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本とこれから

魔族との戦いの報告のためギルドを訪れたアルトは、

自分の力の危険性と魔族の不穏な動きを改めて知る。


不安を抱えながらも、アルトは決意を固める。

ギルドの扉を押し開けた瞬間、ざわめきが一斉に流れ込んできた。


 酒の匂いと、鉄の匂い。交わされる怒鳴り声や笑い声が混ざり合い、空気はどこか熱を帯びている。


 その中に足を踏み入れた途端、アルトはほんのわずかに肩をすくめた。


「……やっぱ、こういうとこ苦手だ」


「慣れなさい。ここが、あなたの立つ場所になるんだから」


 ミラはそう言って、迷いなく奥へと歩いていく。


 アルトも渋々その後を追った。


 受付に向かおうとした、そのとき。


「おい、あんたら――」


 低い声に呼び止められる。


 振り向くと、そこにいたのは見覚えのある顔だった。


 戦場で一瞬だけ視界に入った、別の冒険者たち。


「……ああ、やっぱりな。あの時の」


 腕を組んだ男が、アルトをじろりと見下ろす。


「動けるようになったか。」


「……まあ、なんとか」


 軽く返しながらも、アルトは居心地の悪さを感じていた。


 あの時、自分がどう戦っていたのか。


 はっきり覚えていないからこそ、余計に。


「なんとか、ねぇ……」


 男は鼻で笑う。


「正直、見ててヒヤヒヤしたぜ。あの動き」


「っ……」


 言葉が詰まる。


「強ぇのは確かだが、ありゃ危ねぇ。自分で制御できてねぇだろ」


 図星だった。


 何も言い返せない。


 沈黙するアルトを横目に、男は視線をミラへ移す。


「お前も、よくそばに入れたもんだ。」


「ヒヤヒヤだったわ」


 ミラは淡々と答える。


「このままだと、次は本当に死ぬ」


 その一言に、周囲の空気がわずかに変わった。


「だろうな」


 男は短く頷くと、再びアルトを見る。


「……で?どうすんだ。あのまま突っ込むつもりか?」


 問いかけは挑発ではなく、純粋な確認だった。


 アルトは、答えられなかった。


 どうすればいいのか、自分でも分からない。


 ただ――


 あの感覚だけは、はっきりと覚えている。


 制御できない力。


 自分じゃない何かに、身体を動かされる感覚。


「……無理だな、そのままじゃ」


 ぼそりと呟いたのは、別の冒険者だった。


「死ぬか、周り巻き込むかのどっちかだ」


 淡々としたその言葉が、やけに重く響く。


 アルトは拳を握りしめた。


 何も言い返せない自分に、苛立ちが募る。


 そのとき――


「だから」


 ミラが、一歩前に出る。


「私が面倒を見る」


 はっきりとした声だった。


「基礎から叩き込む。このまま放っておく気はないわ」


 その言葉に、周囲の冒険者たちがわずかに目を見開く。


「……へぇ」


 最初に声をかけてきた男が、面白そうに笑った。


「お前がそこまで言うってことは、よっぽどだな」


「ええ。よっぽどよ」


 ミラは一切揺るがない。


 その横顔を見て、アルトは言葉を失った。


 ――なんで、そこまで。


 そう思ったはずなのに。


 もう、その問いを口に出すことはできなかった。


「……いいんじゃねぇか」


 男は肩をすくめる。


「その方が、見てるこっちも安心できる」


 軽く手を振り、仲間たちとともにその場を離れていく。


 ざわめきが、再び日常の音に戻っていく。


 取り残されたように立ち尽くすアルトの隣で、ミラが静かに言った。


「行くわよ」


「……どこに」


「決まってるでしょ」


 ミラは振り返らずに答える。


「特訓って言いたいところだけど――その前に、やるべきことがあるわ」


 そのとき。


「もしかして……アルトさん?」


 控えめな声が、背後からかかる。


 振り向くと、そこには受付嬢が立っていた。


 どこか不安げな表情で、アルトを見つめている。


「良かった……動けるようになったんですね」


 受付嬢は胸を撫で下ろすように、ほっと息をついた。


「ああ……まあ、なんとか」


 曖昧に返しながら、アルトはわずかに視線を逸らす。


 本当に“なんとか”で済ませていいのか、自分でも分からなかった。


「無理はしないでくださいね。あの時は、本当に危なかったので……」


 その言葉に、アルトの胸の奥がわずかにざわつく。


 ――あの時。


 自分がどうなっていたのか、まだはっきりとは分からない。


「それで……報告、ですよね?」


 受付嬢が仕事の顔に戻り、静かに問いかける。


 ミラが一歩前に出た。


「ええ。魔族の件よ」


 その一言で、空気が変わった。


 周囲のざわめきが、ほんのわずかに遠のく。


「確認されているだけでも、複数。統率は取れていなかったけど、明らかにただの魔物とは違う動きをしていた」


 淡々とした口調で、事実だけを並べていく。


「目的は不明。ただ――何かを探している可能性が高いわ」


 その言葉に、受付嬢の表情が引き締まる。


「……やはり、そうですか」


「やはり?」


 アルトが反応する。


 受付嬢は一瞬だけ言葉を選ぶように間を置き、それから口を開いた。


「ここ最近、似たような報告がいくつか上がっているんです。魔族の目撃情報と、不可解な襲撃……」


「……増えてるってことか」


「はい。まだ断定はできませんが、何か動きがあるのは間違いありません」


 静かな口調だったが、その内容は軽くない。


 アルトは無意識に拳を握っていた。


 ――あの連中が、他にも。


「……あなたも、巻き込まれている可能性が高いです」


 受付嬢の視線が、まっすぐアルトに向けられる。


「え……?」


「偶然にしては、出来すぎていますから」


 その言葉に、背筋が冷たくなる。


 確かに――


 あの本を手に入れてから、すぐに魔族と遭遇した。


 ただの偶然で片付けるには、不自然すぎる。


 アルトは、言葉を失った。


「ひとまず、この件はギルドでも調査を進めます」


 受付嬢はそう言って、小さく頭を下げる。


「お二人とも、報告ありがとうございました」


 形式的なやり取りはそれで終わりだった。


 だが――


 残されたものは、決して軽くない。


 ミラが踵を返す。


「行くわよ」


「……ああ」


 短く答えながら、アルトは一度だけ振り返った。


 賑わいを取り戻したギルドの中。


 だが、その奥には確かに、見えない不安が広がっている。


 そして――


 自分の中にも。


 制御できない力。


 魔族の動き。


 そして、あの本。


 すべてが繋がっているような気がしてならなかった。


(……このままじゃ、ダメだ)


 はっきりと、そう思った。


 ミラの背中を追いながら、アルトは無意識に拳を握る。


 恐怖は、消えない。


 それでも――


 向き合うしかない。


 そうしなければ、きっと――


 次は、本当に終わる。


第5話を読んで頂きありがとうございます!


今回はギルドのやりとりがメインでしたが、

これからミラと共にどうやって力と向き合っていくのか。


次回から特訓へと入っていきます。

引き続きよろしくお願いします!

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