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『会社を辞めると伝えた51歳トラックドライバー、異世界少女の召喚精霊になる』  作者: うさぎとカニ


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第17話 オッサン精霊、三体まとめてお持ち帰り



 ◇◇◇◇


 「……おいおい。こっちは一件ずつ片づけたいんだよ。二件同時は聞いてないぞ!」

 

  岩陰から飛び出した二体目のストーンシェル・アルマが、まっすぐ俺へ向かってきた。

 

 一体目は目の前で体勢を崩している。今なら倒せそうだが、背中から突進を食らうわけにはいかない。


「コージ、一体目を先に倒して! 二体目は私が足止めする!」


「一人で大丈夫か」


「倒そうとはしないわ。近づけさせないだけ!」


「分かった。無理だと思ったら、すぐ下がれよ!」


 アリスが杖を振った。

 

 突風が岩場の砂を巻き上げ、二体目の鼻先へ吹きつける。


 アルマは急に顔をそむけ、進路を変えた。


 その間に俺は一体目へ向き直る。


 傾いた体を戻そうと、短い脚が地面をかいていた。


 背中は硬い甲羅、腹側の甲羅は依頼品。狙えるところは限られている。


「動くなよ。こっちも、どこを叩くか迷ってるんだ」


「話しかけても聞かないわよ!」


「分かってる。気持ちの問題だよ!」


 俺は横からメイスを構え、甲羅の縁からのぞいた肩口を打った。


 鈍い音がして、アルマの体がさらに傾く。すかさず足を踏ん張り、メイスの柄を両手で押し込んだ。


「よっ、と!」


 丸い体が横倒しになる。


 腹の淡い色の甲羅が見えた。傷はついていない。


 だが、アルマはまだ脚をばたつかせている。俺は体勢を立て直す前に、甲羅に覆われていない頭の横をメイスで打った。


 アルマが動かなくなった。


「一体目、終わったぞ!」


「こっちは長く止められないわ!」


 アリスの声に振り向く。


 二体目は砂を振り払い、低い姿勢で彼女のほうを向いていた。


「アリス、俺の後ろへ!」


 俺が走り寄ると、アリスは身を引いて道を空けた。二体目が動き出す。


 正面から受ければ、いくら俺でも危ない。


 俺は岩の隙間へ駆け込んだ。


さっき通れることを確かめた岩の隙間だ。俺とアリスなら抜けられるが、あの丸い体では引っかかるはず。


「コージ、そこは通れないんじゃ?」


「俺は通れる!」


「アルマがよ!」


「だから来たんだよ!」


 アルマが俺を追って突っ込んできた。


 硬い甲羅が左右の岩にぶつかり、ガリガリと音を立てる。予想どおり、丸い体が途中でつかえた。


「よし。そこなら急には動けないな」


 俺は隙間を抜け、横の岩を回り込む。


 アルマは後ずさりして抜け出そうとしていた。脚は動いているが、勢いよく走ることはできない。


「アリス、顔のほうへ風を!」


「分かったわ! 風よ!」


 風がアルマの鼻先を打つ。顔を背けたところへ、俺は横から近づいた。


「腹の甲羅は傷つけない。背中も硬すぎる。なら、ここだ」


 メイスを両手で握り直し、首元を狙って振るう。


 一撃で決まらなかった。アルマが暴れて岩から抜け出しかける。


「おっと、待て待て!」


 俺は一歩下がり、もう一度メイスを振った。


 二体目も動かなくなった。


 腕にずしりと重さが残る。初めて使う武器で、力加減まで考えながら戦うのは、思った以上に疲れる。


「コージ、大丈夫?」


「ああ。そっちは?」


「平気よ。でも、少し魔力を使ったわ」


「二体倒した。依頼は達成だな」


 俺はメイスの先を地面につき、息を吐いた。


 そのとき、岩場の奥で石の転がる音がした。


「……今のは?」


 アリスと同時に顔を上げる。


 大きな岩の陰から、三体目のストーンシェル・アルマが姿を現した。鼻先を地面につけ、倒れた二体のほうへゆっくり歩いてくる。


「まだいたのかよ……」


「昨日は見えなかったわ」


「だろうな。見えてたら、先に教えてくれてるよな」


 アルマが俺たちに気づき、足を止めた。


 俺はメイスを持ち上げる。


「追加の荷物なら伝票に書いとけ。現場でいきなり増やすなよ!」


「コージ、魔物に伝票はないわ!」


「分かってる! 言わせてくれ!」


 三体目が地面を蹴った。


 俺とアリスは左右に分かれる。アルマはまっすぐ駆け抜け、大岩の手前で向きを変えた。


「アリス、もう風は使えるか?」


「少しなら。どうするの?」


「次に来たら、俺があの岩の横へ誘う。顔を上げたところで、砂を頼む」


「分かったわ」


 俺は大岩を背にして立った。


「おい、こっちだ」


 アルマがこちらへ向き直る。


 短い脚が地面を蹴り、灰色の甲羅が迫ってきた。


 最後まで引きつけてから、俺は横へ跳ぶ。


 アルマは急には止まれない。岩のすぐ手前で首を振った。


「今よ!」


 アリスの風が砂を運ぶ。

 

