのつながりが、前よりはっきりしてる」


「ああ。俺もだよ」


 言葉にするのは難しい。


 だが、アリスがここにいることが、目で見るより先に分かる。


 俺は重ねていた手を離し、胸元へ触れた。


「何か、変な感じはする?」


「変というか……体の中に、1本、新しい道ができたみたいだな」


「私も、そんな感じがするわ」


「それなら、成功だと思ってよさそうだ」


 立ち上がろうとして、体の軽さに気づいた。


 脚へ力を入れる。


 昨日までより、地面をしっかり踏めている気がする。


 眠っていないのに、体の芯には力があった。


 ただ、両腕はまだ痛い。


 手を開き、ゆっくり閉じる。


 動かせるが、鈍い痛みは消えていない。


「強くなっても、怪我まで治るわけじゃないんだな」


「腕、まだ痛い?」


「ああ。でも、昨日よりは動くよ。契約で治ったんじゃなくて、少し休んだからだと思うけどな」


「町へ戻ったら、治療院で診てもらいましょう」


「そうするよ。その前に、何が変わったのか確かめよう」


 俺は、改めて意識を向けた。


「ステータスオープン」


 目の前へ、薄い光の板が現れる。


 表示される項目は、以前より増えていた。


【名前】高野幸治

【種族】人間

【状態】召喚中

【契約】召喚本契約

【契約上の立場】眷属

【眷属主】アリス

【契約同調】完全同調


【滞在維持】自身体力

【召喚主連動】中位・アリスの能力に比例

【眷属強化】筋力・耐久力・持久力上昇


【体力】消耗・休息推奨

【負傷】両前腕打撲


【スキル】

・踏ん張り

・精霊纏い

・契約交信


【対応属性】風

【精霊纏い】召喚主による魔法供給が必要


「ずいぶん増えたな……」


「何が書いてあるの?」


 アリスには、相変わらず俺のステータス画面は見えていない。


 俺は上から読み上げた。


「契約は召喚本契約。俺の立場は眷属で、眷属主はアリス」


「本当に、私の眷属になったのね」


「ああ。そこは、ちゃんと成功したみたいだ」


 次の項目へ目を移す。


「滞在維持は、自身体力」


「じゃあ、私の魔力を使わなくても、コージはここにいられるの?」


「そうらしい。今度から、滞在するだけなら俺の体力持ちだな」


 俺は自分の胸元へ手を置いた。


 体力が少しずつ使われているのかもしれない。


 ただ、急に力が抜けるような感じはなかった。


「君の魔力は、どうだ?」


 アリスが目を閉じ、自分の中を確かめる。


「コージをつなぎ留めるために、引かれていた感じがなくなったわ」


「よし。これなら、帰る途中で君が魔法を使っても、俺が急に消える心配はなさそうだ」


 それが、今は一番大きい。


 契約を結んだ目的は、きちんと果たせている。


「次は、召喚主連動。中位。アリスの能力に比例って出てる」


「私の能力に?」


「ああ。君が強くなれば、俺も強くなるらしい」


 アリスの顔が明るくなった。


「じゃあ、これから一緒に強くなれるのね!」


「そういうことだな。ただし、俺を強くするために無茶な修行を始めるのはなしだぞ」


「しないわよ」


「君なら、明日からオーガを探しましょうとか言いかねないからな」


「もう少し休んでからにするわ」


「探すこと自体は否定しないのかね」


 アリスが笑った。


「筋力、耐久力、持久力が上がってる」


 俺は続けて読み上げた。


「それと、体力の欄は消耗、休息推奨だ」


「休んだほうがいいんじゃない?」


「一晩寝てないからな。そこは契約を結ばなくても分かってたよ」


「腕のことも書いてある?」


「ああ。両前腕打撲」


 俺は腕を動かした。


「便利だけど、見なくても痛いから分かる項目だな」


「でも、骨が折れてるとは書いてないのね」


「そこまで正確に分かるのかは、あとで聞いたほうがいい。打撲って出てるから折れてない、と決めつけるのも危ないだろ」


「ええ。ちゃんと診てもらいましょう」


 新しいスキルは、踏ん張り、精霊纏い、契約交信。


 対応属性は風。


 俺が読み終えると、アリスは興味深そうに聞いた。


「踏ん張りって、何?」


「足を止めたとき、押されにくくなるみたいだな。だからって、オーガの棍棒を何度も受けたくはないけどね」


「精霊纏いは?」


「君の精霊魔法を、俺の体や武器にまとわせる能力らしい。今は風だけだな」


「私が使えるようになった属性なら、増えるのかしら」


「たぶん。そこも、アリスの能力に比例するんだろうな」


 俺は画面を下まで確認した。


 項目は、そこで終わっている。