アルマが目を閉じ、鼻先を上げた。突進の勢いが鈍る。


 俺は背中の甲羅を避け、横から肩口を打った。


 アルマの体がぐらりと揺れる。もう一度打つ前に距離を取り、反撃を待った。


「コージ、いける?」


「ああ。けど焦らない。大事な獲物だ」


 アルマがこちらを向く。


 俺は岩の周りを半周して、突進の方向をずらした。


 二度目は避けた直後に横へ回り込めた。


 メイスの柄を両手で握り、肩口へ打撃を加える。


 アルマが横倒しになった。


 腹の甲羅が見える。俺はそこを避け、頭の横へ最後の一撃を入れた。


 三体目も動かなくなった。


     ◇


「……今度こそ、終わりだよな?」


 俺は辺りの岩陰を見回した。


「ほかにはいないわ」


「君の『いない』は、今日ばかりは慎重に聞きたいんだけど」


「今、ちゃんと見たもの!」


 アリスは少し頬を膨らませ、それから倒れた三体を見て笑った。


「でも、すごいわ。三体も倒した!」


「依頼は一体分だったんだけどな」


「残りの二体も、ギルドで買い取ってもらえるわよ」


「だろうと思った。で、三体とも持って帰るんだな?」


「もちろん!」


 即答だった。


 大型犬ほどの魔物が三体。以前担いだボアほど一体ずつが重いわけではないが、甲羅が硬くてかさばる。


「さすがに、三体を抱えて町まで歩くのは無理があるぞ」


「じゃあ、一体だけ持って帰る?」


「せっかく倒したんだ。全部持って帰るさ。アリス、縄はあるか?」


「あるわよ」


 アリスは腰の荷物から縄を取り出した。


 俺は岩場の端で、落ちている太い枝を二本拾う。長さと傷み具合を確かめ、地面に並べた。


「何を作るの?」


「簡単なそりだよ。枝を下にして、縄で横木を留める。その上に三体を載せる」


「ここで作れるの?」


「立派な荷車じゃない。町まで荷物が落ちなきゃ十分だ」


 枝を組む間、アリスは周囲を見張ってくれた。


 できあがったそりに三体を載せ、縄で固定する。メイスも一緒に結びつけた。試しに引くと、枝が地面をこする音を立てながら動いた。


「よし。これなら運べる」


「コージ、器用ね」


「長いこと荷物を積んでるからな。荷崩れさせたら大変だってことくらいは分かる」


 アリスはそりの後ろへ回り、結び目を確かめた。


「外れそうになったら言うわ」


「頼む。あと、魔力はどうだ?」


「まだ大丈夫。町まではもつと思う」


「無理するなよ。眠くなったらすぐ教えてくれ。荷物も君も、町まで運ばなきゃならないからな」


「分かったわ」


 俺は縄を肩にかけ、そりを引き始めた。


 三体の甲羅が揺れ、アリスが後ろから「少しゆっくり!」と声をかける。


「はいはい。積み荷優先だな」


 岩場を抜ければ、町へ続く道だ。


     ◇


 岩場を離れると、道は少し歩きやすくなった。


 そりの枝が土の上を滑り、さっきより引く力も少なくて済む。


 アリスは荷物の後ろを歩きながら、ときどき縄の結び目を確かめていた。


「コージ、さっき仕事が終わったって言ってたわね」


「ああ。君に呼ばれる直前にな」


「じゃあ、今日は二回働いてるのね」


「そういうことになるな。日本で荷物を運んで、こっちで魔物を運んでる」


「休まなくて平気?」


「平気とは言わんよ。ケーキを食べたあとに、こんなに動く予定はなかったしな」


 アリスが申し訳なさそうな顔をしたので、俺は肩をすくめた。


「今日はちゃんと依頼を受けたんだ。そこは俺も納得して来てるよ」


「……うん」


「それに、俺が会社へ出るのも、あと6日くらいだ」


「六日? そのあとは?」


「残ってる休みを取って、それから退職だ。まだ次の仕事は決めてないけどな」


 アリスは少し考え込んだ。


「会社を辞めたら、コージはもっと休めるの?」


「そのつもりだよ」


「じゃあ、休んでいるときに呼んでもいい?」


「……考えておく」


「本当?」


「ああ。こっちで過ごすのも、嫌いじゃないしな。ただ、休みたい日は休ませてくれよ」


「分かったわ」

 

 アリスが嬉しそうに笑う。


 異世界で朝から夕方まで過ごしても、日本では二、三分しか経たない。


 この調子なら、一週間いても日本では一時間も経たないかもしれない。


 もっとも、それだけ長く俺を呼んでいられるほど、アリスの魔力があるかは別の話だが。


「ねえ、またケーキを持ってきてくれたら、もっと嬉しいな」


「そこまで約束した覚えはないぞ。毎回四つ買ってたら、俺の財布が先に魔力切れを起こす」


「一つでもいいわ」


「ちゃっかり数を減らして交渉するな」

 

 俺が笑うと、アリスも笑った。


 しばらく歩くと、アリスがそりの横まで来た。


「ねえ、コージ。重くない?」


「重いよ。三体分だからな」


「少し押そうか?」


「結び目を見ててくれ。それが君の仕事だ。荷物が一体でも落ちたら、拾って積み直すほうが大変だからな」


「分かったわ。任せて」


 アリスは真面目な顔でうなずき、またそりの後ろへ戻った。


 会社では森本さんに荷物の積み方を教え、異世界ではアリスに荷崩れを見てもらっている。


 どちらの仕事も、最後まで運んでようやく終わりだ。




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