「契約交信は、名前どおりなら離れてても話せるのかもしれん」


「試してみる?」


「その前に、もう1つ表示が出てきた」


 ステータス画面の横に、新しい光の板が開いていた。


     ◇


【契約相手】アリス

【種族】人間

【職業】召喚士

【冒険者ランク】D

【召喚士位階】初位 → 中位


【体調】疲労・軽度

【魔力】残量少・回復中


【得意属性】風

【使用可能属性】風・火


「……アリス」


「何?」


「君のステータスも見えるようになったぞ」


「私の?」


 アリスが身を乗り出す。


 俺と同じ場所を見たが、彼女には表示されていないらしい。


「何が見えるの?」


「名前、種族、職業、冒険者ランク。それから体調と魔力、使える属性だな」


 アリスが少しだけ身を引いた。


「私が考えていることも?」


「それは書いてないよ」


「本当に?」


「ああ。寝言や寝相の項目もない」


「私、寝言を言ってたの?」


「言ってない。確認しただけだ」


 アリスが、ほっとしたような、納得していないような顔をした。


「契約相手の体調と、魔力を確認するための表示みたいだな。今は疲労が軽度。魔力は残量少、回復中」


「……そこまで分かるのね」


「今度から、無理しても隠せないぞ」


「コージだって、体力が減ったら分かるんでしょう?」


「ああ。お互い、休みたいときに仮病は使えなくなったな」


「仮病なんて使わないわよ」


「それなら問題ない」


 俺は、その上にある項目へ視線を戻した。


「それと、召喚士位階が変わってる」


「位階?」


「初位から中位になったらしい」


 アリスが目を見開いた。


「私が、中位に?」


「ああ。矢印で、初位から中位って出てる。本契約が成立したからじゃないか?」


 アリスは自分の両手を見た。


「中位の召喚士……」


「何か、急に使えるようになった感じはあるか?」


 彼女は目を閉じ、しばらく自分の魔力を確かめた。


「魔力の流れが、前より分かりやすくなった気がするわ。でも、急に強い魔法が使えるようになった感じはしない」


「位階が上がったからって、経験まで頭へ入るわけじゃないんだろうな」


「ええ。使い方は、練習しないと」


「それがいいよ。中位になった初日に洞窟を壊したら、笑えないからな」


 アリスが洞窟の天井を見上げた。


「壊さないわよ」


「うん。俺も、君を信じてる」


「今の間は何?」


「念のため天井を見ただけだよ」


「契約交信を試してみましょう」


 アリスが、俺の前へ座り直した。


「どうすればいいんだ?」


「コージへ伝えたいことを、強く意識してみるわ」


「分かった。頼むよ」


 俺は黙って待った。


 アリスが、じっと俺を見る。


 しばらくして、頭の中に声が届いた。


『コージ、聞こえる?』


 耳から聞こえた声ではない。


 胸の奥にできた道を通って、頭へ届いたような感覚だった。


「聞こえた」


「本当?」


「ああ。今、声に出さずに呼んだだろ」


「ええ!」


 アリスが嬉しそうに笑った。


「コージからも、できる?」


「やってみよう」


 俺は彼女へ意識を向けた。


『聞こえてるか?』


 アリスの目が、さらに大きくなる。


「聞こえたわ!」


「成功だな」


「何でも聞こえるの?」


「どうだろうな」


 俺は試しに、腹が減ったと思ってみた。


 アリスは、俺の顔を見ているだけだ。


「今、何を考えたか分かるか?」


「分からないわ」


「じゃあ、勝手に頭の中を読まれる能力ではないみたいだな」


 今度は、伝えるつもりで意識を向ける。


『腹が減った』


 アリスが吹き出した。


「それは聞こえたわ」


「よし。伝えたいことだけ届くんだな」


「最初に送るのが、それなの?」


「一晩起きて、川も流されてるからな。切実な連絡だよ」


 契約交信は、長い話をするためのものではなさそうだった。


 短い言葉や、危険を知らせるには使える。


 森で離れたときや、声を出せない場面では役に立つだろう。


「でも、使わなくて済む距離にいような」


「ええ。もう、1人で逃げることにならないようにするわ」


「俺も、離れないようにするよ」


「精霊纏いも、少しだけ試してみるか?」


 俺が尋ねると、アリスは自分の魔力を確かめた。


「少しなら大丈夫だと思う」


「無理はするなよ。残量少って出てるからな」


「分かってるわ」


 アリスが、俺の右腕へ手を向けた。


「風を送るわ。受け入れるつもりでいて」


「了解」


 彼女が目を閉じる。


 洞窟の中に、小さな風が生まれた。


 焚火の灰が舞わないよう、弱く抑えられている。


 風はアリスの手元から俺の右腕へ流れ、薄い膜のようにまとわりついた。


「お……」


 腕の周りで、空気が回っている。


 冷たい風ではない。


 目には見えにくいが、確かに何かが腕を包んでいた。


 拳を握る。


 腕を動かすと、風がその動きについてくる。


 打撲の痛みは消えない。


 それでも、腕を前へ出す動きが、少し軽くなった。


「これが、精霊纏いか」


「どう?」


「風が、動きを手伝ってくれてる感じだな」


 俺は腕をゆっくり伸ばした。


 速く振れば、風の勢いも加わるのだろう。


 脚へまとわせれば、踏み込む速さも上がりそうだ。


 メイスへまとわせれば、打撃も強くなる。


 使い道はいくつも浮かんだ。


「もう少し強くしてみる?」


「いや、今日はここまでだ」


「まだ使えるわよ?」


「帰る前に、試験で魔力を使い切ったら本末転倒だよ」


 俺が言うと、アリスは風を止めた。


 腕を包んでいた感覚が消える。


「本格的に試すのは、町へ戻ってからにしよう。広い場所で、見てくれる人がいるときのほうがいい」


「分かったわ」


「力が上がったばかりの人間が、洞窟の中で腕を振り回すもんじゃないからな」


「コージは慎重ね」


「天井が落ちてきたら、筋力が上がったくらいじゃ困るよ」


     ◇


 確認できることは、ひととおり確認した。


 本契約は成立した。


 俺の滞在は、アリスの魔力ではなく、俺自身の体力で維持される。


 アリスの能力が上がれば、俺の身体能力も上がる。


 契約交信と精霊纏いも使えるようになった。


 便利なことは増えた。


 だが、腹が減っていることも、眠いことも、腕が痛いことも変わらない。


「契約したら、朝飯まで出てくる能力が欲しかったな」


「そんな契約、聞いたことないわ」


「残念だよ」


 俺は立ち上がり、焚火の燃え残りを広げた。


 外へ出て、川辺の濡れた砂を運ぶ。


 火の上へかけ、赤い部分が残っていないか確かめた。


「そこまで消すの?」


「森の近くで火事を出したら大変だからな」


 灰を棒で動かし、煙が出ないことを確認する。


 手を近づけても強い熱を感じなくなるまで、濡れた砂を足した。


「これでいいだろ」


 アリスも立ち上がった。


 杖はない。


 食料もない。


 俺も、武器や防具をギルドへ置いたままだ。


 装備だけ見れば、昨日より心細い。


 それでも、今は2人のつながりがある。


 アリスが魔法を使った途端、俺が日本へ戻ってしまう心配もなくなった。


「外へ出る前に、体調をもう一度見ておくぞ」


 アリスの簡易ステータスを確認する。


 魔力は、まだ少ない。


 ただ、回復中の表示は変わっていなかった。


「歩けそうか?」


「ええ。もう大丈夫よ」


「きつくなったら言ってくれ。今度から画面にも出るけど、表示が変わるまで我慢する必要はないからな」


「コージもね」


「ああ。約束するよ」


     ◇


 洞窟の外へ出ると、朝の空気が顔に触れた。


 川の水が、日の光を反射している。


 昨夜より穏やかに見えるが、流れは相変わらず速い。


 俺たちが落ちた崖は、上流のどこかにある。


 どれくらい流されたのかは分からない。


「町がどっちにあるか、分かるか?」


「正確には分からないわ」


 アリスが周囲を見た。


「でも、川沿いを進めば、橋か道が見つかると思う」


「俺も、それがいいと思う。上流へ戻ると、オーガがいるかもしれんからな」


「下流へ行く?」


「ああ。村か街道が見つかったら、そこから場所を確かめよう」


 俺は川沿いの地面を見た。


 岩や木の根があり、歩きやすい道ではない。


 それでも、森の奥を当てもなく進むよりはいい。


「離れないように歩こう。何か気づいたら、契約交信でも知らせてくれ」


「ええ」


 アリスが俺の隣へ並んだ。


 俺は洞窟を振り返る。


 本契約は、無事に成立した。


 体も、前より強くなったらしい。


 アリスの状態も分かるようになり、離れていても短い言葉を伝えられる。


 だが、町までの道を教えてくれる能力は、残念ながら増えていなかった。


「行こう、コージ」


「ああ。今度は2人で帰ろう」


 俺たちは川沿いに足を向け、町か村へ続く道を探し始めた。



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